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2014年10月25日

菊(きく)

菊

(きく)は、東洋で最も古くからある鑑賞植物とされ、日本には平安時代に中国から渡来したキク科、キク属の多年草です。江戸時代には多くの園芸品種がつくられ、以来、改良が重ねられ今日にいたっております。

菊は、中国では不老長寿の薬効があるとされ、陰暦の9月9日(重陽の節句)には菊酒を飲み長寿の祈願をしたのです。これが日本にも伝わり、菊の花を酒に浮かべて飲み花を鑑賞する「重陽の宴」が催されるようになりました。和歌に詠まれるようになるのは『古今和歌集』になってからですね。

菊は、皇室の紋章であり、日本の国花です。(日本の国花は、この菊と桜の2つです)

「菊」の解字を見ると、手の中に米をまるめて握った様の字(音でキク)に草かんむりを加えた字で、多くの花をひとまとめにして、丸くにぎった形をした花ということになります。よく出来ていますね。
菊

では、短歌を二首あげておきます

碇 登志雄(『神幸』)
生けてくれしひとのおもかげ見せにつつ菊の白きが室を占めたる

凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)(『古今集』百人一首29)
心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花

【歌意】心をこめて折るならば折れるだろうか。初霜が置いて、目を惑わせる白菊の花を。

当時の菊は、小菊の白菊か黄菊に限られていたようですね。菊の白と霜の白を見紛うと詠っています。

白菊の花を〈清らかな白さ、冷たいまでの輝き〉と捉えて表現したのですね。  
 (参考:『広辞苑』『百人一首(谷知子編)』『季節の花300』『植物語源辞典』『漢字源』)


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2014年10月22日

錦木(にしきぎ)

錦木
事務局の庭に、錦木が美しく紅葉したと写真が届きました。

錦木は、日本〜朝鮮半島・中国にかけて分布しているニシキギ科、ニシキギ属の落葉灌木です。

枝にコルク質の翼があるのが特徴のひとつです。初夏に黄緑色の小花を沢山つけますが目立たない花ですね。
錦木
でも、秋の紅葉がみごとですね。

名の由来は、紅葉がことのほか赤く色づき美しい木なので、これを錦にたとえたものです。
錦木

では、短歌、花を詠んだ一首と紅葉を詠んだ二首をあげておきます。

尾山篤二郎(『雲を描く』)
こまごまと青き物こぼれゐる故につくづく見たり錦木の花

木村流二郎(『枢』)
錦木の矢羽なす枝のくれなゐに紅葉づるをまた見るべくなりぬ

碇 千奈美(『姫由理』2013)
にしきぎの落ち葉は尚もくれなゐに色極まれり夕さりの庭

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2014年10月19日

石蕗(つわぶき)・つはぶき

つわぶき

事務局の北庭、濠に面した岩斜面に黄色の美しい石蕗が咲いたと写真が届きました。
 
つわぶきは、キク科ツワブキ属の常緑多年生草本です。別名に、いしぶき(石蕗)、やまぶき(山蕗)、つわ、やまふふき、等があります。

語源としては、『大言海』に「つやはぶき(艶葉蕗)の義にて、葉に光沢あるを以て云ふかと云ふ」とあります。葉が蕗(ふき)に似ていて、つやのある葉から「つやはぶき」、それが変化して「つわぶき」になったというのですね。

鑑賞用で、葉柄は食用、民間では葉を腫物・湿疹などに薬用、などに利用します。
 (参考:『植物語源辞典』『季節の花300』『植物短歌辞典』『花鳥小事典』)
つわぶき


では、短歌を三首あげておきます。

岡 麓(『朝雲』)
池水の上へと松の枝はのび根がた置石つはぶきの花

窪田 空穂(『さざれ水』)
庭に植ゑて久しき石蕗秋寒く一茎の花咲かせたりけり

大岡 博
茎立てて黄花ささぐる石蕗の冴々と朝の光をあつむ


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2014年10月17日

柿色づく

柿
事務局の前畑の柿が色づいてきたと写真が届きました。前回(八月)は青柿でしたが、いよいよ「柿、赤実果也」(和名抄)の柿色に熟れはじめたのですね。

「柿食えば鐘がなるなり法隆寺」という有名な句は正岡子規ですが、大和の御所ガキを見て法隆寺の門前の茶屋で詠んだものですね。柿は室町時代から茶菓子として串ガキが利用されていましたから、江戸時代には品種も増えていました。

