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2024年09月14日

『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する8

6 今後の課題

 上述したように、要約の練習は、一時記憶として注目を集めているワーキングメモリーの強化やビジネスの実践につながることから、作文の課題に入れるとよい。要約ができるようになると読書のスピードが速くなるため、自ずと読書の量が増えて集中力も身についていく。現実的に「読み書き」のトレーニングをしていくと、感覚脳の右脳と言語脳の左脳を結ぶ脳梁と呼ばれる神経線維が強くなり、両方の脳のバランスがよくなっていく。
 また、ライティングの幅を広げるために、日本語の技術文への対応を検討するとよい。縦型人間ではなく、文理融合が調節できるような人材を育成することも教育の現場で心掛けていく必要がある。しかし、技術文の翻訳といっても、翻訳の作業単位は語学力と分野の背景が組となるため、理系のとある分野の入門から少しずつ勉強するとよい。単純に文系で比較というと、AとBからA’とB’を出す作業のことである。一方、文理融合、共生とは、AとBから異質のCを出す作業のことである。異質のCに橋が架かるとマクロ的な調節となり、シナジーらしくなっていく。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する7

5 要約から速読へ−脳のトレーニング

 「読む・書く」に関する効果的な学習方法は、クラスの内容を折に触れて自分でも実践してみることである。予習の段階で記事を読みながら段落ごとにキーワードを検出して、上述の方法で要約文を作ってみる。キーワードの検出が上手くできればしめたものだ。先生が黒板に書くものと比べてどこが異なるのかをクラスの中で確認して、帰宅してから今一度復習してみる。こうした単純な作業の繰り返しが文章を素早く処理するための肥やしとなる。
 読みを遅くしてしまう原因は、一字一句読んでいたり、音読をしているからだ。やはり文章は段落を単位にして段落全体を捉えるように黙読すると速く読めるようになる。これは翻訳するときのように一文一文を確認しながら読む精読とは異なり、全体の内容がイメージできればよいという意味である。例えば、新聞であれ小説であれ、読みながらテーマやあらすじがつかめるように工夫していく。
 そのためには、入力となる新聞記事に対して記憶として蓄えている知識を速やかに出力しなければならない。これもよく言われることだが、日本語の場合は、漢字と平仮名のうち漢字に注目すれば速読に近づいていき、英語の場合は、名詞や動詞といった内容語に注目して、冠詞や代名詞のような機能語はさっと読むと、速読らしくなっていく。
 誰もが思う速読のトレーニングは、1分間にどれだけの量が読めるのかとか1ページを読むのに何秒かかるのかを測定することだ。速く読めるようになるには、キーワードを拾って内容が理解できればよいのであり、そうなれば、読みの時間はかなり短縮することができる。
 いずれにせよ、キーワードの検出や要約のトレーニングがワーキングメモリーの強化につながり、推敲や表現力の強化が言語中枢の働きに影響を与えることを学生に意識させるとよい。教案を脳トレまで持っていくことは、語学の教師がするべきことである。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する6

4 要約の実践

朝日新聞の天声人語(2012年4月29日)を使用して、上述の方法を試してみよう。

【問題】
 エーゲ海のミロス島で、農夫がその大理石像を見つけたのは1820年の春。両腕は欠けるも、体重は右に、視線は左に向けて、額から伸びた鼻筋が美しい。フランスの外交官らの機略で、「ミロのビーナス」はルーブル美術館の至宝に落ち着いた。以来、原則として門外不出である。例外は1964年、日本への旅だった。手前みそながら、仏政府にかけ合い、東京と京都で展示を企てたのは朝日新聞だ。一点のみの美術展を、172万人が訪れた。わが国にも誇れる女神像がある。こちらは純然たる祖先の作である。山形県で20年前に出土した「縄文のビーナス」が、土偶では四つ目の国宝に決まり、きょうから上野の東京国立博物館で公開される。4500年前、縄文中期の逸品だが、現代彫刻の趣がある。国宝に推した文化審議会は「土偶造形の一つの到達点」と評した。縄文人(びと)からの贈り物と喜ぶのは、所蔵する山形県の吉村美栄子知事だ。「豊穣(ほうじょう)の祈りや再生の意味がある土偶が国宝となり、東北の再生にもつながる」と。ミロのビーナスの倍の歳月を知り、渡航歴はすでに本家をしのぐ。フランス、中国、ドイツ、英国をめぐり、縄文文化の豊かさを伝えてきた。文化使節としての実績は国の宝にふさわしい。素焼きの立像に向き合えば、大胆な捨象(しゃしょう)の美を思うはずだ。次いで土の香り、祝祭のさざめきだろうか。じんわりと、五感に太古がこみ上げる。時をせき止めて、縄文の匠(たくみ)を守り通した国土に、改めて感謝したい。

