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2018年01月19日

作家が試みるリスク回避について−魯迅、森鴎外、トーマス・マン4

4 西欧の危機感

 西欧では英国を代表する知識人の一人スノーがシナジー論に関して興味深い講演を行っている。彼は物理学者であると同時に作家である。講演の内容をまとめた「二つの文化と科学革命」という著作の中で、当時の西欧人が直面していた知的生活上の問題点をうまく説明している。
 西欧の社会には二つの極端なグループがあるという。一つは文学的な知識人であり、また一つは科学的な知識人である。この二つの文化は全く相容れない。人文の人間は科学者が人の条件に気がつかない楽天主義者だといい、科学者は文学的な知識人が先見の明に欠け、同胞に無関心なところがあるという。例えば、物理関係者が人文の人間に質量とか加速度とは何かと問えば、逆に人文の知識人がシェークスピアの作品を何か読んだことがあるのかと切り返す。二つの文化は互いにぶつかり合い、話し合うことがないために、真空の状態を作っている。(スノー 1967)こうした状態は何も英国だけではなく、全ての西洋に見られるものであった。
 双方が相容れない状態から抜け出す方法はあるのか。スノーは、教育を再考することが取るべき方法だという。しかし、その折に学生時代のみならず、社会人としても実務プラスαという形で総合的に人間を評価することが重要である。普段から縦の専門性と他の分野の調節を組で考えるようにすればよい。これは人文、社会、理系を問わずいえることである。シナジー論への興味関心を育みそして実践に移す。人材育成のプログラムはそうあるべきである。
 スノーは、中国の工業化を客観的に評価している。確かに工業国といわれる米国や英国そして欧州の大部分及びソ連に比べればそれほどでもない。しかし、ソ連が二度の世界大戦により停滞したことに比べれば、中国の工業化はソ連の半分の時間で達成された。これは中国と西欧との違いといえる。しかし、文理のバランスは中国の場合も然りである。専門性を謳う縦の伝統の技が日本と同様一番重要な目安だからである。
 4年後にスノーはその後の考察を発表する。科学者と人文の知識人はコミュニケーションが足りないため、共感はなくその代わりに敵意があるという。そこで対峙からの脱却には教育のみならず、貧富の格差を是正する必要があるとした。労働組合、集団販売、近代工業化の施設、これらは特権階級の人間には思いもつかないことであり、貧窮の経験者が絶望から脱するきっかけになった。
 ロシアを代表する作家ドフトエフスキー(1821-1881)は、自身が身を置いた社会について隠すことなく独自の見解を述べている。ユダヤを嫌い、戦争を願い、奴隷は拘束するとの立場で独裁者を支持し、人間の成長の糧として苦難を愛した。苦難だけが自分を高めることができるという理由からである。こうした強い主張にも関わらず、ドフトエフスキーは決して孤立しなかった。彼の主張の中には現代にも通じる教育論が見えるからである。

花村嘉英(2014)「20世紀前半に見る東西の危機感」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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