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[1]sin(mx)cos(nx) の積分
有名な積分公式の1つに
というものがありますね。m, n は任意の整数です。
(m, n) = (1, 1) の場合の被積分関数を図示してみます:
図から明らかなように、上の公式の意味は、−pi < x < pi の範囲において、緑色の部分(正の面積)と青色の部分(負の面積)が同じことを意味しています。 (m, n) = (1, 2), (2, 1), (1, 3) の場合もまとめて見てみましょう。
(m, n) が大きくなるほど関数の形は複雑になりますが、どのような場合でも緑の面積と青の面積は必ず相殺します。これを cosx と sinx が(あたかもベクトルのように)「直交している」と表現します。実は関数というのは、無限次元空間のベクトルなのです。関数の積分はベクトルの内積に対応しています:
積分して 0(関数が直交) ⇔ 内積が 0(ベクトルが直交)
一般化した議論は少し難しいのですが、このブログでは具体的で目に見えるかたちで「正規直交関数系」を説明していきます。数学Vの「積分」を習得していれば、やさしい内容だと思います。
[2]sin(mx)sin(nx) の積分
という積分公式を扱います。積分値を pi で割っていることに注意してください。m ≠ n の場合から見ていきましょう。 (m, n) = (1, 2), (2, 3) とした場合の被積分関数を描いてみます:
積分値が 0 なので今のところ必要はないのですが、今後の記述との統一性も考えて、被積分関数を
というように √pi で割った正弦関数の積と考えてください。[−pi, pi] の範囲で積分が 0 になるということ、言い換えると sinx / √pi と sin2x / √pi が直交するということは、緑の面積と青の面積が等しく、相殺するということです。「関数が直交する」という表現には、なかなか感覚が馴染めないかもしれませんが、今のところはこのグラフのイメージとセットで頭の片隅に置いておいてください。次回以降にもう少しだけ詳しくお話します。
次は m = n の場合、つまり積分が値を持ち、2つの関数が直交しない場合です。 (m, n) = (1, 1), (2, 2), (3, 3) のときの被積分関数を並べます:
正弦関数を 2 乗しているので、全領域で f(x) ≧ 0 です。公式は「 m, n の選び方に関わらず必ず積分値が 1 となりますよ」と言っているのですから、この3つ並んだグラフの緑色の面積は全て等しいということになります。m = n = 1 であったときの二つの大きな山が、(m, n) が大きくなるにつれて、どんどん小さな山に分裂していきます。 m = n = 11 の場合を見てみましょう。
とても小さな山(というより丘かな?)がずらずらと並んでいますね。これらを全て足し合わせて面積は 1 となります。
[3]cos(mx)cos(nx) の積分
という公式をグラフで確認してみます。δmn は、m = n のときだけ値 1 をもち、それ以外は 0 という記号です。m = n = 0 の場合は、被積分関数が定数 1 ですから、特に意味はありません。積分計算して公式通りに値が 2 になることを確認しておいてください。 m = n = 1 の場合を見てみます:
当たり前ですが、同じ関数同士の積は決して直交しません。ベクトルでいうところの「互いに平行である」という状態です。緑の部分を全部足すと面積が 1 となります。
次に (m, n) = (1, 2) の場合を描いてみると・・・・・・
緑と青の面積は相殺されて 0 となります。つまり cosx / √pi と cos2x / √pi は「互いに直交して」います。
三角関数の正規直交系
これまでに扱った3つの公式をまとめると:
cos 同士の積で m = n = 0 のときは被積分関数が定数となるので、1つだけ φ = c(定数)という形の関数が混ざりますが、c・cosx も c・sinx も [-pi,pi] で積分すると 0 になるので、c と cosx, c と sinx は直交しています。上の公式を見ながら次のような集合をつくってみます:
集合内の適当な関数を2つとってみて、互いに直交していることを確認してください。
この集合が「直交関数系」であるということになります。
集合内のそれぞれの関数の 2 乗を積分した値が 1 になることも確かめてみてください。
この条件が満たされていれば、集合は「正規直交関数系」であるといえます。
それにしても、正規直交関数系を作るのは結構手間がかかりますね。わざわざこんな面倒なことをするのは、「任意の関数を直交関数形で展開する」という実用的な理由の他に「自然界の性質を記述する微分方程式の解そのものが直交系をなしている」ことが多いからです。たとえば、量子力学で水素原子の振る舞いを記述するためにラゲール多項式という直交関数系が必要となります。「なぜ必要なの?」と問われても、「自然界がそうなっているから」としか答えようがありません・・・・・・。このあたりのことは、いずれサイドバーに別のコーナーを設けて、もう少し深いところまでお話したいと思います。
2つの関数が「直交しているかどうか」ということを積分して確認するのは結構重労働ですが、Excel を使うと、あたりをつけることができます。たとえば上の公式では (m, n) は整数に限っていましたが、 (m, n) = (1/2, 1/2) として、cos(x/2) と sin(x/2) は直交しているでしょうか? Excel でさくっと確かめてみましょう。
正負の面積は相殺されています。明らかに直交していますね。
正規直交関数系をつくることができるのは三角関数だけに限りません。
実はごく普通の n 次関数から工夫して正規直交関数系をつくりだすことができます。三角関数に比べると議論の細部はかなり難しいので省きますが、次回からは「これらの関数は直交していますよ」という前提で、いくつかの直交多項式のグラフを紹介していく予定です。初回は比較的簡単なチェビシェフ多項式を扱う予定です。
余力のある人は下の一般論も読んでおいてください。
【付録】正規直交関数系の一般論
関数 y = f(x) を区間 [a,b] で、
f = (f(x1), f(x2), f(x3), ・・・・・・ ,f(xn))
というように xn 個の点で表すことにします。 n が有限であっても、次のようにある程度関数の形を予測することはできますね。
つまり、関数を「 n 次元ベクトル形式で表示した」ということになります。
ここで n → ∞ とすると、f(x) に関する完全な情報が得られるはずです。
2つの n 次元ベクトル a, b の内積:
a・b = a1・b1 + a2・b2 + ・・・・・・ + an・bn
に対応する形で、関数 f と g の内積を
のように積分の形で定義します。 f 同士の内積は
となり、その平方根 |f| はベクトルでいうところの大きさに相当し、関数が区間 [a, b] でどれぐらいの大きさかという目安になります。a・b = 0 のとき、ベクトル a, bは直交しますが、それに対応して
(f, g) = 0
のとき、関数 f(x) と g(x) は直交すると定義します。ここで、
φ1, φ2, ・・・・・・ φn
というように n 個の関数の集合を考えます。集合内の全ての関数について
|φk| = 1
となるように適当な定数で割って規格化しておきます。
そして集合内から任意で選んだ2つの関数について、
(φm, φn) = δmn
が成り立つならば、集合{φk}が正規直交関数系であると定義します。