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2019年03月07日
R15 おかしな小説「幽霊の夕子」(1)
<R15小説>
登場人物
足立夕子(34)整体師
犬飼正人(37)夕子の彼氏
足立朝子(34)夕子の母。既に亡くなっている
足立春彦(37)夕子の兄。次男の方
足立冬彦(63)夕子の父
1
『あだち整骨院』は今日も足の悪いジジイとババア、ごめん。じいさんとばあさんでいっぱいだった。いま、おにいとはるが施術してる。
年を取れば誰だって足が悪くなる。まれに八十を過ぎてフルマラソンを走っちゃう老人とかいるけどそんなのスーパーじいさんやミラクルばあさんだけ。普通の人は普通に足が痛んでくる。
もともと足の悪い人もいる。うちのおやじがそれだ。おやじは二十歳の頃、バイクで事故って車イスになっちゃったんだって。
あたしが生まれたときからすでに車イスだったから、別になーんとも思わない。
ただ、ことあるごとにあたしを使うからイラッとする。
あたしが受け付けをやっていると、また呼んでる声がする。
「父ちゃん、なに?」
「わるいな。これ郵便出しといてくれ」
「マジでわるいよ。そんなの自分でいけよ暇なんだから」
「ヒマじゃねえよ、俺はパチンコと競馬で忙しいんだっ。じゃ、頼んだからな!あばよ」
口をとがらせて反抗的な態度をとるも、グイーンと電動イスを起用に操作して去るおやじ。それをボーゼンと見送る。
渡されたのは青森の住所の手紙だった。またこれか。よくあることだった。
あたしも、いちおう整体師。一応ってのは、ほとんど整体の仕事はやってないから。長男のおにいと次男のはるがいるからうちの店、お陰さんで結構儲かってる。
あたしはみんなのご飯を作ったり、洗濯したり掃除したり。ようは家政婦って感じ。
母ちゃんが死んでもう二十年以上になる。世話してくれたばあちゃんが死んでからはずっとあたしが家事当番。ほかは男しかいねえからしょうがなく。
あー、今日はあたしの誕生日だってのに誰からもおめでとうって言われないんだけど。
タンスの一番上の引き出しを開けてみる。やっぱりあった。
今年はピンク色のハンカチ。濃いピンクで「Don’t look back」って刺繍してある。カッワイイ。
誰なんだろう?家族みんなになんど聞いても知らないという。
毎年、誕生日になるとこのメッセージつきハンカチがいつの間にかタンスに紛れ込んでいる。摩訶不思議。
一番初めにもらったのは六歳のとき。「I love you」って縫ってあった。ばあちゃんが「これは『愛してる』っていう意味だよ〜」って教えてくれた。
だからずっとばあちゃんが入れてくれたんだとばかり思っていた。
十八の時、ばあちゃんがいなくなったけど十九の時も、そのまた次もずーっと続いたからわからなくなった。
ま、家族の誰かの仕業なんだろうなあ。こんなに働いてんのにハンカチ一枚かあ。ないよりましなのか?