「柿が赤くなれば医者が青くなる」とことわざにあります。それほど、薬効のある果物だということでしょう。一説では、栄養価が高いことを意味しているともいわれています。一般の人々にとって医者の代りをしてくれるほど利用しやすい果物だったということでしょう。

柿果にはビタミンAとCが豊富なこと、また含まれる果糖には利尿作用のあることから、風邪の予防、二日酔い、また肺を潤すのでせきを止める薬効があるといわれています。

また、ビタミンCが、肝臓の働きを活発にするから、アルコール分が抜け、気分がすっきりするし、お酒を飲む前に、柿を一つか二つ食べておくと悪酔いしないと聞きますね。何はともあれ柿の季節です。カキをしっかり味わいたいですね。(参考『野菜と果物図鑑』『広辞苑』『植物短歌辞典)

では、短歌を二首あげておきます。

碇 登志雄(『神幸』1952)
もぎたての柿はうまかり応召してともに居たりし話はつきず   

窪田 空穂
(『さざれ水』)
ただ一つなりて赤らむ大き柿もみぢせる葉に紛れなむとす


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2014年10月12日

風知草・ふうちそう

風知草
ふうちそう(風知草)に穂が出たと事務局から写真が届きました。

風知草は、イネ科、ウラハグサ属の多年草。正式名称はうらはぐさ(裏葉草)です。日本の特産種で、本州中部の太平洋側に分布し、山地や谷川の崖などにはえています。

葉の上面は帯白色、下面は緑色で光沢があり、基部でねじれて表面が下向きになり、表裏が反転するため、裏があたかも表のように見えるところからうらはぐさの名があります。葉に黄色斑入りのいものがきんうらはぐさ、また白黄色斑入りのものがしらきんうらはぐさです。

風知草
盆栽家の人たちの間では、細くて柔らかい葉が風になびく姿に風情があるところから、風知草の名が定着したといわれます。「風を知る草」なのですね。
(参考:『ブリタニカ百科事典』『季節の花300』『牧野日本植物図鑑』)

では、短歌を一首あげておきます。
 
神田あき子(『現代万葉集』2012)
植ゑ替へてつひに芽吹かぬ風知草叢ゆらしし風をこほしむ


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2014年10月08日

スターチス・はなはまさじ(花浜匙)    

スターチス
きれいなスターチスのお花をいただいた、と事務局から写真が届きました。

スターチスにもちゃんと和名がついていたのですね。

スターチスは、イソマツ科リモニウム(イソマツ)属の一年草または多年草の総称。葉は根際から出て、よく分枝し、枝の上部一面に小花がつきます。地中海沿岸地方の原産で、120種ほどが知られています。、観賞用の切り花やドライフラワーにして利用されています。日本には昭和の初めに入ってきました。

かつて、イソマツ科スターチス属という分類だったスターチス属が、現在、アルメリア属とリモニウム(イソマツ)属に分割されています。属名をとって「スターチス」と総称されてきたのです。

スターチスは、リモニウム属に含まれますので属名の「リモニウム」で呼ばれるところですが、園芸では昔の名残である旧属名の「スターチス」が広く使われています。旧姓でとおしている感じですね。
スターチス
さて花は、先ず、翼状のひだをもつ花茎が伸び、その先端に小さな花を咲かせます。花びらは白(写真)や黄色、萼はろうと状で青紫(写真)、黄、ピンク、白などがあり、花びらよりも萼が目立ちます。
スターチス

花が散った後も萼はきれいな色をしたまま残ります。スターチスの花はよく保つと言われるのはこの所為ですね。 (参考『大辞泉』『牧野日本植物図鑑』『やさしい園芸』)

