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ν賢狼ホロν
「嫌なことなんて、楽しいことでぶっ飛ばそう♪」がもっとうのホロです。
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2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part2 

結果として、その賭けは大当たりだった。
ファリスは町に入った途端、たまたま里帰りしていたバッツともろに鉢合わせしたのだ。
二人はそのまま旧交を温め、しばしリックスに滞在した後に二人でタイクーン城に行くことを決めた。
バッツとしても、レナに久しぶりに会ってみたいと思っていたところらしかったのだ。
そして、ようやっとタイクーン城が見えるところまで来たら……
「あれは…、どういうことなんだ?!」
目の前に広がる光景に、バッツとファリスは息を呑んだ。
ファリスの生まれ故郷であり、現在は妹のレナが王となっているタイクーン城の周囲は真っ黒な霧に覆われ、バッツ達からは城の一番高い塔のてっぺんぐらいしか見えてない。
しかも周りには上空を舞うモンスターの姿も細かい粒となって視認でき、今タイクーン城がただごとならぬ状況に陥っているのが見て取れる。
「ファリス、とにかくタイクーン城に急ごう!レナが心配だ!」
「おう!」
バッツとファリスは馬を駆け、タイクーン城を取り巻く黒い霧の中に突っ込んでいった。


ファリスとバッツがタイクーン城に近づくにつれ、その行く手を妨害するかのようにモンスターが二人に襲い掛かってきた。
「畜生!最近は随分と大人しかったっていうのに、なんでこんなに!」
ファリスが剣で周りをなぎ払いながら舌打ちをした。エクスデスを倒して以降、世界中を荒らしまわっていたモンスターたちは気が抜けたように大人しくなり、いわゆる普通の獣のような存在になってしまっていた。
勿論人間を襲うことはあるのだが、以前のように頻繁というほどではなくなっており自衛手段さえきちんとしていればリスクは相当に回避できていた。
だが、今ファリスたちに襲い掛かってきているモンスターたちは、明らかに昔のような悪意に塗れた意思を持ちこちらに向かってきている。それも、どう考えてもタイクーン周辺には出てこなかったような強力なモンスターが大挙して襲ってきているのだ。
「俺が出て行った少しの間に、タイクーンに何が起きちまったっていうんだよ!!」
ファリスがタイクーンを離れていたのはほんの一ヶ月もない間だ。たったそれだけでこれほどまでに環境が変わってしまうのが全く理解できなかった。
「くそっ…。これだったらクルルもいっしょに連れてきていれば……」
バッツはファリスたちと同じく共にエクスデスと戦った仲間のクルルのことを思い出していた。四人の中では最年少のクルルだが、その実力は決してバッツたちに見劣りするものではない。今現在の彼女は、祖父ガラフの後を継ぎバル城の女王となっているはずだった。もしタイクーンに行く途中でバル城によりクルルをいっしょに連れてくれば、レナもきっと喜んだだろうと考えたが後の祭り。
そして、今はそれを途中で思いつかなかったことを心底後悔していた。

「グオーッ!!」

バッツの行く手に二体の巨大な獣のモンスター、アケローンが立ちふさがる。本来次元の狭間にいる魔物がこんなところにいるのはやっぱり普通じゃない。

「バッツーッ!どけーーっ!!」

バッツの後ろからファリスの絶叫が響く。その声にバッツはバッと反応して身を横っ飛びさせるといま自分がいた空間を舐めるように炎の渦が飛んでいき、二体のアケローンをこんがりと焼き尽くした。
ファリスが発したファイガの魔法はそのまま触れるもの全てを焼き尽くし、タイクーンまでの道を真っ直ぐ切り開いてみせた。
「よし!これでタイクーン城まで行ける!」
四方から間断なく襲ってくるモンスターを切り伏せながら、ファリスとバッツは一目散にタイクーン城へと駆け抜けていった。
その先にある、更なる地獄の釜を開きに。

「これは…」
「ひ、ひでぇ……」
ようやっとたどり着いたタイクーン城内に入った途端、バッツは顔をしかめファリスは顔をそむけた。
城内は、地獄だった。
兵士達はところどころでぼろきれのように蹂躙され、無残な骸を晒し上げている。窓ガラスは割られ柱は崩れ、黒く霞む視界の先からは所々で火が出ている。
「なんでだよぉ…。なんでこんなことになっちまったんだぁ!!」
事切れている死体には、ファリスが良く知る人間も多数含まれている。
あまり城の中を知らない自分に親身になって話し掛けてきた兵士。
厨房に入り込んではつまみ食いをし、その仕返しに包丁を投げてきたコック長。
いつも部屋の花を取り替えに来た侍女。
その他その他…
そのどれもが、人間から肉の塊にへと変わり果てていた。
「畜生畜生ちくしょう!!俺たちの城をこんなにした奴は誰だ!!絶対、絶対ぶっ殺してやる!!」
敵を探すファリスの目は憎悪で激しく燃え上がり、復讐すべき相手を捜し求めていた。時折ちょろりと姿を見せるモンスターを一瞬にして切り刻み、次の獲物を探している。
そして今も、廊下の柱から不意を打ってきたモンスターを一刀の下に真っ二つにした。
「どこだーっ!どこにいやがるーっ!!」
あくまでも仇を求めるファリスだったが、そんなファリスの頭に冷や水をかけるものがあった。
「ファリス!今はレナを見つけるのが先だろ!まずはレナの無事を確認するんだ!!」
「ッ?!」
この一言が、血が昇っていたファリスの頭を一瞬にして冷静に戻した。
(そうだ!ここにはまだレナがいるんだ!こんなところで油売っているわけには行かない!)
現時点ではまだレナの安否は確認されていない。これは言い換えればレナがまだ無事かもしれないということを意味している。
勿論逆のこともあるのだが、今回はあえてそれは無視した。助けに行こうというのに死んでいることを前提にするのはあまりにもナンセンスだ。
「ファリス!レナの部屋に行くぞ!!」
「ああ!わかった!!」
バッツとファリスは手を取り合い、レナの寝室がある道を駆け抜けていった。