それにしても暑い。でもクーラーは嫌いだし。アイスでも食うか。
冷蔵庫を開けたがアイスが見あたらない。アイスくらい補充してくれよお。まったく男たちときたら牛乳一本さえ買ってきてくれない。
あたしはシンデレラかよ。もう三十四歳。いきおくれのシンデレラ。王子様が迎えに来てくんないかな〜。
スマホがぶるぶる。お、王子からだ。うそうそまさとからだ。正人はあたしの彼氏。もう付き合って十年になる。そろそろ結婚とか?うひょひょ。
「今晩ひま?」
「ひまだよ、飯でもくう?」
「じゃ、八時にひだまりで」
「りょ」
彼氏だけはあたしのバースデーをお祝いしてくれるようだ。けど、ひだまりかあ。ひだまりとは、近所のださいカフェ。年寄りの集会所みたいなとこ。
でもハンバーグとかミートソースとか結構イケる。ビールとワインと日本酒なら置いてある。正人はそこが気に入っている。
今夜もしかしたらプロポーズされるかも?なんて。勝負下着に着替えとこ。
何色にしようかな?そうだあのハンカチと同じピンクにしよ。ドントルックバックって後ろを振り返るなって意味でしょ?英語できないあたしでもわかる。
過去を振り返るなってことかな?嫌な予感。
母ちゃんはあたしが五歳の時、三十四歳という若さで死んじゃった。病気だったって。乳がんだって。
色黒でやせてたそうだ。それに比べてあたしは色白でぽっちゃりしている。完全にオヤジに似てしまった。兄弟は母親に似て細い。
顔が真ん丸だからおにいからは「ムーンフェイス」って呼ばれてる。はるなんか「タコ」だ。夕子って字がタコみたいだし、あたしが口をとがらせるのがクセだからだって。
だから男ってムカつく。女が傷つくことを平気で言ってきやがる。
その点正人は違う。人を傷つけることをしない。たんたんとしている。たんたんと生きてたんたんと仕事してる。
あたしも結婚したら正人みたいにたんたんと生活するんだろうな。朝ごはんを作って、ゴミを捨てて、買い物に行って、またご飯を作って。こどもなんか産んじゃって。男女の双子とかさ。
あらやだ。妄想しちゃった。えへへ。
夜、ひだまりにはあたしと正人しかいなかった。お決まりのメニューを頼んだ。
冷房がぜんぜん効いてなくて暑い。ハンカチで汗をふいていた。
「…話があるんだ」
「うん。なに?」
きたきたプロポーズ。
「…アメリカに行く」
「は?旅行で?」
「…いや、アメリカで英語を勉強する。留学するんだ」
「留学なら日本でもできるんじゃん?ほら駅前留学とかさ?」
「だめなんだ。アメリカじゃないと」
「あんた自分、何歳かわかってる?そんな十五歳やそこらのガキみたいなことゆって」
気まずい沈黙。
「あたしも一緒に…」
「ダメだ!」
「なんで?」
「一人じゃないとダメなんだ」
「それって…」
「…ごめん」
「ごめんって、あたしたち十年だよ?十年も付き合ってて、ごめんって?あたしの青春返せよ!」
プッと正人が笑った。
「わらってんじゃねえよ!」
あたしはテーブルを思いっきり蹴飛ばした。グラスから水がこぼれて正人の股間が濡れた。その股間になんど顔をうずめたことだろう。イヤらしいことを考えている場合ではない。ピンチだ。人生最大のピンチ。
いつもカラオケで、前前前世から君を探してたって歌ってたくせに。ディズニーシーで毎年カウントダウンしてたくせに。夕子が作るオムライスが一番うまいってほめてたくせに…。
「ゆるしてくれ」
「やだ!」
「この通りだ」
正人が土下座した。
コイツ本気だ。
信じらんない。死にたい。
「うわ〜ん」
あたしは泣きながら店を出て走った。全速力で走った。あとから正人が追いかけてきた。ふっておいて追いかけてくるってどういうこと?やっぱりやり直したいってこと?そんな急に気持ちって変わるもの?
「まてよ、ハンカチ!ハンカチ忘れてっぞ!」
ハンカチ?なんだよ!そんなのもうどうでもいいよ!
カンカンカンカン。線路の踏切が閉まっていた。あたしは後ろを振り返りながら黄色と黒のしましまのハードルを飛び越えた。
パアーーーン!運悪く、特急列車にぶつかってしまった。あたしのカラダは大きく孤を描いて地面に落ちた。
ここはどこ?なんか暗くて明るい。でかい物体が光ってる。
あ?あれ?下の方にあるの、あれは地球じゃね?テレビとか映画でしか見たことねえけど、地球だよな?
えーー!あたし宇宙にいんの?まじで?体がない。あたしのカラダどこ行った?
