数学をやる.
ひとまず, 基本群の定義についての自由研究はまとまったように思う. 時間ができたらノートに清書しながら内容を確かめる.
やったことは以下の通り.
$X$ を弧状連結な位相空間とする. $I$ を閉区間 $[0, 1]$ とし, $X$ 上のループ空間を
$\Omega(X) = \{ \alpha \bigm| \alpha : I \rightarrow X$ かつ $\alpha$ は連続写像であり $\alpha(0) = \alpha(1)$ が成り立つ. $\}$
と定義する.
$\alpha_0, \alpha_1 \in \Omega(X)$ に対して連続写像 $F : I \times I \rightarrow X$ で
$F(t, 0) = \alpha_0(t)$,
$F(t, 1) = \alpha_1(t)$,
$F(t, u) \in \Omega(X)$ $(t \in I, u \in I)$
を満たすものを $\Omega(X)$ におけるループ $\alpha_0$ からループ $\alpha_1$ へのホモトピーと呼び, \[ \alpha_0 〈homotopy/\Omega(X)〉 \alpha_1 \] と書く. $〈homotopy/\Omega(X)〉$ は $\Omega(X)$ 上の同値関係である.
$\Omega(X)$ の $〈homotopy/\Omega(X)〉$ による商空間を \[ \pi_1(X) = \Omega(X)\big/〈homotopy/\Omega(X)〉 \] とおく.
この定義は, 点付き位相空間 $(X, x_0)$ に対するループ空間を
$\Omega(X, x_0) = \{ \alpha \bigm| \alpha : I \rightarrow X$ かつ $\alpha$ は連続写像であり $\alpha(0) = x_0 = \alpha(1)$ が成り立つ. $\}$
としたとき, $\Omega(X, x_0)$ 上のホモトピー同値関係 $〈homotopy/\Omega(X, x_0)〉$ (すなわち $\alpha_0, \alpha_1 \in \Omega(X, x_0)$ に対して, 連続写像 $F : I \times I \rightarrow X$ で $F(t, 0) = \alpha_0(t)$, $F(t, 1) = \alpha_1(t)$ かつ $F(t, u) \in \Omega(X, x_0)$ $(t \in I, u \in I)$ が成り立つものが存在する) で割って得られる商空間 \[ \pi_1(X, x_0) = \Omega(X, x_0)\big/〈homotopy/\Omega(X, x_0)〉 \] が群になること, この群を $(X, x_0)$ の基本群と呼ぶことの拡張である.
最初はこの定義の方が基本群のより自然な定義と考えていたが, そうでもなかった. このことは最後に書く.
上述のように $X$ の商空間 $\pi_1(X)$ を定義したときに次が成り立つ.
- (1) $\Omega(X)$ は各 $\Omega(X, x)$ $(x \in X)$ の和集合である. つまり \[ \Omega(X) = \coprod_{x \in X} \Omega(X, x) \] が成り立つ.
- (2) $x_0 \in X$ を任意に固定する. $X$ は弧状連結だから, 各 $x \in X$ に対して道 $\gamma(x_0, x) : I \rightarrow X$ で
$(\gamma(x_0, x))(0) = x_0$ かつ $(\gamma(x_0, x))(1) = x$
となるものが存在する. このような道の族 $\{ \gamma(x_0, x) \}_{x \in X}$ を 1 つ選んで固定する. また, 各 $\alpha \in \Omega(X, x)$ $(x \in X)$ に対して写像 $\varphi(x, x_0) : \Omega(X, x) \rightarrow \Omega(X, x_0)$ を \[ (\varphi(x, x_0))(\alpha) = (\gamma(x_0, x)\alpha){\gamma(x_0, x)^{-1}} (\alpha \in \Omega(X, x)) \] と定義する. このとき各々の $\varphi(x, x_0)$ はホモトピー同値性を保存する. - (3) 点付き位相空間 $(X, x_0)$ に対する基本群 $\pi_1(X, x_0)$ と $\pi_1(X)$ は集合として同型である. ループ空間 $\Omega(X, x_0)$ の元 $\alpha$ の同値関係 $〈homotopy/\Omega(X, x_0)〉$ による同値類を $[\alpha]_{\Omega(X, x_0)}$, ループ空間 $\Omega(X)$ の元 $\alpha$ の同値関係 $〈homotopy/\Omega(X)〉$ による同値類を $[\alpha]_{\Omega(X)}$ と書いたとき, 集合の同型写像 $i : \pi_1(X, x_0) \rightarrow \pi_1(X)$, $r : \pi_1(X) \rightarrow \pi_1(X, x_0)$ はそれぞれ
$i([\alpha]_{\Omega(X, x_0)}) = [\alpha]_{\Omega(X)}$,
$r([\alpha]_{\Omega(X)}) = [(\varphi(x, x_0))(\alpha)]_{\Omega(X, x_0)} (\alpha(0) = x = \alpha(1))$
により与えられる. - (4) 群 $\pi_1(X, x_0)$ における積を各 $a, b \in \pi_1(X, x_0)$ に対して \[ m_0(a, b) = ab = a \cdot b = a \cdot_{\Omega(X, x_0)} b, \] 各 $a \in \pi_1(X, x_0)$ にその逆元を対応させる写像を \[ inv_0(a) = a^{-1} \] とおく. また, $e_0$ を$\pi_1(X, x_0)$ の群の単位元とする. これらを用いて写像 $m : \pi_1(X) \times \pi_1(X) \rightarrow \pi_1(X)$, $inv : \pi_1(X) \rightarrow \pi_1(X)$ をそれぞれ
$m = i \circ m_0 \circ (r \times r)$,
$inv = i \circ inv_0 \circ r$
と定義し, 元 $e \in \pi_1(X)$ を $e = i(e_0)$ により定義する. このとき, $m$ を積, $inv$ を逆元を与える写像, $e$ を単位元として $\pi_1(X)$ は群となる. つまり, 任意の $a, b, c \in \pi_1(X)$ に対して \[
ab = a \cdot b = a \cdot_{\Omega(X)} b = m(a, b), \\
a^{-1} = inv(a)
\] とおいたとき, \[
(ab)c = a(bc), \\
aa^{-1} = a^{-1}a = e, \\
ae = ea = a \] が成り立つ. - $\pi_1(X)$ は群として $\pi_1(X, x_0)$ と同型である. 群の同型写像は $i : \pi_1(X, x_0) \rightarrow \pi_1(X)$ と $r : \pi_1(X, x_0) \rightarrow \pi_1(X)$ により与えられる.