では、短歌を二首あげておきます。

碇  弘毅(『姫由理』2014)
石佛の供花とし活くるスターチス小さき花にあさひのやさし
台風の過ぎたるあした観世音菩薩に供ふスターチスの花


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2014年10月03日

鶏頭・けいとう

ケイトウ
事務局の畑の片隅で、真っ赤に咲いている鶏頭を見つけた、と写真が届きました。

鶏頭は、ヒユ科、ケイトウ属の一年生草。熱帯アジアの原産で、日本には中国を経て万葉時代にはすでに渡来しています。

「鶏冠花」(けいかんか)、「韓藍」(からあい)という別名があります。

学名はCelosia cristata です。 Celosia : 燃えるような(赤い)様子をした(ケイトウ)属の 、cristata : 鶏冠(とさか)状の種類、ということらしいですね。写真を見ますと「なるほど」と思わせる学名です。朱い鶏冠状に広がるのは細かい花の集合体です。
ケイトウ

では、万葉集から短歌を二首上げておきます。

山部赤人(『万葉集』3・384)
わが屋戸(やど)に韓藍蒔き生(おほ)し枯れぬれど懲りずてまたも蒔かむとそ思ふ  

歌意:わが家に韓藍(からあい)、すなわちケイトウを蒔いたが、枯れてしまった。しかしそれにこりずに、また種をまこう。

赤人がこう詠んだ裏には、韓藍を美女になぞらえ、〈苦労して育てた恋も結局実らずに終つてしまつたが、懲りずにまた別の美女にアプローチしよう〉といった真意があつたのだらう、と賀茂真淵をはじめ梅原猛など多くの論者がこの歌を比喩の歌としています。

作者不詳(『万葉集』7・1362)
秋さらば写(うつし)もせむとわが蒔(ま)きし韓藍(からあい)の花を誰(たれ)か採(つ)みけむ

歌意:秋になったら染めようと、私が蒔いた韓藍の花を誰がいったい摘んでしまったのだろう。

この歌は、万葉集で花に寄せた恋の譬喩歌として分類されています。真っ赤な韓藍の花を女性に見立て、〈あの娘は、いったい誰のものになってしまったのだろう〉という意味が言外にあります。

艶麗な花であるケイトウは女性の比喩。万葉人の姿が広がって来るようですね。(参考:『広辞苑』『季節の花300』
『万葉集』『赤人の諦観』『植物語源辞典』ほか)


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2014年10月02日

竜胆・りんどう(りんだう)

リンドウ

秋の名花・りんどうが咲きました。……と事務局から写真が届きました。

りんどうは、リンドウ科、リンドウ属の多年草、本州、四国、九州の山野に普通に見られます。また切り花用、鉢物用として、栽培もされていますね。

葉が笹の葉に似ているのでササリンドウとも呼ばれます。また、別名・古くは、えやみぐさ(疫病草)。生薬名は「リュウタン(竜胆)」で、根を煎じて健胃剤として利用します。名前はそこが由来と言われています。ところで竜胆というのは「竜の肝のように苦い」というのが由来です。

秋に筒状で先が裂した青紫色の美しい花をつけます。日が当たると花冠が開きます、晴天の時だけ開くのですね。

〈竜胆は、枝さしなどもむつかしげなれど、こと花みな霜かれ果てたるに、いと花やかなる色合ひにてさし出でたる、いとをかし。〉

と清少納言はこの花を称えています。(『枕草子』67段〈岩波文庫〉又は57段〈明治書院1937〉)、

〈あんなつまらぬ花は絶対に反対だ〉

と、牧野富太郎が、熊本県の推す「りんどう」について昭和29年(1954)全国の県花選定委員会で言われたと、同選定委員だった本田正次博士が書いています。(本田正次『郷土の花』三省堂) 牧野は、熊本を代表する花としては、りんどうではなく、熊本ハナショウブ(肥後菖蒲)を推したかったのかも知れません。結局、県花は「りんどう」に決まりです。

