2024年09月14日
『読む・書く』 中国人の学生に日本語の読み書きを教授する5
3 要約の準備
新聞記事を例にして要約の方法を説明していく。天津で担当した新聞講読や日本語の作文のクラスでは、特に学期の後半に要約のトレーニングを試みた。日本語学習歴が2、3年ということもあり、新聞記事を使えば、一般的な知識もさることながら日本の事情にも通じるようになる。文章を処理する際の作業単位は、先にも述べた通り段落がよい。
新聞記事の形式段落は、通常3つ4つの文からなっている。よい段落の条件とは、@長さを工夫する、A段落内の文を結びつける語句が正しく使用されている(例、接続語、指示語、テーマ・レーマ)、B全体の文章と段落に何らかの関係がある、C中心文があることである(王/山鹿:2004)。新聞記者も当然こうしたことを念頭に入れて記事を書いている。また、段落の変わり目の目安として、@時間や場所が変わる。A人物や事件が変わる、B立場や観点が変わる、C会話文の話し手が変わる、D事柄や考えが変わるときが考えられる。
そこで、段落の中からキーワードやそれを含む中心文を探して、各段の要約文をまとめながら、最後に全体の要約文に仕上げる練習を繰り返す。字数制限についてはどうだろうか。この場合、各段落を要約してから複数をまとめて意味段落にする。そして、2つ3つの意味段落をまとめて、字数の範囲内で要約文を完成させる。その際にも一応5W1Hを使って整える。(4 要約の実践を参照すること)
どのことばについてもこうした方法で要約文を作ることができる。しかし、繰り返してトレーニングをしないと、限られた時間でデータをまとめることはできない。一学期ぐらいは我慢してトレーニングを続ければ、要約作業のコツもつかめてくる。
中間テストを挟んで学期の後半は、日本の全国紙の中から最新のニュース記事を選んで、こうしたトレーニングをしている。教材の記事に比べれば、もちろん内容は難しくなる。教材は、学習者が理解しやすいように編集してあるからだ。そのため、ここからが本格的なトレーニングになる。
そのための準備としてテーマとレーマがうまく組みをなすように段落が作れれば、一読でわかる文章に近づいていく。そのため、テーマ・レーマのトレーニングをウォーミングアップとして試してみよう。
【問題】
次の文のテーマとレーマを考えながら、どの順番に並べるのがよいか考えてみよう。
(1)野田首相は昨日の国会答弁で、消費税の増税について具体的な日程に触れなかった。
(2)医療保険や国民の年金のことを考えると、消費税の増税は止むを得ない。
(3)消費税の増税は、国民の生活に大きな負担となりかねない。
(4)現在の消費税は5%である。
(5)欧米諸国の消費税を見ると、10%後半から20%前半の数字が並ぶ。
(6)選挙を睨みながらの調整になるのだろう。
(7)消費税については、もう長いこと話題になっている。
テーマ・レーマとは旧新の情報のことである。ここでのテーマは消費税である。そこでまず(7)を取り上げる。次に消費税が話題になる理由を考えると、(2)がそれを受けている。現状を考えると、(4)には問題がある。数字だけを見ると日本は消費税が低い気にもなる。数字の例は(5)にある。しかし、数字だけではなく、その他諸々の問題が山積している。そこで(3)が来る。日本のリーダーの見解には常に耳を傾けよう。(1)は(6)が理由にもなる。そこで次のように文章を組み立てていく。(7)(2)(4)(5)(3)(1)(6)の順にする。
消費税については、もう長いこと話題になっている。医療保険や国民の年金のことを考えると、消費税の増税は止むを得ない。現在の消費税は5%である。欧米諸国の消費税を見ると、10%後半から20%前半の数字が並ぶ。消費税の増税は、国民の生活に大きな負担となりかねない。野田首相は昨日の国会答弁で消費税の増税の具体的な日程には触れなかった。選挙を睨みながらの調整になるのだろう。
花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
