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2019年03月09日

「幽霊の夕子」(2)



 冷たい霊安室。

あれ?ワープした!あった、あたしの体あった!でも、頭がとれちゃってる。かわいそう…。

 みんないる。オヤジ、はる、おにい。まさと…。みんな暗い顔してる。

あたし、死んじゃったんだ…。

「ゆうこ〜」

「むーんふぇいす〜」

「たこ〜」

 そんな時まであだ名かよ。

「すいません、僕のせいで…」

「そうだ、お前のせいだ!夕子をかえせ!」

「やめろよ親父、みっともねえ」

「だって、今日から誰が風呂の掃除すんだ?あ?トイレの掃除は?洗濯は?料理は?俺は絶対やらないからな!」

そこ?

「俺もやりたくない」

「俺も」

「じゃあ、僕がやります」

「えっ」

「いいのかい?まーちゃん」

「はい。ただ、仕事が終わってからになっちゃうんで夜の八時とか」

 誰か断れよ。

「いーよいーよ」

 よかった。

「八時でも九時でも」

 断らねえのかよ!

「じゃ、明日から頼むね。あーよかったまーちゃんがいてくれて」

 なんなんだよコイツら!どんだけ家事嫌いなんだよ。正人も正人だよ。アメリカ行くんだろ?ま、まさか?あれ、うそ?


「じゃ、とりあえず今日は帰ろう」

 もう帰んのかよ。あたしの体を一人にして。

 それにしても誰があたしの服脱がしたんだろ?下着替えといてほんとよかった。

 みんなにはあたしの魂は見えてないらしい。最近はやりの水だけどみかんの味がする水になったみたいな感じ。

 魂ってすごいな。自分の行きたいところどこでも行けちゃうんだな。よしじゃあ、米津玄師のライブへワープ!。


 あれ?ぜんぜん移動しない。動機が不純だから?見えないけどルールがあるんだ…。

 明日は友引だから葬式はあさって九日かあ。
 



hana6.jpeg




 宇宙。

 急にワープするからびっくりする。

 あたしって宇宙にいる時は星になるのね。だから星ってなくならないんだ。死んだら星になるって本当だったの…。

へー。すごい。

 だれ?だれかあたしを呼んでる。女の声。

「…ゆうちゃ〜ん」

「だれ?」

「わたしよ、お母さんよ〜」

「どこにいるの?」

「こっちこっち〜」

 声がする方に、あたしと同じくらいの年の女がいた。

「母ちゃん?」

 色黒で痩せ型。間違いない母ちゃんだ。となりにばあちゃんもいる。にこにこしてる。

「おひさしぶり」

「お、おひさしぶり、です…」

「おおきくなったわね〜」

「は、はあ」

「ごめんね。はやく死んじゃって…」

「ほんとに。すごい迷惑」

「ハンカチ、使ってくれた?」

「え!アレって、母ちゃんが?」

「そうよ」

「Don’t look backって、まさかあたしがフラれることわかってたの?」

「うん。ていうか、亡くなることもね。だから過去は振り返らないでってメッセージだったんだけど…」

「ふりかえんなきゃ、死ななかったの?」

「んー。そういうワケじゃないんだけど。ほんとは予定では薬を飲んで自殺するはずだったんだけど…」

「どっちにしろ死ぬんじゃん」

「まあまあ。寿命ってきまってるから」

「母ちゃんもあたしも三十四って若過ぎね?」

「そうね〜。でも、幸せだった?」

「えっ?」

「図星ね。本当は死にたいとか思ってたでしょ」

「なんでわかるの?」

「なんでかな〜」

「神様が決めるの?」

「神様なんていないわよ」

「えっ、えーー?うそ?うそでしょ?」

「うそじゃないわよ。いないわよ神様なんて。あれは人間が勝手に作った幻」

「まぼろし…」

「神様っていう信じられる存在が必要なら、ゆうちゃんが神様よ」

「え?あたしが神様?なんで?」

「自分を信じてやったことってうまく行くこと多くなかった?」

「そういわれれば、そうかも」

「神頼みなんてダメダメ。自分が神様だと思って信じてやること。でももうゆうちゃんは人間には戻れないけど…」

「やだやだ!人間に戻りたいよう!まだ結婚もしてないし、こどもも産んでない!」

 地団太を踏む。




hana5.jpeg




「ゆうちゃん。一週間だけ現世に戻れるって聞いた?」

「聞いてない」

「あらそう。いい?一週間よ。亡くなったのが七月七日だから十三日まで、期間限定で生きてる誰かの体を借りられるの」

「期間限定?じゃあ…綾瀬はるか!綾瀬はるかにして!」

「ううん。選べないの。自分で選ぶことはできなくて、あなたが亡くなって一番悲しんでいる人のカラダに憑依するのよ」

「げ。それって、もしかして、男の体とかも?」

「もちろん。あるわよ」

「げげげ。やだな。どうせ家族の誰かだろ?オヤジはキモすぎるし、はるもおにいだってやだな。誰にも憑依したくない。拒否。拒否する」

「それはダメ」

「なんでー?」

「そういう決まりだからよ。だって、やり残したことあるでしょう?ひとつやふたつ」

 そういえば、ハワイ行ったことないし、シャトーブリアンもまだ食ったことなかったな。やり残したことか…いっぱいあっぞ。

「じゃ、いってらっしゃ〜い」

「まって」

 かあちゃ〜ん!





つづく

(この物語はフィクションです)







女性ホルモンの専門家が作った、女性のためのハーブティー


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