2017年10月07日
森鴎外の「佐橋甚五郎」のデータベース化とバラツキによる分析5
◆場面2
源太夫はこういう話をした。甚五郎は鷺(さぎ)を撃つとき蜂谷と賭(かけ)をした。蜂谷は身につけているものを何なりとも賭けようと言った。A2, B 1, C2, D2
甚五郎は運よく鷺を撃(う)ったので、ふだん望みをかけていた蜂谷の大小をもらおうと言った。A2, B 1, C2, D2
それもただもらうのではない。代わりに自分の大小をやろうというのである。A2, B1, C2, D2
しかし蜂谷は、この金熨斗(きんのし)付きの大小は蜂谷家で由緒(ゆいしょ)のある品だからやらぬと言った。 A2, B1, C2, D2
甚五郎はきかなんだ。「武士は誓言(せいごん)をしたからは、一命をもすてる。よしや由緒があろうとも、おぬしの身に着けている物の中で、わしが望むのは大小ばかりじゃ。ぜひくれい」と言った。A2, B1, C2, D2
「いや、そうはならぬ。命ならいかにも棄(す)ちょう。家の重宝は命にも換(か)えられぬ」と蜂谷は言った。A2, B1, C1, D2
「誓言を反古(ほご)にする犬侍(いぬざむらい)め」と甚五郎がののしると、蜂谷は怒って刀を抜(ぬ)こうとした。A2, B1, C2, D2
甚五郎は当身(あてみ)を食わせた。A2, B1, C2, D2
それきり蜂谷は息を吹(ふ)き返さなかった。A1, B1, C2, D1
平生何事か言い出すとあとへ引かぬ甚五郎は、とうとう蜂谷の大小を取って、自分の大小を代りに残して立ち退いたというのである。A2, B1, C2, D1
◆場面3
澄(す)み切った月が、暗く濁(にご)った燭(しょく)の火に打ち勝って、座敷(ざしき)はいちめんに青みがかった光りを浴びている。A1, B2, C2, D2
どこか近くで鳴く蟋蟀(こおろぎ)の声が、笛の音(ね)にまじって聞こえる。甘利は瞼(まぶた)が重くなった。たちまち笛の音がとぎれた。A2, B1, C2, D2
「申(もう)し。お寒うはござりませぬか」笛を置いた若衆の左の手が、仰向(あおむ)けになっている甘利の左の胸を軽く押(おさ)えた。A2, B1, C2, D2
ちょうど浅葱色(あさぎいろ)の袷(あわせ)に紋(もん)の染め抜(ぬ)いてある辺である。A1, B2, C2, D2
甘利は夢現(ゆめうつつ)の境(さかい)に、くつろいだ襟(えり)を直してくれるのだなと思った。A1, B1, C2, D2
それと同時に氷のように冷たい物が、たった今平手がさわったと思うところから、胸の底深く染み込(こ)んだ。A1, B1, C2, D2
何とも知れぬ温い物が逆に胸から咽(のど)へのぼった。甘利は気が遠くなった。A1, B1, C2, D1
三河勢(みかわぜい)の手に余った甘利をたやすく討ち果たして、髻(もとどり)をしるしに切り取った甚五郎は、鼠(むささび)のように身軽に、小山城を脱(ぬ)けて出て、従兄源太夫が浜松の邸(やしき)に帰った。 A2, B1, C2, D1
家康は約束(やくそく)どおり甚五郎を召(め)し出したが、目見えの時一言も甘利の事を言わなんだ。A2, B1, C2, D1
蜂谷の一族は甚五郎の帰参を快くは思わぬが、大殿(おおとの)の思召(おぼしめ)しをかれこれ言うことはできなかった。A2, B2, C2, D1
花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
源太夫はこういう話をした。甚五郎は鷺(さぎ)を撃つとき蜂谷と賭(かけ)をした。蜂谷は身につけているものを何なりとも賭けようと言った。A2, B 1, C2, D2
甚五郎は運よく鷺を撃(う)ったので、ふだん望みをかけていた蜂谷の大小をもらおうと言った。A2, B 1, C2, D2
それもただもらうのではない。代わりに自分の大小をやろうというのである。A2, B1, C2, D2
しかし蜂谷は、この金熨斗(きんのし)付きの大小は蜂谷家で由緒(ゆいしょ)のある品だからやらぬと言った。 A2, B1, C2, D2
甚五郎はきかなんだ。「武士は誓言(せいごん)をしたからは、一命をもすてる。よしや由緒があろうとも、おぬしの身に着けている物の中で、わしが望むのは大小ばかりじゃ。ぜひくれい」と言った。A2, B1, C2, D2
「いや、そうはならぬ。命ならいかにも棄(す)ちょう。家の重宝は命にも換(か)えられぬ」と蜂谷は言った。A2, B1, C1, D2
「誓言を反古(ほご)にする犬侍(いぬざむらい)め」と甚五郎がののしると、蜂谷は怒って刀を抜(ぬ)こうとした。A2, B1, C2, D2
甚五郎は当身(あてみ)を食わせた。A2, B1, C2, D2
それきり蜂谷は息を吹(ふ)き返さなかった。A1, B1, C2, D1
平生何事か言い出すとあとへ引かぬ甚五郎は、とうとう蜂谷の大小を取って、自分の大小を代りに残して立ち退いたというのである。A2, B1, C2, D1
◆場面3
澄(す)み切った月が、暗く濁(にご)った燭(しょく)の火に打ち勝って、座敷(ざしき)はいちめんに青みがかった光りを浴びている。A1, B2, C2, D2
どこか近くで鳴く蟋蟀(こおろぎ)の声が、笛の音(ね)にまじって聞こえる。甘利は瞼(まぶた)が重くなった。たちまち笛の音がとぎれた。A2, B1, C2, D2
「申(もう)し。お寒うはござりませぬか」笛を置いた若衆の左の手が、仰向(あおむ)けになっている甘利の左の胸を軽く押(おさ)えた。A2, B1, C2, D2
ちょうど浅葱色(あさぎいろ)の袷(あわせ)に紋(もん)の染め抜(ぬ)いてある辺である。A1, B2, C2, D2
甘利は夢現(ゆめうつつ)の境(さかい)に、くつろいだ襟(えり)を直してくれるのだなと思った。A1, B1, C2, D2
それと同時に氷のように冷たい物が、たった今平手がさわったと思うところから、胸の底深く染み込(こ)んだ。A1, B1, C2, D2
何とも知れぬ温い物が逆に胸から咽(のど)へのぼった。甘利は気が遠くなった。A1, B1, C2, D1
三河勢(みかわぜい)の手に余った甘利をたやすく討ち果たして、髻(もとどり)をしるしに切り取った甚五郎は、鼠(むささび)のように身軽に、小山城を脱(ぬ)けて出て、従兄源太夫が浜松の邸(やしき)に帰った。 A2, B1, C2, D1
家康は約束(やくそく)どおり甚五郎を召(め)し出したが、目見えの時一言も甘利の事を言わなんだ。A2, B1, C2, D1
蜂谷の一族は甚五郎の帰参を快くは思わぬが、大殿(おおとの)の思召(おぼしめ)しをかれこれ言うことはできなかった。A2, B2, C2, D1
花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
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