【要約の手順】
1 この文章を4段落(起承転結)に分ける。
2 段落毎にキーワードを6、7個探す。
3 段落毎に中心文を探す。
4 中心文を使用して、その段落を要約する。5W1Hも考えること。キーワードとキーワードを助詞や動詞で繋いでいく。
5 4つの要約文を一つにまとめて全体の要約文にする。テーマ・レーマも考慮すること。
 
【手順1】
第2段落の始まり わが国にも
第3段落の始まり 縄文人から
第4段落の始まり 素焼きの立像

【手順2】
第1段落のキーワード エーゲ海のミロス島、1820年、ミロのビーナス、ルーブル美術館の至宝、1964年、日本への旅
第2段落のキーワード 女神像、山形県、20年前、縄文のビーナス、国宝、土偶造詣
第3段落のキーワード 縄文人からの贈り物、山形県の吉村美栄子知事、豊穣の祈り、東北の再生、渡航歴、文化施設
第4段落のキーワード 素焼きの立像、捨象の美、土の香り、祝祭のさざめき、五感に太古、縄文の匠

【手順3】
第1段落の中心文 「ミロのビーナス」はルーブル美術館の至宝に落ち着いた。
第2段落の中心文 山形県で20年前に出土した「縄文のビーナス」が、土偶では四つ目の国宝に決まった。
第3段落の中心文 縄文人からの贈り物と喜ぶのは、山形県の吉村美栄子知事だ。
第4段落の中心文 素焼きの立像に向き合えば、じんわりと、五感に太古がこみ上げる。

【手順4】
第1段落の
要約文 1820年にエーゲ海のミロス島で発見された「ミロのビーナス」はルーブル美術館の至宝であり、原則として門外不出だが、1964年に一度だけ日本で展示されたことがある。
第2段落の
要約文 20年前に山形県で出土した「縄文のビーナス」が土偶では4番目の国宝に決まった。その理由は、土偶造詣の一つの到達点だからである。
第3段落の
要約文 「縄文のビーナス」には豊穣の祈りや再生の意味があり、東北の再生にもつながると喜ぶのは、山形県の吉村美栄子知事。渡航歴は、すでに文化使節としての実績にふさわしい。
第4段落の
要約文 素焼きの立像に向き合えば、捨象の美や土の香り、祝祭のさざめきを感じることだろう。じんわりと五感に太古がこみ上げてくる。縄文の匠に改めて感謝したい。

【手順5】
 1820年にエーゲ海のミロス島で発見された「ミロのビーナス」はルーブル美術館の至宝であり、原則として門外不出だが、1964年に一度だけ日本で展示されたことがある。日本にも誇れる女神像がある。20年前に山形県で出土した土偶は「縄文のビーナス」と呼ばれ、この度国宝に決まった。土偶造詣の一つの到達点というのがその理由である。「縄文のビーナス」には豊穣の祈りや再生の意味があり、東北の再生にもつながると期待される。素焼きの立像に向き合えば、捨象の美などがじんわりと五感に伝わってくる。時をせき止めて縄文の匠を守り通した国土に改めて感謝したい。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する5

3 要約の準備

 新聞記事を例にして要約の方法を説明していく。天津で担当した新聞講読や日本語の作文のクラスでは、特に学期の後半に要約のトレーニングを試みた。日本語学習歴が2、3年ということもあり、新聞記事を使えば、一般的な知識もさることながら日本の事情にも通じるようになる。文章を処理する際の作業単位は、先にも述べた通り段落がよい。 
 新聞記事の形式段落は、通常3つ4つの文からなっている。よい段落の条件とは、@長さを工夫する、A段落内の文を結びつける語句が正しく使用されている(例、接続語、指示語、テーマ・レーマ)、B全体の文章と段落に何らかの関係がある、C中心文があることである(王/山鹿:2004)。新聞記者も当然こうしたことを念頭に入れて記事を書いている。また、段落の変わり目の目安として、@時間や場所が変わる。A人物や事件が変わる、B立場や観点が変わる、C会話文の話し手が変わる、D事柄や考えが変わるときが考えられる。
そこで、段落の中からキーワードやそれを含む中心文を探して、各段の要約文をまとめながら、最後に全体の要約文に仕上げる練習を繰り返す。字数制限についてはどうだろうか。この場合、各段落を要約してから複数をまとめて意味段落にする。そして、2つ3つの意味段落をまとめて、字数の範囲内で要約文を完成させる。その際にも一応5W1Hを使って整える。(4 要約の実践を参照すること)
 どのことばについてもこうした方法で要約文を作ることができる。しかし、繰り返してトレーニングをしないと、限られた時間でデータをまとめることはできない。一学期ぐらいは我慢してトレーニングを続ければ、要約作業のコツもつかめてくる。 
 中間テストを挟んで学期の後半は、日本の全国紙の中から最新のニュース記事を選んで、こうしたトレーニングをしている。教材の記事に比べれば、もちろん内容は難しくなる。教材は、学習者が理解しやすいように編集してあるからだ。そのため、ここからが本格的なトレーニングになる。
 そのための準備としてテーマとレーマがうまく組みをなすように段落が作れれば、一読でわかる文章に近づいていく。そのため、テーマ・レーマのトレーニングをウォーミングアップとして試してみよう。
 