つづく
(この物語はフィクションです)
最高級 お酒のお供!ツナ缶の極み
登場人物
足立夕子(34)整体師
犬飼正人(37)夕子の彼氏
足立朝子(34)夕子の母。既に亡くなっている
足立春彦(37)夕子の兄。次男の方
足立冬彦(63)夕子の父
1
『あだち整骨院』は今日も足の悪いジジイとババア、ごめん。じいさんとばあさんでいっぱいだった。いま、おにいとはるが施術してる。
年を取れば誰だって足が悪くなる。まれに八十を過ぎてフルマラソンを走っちゃう老人とかいるけどそんなのスーパーじいさんやミラクルばあさんだけ。普通の人は普通に足が痛んでくる。
もともと足の悪い人もいる。うちのおやじがそれだ。おやじは二十歳の頃、バイクで事故って車イスになっちゃったんだって。
あたしが生まれたときからすでに車イスだったから、別になーんとも思わない。
ただ、ことあるごとにあたしを使うからイラッとする。
あたしが受け付けをやっていると、また呼んでる声がする。
「父ちゃん、なに?」
「わるいな。これ郵便出しといてくれ」
「マジでわるいよ。そんなの自分でいけよ暇なんだから」
「ヒマじゃねえよ、俺はパチンコと競馬で忙しいんだっ。じゃ、頼んだからな!あばよ」
口をとがらせて反抗的な態度をとるも、グイーンと電動イスを起用に操作して去るおやじ。それをボーゼンと見送る。
渡されたのは青森の住所の手紙だった。またこれか。よくあることだった。
あたしも、いちおう整体師。一応ってのは、ほとんど整体の仕事はやってないから。長男のおにいと次男のはるがいるからうちの店、お陰さんで結構儲かってる。
あたしはみんなのご飯を作ったり、洗濯したり掃除したり。ようは家政婦って感じ。
母ちゃんが死んでもう二十年以上になる。世話してくれたばあちゃんが死んでからはずっとあたしが家事当番。ほかは男しかいねえからしょうがなく。
あー、今日はあたしの誕生日だってのに誰からもおめでとうって言われないんだけど。
タンスの一番上の引き出しを開けてみる。やっぱりあった。
今年はピンク色のハンカチ。濃いピンクで「Don’t look back」って刺繍してある。カッワイイ。
誰なんだろう?家族みんなになんど聞いても知らないという。
毎年、誕生日になるとこのメッセージつきハンカチがいつの間にかタンスに紛れ込んでいる。摩訶不思議。
一番初めにもらったのは六歳のとき。「I love you」って縫ってあった。ばあちゃんが「これは『愛してる』っていう意味だよ〜」って教えてくれた。
だからずっとばあちゃんが入れてくれたんだとばかり思っていた。
十八の時、ばあちゃんがいなくなったけど十九の時も、そのまた次もずーっと続いたからわからなくなった。
ま、家族の誰かの仕業なんだろうなあ。こんなに働いてんのにハンカチ一枚かあ。ないよりましなのか?