- (5) 弧状連結な位相空間の圏を $\textbf{pcTop}$, 群の圏を $\textbf{Grp}$ とする. 任意の対象 $X, Y \in \text{Ob}(\textbf{pcTop})$ と任意の $\textbf{pcTop}$ の射 $f : X \rightarrow Y$ に対して写像 $\pi_1(f) : \pi_1(X) \rightarrow \pi_1(Y)$ を \[
(\pi_1(f))([\alpha]_{\Omega(X)}) = [f \circ \alpha]_{\Omega(Y)} (\alpha \in \Omega(X)) \] と定義する. このとき $\pi_1 : \textbf{pcTop} \rightarrow \textbf{Grp}$ は関手である.
ここまでだが, 一連の計算を通じてこのような基本群 $\pi_1(X)$ の定義は必ずしも自然なものではないという気がしてきている.
その理由を説明するが, うまく説明できるかどうか... あくまで自分の感じたことなので.
通常は弧状連結な点付き位相空間 $(X, x_0)$ (議論を簡単にするために弧状連結という条件を付けている. この条件が無くても中心的な議論の流れは変わらない) に対して, そのループ空間 $\Omega(X, x_0)$ をホモトピー同値関係 $〈homotopy/\Omega(X, x_0)〉$ で割った商空間 $\pi_1(X, x_0)$ を考える. これは $\Omega(X, x_0)$ 上の積 (ループの連結) から自然に導かれる積によって群になる. $\pi_1(X, x_0)$ を $X$ の基本群と呼ぶ.
この定義では, 元になるループ空間 $\Omega(X, x_0)$ はループの連結を積, ループの逆回しを逆元のようなもの, 定数ループを単位元のようなものとする構造を持っている. しかもループの積は任意の 2 つのループの間に定義される. 結合律が成り立っていないために群にはならないが, 群の素のような構造 (マグマと呼ぶらしい) を持っている. 基本群 $\pi_1(X, x_0)$ の構造がループ空間 $\Omega(X, x_0)$ におけるループに対する幾何学的な操作とうまく対応している.
一方, 弧状連結な位相空間 $X$ のループ空間 $\Omega(X)$ は, 任意の 2 つの元に対して定義される積というものを持たない. 基点が同じループ同士に対してのみ積が定義される. だから, $\pi_1(X)$ に群の構造を入れるためにある基点 $x_0 \in X$ を定め, $x_0$ から $X$ の各点 $x$ への道の族 $\{ \gamma(x_0, x) \}_{x \in X}$ と, 写像の族 $\{ \varphi(x, x_0) : \Omega(X, x) \rightarrow \Omega(X, x_0)\}_{x \in X}$ を選んで固定する. これによって各ループ $\alpha$ を写像 $\varphi(x, x_0)$ $(\alpha(0) = x = \alpha(1))$ によって $x_0$ を基点とするループ $(\varphi(x, x_0))(\alpha) = (\gamma(x_0, x)\alpha)\gamma(x_0, x)^{-1}$ に変換して $\Omega(X, x_0)$ でのループの積に還元し, これによって群の構造を $\pi_1(X)$ に定める. 技巧的であってあまりすっきりとした議論ではないという気がする.
位相空間に対する基本群というのは基点 $x_0$ を用いて定まる. 弧状連結な位相空間という幾何学的な対象については, 基点 $x_0$ は任意にとってよい. どのように選んでも結果の基本群は群として同型になるからである.
このことは実は弧状連結な位相空間というきれいな対象について真なだけではないのか.
一般に基本群をより一般的に考察した場合に, ある (必ずしも幾何学的とは限らない) 対象 $X$ に対する基本群というものが定義されるならば, それは基点の取り方に依存する場合もあるのではないか.
今回の自由研究で導入した $\Omega(X)$ というループ空間は構造がかなり緩い. その緩さを無理矢理に直接 $X$ の基本群 $\pi_1(X)$ に結びつける, 群という強い構造に結びつける議論も今ひとつすっきりしない.
ここから先は自分の数学の知識の先にあるような気がする.
ひとまず自由研究はこれらをノートに清書して終わりとして, 元々の本 ("Toposes, Triples and Theories") の流れである Hurewicz 変換の議論に戻ろうと思う.
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