【問題】
 次の文のテーマとレーマを考えながら、どの順番に並べるのがよいか考えてみよう。
(1)野田首相は昨日の国会答弁で、消費税の増税について具体的な日程に触れなかった。
(2)医療保険や国民の年金のことを考えると、消費税の増税は止むを得ない。
(3)消費税の増税は、国民の生活に大きな負担となりかねない。
(4)現在の消費税は5%である。
(5)欧米諸国の消費税を見ると、10%後半から20%前半の数字が並ぶ。
(6)選挙を睨みながらの調整になるのだろう。
(7)消費税については、もう長いこと話題になっている。

 テーマ・レーマとは旧新の情報のことである。ここでのテーマは消費税である。そこでまず(7)を取り上げる。次に消費税が話題になる理由を考えると、(2)がそれを受けている。現状を考えると、(4)には問題がある。数字だけを見ると日本は消費税が低い気にもなる。数字の例は(5)にある。しかし、数字だけではなく、その他諸々の問題が山積している。そこで(3)が来る。日本のリーダーの見解には常に耳を傾けよう。(1)は(6)が理由にもなる。そこで次のように文章を組み立てていく。(7)(2)(4)(5)(3)(1)(6)の順にする。

 消費税については、もう長いこと話題になっている。医療保険や国民の年金のことを考えると、消費税の増税は止むを得ない。現在の消費税は5%である。欧米諸国の消費税を見ると、10%後半から20%前半の数字が並ぶ。消費税の増税は、国民の生活に大きな負担となりかねない。野田首相は昨日の国会答弁で消費税の増税の具体的な日程には触れなかった。選挙を睨みながらの調整になるのだろう。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する4

2.2 課題作文

 日本語の文章の構成は、序論、本論、結論よる三段式か起承転結からなる四段式である。どちらの構成であれ、2回に1回のペースで演習課題を出して学生に作文を書かせ、こちらで添削指導をする。演習課題は、月並みな日本についてとか諺や格言、説明文や感想文などである。作文の評価項目は、@当用漢字、A文法、Bてにをは、C適正表現そしてD独創性(ユニークさ)としている。

[評価項目]
A当用漢字 簡体字, 平仮名残り, 誤字
B文法 語順, 活用形, 句読点
Cてにをは 助詞の使い方
D適正表現 日本語らしい表現
E独創性 ユニークなストーリー