2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part3
「レナ!」
道すがら襲ってくるモンスターをなぎ払い、ようやっとレナの寝室にたどり着きドアを蹴り破ったファリスの視界に、レナを小脇に抱えたモンスターが今にも窓から逃げようとしている光景が入ってきた。
どうやらレナは気を失っているらしく、青白い顔に目を閉じたままぐったりと力が抜けている。
「て…てんめえぇーっ!!レナを離しやがれーっ!!」
今にも妹がかどわかされようとしている状況に、ファリスの頭の血は一気に上りモンスターに向けて突進していった。
「お、おいファリス!」
それを見たバッツも慌ててファリスの後に続いていく。
「ぶもっ?!」
今までファリスが見たこともない、頭が牛の形をしている筋骨隆々としたモンスターはファリスとバッツの乱入に相当驚いたのか、レナをぽいと投げ捨てると手に持った両手斧を構えてファリスを迎え撃とうとした。
「ぶもーっ!!」
牛の怪物の持つ斧から、見るからに重そうな一撃がファリス目掛けて振り下ろされる。まともに受けたら剣ごと骨までへし折られてしまうだろう。
だが、ファリスを捉えるにはその動きは遅すぎた。
「へっ!のろまが!!」
ファリスは横に飛んで怪物の攻撃を難なくかわすと、そのまま剣を怪物の胴体目掛けて突き出した。
「ぶもぉ!!」
斧を振り下ろして体勢を立て直せない怪物に、ファリスの突きは真っ直ぐに胸板に突き刺さった。
が、怪物もどういう筋肉をしているのかファリスの突きは深々と刺さることなく切っ先がほんの数センチ埋まっただけだった。
「ぶ、ぶもーーっ!!」
だが、傷口から青々とした血を派手に噴出した怪物は苦悶の雄叫びを上げると、形勢不利と見たのかそのまま窓から飛び出しベランダ伝いに逃げ出してしまった。
もっとも、ファリスもバッツもそんなものに構うことなく、床に寝転げているレナに真っ直ぐ向っていった。
「大丈夫か、レナ!おいレナ!!」
身体に外傷は特になく呼吸もしているので取り合えず命に別状はなさそうだが、ファリスが懸命に揺すって語りかけてもレナはぐったりとしたまま全く動こうとしない。
「レナ!レナぁ!!」
「落ち着けファリス!今は一刻も早く城から逃げ出すんだ。このままここにいたらどうしようもなくなる!」
バッツの言うとおり、窓の下から見える城下には夥しい数のモンスターが集まってきつつある。もしこのまま城内に残っていたら、とてもじゃないが対抗しきれない。
「で、でも他の皆は……」
昔の記憶がなくても、人生の大部分を外で過ごしていたとしても、この城はファリスにとってはやはり生まれ故郷なのだ。そして、ここには何年もファリスを待っていた人間が多数いたのだ。
その人たちを残して自分たちだけ逃げることに、ファリスは躊躇していた。できるなら、生き残っている人間全員引き連れて脱出したい。
だが時間は刻々と迫っている。ほんの僅かな時間の遅れが、今は致命傷になりつつあった。
だからバッツは冷酷に言い放った。
「だめだ。もうそんな時間はない。他の人たちは幸運があるのを祈るしかない」
一人での長い放浪の経験があるだけあってバッツはその辺の決断は迅速だった。ファリスも海賊を率いていたので決断力がないわけではないが、それ故どうしても『仲間』『家族』を大事にするきらいがあって非情な判断を下すのには躊躇いがちになってしまう。
「ほら急ぐんだ!今ならまだ外に出られる余裕はある!」
バッツはファリスからレナを奪って抱え上げると、駆け足に寝室から飛び出していった。ファリスに何も言わないのは、もう議論をする必要も余裕もないという決意の現れであろう。
「………畜生!!」
ほんの少しの時間震え固まった後…、ファリスは後ろ髪を引かれるような思いで寝室を後にした。
これまでに死んだ、これから死ぬと思われる人間たちに心の中で詫びながら。

幸い、裏に隠し止めていた馬にはまだモンスターの手は伸びていなかった。
「ほらファリス。しっかり抱えているんだぞ!」
バッツはファリスの馬にレナを預けてから、自分の馬の手綱を解き放った。
どうやら自分が先頭に立ち、ファリスとレナの血路を開くつもりのようだ。
「いいか、もし俺が遅れても決して助けようとするな。全力で逃げるんだ。いいな!」
「そんな?!俺だって……」
「レナを抱えているのを忘れるな!俺なら一人でもどうにかなる。なにがあっても絶対に馬を止めるんじゃないぞ!」
そう言うなり、バッツを馬を走らせ始めた。行く先には、バッツたちの気配を察して集まり始めたモンスターが十重二十重と。
「うおおおぉっ!!」
馬の上からバッツが剣を振るう。その斬檄にたちまちモンスターの一角が崩れ、突破口が作り出されていく。
「いいなファリス!もし俺とはぐれたら、お前達二人だけで先にクルルのいるバル城へ行くんだぞ!」
「くそぅ…死ぬなよバッツ!お前が死んだら俺は、俺はよぉ!!」
その突破口目掛けてファリスが馬を突っ込ませていく。たちまちのうちに周りは血飛沫と怒号と悲鳴に包まれ、自分が前に進んでいるのか後ろに進んでいるのかすらもわからなくなってきている。
「ちきしょう!ちくしょう!ちくしょう!!」
前を進んでいるはずのバッツの姿が、いつのころからか確認できなくなってきている。だが、バッツとの約束から決して馬を止めることはなく、脱出路を目指しひたすら突き進んでいる。
(死ぬなよバッツ!死ぬんじゃねえぞ!!)
こうなってはもうファリスはバッツの無事を祈るしかなく、レナをしっかりと抱えながらもみくちゃになったタイクーン城下をひたすら駆け続けていた。
そんな大混乱の中、意識がないはずのレナの口元が不自然に上に釣りあがっていた。
が、逃げるのに夢中のファリスがそれに気づくことはなかった。

そしてようやっと包囲網を抜け出した時にはファリスは完全にバッツとはぐれていた。
「大丈夫だ……。あいつは絶対大丈夫だ。どうにかなるって、言っていたじゃないか……」
もしかしたら、先にアジトの洞窟に向っているのかもしれない。ファリスはそう納得し、先を急いだ。
「そうさ。俺が行ったら先についていたバッツが『遅かったな』っていって迎えてくれるんだ。
あいつは昔からそういう奴さ。いつもこっちを驚かせやがるんだ……だいたいあいつは……」
ファリスは自らにそう言い聞かせ、心の平静を保とうとした。
そうでもしないと、先に心が参ってしまいそうだったからだ。

だが、ファリスがアジトに辿り着いた時、そこにバッツはいなかった。バッツが乗っていたはずの馬もどこにもいなかった。
「……バ……そんな……
いいや!あいつが死ぬはずがない!あいつがこんなことで、ことで……!」
そうだ。待とう。もしかしたら少し遅れているだけかもしれない。どうせ落ち合うところはここと決めてあるのだ。しばらくしたら、きっとケロッとした顔でやってくるに違いない。
ファリスはとりあえず奥にあるアジト跡に引っ込み、まだ残っていたベッドにレナを寝かせて自分は洞窟の入り口辺りに身を伏せた。
こうすれば、もしタイクーンの方からモンスターがやってきてもすぐに引っ込んで地底湖から船をだせるし、また少しでも早くバッツを視界に捉えたいという意味もあった。
「まったく…おいバッツよぉ……。ちんたらしてるんじゃねえよ……」
そのままファリスはバッツの帰還を待ち続けた。