では、短歌を三首上げておきます。
太田水穂(『雲鳥』)
冬早き霜葉の中に咲きいでゝむらさき寒し竜胆の花

橋本野酔(『姫由理』1983)
りんだうの濃藍澄みたり群落の未だひとめにふれざるらしく

土屋文明(『ふゆくさ』)
ひるすぎてなほ下つゆの乾かざる落葉の中のりんだうの花


リンドウ


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2014年09月28日

金木犀・きんもくせい

金木犀
事務局の玄関わきに繁る金木犀に黄色い小花が沢山について、いい香りが漂っています……と、写真が届きました。

金木犀は、モクセイ科、モクセイ属の常緑小高木で、中国南部の桂林地方の原産。古くから鑑賞用として植えられました。秋に芳香のある濃黄色の小花を沢山つけます。雌雄異株で日本のものは全て雄株で結実はみられません。
金木犀

花色の白いのもありますね。このほうはシルバー・銀木犀です。金木犀は濃黄色です。元々、銀木犀のほうが原種とされています。銀木犀と金木犀、これらを含めた総称としてモクセイの名が使われることも多いですね。

花から香料をとり、干した花は茉莉花(まつりか)などと同様ウーロン茶の香りづけに用いられます。漢名は、「九里香」ともいわれ、カツラ(桂)の一種とされて、銀桂、金桂・丹桂ともいい、総じて桂花と総称されます。

「桂林」という地名も、木犀の木が沢山あることに由来するらしいですね。(参考『広辞苑』『マイペディア百科事典』『植物語源辞典』)

では、短歌を三首上げておきます。

碇 登志雄(『姫由理』登志雄の歌82)
木犀の香りすがしと妻言ひて洗濯物を干しはじめたり

佐佐木由幾(『短歌作例辞典』)
しきりに散る木犀の花踏みて立つ今わが心少し驕りて

碇  弘毅(『姫由理』2008)
声あげて門を入りつつ客は先ず金木犀の匂ふを告ぐる


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2014年09月26日

栗の実・栗ひろい

栗
(六・七月の幼いイガ栗(青い栗))

栗
(収穫の栗)

五月下旬頃には花が、六・七月には幼いイガ栗になったと言っているうちに、もう栗拾いの季節になりました。茹で栗に、渋皮煮ににして……とても美味しいです、と事務局から写真が届きました。

は、ブナ科クリ属の落葉喬木。原産地は中国、ヨーロッパ(地中海沿岸地方)、北アメリカとされます。

日本では持統天皇の時代(687-696)に栽培が推奨された、と『日本書紀』にあります。

平安時代の初期には京都の丹波地域で栽培され始め、徐々に地域が拡大していきます。

万葉集には栗を詠んだ歌が三首あり、栗の花のところ上げた山上憶良の「瓜食めば子等思ほゆ栗食めば……」がよく知られています。

乾果を搗栗(かちぐり)といって勝ちに通じるため、古くは武士が縁起をかついで出陣祝いに供したそうです。今でも、スポーツや受験、選挙などの戦勝祈願や激励用に搗栗を使った菓子・饅頭が「勝ち栗・栗饅頭」が人気のようです。

外国の栗では、天津甘栗で有名な中国栗、焼き栗やマロングラッセとしてのヨーロッパ栗が知られています。

アメリカ栗は果実の品質がよく、また大きくて強い樹が木材として使われるほど利用価値の高いものでしたが、1900年頃に発生した「栗胴枯れ病」の被害でほぼ壊滅したといわれています。 それぞれ原産地らしく特徴のある栗がつくられていますね。
(参考『野菜と果物図鑑』『広辞苑』『植物短歌辞典)

では、短歌を三首あげておきます。

太田水穂(『螺鈿』)
ゑみこぼるるやがての秋のなきげにも日にけに青き栗のいがかも

松村英一(『やますげ』)
嵐吹く朝に見れば枝揺るる栗の青いが眼に立ちそめぬ

大村呉楼(『花籔』)
しづかなる山行くものか霧しぶく高木の栗が落ちて音する


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