新聞記事を例にして要約の方法を説明していく。天津で担当した新聞講読や日本語の作文のクラスでは、特に学期の後半に要約のトレーニングを試みた。日本語学習歴が2、3年ということもあり、新聞記事を使えば、一般的な知識もさることながら日本の事情にも通じるようになる。文章を処理する際の作業単位は、先にも述べた通り段落がよい。
新聞記事の形式段落は、通常3つ4つの文からなっている。よい段落の条件とは、@長さを工夫する、A段落内の文を結びつける語句が正しく使用されている(例、接続語、指示語、テーマ・レーマ)、B全体の文章と段落に何らかの関係がある、C中心文があることである(王/山鹿:2004)。新聞記者も当然こうしたことを念頭に入れて記事を書いている。また、段落の変わり目の目安として、@時間や場所が変わる。A人物や事件が変わる、B立場や観点が変わる、C会話文の話し手が変わる、D事柄や考えが変わるときが考えられる。
そこで、段落の中からキーワードやそれを含む中心文を探して、各段の要約文をまとめながら、最後に全体の要約文に仕上げる練習を繰り返す。字数制限についてはどうだろうか。この場合、各段落を要約してから複数をまとめて意味段落にする。そして、2つ3つの意味段落をまとめて、字数の範囲内で要約文を完成させる。その際にも一応5W1Hを使って整える。(4 要約の実践を参照すること)
どのことばについてもこうした方法で要約文を作ることができる。しかし、繰り返してトレーニングをしないと、限られた時間でデータをまとめることはできない。一学期ぐらいは我慢してトレーニングを続ければ、要約作業のコツもつかめてくる。
中間テストを挟んで学期の後半は、日本の全国紙の中から最新のニュース記事を選んで、こうしたトレーニングをしている。教材の記事に比べれば、もちろん内容は難しくなる。教材は、学習者が理解しやすいように編集してあるからだ。そのため、ここからが本格的なトレーニングになる。
そのための準備としてテーマとレーマがうまく組みをなすように段落が作れれば、一読でわかる文章に近づいていく。そのため、テーマ・レーマのトレーニングをウォーミングアップとして試してみよう。
【問題】
次の文のテーマとレーマを考えながら、どの順番に並べるのがよいか考えてみよう。
(1)野田首相は昨日の国会答弁で、消費税の増税について具体的な日程に触れなかった。
(2)医療保険や国民の年金のことを考えると、消費税の増税は止むを得ない。
(3)消費税の増税は、国民の生活に大きな負担となりかねない。
(4)現在の消費税は5%である。
(5)欧米諸国の消費税を見ると、10%後半から20%前半の数字が並ぶ。
(6)選挙を睨みながらの調整になるのだろう。
(7)消費税については、もう長いこと話題になっている。
テーマ・レーマとは旧新の情報のことである。ここでのテーマは消費税である。そこでまず(7)を取り上げる。次に消費税が話題になる理由を考えると、(2)がそれを受けている。現状を考えると、(4)には問題がある。数字だけを見ると日本は消費税が低い気にもなる。数字の例は(5)にある。しかし、数字だけではなく、その他諸々の問題が山積している。そこで(3)が来る。日本のリーダーの見解には常に耳を傾けよう。(1)は(6)が理由にもなる。そこで次のように文章を組み立てていく。(7)(2)(4)(5)(3)(1)(6)の順にする。
消費税については、もう長いこと話題になっている。医療保険や国民の年金のことを考えると、消費税の増税は止むを得ない。現在の消費税は5%である。欧米諸国の消費税を見ると、10%後半から20%前半の数字が並ぶ。消費税の増税は、国民の生活に大きな負担となりかねない。野田首相は昨日の国会答弁で消費税の増税の具体的な日程には触れなかった。選挙を睨みながらの調整になるのだろう。
花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より
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