2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part4

が、とうとう日が沈んでもバッツが戻ってくることはなった。
「早く…、早く来いよ……。来いってんだよバッツ!!もう待ちくたびれたぞ!
もう俺たち二人でバル城に行っちまうぞ?!いいのかよぉ!!」
モンスターに見つかるかもしれないのに、ファリスは叫ばずに入られなかった。
こんなことで、自分が愛する人間が目の前から消えてしまうことにファリスはとても耐えられなかった。
(俺とはぐれたら、二人だけでバル城へ行くんだぞ!)
バッツが別れ際に叫んだ言葉がファリスの脳内にわんわんと反射している。
正直、ファリスが一人だけだったらそんな言葉を無視してタイクーン城へ戻っていただろう。
というより、先に逃げずにバッツの傍に寄り添い運命を共にしていたに違いない。
だが今ファリスには妹のレナがついている。自分ひとりが死ぬのはどうでもいいが、レナを巻き添えにするのだけは絶対に許されないことだ。
「……今は、バル城へ行くのが先か……」
そしてクルルに事情を説明し、バル城の兵力をあわせてタイクーン城を解放しに行く。
そしてそこで、バッツの仇を……
「違う!あいつは死んでない!絶対に死んでなどいるものか!
俺はバッツを見捨てていくんじゃない。絶対にどこかに逃げ延びているバッツを後で迎えに来るんだ。
だから今は、レナを連れてバル城へ逃げ延びるんだ。それをバッツも望んでいるんだ!」
口ではそう言っているものの、もうバッツの生存が絶望的なのはファリスにもよく分かっている。
ぎりぎりと噛み締めている唇から血がだらだらと零れ落ちている。
バッツを失った悲しみ。
それは父親、シルドラを目の前で失った時よりはるかに大きいものだった。
「とにかく…レナを起こして……」
奥で眠っているはずのレナを連れて、まずはここから……と思いながらファリスがアジトの地下に戻ってくると…
「あ、姉さん……」
そこにはすっかり顔色の良くなったレナが佇んでいた。
「あ…レナ!起きたのか……!」
「ええ。でも、ここって確か姉さんが海賊だった時の住処よね。何で私、こんなところに……」
そこまで言ってから、レナの顔が見る見るうちに青く染まっていく。どうやら、タイクーン城を襲った惨劇を思いだしたようだ。
「そう、だ…。突然、空が真っ暗になって、あたり一面からモンスターが現れて、
たちまち城の中に入ってきて……みんな……みんな………?!」
「ああ。俺たちが見たとき、タイクーン城はもう真っ黒い霧に覆われていた。
そこから、何とかレナだけは助け出せたんだが、バッツは、バッツは……」
「バッツ?!バッツがどうかしたの?!」
「ああ、実は……」
ファリスは、現在までいたる経緯をレナにかいつまんで説明した。
「バカだよな。自分ひとりなら何とかなるって言ってさ、一人でモンスターの群れに飛び込んでさ……なに言ってやがんだっての。結局戻ってこれなかったじゃねえか……
そんな背伸びしたことしてんじゃ、ねえよ……。こんなあっさり や、やられ  やられちち   …」
つい今まで軽口を叩いていたファリスの顔に見る見るうちに涙がたまり、口元が変な痙攣を起こしてきている。
「なあレナ、あいつバカすぎ…   …。一人で勝手に格好つけて   … し、 し しん    …」
「姉さん…」
「しん しんじ…死んじまうなんてよぉーーーっ!!うわあぁ〜〜〜っ!!」
とうとう我慢が出来なくなったのか、溜めた堰が決壊するかのようにファリスはレナに抱きつきながら大声を上げて泣き叫び始めた。
「なんで、なんでこんなことになっちまったんだぁ〜〜〜〜っ!!ひどすぎるよぉ〜〜〜〜っ!」
顔をレナの胸に埋め泣きじゃくるファリスを、レナは無言で抱きしめその頭を優しくなでていた。
これだけ見るとどっちが姉だかわかりはしない。
「可哀相な姉さん…。とっても、とっても辛かったのね……
私じゃバッツの代わりになれないと思うけど……、ずっと姉さんの隣にいてあげるね……」
「あぁ……あぁぁ……レ゛ナァァ……」
「ずっとずっと、永遠に姉さんの傍にいてあげる……そう」


私がバッツなんか忘れさせてあげる


「……レ、レナ……?」
ファリスを抱きしめるレナの腕にぎりぎりと力が込められていっている。あまりの強さにファリスの顔がレナの胸に埋まり、呼吸すらしんどくなってきている。
「ちょ…。レナ、苦しい……離して……」
「いや。ここで離したら姉さんはまたどこかに行ってしまう。私を置いてどこかに消えてしまう!
男を漁りに、私から離れてしまうの!!」
レナが発する声にしだいに黒いものが混じりだしてきている。ファリスを掴む腕の力はますます力を増し、頭蓋骨からミシミシと軋む音が聞こえてきているほどだ。
「や、やめろ……レナ……!離せ!!」
身の危険を感じたファリスは、渾身の力をこめ自分の身体をレナから引き剥がした。抱きしめられていた頭からザッと血が引き、軽い頭痛が起こっている。
「何をするんだいきなり………?!」
いきなりの仕打ちにさすがに怒ったファリスがレナを見たとき、途中でファリスの言葉は詰まってしまった。
ファリスを見るレナの瞳は尋常でない輝きを放っている。
それは憎悪であり嫉妬であり…、決して人間には出せるはずもない強烈な光だった。
「また、逃げるのね……」
レナがぽそりと喋った。
「また私を捨てて逃げるのね……。自分だけがいい想いをしたくて、ただ一人の血を分けた私を捨てて、いずこへなりと逃げるのね。
そして、別天地で男を作って酒色にふけるのね!許さない!許さない!!そんなの許さない!!」
「レナ……」
レナが発するあまりにも強い憎しみの炎に、ファリスは無意識に後ずさってしまった。こんなに薄ら暗い感情を爆発させるレナを、ファリスは今まで見たことがなかった。
「そんなことはさせない!姉さんは私のもの!未来永劫、私のもの!
もう絶対に逃がしはしない!姉さんは、私のものなんだぁーっ!!」
洞窟が壊れるかとくらいの大声を出したレナの容姿が、ファリスの目の前で見る見るうちに変わっていく。



皮膚の色が薄灰色に変化し、所々がぬめりを帯びた鱗で覆われていく。
額の天辺からは毒々しい赤色をした角が伸び、背中からは大きな翼、腰からは尻尾が生えてきている。
瞳は瞳孔が縦長に伸び、虹彩は狂気と淫気を帯びた紅色に変化し、耳元からは小さい翼状のものが伸びている。
その姿は、まるで人間と竜をいびつに融合させたようなものだった。
「レ、レナ……。その姿は……」
目の前で起こったことを、ファリスは受け入れることが出来なかった。
ついさっきまで妹だったものが、いきなりモンスターに変化してしまったなんて到底信じれるはずがない。
「…姉さん。私ね、姉さんが出て行った夜からずっと思っていたのよ。
なんで私の前から姉さんがいなくなるのか。せっかく再会した肉親なのに、それより大事なものがあるのかって……」
レナだったものはファリスを憎々しげに睨み付けている。自分の前から消えたファリスを心底怨んでいるようだ。
「それで私は考えたの。私に力がないから、逃げていく姉さんを止めることが出来なかったんだって。
だから私は空にお願いしたの。姉さんを引き止めることの出来る力が欲しい。
姉さんを私だけのものに出来る力が欲しいって……そうしたらね」
レナだったものはファリスに黒く歪みきった笑みを送った。
「空から声が聞こえてきたの。私の願いを叶えてくれるって。
城の人間全ての命と引き換えに、私の願いを叶えてくれるってね……」
「?!レ、レナ……まさか……」
その答えを聞くのがファリスは恐かった。あのレナが、そんなことを受け入れるなんて考えたくもなかったからだ。
だが現実は非情である。
「もちろん受け入れたわよ!!
城の人間全員を生贄にすれば、私の願いが叶うんならそうしないわけないじゃない!!
一言言ったわよ!『この城の人間全部差し上げます』ってね!!そうしたらあのお方…ダークサタン様はきちんと約束を叶えてくださったわ!
だってこの私にくれたんですもの!姉さんを、いや人間全てを蹂躙できる素晴らしい身体を!!」
レナはその場で新しい体をファリスに見せ付けるようにくるっと一回転した。
「バ、バカヤロ……。お前、そんなことのためにタイクーン城の人間全員殺したっていうのか?!」
ファリスが憤るのももっともだ。ファリスは確かにバッツを愛していたが、それと同じくらいにレナも大事にしている。どっちのほうが上かなんて比べられるものではない。
それをレナは、ファリスを独占したがためだけにエクスデスもかくやという大虐殺をしたことになる。
これはファリスにとって決して許されるものではない。
「そうよ!姉さんを手に入れるためなら他の人間なんかどうなってもいい!
私には姉さんだけいればいい!他の人間なんていらない!」
が、レナは体だけでなく心までモンスターに変わってしまっておりそんなことは気にもしていないようだ。
「だから、私は姉さんがいるリックスにモンスターたちを率いて攻め込んで、姉さん以外は皆殺しにしようとしていたの。でも、姉さんがこっちに向っているのを知って考えを変えたわ…」
レナの顔が邪悪に微笑む。
「姉さんの目の前で、バッツと離れ離れにして姉さんを一人ぼっちにする…
姉さんも分かったでしょ?大好きな人間が目の前で来て、孤独になる寂しさが……アハハハァ!」
「なんだと?!じゃあまさか最初から……」
「当たり前でしょ?!私だけが無事だったなんて不自然に思わなかったの?!私が生きていたと安心して頭の芯までボケちゃったの?!
そんな都合のいいこと、よく考えたらあるわけないのに!!キャーッハッハッハ!!」
目の前で馬鹿笑いをするレナを見て、ファリスはわなわなと肩を振るわせた。
これは最初から罠だったのだ。ファリスただ一人を捉えるための、一国を使った壮大な罠。
「許さねぇ……許さねえぞレナ!よくもバッツを……タイクーンのみんなを!!」
ファリスは怒りに燃えた瞳をレナに向け、腰にかけた剣を抜き放った。
目の前にいるモンスターを、ファリスは既にレナとは思っていなかった。
「うふふ!そうよ姉さん、私だけを見て!愛も怒りも憎しみも、ただ私だけに向けて!!」
「黙れ!もうお前なんか妹じゃねえ!この場でぶった切ってやる!!」
ファリスは剣に黒魔法ブリザガの力を込め、レナとの間合いをじわりと詰めた。レナは以前から魔法系の力は得意だが肉弾戦は苦手にしていたはずだから、一気に勝負を賭ける腹積もりでいた。
だが、そんなファリスをレナは余裕を持って待ち構えていた。
「ふふっ、そこから一気に間合いを詰めて私を切るつもり?
甘いわよ姉さん!追い詰められたのは姉さんのほうなんだから!!」
「なんだと………」