それにしても暑い。でもクーラーは嫌いだし。アイスでも食うか。
冷蔵庫を開けたがアイスが見あたらない。アイスくらい補充してくれよお。まったく男たちときたら牛乳一本さえ買ってきてくれない。
あたしはシンデレラかよ。もう三十四歳。いきおくれのシンデレラ。王子様が迎えに来てくんないかな〜。
スマホがぶるぶる。お、王子からだ。うそうそまさとからだ。正人はあたしの彼氏。もう付き合って十年になる。そろそろ結婚とか?うひょひょ。
「今晩ひま?」
「ひまだよ、飯でもくう?」
「じゃ、八時にひだまりで」
「りょ」
彼氏だけはあたしのバースデーをお祝いしてくれるようだ。けど、ひだまりかあ。ひだまりとは、近所のださいカフェ。年寄りの集会所みたいなとこ。
でもハンバーグとかミートソースとか結構イケる。ビールとワインと日本酒なら置いてある。正人はそこが気に入っている。
今夜もしかしたらプロポーズされるかも?なんて。勝負下着に着替えとこ。
何色にしようかな?そうだあのハンカチと同じピンクにしよ。ドントルックバックって後ろを振り返るなって意味でしょ?英語できないあたしでもわかる。
過去を振り返るなってことかな?嫌な予感。
母ちゃんはあたしが五歳の時、三十四歳という若さで死んじゃった。病気だったって。乳がんだって。
色黒でやせてたそうだ。それに比べてあたしは色白でぽっちゃりしている。完全にオヤジに似てしまった。兄弟は母親に似て細い。
顔が真ん丸だからおにいからは「ムーンフェイス」って呼ばれてる。はるなんか「タコ」だ。夕子って字がタコみたいだし、あたしが口をとがらせるのがクセだからだって。
だから男ってムカつく。女が傷つくことを平気で言ってきやがる。
その点正人は違う。人を傷つけることをしない。たんたんとしている。たんたんと生きてたんたんと仕事してる。
あたしも結婚したら正人みたいにたんたんと生活するんだろうな。朝ごはんを作って、ゴミを捨てて、買い物に行って、またご飯を作って。こどもなんか産んじゃって。男女の双子とかさ。
あらやだ。妄想しちゃった。えへへ。
夜、ひだまりにはあたしと正人しかいなかった。お決まりのメニューを頼んだ。
冷房がぜんぜん効いてなくて暑い。ハンカチで汗をふいていた。
「…話があるんだ」
「うん。なに?」
きたきたプロポーズ。
「…アメリカに行く」
「は?旅行で?」
「…いや、アメリカで英語を勉強する。留学するんだ」
「留学なら日本でもできるんじゃん?ほら駅前留学とかさ?」
「だめなんだ。アメリカじゃないと」
「あんた自分、何歳かわかってる?そんな十五歳やそこらのガキみたいなことゆって」
気まずい沈黙。
「あたしも一緒に…」
「ダメだ!」
「なんで?」
「一人じゃないとダメなんだ」
「それって…」
「…ごめん」
「ごめんって、あたしたち十年だよ?十年も付き合ってて、ごめんって?あたしの青春返せよ!」
プッと正人が笑った。
「わらってんじゃねえよ!」
あたしはテーブルを思いっきり蹴飛ばした。グラスから水がこぼれて正人の股間が濡れた。その股間になんど顔をうずめたことだろう。イヤらしいことを考えている場合ではない。ピンチだ。人生最大のピンチ。
いつもカラオケで、前前前世から君を探してたって歌ってたくせに。ディズニーシーで毎年カウントダウンしてたくせに。夕子が作るオムライスが一番うまいってほめてたくせに…。
「ゆるしてくれ」
「やだ!」
「この通りだ」
正人が土下座した。
コイツ本気だ。
信じらんない。死にたい。
「うわ〜ん」
あたしは泣きながら店を出て走った。全速力で走った。あとから正人が追いかけてきた。ふっておいて追いかけてくるってどういうこと?やっぱりやり直したいってこと?そんな急に気持ちって変わるもの?
「まてよ、ハンカチ!ハンカチ忘れてっぞ!」
ハンカチ?なんだよ!そんなのもうどうでもいいよ!
カンカンカンカン。線路の踏切が閉まっていた。あたしは後ろを振り返りながら黄色と黒のしましまのハードルを飛び越えた。
パアーーーン!運悪く、特急列車にぶつかってしまった。あたしのカラダは大きく孤を描いて地面に落ちた。
ここはどこ?なんか暗くて明るい。でかい物体が光ってる。
あ?あれ?下の方にあるの、あれは地球じゃね?テレビとか映画でしか見たことねえけど、地球だよな?
えーー!あたし宇宙にいんの?まじで?体がない。あたしのカラダどこ行った?
つづく
(この物語はフィクションです)
最高級 お酒のお供!ツナ缶の極み