 添削をしていて気づいたことは、クラスの中でフィードバックするように心掛けている。例えば、中国人の学生は、中国語の簡体字を使用することがある。また、中国語には活用形がないために、送り仮名を間違えたり平仮名表記が残っているケースもある。しかし、闇雲に平仮名表記を漢字に直してほしいというだけでは指導が足りないと思う。つまり、当用漢字は必ず漢字表記にして、非当用漢字は漢字でも平仮名でもよいとする。例えば、日本語では「醤油」と書いても「しょう油」と書いてもよい。中国人は、とかく漢字を使用する傾向にある。 
 また、作文の中で句読点の読点を付けすぎる傾向にある。一般的に読んでわかるのであれば、特に読点をつける必要はない。新聞などは比較的読み流していく文章ゆえに、音読の切れ目切れ目で読点を付けている。この点はあまり真似しないほうがよい。
「てにをは」については言うまでもなく、膠着語を持たない中国語が母国語であるために、助詞の使い方は難しいようだ。月並みであるが、たくさんやさしい日本語の文章を読むことがトレーニングになると思う。 
 適正表現とは、物の作り方を説明する文章の場合、例えば、自分の得意料理を説明するのであれば、美味しそうに書くことをいっている。不味そうに書けばそのように読まれてしまう。この点を工夫することが作文の上達に繋がっていく。また、構文上の日本語らしさもある。繰り返すが、日本語が語順の自由な言葉であることを認識しながら文章を書くとよい。
 独創性は、格言や諺を演習課題にすると、知っている中国の故事を使用して面白いユニークな作文を書いてくれる。課題作文から学生の思いがわかるように演習課題を設定するのも、セミナー担当者の調整力の見せどころになる。なお、添削指導の中でこうした点を説明しながら、日本語の一文は句読点を含めて40文字前後と定義している。一読でわかるためである。
 こうした単純な課題作文だけでなく、部分的にデータをまとめるトレーニングも実践的なものといえる。例えば、序論だけが見えていてこの小論と結論は自分で書く練習とか、起承転結の起承が決まっていてストーリーはそのままで転結の部分だけをまとめるといった練習も実践の作業につながる。こうした演習課題を繰り返しているうちに、要約の仕方も身に付いてくる。要約が上手くなると、文章の処理が格段と速くなる。当然のことながら、読書の量も増えていき、知識がたまると共にアレンジも上手くなっていく。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する3

2 奨励するトレーニング法

2.1 要約のための新聞講読

 新聞記事は、通常@見出し、Aリード(前文)そしてB本文、C写真、D図表から構成されている。見出しとリードの関係やリードと本文の関係を考える場合に、見出しやリードの用語および本文のキーワードに注目すれば理解はできる。また、本文を前後半に分けても、三段式或いは四段式に分けても、それぞれに中心となる段落がつかめれば要約のポイントを作ることはできる。
 要約の方法は、ことばという情報をまとめるテクニックである。しかし、対象は必ずしもことばでなくてもよい。その場の雰囲気とか対人の場面では相手の心理や意識も要約の対象になりそうだ。やり取りを円滑にするためには、我々が五感で感じる音やにおい、味覚や感触さらには視覚情報を何かのことばに変えて相手に伝えている。その際に、それらのことばを記憶の中枢に留めるために感情のネーミングというトレーニングがある。これは、小説などでいう微妙なニュアンスなどの調節にも繋がっていく。自分の感情を的確に把握するという感情のコントロールのための精神療法である。日頃からこのような頭の体操をすることも要約のトレーニングの役に立つ。
 要約文は、どのように作れば上手くいくのだろうか。まず一つの段落からキーワードを探していく。キーワードが見つかれば、その単語を含む中心文を使用して場面のイメージを作ることができる。効率良くキーワードが見つかれば、文章の理解はスムーズになり、段落も手際よくまとめられるようになる。これがワーキングメモリー のトレーニングの中で一番簡単である。
 キーワードは、意味をつかむ上で重要なことばである。そのため、名詞とか動詞そして述語形容詞がキーワードになりやすい。名詞の中でも固有名詞や数字、カタカナは、情報が凝縮されているため価値がある。その他の品詞、例えば、副詞、接続詞、助詞、助動詞はキーワードにはなりにくい。
 段落の中で情報はどのように流れているのであろうか。講読時の言語情報の入力と出力という観点から見ると、構文と意味が組で扱われている。例えば、日本語のある入力文に対して、まずその言語の構文と意味の解析が行われ、ここに解析のイメージが作られる。次に、意味と構文が生成されて入力に対する理解ができあがり出力となる。段落を通してこうした入出力の作業が一文一文連鎖をなして行われている。
 また、要約する場合は、その言語にかなり通じているわけだから、構文は自動的に解析されて、どちらかというと意味の解析に焦点が当てられる。その際、役に立つ言語処理としてテーマ・レーマがある。テーマとは主題のことをいい、文中で伝達の対象を表す既知の情報のことをいう。またレーマとは述題のことで、文中で伝達の内容を表す新情報のことをいう。要するに、段落の中で情報は旧新旧新の順に流れている。特に新と旧の情報がうまく組みをなすように段落が作れれば、一読でわかる文章に近づいていく。中国語は語順が固定の言語であるため、日本語を専攻する中国人の学生にとって言語間の特徴の違いを考える上でこうしたトレーニングは意味がある。テーマとレーマの調節ができるようになれば、自ずとリーディングの際にもこうしたテクニックが反映される。その際にも一応5W1Hを使って文章を整える。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する2