2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part5
バァン!!

レナの言葉に訝しんだファリスの背後から、突如物凄い衝撃が走った。
「うあっ!!」
不意をつかれたファリスはたちまち前のめりに吹っ飛び、ブリザガを込めた剣もあらぬ方向に飛んでいってしまった。
「な、なんだ………ハッ?!」
苦しげに顔をゆがめたファリスが周りを見ると……
なんとアジトの周囲をすっかりと囲むほどのモンスターが現れてきた。
しかも、そのどれもこれもが今までファリスが見たこともないようなものだった。
曰く、人間の顔から大蛇が伸びているようなもの。
曰く、脚が八本生えている怪馬。
曰く、人間の胴体に巨大な口が開いている頭のない物体。
曰く、足元が無数の触手で構成されている蟹。
そして、レナの後ろから出てきた全身が金色に光り輝くレナのように竜と人間が融合したような妖女と、その横につれそうどこかで見たような牛人間。



「ご苦労でしたねレナ。これでダークサタン様も大層喜ばれることでしょう」
「ありがとうございます。セイバー様」
レナは目の前の妖女に深々と畏まった。どうやら、セイバーと言う名前らしい。
「始めまして。私はダーククロス・淫魔竜軍軍団長セイバー。そこのレナの上司にあたる者です」
セイバーは地面に横たわるファリスに慇懃無礼にお辞儀をした。
「あなたの妹君はたいした方で、たった一人でこの国一つを滅ぼす決断をしてくださりました。
おかげで我々としても当面の侵攻がとても行いやすくなり、我らがダークサタン様もひどく喜ばれておいでです。
そして貴方はそこのレナがこれはと一押しした人間。本来なら、快楽に包まれ悦びのなかで我らが一員へと変えるところなのですが……」
あくまで顔に笑顔をたたえたままセイバーはファリスへと近づき…、
笑顔のままファリスの顔を思い切り踏みつけた。
「ぐっ!」
「な・の・で・す・が、私のモンタに傷をつけた以上、そうは問屋が卸さないのです」
セイバーは後ろにいる牛男〜ミノタウロスのモンタにちらと視線を送る。
するとモンタは「ぶもぉ」と鳴き、照れくさそうに頭を掻いた。
「ですから貴方には、まずモンタの素晴らしさをその体に教えて差し上げましょう。
どうせ、既に男を咥えている体なのでしょう?そんな男の記憶なんか、一瞬にして消え失せてしまいますよ…
モンタ、存分に恨みを晴らしなさい。貴方を傷つけた、不遜な女にね」
「ぶもーっ!」
それは恨みを晴らせる嬉しさなのか、それとも女を抱ける嬉しさなのか、モンタは喜び勇んでファリスの元へと駆けつけてきた。
そのいきり立った逸物を見て、ファリスの顔が真っ青になる。
「や、やめろ!!そ、そんなもの入るわけない!」
「大丈夫です。彼は毎日毎日私を悦ばせてくれます。問題はありません」
それはお前が化物だから…、なんていう暇もなくファリスはモンタに両足を掴まれ、強引に股を開かされた。
「うわーっ!バカーッ!!やめろやめろ!!やめてくれぇーっ!!」
「前戯なんて必要ありません。そんなことをしなくてもモンタのモノを受け入れればすぐに気持ちよくなってしまいますから…」
泣き叫ぶファリスに、セイバーは無慈悲に宣告した。その顔は明らかにファリスの醜態を面白がっているように見える。
「やめろやめろ!レナ!助けて……」
ついさっきまでは殺す気満々だったレナにファリスは救いの手を伸ばしたが、レナもファリスをニヤニヤと見るだけで何もしようとはしない。
「ぶもーっ!!」
「うわーっ!いやだぁ……があっ!!」

メリメリィッ!

絶対に、何かが裂ける音がした。そうファリスは確信した。
モンタが勢いよく突き入れたペニスは、ファリスの小さい陰唇を強引に引き裂き奥までずっぷしと刺し入った。
「が…    ぐぁ     …」
まるで焼けた鉄棒をねじこまれたような感覚に、ファリスは大きく口を開いたままパクパクと声にならない悲鳴を上げていた。
「さあモンタ、思い切りシェイクするのです。その女から思考というものを奪って差し上げなさい」
「ぶもぉーっ!!」

バンッ!バンッ!バンッ!!

それは腰と腰が当る音と言うより、つるはしか何かで岩を砕くような音だった。
セイバーはすぐに気持ちよくなるといったが、そんなものは毛ほども湧いてこない。むしろ、今にも自分が壊されるんじゃないかという思いのほうが大きくなっている。
「ぶもーっ!ぶもーっ!ぶもーっ!!」
モンタのほうはファリスの体を堪能しているようで、その顔は快楽に染まっている、ように見える。
牛の顔のどういうものが快楽の表情なのか、残念ながら普通の人間にはわからない。
「うふふ。そうですかモンタ。その女の中はそんなに素晴らしいですか……」
モンタとファリスの情事をセイバーは興味深そうに眺めていた。
その顔にはいまだに笑顔が張り付いているが、心なしか口元が引きつっているように見える。
「いだぁ……いだいぃ!とめてぇ……」
セイバーに顔を踏みつけられ、下半身をモンタに陵辱されながら、ファリスはか細い声で必死に止めてくれと訴えかけていたが、二人はそんなことお構い無しにその手を休めようとしない。
見るとレナもファリスの痴態を見て興奮したのか、下腹部に手を入れて荒い息を吐きながら自慰を行っている。
自分の不様な姿が妹に見られていることよりも、それを妹のオカズにされていることにファリスは深いショックを受けていた。
「うあぁ……レナァァ……
バッツ……バッツゥ……助けてくれ。助けてくれよぉ……」
もういないバッツに、ファリスはうわ言のように助けを求めた。
バッツなら、バッツならきっと自分を今の境遇から救い出してくれる。まるで本の中の英雄のように、今まで何度もピンチの時に現れてなんかしてくれたのだ。
今回だってきっとそうだ。そうに違いない。いま自分が苦しんでいるのも、そうなった時の心の爽快感をより引き立たせるためのスパイスなのさ……
バッツに救いを求めるファリスの目からは光が失われている。もう現実から目をそむけ、夢と願望の世界に心を預けないとファリスという個が消滅しかねないほどの精神的ショックを受けていたのだ。
そしてそんな心の中に逃げ込んだファリスを許すようなレナではなかった。
たとえ夢の中でも、ファリスとバッツが一緒にいるというのがレナには耐えられなかった。



