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2018年10月03日

『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第3話

『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第3話




○同・外観(夜)

   雪が激しく降っている。

○同・菊の間(夜)

   浴衣を着て、赤いマフラーをまいた落ち武者が胡坐をかいている。

落ち武者は坊主頭をなでている。

後頭部に2センチほどの切り傷。

小雪は正座で頭を下げている。

小雪「本当に申し訳ございません」

落ち武者「打ち首じゃ」

小雪「ひぃ」

   落ち武者は豪快に笑って、

落ち武者「何かうまいものをくわしてくれ」

小雪「かしこまりました。ただ、生憎料理人

が不在でして、ご了承いただけますと幸いです」

落ち武者「なんでもよい!腹が減って死にそうじゃ!はよもってこい!」

小雪「はい!」

   小雪は駆け出す。

○同・厨房(夜)

   恭子が味噌汁を作り、加奈子がご飯をまぜている。

   小雪が入ってきて、

小雪「ありがとう!」

恭子「こんなことくらいしかできなくて」

小雪「たすかる」

   小雪は、手を洗って、おにぎりを作り出す。

恭子「あのお客さん、独身?」

小雪「さあ?」

加奈子「マッチョですよねぇ」

   加奈子、嬉しそう。

恭子「マッチョっていうか、セクシー」

   恭子、笑う。

小雪「ていうか、ダンディー」

   三人で盛り上がる。

   加奈子、たくわんを切る。

恭子「純平さんは?」

   小雪、かたまる。

加奈子「おにぎりとお味噌汁だけでいいですかね?」

恭子「ねえ、まさか、東京に?」

小雪「聞かないで」

加奈子「お昼の残りがありますけど」

恭子「あの種なし……」

小雪「そ、そうだね、もうちょっと何かあった方がいいかもね」

   恭子が暗い顔で鍋をかき混ぜている。

○同・菊の間・中(夜)

   落ち武者の前に、おにぎり、味噌汁、

カレーの入った皿が置かれている。



micocurry.jpeg




   落ち武者はカレーの皿を見て、

落ち武者「これは?」

小雪「カレーでございます」

落ち武者「くそではないのか?」

小雪「めっそうもございません!」

落ち武者「くうてみろ」

小雪「は、はい」

   小雪がカレーを一口食べる。

落ち武者「くそではないのか?」

   小雪は笑って、

小雪「おいしいですよ。残り物ですいませんけど」

   落ち武者は、小雪から皿をうばって、

恐る恐るカレーを食べる。

落ち武者「ほう」

   小雪は笑顔になる。

落ち武者「しかし、わしはこれが食いたかった」

  落ち武者は、おにぎりをほおばる。

落ち武者「うまい!」

   落ち武者は、豪快におにぎりを食べながら、時々味噌汁を飲む。

落ち武者「いつも悪いな」

   小雪は、笑顔で曖昧な返事をする。

○走る電車(夜)

○電車・車席(夜)

   星野が車窓から夜空を見上げている。

   夜空には満天の星。

   と、大きな流れ星。

   星野は立ち上がる。

   星野はケータイを取り出す。

   ためらう、が、電話をかける。

   留守電になってしまう。

   車窓を見る星野。

○「ほしの旅館」・外観(夜)

   雪が降っている。

○同・菊の間(夜)

   落ち武者が、味噌汁を飲み干す。

落ち武者「あー、うまかった」

   お膳の上は全て空になっている。

   小雪が、ガラスの器に雪を乗せて運んでくる。

小雪は、落ち武者の前に差し出す。

小雪「どうぞ、お召し上がりください」

落ち武者「毒か?」

小雪「デザートです」

落ち武者「やはり毒か……」

小雪「食べてみてください」

   落ち武者は、雪を一口食べる。

落ち武者「!なんじゃ、これは?」

   小雪が笑って、

小雪「カルピスです」

   小雪は、カルピスのビンをみせる。

落ち武者「か、かるぴ?」

小雪「はい、カルピスです」

   落ち武者は、何度も雪を口へ運ぶ。

落ち武者「うまいうまい。気に入ったぞ、かるぴ!もっとくれ!」

   落ち武者は、ガラスの器を小雪に差し出す。

小雪「はいはい」

落ち武者「踊りがみたい」

小雪「踊り、でございますか?」

落ち武者「みたい」

小雪「少々お待ちくださいませ」

   小雪は下がる。

○同・事務所(夜)

   小雪、恭子、加奈子が相談している。

小雪「今から頼んでも、どこも来てくれないし」

恭子「日本舞踊でよければ、あたしが」

小雪「さすが、大女将!」

加奈子「わたし、三味線ひきます」

小雪「頼んだわ!」

   恭子と加奈子、やる気満々。



tokuri.jpeg



○同・菊の間(夜)

   落ち武者が酒を飲んでいる。

   小雪が、襖を開けて、

小雪「失礼いたします」

   恭子と加奈子が入ってくる。

   恭子が正座でお辞儀をする。

落ち武者「……」

   加奈子が、三味線をひく。

   恭子が日本舞踊を踊り出す。

   恭子、落ち武者にウインク。

   落ち武者、酒を飲む。

   恭子、優雅に舞う。

   落ち武者、あくびをする。

   小雪が、あせる。

   加奈子、落ち着かない。

   恭子は、夢中で踊る。

   加奈子、三味線をひき続ける。

   落ち武者は、居眠りをしている。

   小雪は、加奈子に目配せする。

   加奈子はうなずき、三味線を弾くのをやめる。

   恭子、踊るのをやめる。

   落ち武者が目をさまし、

落ち武者「さけ!」

小雪「はい、ただいま」

落ち武者「と、別の踊り」

   恭子は、怒って出ていく。

   加奈子も出ていく。

○同・事務所(夜)

   小雪、恭子、加奈子が相談している。

小雪「ごめんね〜」

恭子「お前が謝ることないさ」

小雪「どうしよう?」

加奈子「あ、アレは?うちらの趣味ですけど」

小雪「趣味?」

   加奈子が笑顔で、手でハートマークを作る。





つづく

※この物語はフィクションです。

コピーライトマーク齋藤なつ













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