1 教案の作り方

 新聞講読の教案は、クラスの中で教材が指定されているため、教材を使用している間はこちらで用語や記事の背景について説明し、学生には音読や内容についての設問を解いてもらう。特に時事用語には慣れてもらいたいこともあり、中間テストで用語を確認するのもよい。以下では、教材終了後に行っている要約の演習について説明していく。要約の演習については、作文のクラスでも最後に扱うため、新聞講読とリンクが張られている。ここでは両方のクラスを連動させることが捻りとなる。
 作文の基礎編は、参加者がこれまでに学習した教材の内容を確認する作業である。例えば、日本語の文章を作成する場合に、表記の仕方や文法、文型そして文体などがテーマになり、文章作成後は校正や添削の方法がテーマになる。校正や添削については、短文で間違い探しをするのも練習にはなる。しかし、できるだけ文章のレベルで課題に取り組む方がよい。その方が文章を作成しながら読みやすい文章を書く心得が身についていく。そのことについて一言述べる。
 作文の作業単位は段落レベルを基本にしたい。誰もが一文一文を積み重ねて文章を書いていく。一文一文はやさいい構文や表現を使用すればすぐに理解できる。しかし、一文一文のつなぎがうまいとさらに一読で理解が得られるようになる。日本語は語順が自由であるため、文章の流れを意識する場合にはテーマとかレーマを考えるとよい。これについては後述する。
 実践編の教案は、できるだけ実社会で役に立つと思われる内容にしたい。ビジネスを通じて必要になるライティングは、限られた時間でデータをまとめる技法である。会議のために資料を作りながら翻訳することなどは、日常茶飯事のことである。但し、そこは学生レベルのトレーニングであるため、できるだけポイントを押さえた易しい内容にしたい。その方がこちらの説明を理解してもらえるからだ。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する1

【要旨】

 中国の大学で日本語を専攻する学生を対象に新聞講読や日本語の作文のクラスを担当している。参加者は、いずれも日本語学習歴が2、3年の人たちだ。クラスの目標は、「新聞記事を手際よくまとめること」とか「一読でわかるやさしい日本語の文章を書くこと」である。双方とも最終的に要約ができるようになることを目標にしている。「読んで書く」という組みで教案を調節するためである。要約ができるようになると、自ずと読書量も増えて集中力が身についていく。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ14

3 まとめ

 武漢外語外事職業学院に赴任して、2年間で中国人の学生に日本語を教授した内容について話をした。クラスでの指導の外に、2009年11月に「中国から伝わった日本の言葉や文化-欧州との比較も混じえて」と題して、1時間余り講演をし、講演後、質疑応答で20分ぐらい学生と熱く議論を交すことができた。
 課外でも、武漢大学の大学院生の知人にプライベート・レッスンンの枠組で、中国語を教えてもらった。教材は、普通话-培训测试教程である。発音の矯正から始まって平易な中国語のテキストを中国語から日本語へ訳す練習をした。新聞の速読も試みているが、まだまだである。会話と合わせて今後の課題になる。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ13

全体の訳文は、次のようになる。

かつて、このような話を聞いたことがあります。葬式の日に、旦那さんを亡くした奥さんが、黒い喪服を着て、顔には微笑みを浮かべながら、弔問に訪れる客を前に接待をしていました。ひとりの外国人がこの光景を見ていて、思わず奇妙に思いました: まさか日本人は、悲しいと思わないわけではあるまい。これは、日本人の「謎の微笑み」に関する例の一つです。一般的に言って、日本人は皆、悲しみや怒りを堪えることができます。たとえ意気消沈しているとしても、微笑みを保つ必要があります。
 いずれにせよ、外国人は、表情がない日本人の心の世界を理解するのが実際に難しいと思っています。これは、日本人が通常目や動作によって言葉では表現の仕様がない心の世界を表すからです。よく「目は口ほどに物を言う」と言いますが、もしこの婦人の目に注意すれば、必ず内面は、悲しい気持ちで一杯であることに気づくでしょう。

 卒業して実務経験を積んでから、翻訳の仕事をしてみたいと相談されたことがある。その際、「まずチェッカーから始めるとよい」と言ってきた。チェッカーは、訳抜けがあるかとか専門用語が正しかどうかを確認する翻訳者から編集者へのつなぎ役であり、また、翻訳の仕事の流れや時間厳守であることが分かるからである。
 他の大学でも機会があれば、「みんなの日本語」から「日本語会話技巧編」及び「ビジネス日本語会話」への流れの中で、日本の語学、文学や文化について話をしていきたい。

花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
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プロフィール
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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