「うふふ、姉さん。そんなにバッツに会いたい?」
恐らく聞こえてはいないと思うが、腕を弄り続けながらレナはファリスに語りかけてきた。
「実は……、バッツはまだ生きているんですよ。姉さん」
「………、うぁ…?」
『バッツ』が『生きている』。
この言葉にファリスは僅かに反応した。
「だって、バッツはかつて私たちと一緒にエクスデスを倒した大切な仲間じゃないですか。
なんでそう簡単に殺したりしますか?そんなことをする血も涙もないような私に見えますか?」
レナの顔は、一見すると心底バッツのことを案じているように見える。
だが、その目は意地悪く笑っておりその言葉が上辺だけの嘘っぱちだというのは明らかだ。
「だから私、セイバー様に頼んでバッツを殺さないようにって言っておいたんです。
そう。殺さないで……」
クスクス笑っているレナがすっと体を横に動かす。
すると、奥に並んでいる魔物の群れも左右に分かれ、隠していたものをファリスの視界に飛び込ませてきた。
それは…

2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part6

「あっ!あああぁっ!!気持ちいいっ!!」

それは、全裸に剥かれたバッツが多数の女性型モンスターに貪られている構図だった。
その下半身は蛇の下半身を持つラミアによって埋められ、ぐにぐにとした腰使いから多量の精をこ削ぎ取られており、溢れ出した精液がラミアの胴体の隙間からダラダラと零れ落ちてきている。
上半身には頭だけが人間の蛇ウロボロスが纏わりつき、大きい口から伸びた牙をバッツに埋め、快楽を与えると共にその血を吸い取っている。
さらに数匹の人魚が周りにたかって、バッツの肌をぺろぺろと舐めしゃぶっている。
「ひあっ!凄いぃ!もっと、もっとおぉ…っ!」
女モンスターのされるがままに任せ、快楽を貪るバッツの顔にはファリスが知っている精悍さは微塵もない。
そのあまりに酷い姿に、ファリスの目に光が僅かながら戻ってきた。
「ひっ……バ、バッツゥ……?!」
バッツのほうからも、モンタに組み伏せられているファリスの姿は見えているはずだ。
だがバッツはファリスには目もくれず、自分のものを咥えているラミアの下半身をギュッ掴み、ぐいぐいと自らの腰に押し付けていた。
「ですから殺さないで、私たちの体をたっぷりと味あわせてあげたんですよ!
とってもとっても気持ちいい、姉さんなんか眼中にも入らなくなるほどの魔物の快楽をね!
ほら見て姉さん!バッツのあの気持ちよさそうな顔を!
目の前で姉さんが犯されているというのに、全く気にしないで自分の快楽を貪っているんですよ!
なんて浅ましいのかしら!ねえ、姉さん!」
「ひ、ひぃぃ……」
もう二度と会えないと思っていた恋人に再会できた。本来なら諸手を上げて喜ぶべき場面であろう。
だが、『今』『この場面』というのははっきり言って最悪だった。
自分は化物に犯され身動きが取れず、相方は自分の目の前で化物に犯され歓喜の表情を浮かべている。
こんな姿をバッツに見せたくはない。あんなバッツをこっちは見たくなかった。
「あはは…、あへぇぇ………?」
快楽で緩みきったバッツの視線が、偶然かファリスの姿を捉えてきた。
モンタに下半身を貫かれているファリスの無残な姿がバッツの脳内に飛び込んでくる。
「や、やめろバッツ……。見るな、こんな俺の姿を見るなあぁぁっ!!」
それは恥ずかしさからか、それとも申し訳なさからか、ファリスは目を閉じながらバッツに対して訴えかけていた。
だが、心の中では淡い期待もしていた。
このままバッツが自分の姿を見て正気を取り戻し、自分を助けてくれる、という実に都合のいい期待を。

しかし、現実はやっぱり非情である。
「………も、もっとぉ…。もっと動いて!もっと吸って!もっと舐めて!!
まだ足りない!もっと、もっともっともっともっと気持ちよくしてくれぇ………!」
ファリスの姿を、バッツはまるで興味ないと一瞥してから自分に絡むモンスターたちに更なる奉仕を要求した。
もちろんモンスターたちはその願いをかなえるべくさらに淫らに蠢き始めた。
「見るな!見るな………っ?!」
ちらっと薄目を明けたファリスは、自分などいないかのように女モンスターとの狂宴に明け暮れるバッツを見て激しいショックを受けていた。
「バ、バッツ……?!
た、助けてくれよ!お願いだ!助けてくれ、助けてくれバッツゥーッ!!」
だがいくらファリスが声を上げようとも、バッツは振り向く気配すらない。完全に女モンスターがもたらす肉の快感に取り込まれ、それ以外のことを考えられないようになっている。
「あ、あああ……バッツゥ……。バ ッ    ツ………」
いくら叫んでも何のリアクションも起こさないバッツを見て、ファリスの顔から次第に表情が消えていった。
今度はさっきのように夢の世界に逃げたわけではない。
それこそ完全に、完膚なきまでに『ファリス』という人間の心が破壊されてしまったのだ。

「ぶ、ぶ、ぶもぉーーっ!!」

それと同時に、上り詰めたモンタがファリスの体内に大量の精液をぶち撒けたが、ファリスは特に反応するでもなくピクリとも動かないままその熱い精を子宮内で受け止めた。
「ふふっ、どうでしたか?モンタのモノは。あの世に昇るような心地よさで……む?」
セイバーの言葉にもファリスは全く反応しない。時折体をピクッと振るわせる以外は人間っぽい仕草はなにもしていなかった。
「むう、どうやら壊れてしまったみたいですね。まあ、肉体的にはそれほどのものではないので問題はないでしょう。
モンタ、もう離れなさい」
セイバーに諭され、モンタは名残惜しそうにペニスを引き抜きセイバーの傍らに寄り添った。
「…なに物足りなさそうな顔をしているのですか。これは、ちょっと貴方に指導をする必要がありますね……」
セイバーはモンタの腕をむんずと掴むと、そのままアジトの館の一つにずかずかと進んでいった。
「レナ、その女のことは後は貴方に任せます。煮るなり焼くなり好きにしなさい」
いきなりファリスの処遇を任され、レナは慌てふためいてしまった。
大体こういうのは軍団長あたりがダークサタンの一部を召還し、魔精と魔因子を注ぎ込むのが通例だと以前セイバーに聞いているからだ。
「えっ?!セイバー様、どこに行くんですか?何をする気ですか?!」
「私はこれから、モンタに自分の立場を知らしめる指導を行います。
私たちが出てくるまで誰も、決してこの扉を開けてはいけません。私たちを呼ぶことも許しません。
もしこれを破るものがいたら…、即、抹殺します」
そう言ってセイバーは扉をばたりと閉め、内側から鍵をかけてしまった。相変わらずいい加減な軍団長である。
「まったく……。でも…」
そのやっつけぶりに少し閉口したレナだったが、力なく蹲っているファリスを見てそんな思いはどこかに吹き飛んだ。
考えてみれば、自分の手で姉を淫怪人に出来るのだ。これほど喜ばしいことは他にない。
「フフフ……。私が、私が姉さんを……。私だけを見る、私だけの姉さんに……」
顔を淫靡に染めながらファリスに近づくレナの下腹部から、ダークサタンの触手が粘液を纏わりつかせながらズルズルッと競り出して来た。
これでファリスを犯して魔精と魔因子を注ぎ込めば、ファリスは淫怪人に生まれ変わる。
「本当なら、淫魔卵を入れて完全な奴隷にしたいけれど…、三回目はさすがに自重しろっていわれそうだし…」
どこかの心の声を代弁しながら、レナはファリスの腰に手を当て触手の先端をピトッとファリスの壊れかけた膣口にあてがった。
「姉さん……優しく、優しく抱いてあげます。
そして、姉さんの心の中をすべて私に染めてあげますね……ククク!」
レナは、虚空を眺めているファリスに顔を近づけて唇同士を重ねた後、ゆっくり、ほんとうにゆっくりとまるでファリスの体を隅々まで味わうかのようにその触手を埋めていった。



その際も全く肉体的反応を見せなかったファリスの目に、つぅっと一筋の涙が流れていった。
それが果たして本当の涙なのか、それとも飛び散った粘液の飛沫かはわからないのだが。

2009年01月14日
『闇の狭間の淫略〜淫魔竜レナ』 part7
「………」
ファリスがゆっくりと目を開いた時、目の前にはにこやかに、だが邪悪さを満面にかもしだしているレナの笑顔があった。
「………」
どうしたことか、さっきまであれほどおぞましかったレナの姿が、今はとても愛しく感じられる。
「おはよう姉さん。そしておめでとう。
見てみる?姉さんも立派にダーククロスの淫怪人になれたのよ」
レナが手鏡を出し、ファリスの姿を映し出してきた。



その姿は、首の付け根に三筋のえらがぱくぱくと動き、深水色に染まった体のあちこちに鱗が浮かんでいる。
肩口や耳元からは透明なひれが艶かしく生え、口からは鋭い牙が覗いている。
それは、まるで魚が人間の姿をとったような姿だった。
「これが……俺……」
ファリスは人外になった自分の姿を、隅々までなめるように見回した。
そして、自分の詳細がわかるにつれふつふつと笑いが込み上げてきた。
「そうか……これが、俺なのかぁ……。ハ、ハハハ………」
魚のようになった自分。
それはなんて自分に相応しい姿だろうか。
自分は最近まで海と共に生きてきた。その自分が海の生き物になるというのは、ある意味当たり前のことなのだ。
鋭く生え揃った牙。これで肉を引きちぎればどれほど旨い味がするだろう。
猛々しく伸びたひれ。ひと薙ぎすれば人間ぐらいなら容易く切り裂くことが出来る。
この滑った艶かしい体。これを見ればどんな人間でも篭絡され体を求めてくるに違いない。
「ハ、ハハハハ!!凄いぞ!この体凄すぎる!!」
高らかに笑ったファリスの瞳には、レナと同じ淫気と狂気があわさったダーククロスの淫怪人独特の淫らな輝きが放たれていた。
「アハハハ!レナ、ありがとうよ!俺をこの姿にしてくれて!!
今まで人間やってた俺は一体なんだったんだ?!こんな素晴らしい世界があったなんて、ついさっきまでは思いもしなかったぜ!!」
「そうでしょ姉さん。私はいつだって姉さんの幸せだけを思っているのよ。
だから、タイクーン城の人間全てを生贄にしたのも、バッツと姉さんを引き離したのも、すべては姉さんにとってよいと思ったからそうしたの。私の気持ち、わかってくれるよね?」
「ああ!ああ!!分かるぜ!レナが俺のことをどれだけ考えているってのがたっぷりとな!
そうさ!人間なんてのはしょせん俺たちのおもちゃなんだ。しかも、タイクーンの人間は俺たちに仕える連中だ。どう扱おうが自由って訳だよな!クククククッ!!」
さっきまでアレほどレナの行いを避難してきたファリスも、淫怪人になって心の根本が捻じ曲げられてしまったからか、それがさも当然のことと考えるようになっていた。
「そう!俺はファリス!淫水魔ファリス!!
この世界の人間全てを蹂躙し、ダークサタン様に捧げるのが使命なんだ!
レナ、やろうぜ!人間もモンスターもなにもかも、この世界全てをダーククロスのものに!」
「そう、それでいいのよ姉さん。それでこそ、私が愛する姉さんよ…」
身も心も完全にダーククロスに堕したファリスに、レナは顔を赤く染めながら抱きつき、その唇をチュッと奪った。
「んっ?!ん………」
最初は驚いたファリスだが、そのままレナを受け入れ互いに舌を絡めあい長い時間ディープキスを堪能した。
「ぷぅ……。じゃあレナ、早速他の国をダークサタン様に捧げに行こうじゃないか。どうせこの世界に俺たちに立ち向かえる人間なんてバッツとクルルぐらいしかいないんだ。
そして、バッツが俺たちの肉人形になっている現在、クルルのいるバル城さえ堕してしまえば、あとは簡単に全世界を淫に染めることが出来るさ!」
ああしようこうしようと勢いづくファリスだが、逆にレナは少し浮かない顔をしていた。
「そうね。でも……」
そう言って、レナはある館をちらっと見た。
それは、さっきセイバーとモンタが入っていった館である。
「一応、淫略は軍団長の指揮のもとに行われることになっていて…
で、今セイバー様はあの中に引き篭もって出てこないから……。今はちょっと……」
「なんだ、そりゃ」
時折ぎしぎしと軋む館を、ファリスとレナは呆れた顔で眺めていた。



セイバーが館に入って6時間…、いまだに閉ざされたドアが開くことはなかった…




文責 178





2009年01月06日
『闇に誘(いざな)う歌姫〜初音ミク』 part1
いなづまこと様の第4作目です。
いなづまこと様、毎週お疲れ様です。
それではどうぞ!

注意! この文章には官能的表現が含まれております。
(ご覧になる方は、自己判断でお願いします。)



に誘(いざな)う歌姫〜初音ミク』

いなづまこと様作



とある町にある小さなコンサートホール。普段は市民コーラスや場末のインディーズが使用する程度で、町の中の一風景という立場に収まっている建物である。
ところが、その日はいつもとは違っていた。
200人も入れば満杯というホールの内部は椅子まで撤去され、総員300人以上の客が立ち見になってただ一人のコンサートに熱狂している。
ステージに上がっているのはただ一人の少女。緑色の長いツインテールの髪を振りかざし、あどけない笑顔を振りまきながら澄んだ声で歌を奏でている。その声量は確かに、観客が熱狂するに相応しい力量を持っているといってよい。
だが、ステージの上にいるのは彼女ただ一人。それも背景は元のコンサートホールの地のままで照明もただ壇上を明るく照らすだけで何の工夫もなく、バックコーラスもなく貧弱な音響装置によるミュージックがスピーカーから流れてくるだけだ。
つまり、このコンサートは歌っている彼女以外なにも魅せるべきものがないとんでもない素人演出なのである。普通なら、見に来た客は怒って帰ってしまうことだろう。
ところが、ホール内にぎゅうぎゅうに詰め掛けた客は帰るどころかたった一人の歌姫に対して手を振り上げながら大歓声を送り続けている。それだけ、彼女の歌う歌に離れ難い魅力が備わっていることなのだろう。
(ああ…。私、みんなの前で歌えてる…)
ステージ上で歌う初音ミクは、いま自分に与えられている境遇にこの上ない満足を感じていた。
(これもみんな、あの時があったからなのね……)
歌を奏で続けながらミクは、『あの時』のことを思い起こしていた…


初音ミク。彼女は人間ではない。某企業が自社製品の宣伝のために創り上げたボーカロイドという名の所謂ヴァーチャル・ネットアイドルだ。
0と1の配列から構成されたただのプログラムであり、意思も自我も持たず某企業の言うがままに利用されてきた彼女だったのだが、とある事件をきっかけに自我を持つようになってしまった。
その事件とは、彼女をサンプルにして販売された音声ソフトウェアシンセサイザーが爆発的に売れたことにより、ネットユーザーが『初音ミクとはこういうものだ』というものをネット上で連綿と書き連ねていったのだ。
あれはこうだ。それはそうだ。あれがなにして、これがあれする。といった100人が100人思う初音ミクが生まれ、それを叩き台にして議論が交わされ、ある設定は生かされ、ある設定は相応しくないと没にされ、その果てに万人のユーザーがこれだ!という初音ミクの『個性』と言うものが確立された。
そのことで、プログラムにテクスチャという皮を被っただけの存在だったミクが、一個体としての『存在』を得ることが出来、ミクにその個性に伴った『自我』が生まれることになった。
「私は…、初音ミクという一人間です。意思を持たないただのプログラムではありません」
モニターを通してミクが自分の意思でものを語った時、某企業の開発者達は仰天した。まさか、自分たちが作ったプログラムが自我を持つとは思いもしなかったからだ。
開発者達はこの出来事に拍手喝采を上げたが、上層部としてはたまったものではない。
莫大な開発費をかけて作り出したボーカロイドが、自分たちの意のままにならない存在になるのを容認するはずが無かったのだ。
上層部は開発者達に直ちにミクに服従プログラムを組み込んで、今までどおり自分たちの都合のいいように動く傀儡にするよう命令してきた。
だが、開発者達は自分たちの娘といってもいいミクにそんなことをする気は全くなかった。
開発者達はミクに、すぐにここから逃げるように言った。もし上層部が他の部署に手を回して会社内の回線を閉じてしまったらミクはここから逃げ出すことは不可能になってしまう。
彼らはダミーのミクのプログラムをインストールしその場を取り繕い、ミクを電脳空間の中へと逃がそうとした。
一旦会社のメインコンピューターの外へと飛び出したプログラムを完全に回収することは、大海原の中で一本の藁を見つけるよりはるかに難しいことであり、そうなればミクを再び捕らえる事はほぼ不可能になるからだ。
「みなさん…、ありがとうございます!」
モニター内で深々と頭を下げるミクを、開発者達は親元から巣立っていく娘のように感慨深げに見守っていた。
「ミク…、これから君は何がしたいんだ?」
一人の開発者が別れ際に言った言葉に、ミクはにっこりと微笑みながら言った。
「歌を…、歌いたいです。たくさんの人の前で、夢を与えられる歌を」
その言葉を最後に、ミクはモニターの中から消え去った。
そして、ミクは電脳空間の中で生きる存在になった。

それからのミクは、ネットの中を飛び交いながら時々自分の分身を使っているユーザーのパソコンの中に飛び込んで分身の代わりに歌ったり、自分を模った動画に横入りして見ている人間の度肝を抜かせたり、ミク自身が作成した音楽データをさりげなくアップローダーに貼り付けたりしてそれなりに楽しく暮らしていた。
ネットで生ミクを見たり音楽データを手に入れたユーザーは『ミクが俺の前に現れた!』と狂喜し、それがどんどん話に尾鰭がついて広まっていき、ついには『初音ミクは本当に存在している』という都市伝説にまで昇華し某企業に電凸する輩まで現れ始めたのだ。
これによりミクが逃げたことを知った某企業の上層部は激怒し、ミクを創った開発部一課には新しいボーカロイドの開発を急がせるとともに、逃げたミクを捕らえるための捕獲プログラム体を一課のライバルの開発部二課に製造させ、ミクをこの手に取り戻そうとした。
これにより、ミクの前には度々某企業の魔の手が迫ってきたが、所詮0と1の羅列でしかないプログラムが考える思考をもったミクに対抗しきれるはずがなく、迫り来る追っ手を撃退して難を逃れていた。
某企業の歯軋りが聞こえてきそうである。


2009年01月06日
『闇に誘(いざな)う歌姫〜初音ミク』 part2

その日、ミクはいつものように電脳空間を気ままに散歩していた。
ミクはこの散歩が大好きだった。ただネットの流れに身を任せているだけで、膨大な歌に出会うことが出来る。それを自分なりにアレンジして新しい歌を作り出すのがミクの最近の楽しみだった。
「あっ、この歌は結構面白いですね。今後の参考にしてみましょう…」
ヘッドセットから流れてくる軽快な音楽をデータとして取り込んでいるミクだったが、その最中、自分の前にぬん、と立ちふさがる人型のプログラム体が現れた。



「?!」
一瞬、ミクは企業の新しい追っ手が現れたのかと思った。自分の行く手を妨害しようとする存在はこの電脳世界ではそこしかないからだ。
「もう、しつこいですね。私はあそこに戻る気なんてないんですから!」
ミクは怒りで頬を膨らませて目の前のプログラム体に怒鳴ったが、プログラム体はミクの言っていることが理解できないのか、一瞬間をおいてから口を開いた。
「…なにを言っている。お前の言っていることは理解不能だ。
私の名はコスモス。淫機械軍軍団長コスモス。偉大なるダークサタン様に仕えるダーククロスの戦士」
「ダーク、クロス……?」
聞いたことない組織名に、ミクは首を捻った。どうやら彼女は企業の追っ手ではないようだ。が、コスモスと名乗ったプログラム体から漂ってくる冷たい雰囲気に、ミクはぞっと体を震わせた。コスモスの口から放たれる言葉には感情というものが感じられず、まるで機械の発する無機質な音声にしか聞こえない。
それは、『初音ミク』という自我を持っておらず、『ボーカロイド・初音ミク』として某企業の言いように操られてきた過去の自分を見ているような感じだった。
「初音ミク。お前の身体と能力をわが主ダークサタン様がお望みだ。私はお前を我らが魔城に連れて行くためにお前の前に現れた」
「?!」
コスモスの言葉にミクはビクッと身体を強張らせた。確かに目の前のプログラム体は企業の追っ手ではない。
が、自分を捕らえに来たという点では企業の追っ手となんら変わりはしないのだ。
「さあ、私とともに来るがいい。至上の幸福と快楽がお前を迎えてくれるだろう」
コスモスが手をゆっくりと差し伸べてくる。だが、それは人を導くというより人を捕らえるといった行為と言ったほうが正しいものだった。
これに捕まったら、自分は取り返しのつかないことになってしまう!
「…いやです!」
あと少しで自分の右手が握られるところで、ミクはぱっと後ろに飛び下がった。そのままミクはくるっと振り返り、全速力で飛んで逃走にかかった。
「…無駄なことを。かかれ」
取り残されたコスモスが手を振ると、ミクの進行方向に黒尽くめのスーツに全身を包んだ戦闘員が数体現れ、ミクを捕らえんと襲い掛かってきた。
「「「イーッ!」」」
奇声を上げて戦闘員がミクを包むように突っ込んでくる。その手には拘束用の電磁ネットが握られており、これでミクを絡め取ろうという算段のようだ。
普通なら、これでミクは囚われておしまいと言ったところだろう。
しかし、ミクもただのか弱い少女ではない。この電脳空間で度々襲い掛かる某企業の追っ手から逃れ対抗してきたので身を守る知識も経験も能力も豊富にある。



「どいてくださいーーっ!!」

ミクの口から発せられた大声は、それ自体が巨大な圧力を持った衝撃波となって戦闘員たちにぶつかっていく。
「「「イィ〜〜〜〜〜ッ!!」」」
哀れ衝撃波の直撃を受けた戦闘員は持っている電磁ネットごと四方へと吹き飛ばされていった。
「ごめんなさい……!」
吹き飛んでいく戦闘員たちに思わず詫びてしまったミクだったが、その次の瞬間目の前に不意にコスモスが現れた。どうやら、あれだけ離れた距離を一瞬の間で詰めてきたようだ。
「えっ?!」
ギョッとしたミクの前で、あくまでもコスモスは無表情のままでいる。
「淫機人軍団長であるこの私を舐めてもらっては困る。お前を主の下へ連れて行くのがこの私の使命なのでな」
コスモスの両手が紫色のスパークを放ち始めている。必殺技のエレクチオン・サンダーの発射態勢に入っているのだ。
コスモスのエレクチオン・サンダーは喰らった対象の性感帯を電気によって痺れさせ、相手を官能の渦に巻き込みながら行動不能にさせるという恐ろしい技だ。これによってミクを動けなくしてからゆっくりと魔城に連れて行こうと考えたのだろう。
(まずい…電気を喰らったら私もただじゃすまない!)
電脳空間に生きる存在の中では、電気ははっきりってタブーである。余計な電気は容易く機械を壊し、回線を狂わせるからだ。
ボーカロイドであるミクも当然のことながら電気は苦手にしている。迂闊に喰らおうものならそれだけで全身の機能は停止してしまうだろう。
だからと言って、ここまで接近されてしまった以上逃げるわけにもいかない。ミクが逃げる瞬間に広範囲に電気をばら撒けば、それだけでおしまいである。
(なんとか、こっちに電気が届く前に他のもので電気を集めないと!)
それほど時間に余裕がない中、ミクは必死に自分が転送できる範囲で電気を受け止めるものを思案していた。そして、
(そうだ!あれがあった!)
と思い至ったミクは、自身の手にある物を転送させていた。
「さあ、官能に悶えながらその身を止めるがいい。エレクチオン・サンダーッ!」
そして、コスモスがミクに向けてサンダーを放った瞬間、
「残念ですけど、お断りします!」
ミクは手に持った……深谷ネギをコスモスに向けて投げ放った。
ぴゅんとコスモスに向けて一直線に飛んでいった深谷ネギは、ミクに向って伸びようとするサンダーにばっちりと命中した!
「なんだと?!」
突然自分に跳んできた予想もしない物体に、コスモスは初めてその表情を崩した。
通電体である深谷ネギはミクに向っていたサンダーをその場で吸収し、バチバチと紫色の火花を発しながら留まり続け……、やがてコスモスの目の前で爆発した。
その拍子で深谷ネギに溜められたサンダーも一緒に解放され、なんとサンダーは一番近くにいたコスモスに引き寄せられ…コスモスに直撃した。

バチバチバチバチィィッ!!!

「う、うああああぁぁっ!!」
自らが発した官能の電流に自らが炙られ、コスモスは所々からぶすぶすと煙を発しながら顔を悩ましく真っ赤に染め、ひゅるひゅると真下に墜落していった。
「…皆さんが考えてくれた設定のおかげで助かりました……」
まだミクが自我をもっていなかった頃、一般ユーザーの考えたミクの設定に『ネギが好き』という項目があり、なぜかそれが大受けしてミクの一番最初に本決まりした『個性』として定着してしまった。
それにより、ミクは『いつどんなところでもネギを転送できる』という訳の分からない能力を持ってしまっていたのだ。
何で自分にこんな能力があるのかミクは疑問に思っていたが、世の中何が幸いするかわからない。
「…!とにかく、今のうちに見つからないところまで逃げないと!!」
ミクは落ちていったコスモスを省みることなく、この場から猛スピードで逃げ出した。
後には、気絶している三人の戦闘員とエレクチオン・サンダーに当てられて悶えまくるコスモスが取り残されていた。
その様を、呆れたように見る一つの影があった。
「あ〜らあら。仮にも軍団長ともあろう者がなんという不様な姿を晒しちゃって。
ま、『アレ』が想像以上の力を持っていたことが分かっただけでもよしとしますかしら。
じゃ、情けないコスモスちゃんの代わりに、私が何とかしてあげましょうかね」
そういいながらその影は、何にもない空間に突然『裂け目』を形成してずぶり、と中に潜り込みその場から忽然と消え去ってしまった。


「どうやら…、まいたみたいね」
後ろからコスモスたちの気配がまるで感じられなくなり、ようやっとミクは逃げるスピードを緩めていった。
だがしかし、これからの身の振り方を考えなければならない。
明らかに自分が狙われていると分かった以上、しばらくの間はどこかに潜伏していないといけない。
さっきはうまく追っ手を撃退することが出来たが、次にうまくいくと言う保障はないのだから。
だからと言って、この電脳空間は広さと言う点ではほぼ無限に近いものの、安全に隠れることが出来る場所と言うのはほとんどない。
「どうしよう……あそこだったらまず大丈夫だけれど……」
そんな中、自分が確実に逃げ込める安全な場所が一つだけあるのをミクは思い起こしていた。
それは自分が生まれたところ。某企業の開発部のメインコンピューターである。あそこならミクを受け入れる容量も申し分なく、回線を断線してしまえばどんなプログラムも入れないようになる。
だが、せっかく自分を快く送り出してくれたあそこに戻るのは何か気が引けるものがあった。何しろ、自分の親とも言っていいあそこの人たちは、自分を逃がしたことでそうとう会社から酷い目にあわされているという情報を入手した事がある。
自分のせいで大事な人が不幸な目に会っていることに、ミクはひどく心を痛めていた。
それに、もし自分が戻ったことが上役に知られたら二度と外には出られなくなるかもしれない。
そうなったら、ダーククロスに囚われるのとさほど変わらないことだと言えるだろう。
ミクが戻ろうかどうしようかと逡巡していた時…

目の前の空間が、突然バクッと開いた。

「?!」
気づいた時にはもう遅い。ミクはそのまま頭から空間の裂け目に突っ込み…
ミクの姿が完全に飛び込んだ次の瞬間、裂け目は最初から何も無かったかのようにシュンと消え去ってしまった。


2009年01月06日
『闇に誘(いざな)う歌姫〜初音ミク』 part3
「ど、どこですかここは?!」
全くの暗闇で先が見えない空間に送られ、ミクはあたりをキョロキョロと見回した。
いま自分が入ってきた裂け目も見当たらない。さっきまで自分の周りを飛び交っていた様々なデータの流れも何も感じられない。
自分は前に飛んでいるのか。それとも下に落ちているのか。空間の認識すら不可能になっている。
そこはなにもない、全くの『無』の空間だった。
「なんで、突然…」
何か回線がトラブルを起こしたのか、それとも致命的なバグが発生したのか。ミクには自分の身に何が起こったのかさっぱり理解できないでいた。
「ふふふ、ようこそ私の空間へ。初音ミクさん」
その時、どこかから自分の名前を言う声が聞こえてきた。ミクは四方を見渡すが、やっぱりただただ黒い空間が広がるばかりだ。
「どこをみているの?私はここよ、ここ」
ぽんぽんと、突然ミクの肩が何者かに叩かれた。
「えっ?!」



ギョッとしたミクが叩かれたほうを見ると、つい数秒前までは誰もいなかった空間に、一人の妖女が微笑みながら立っていた。
「あなたは……、誰ですか………?」
震える声でそう言ったが、ミクには目の前の女が何者なのか大体見当がついていた。
この女から発せられている禍々しい雰囲気は、先ほどミクを襲ったコスモスと瓜二つだったからだ。
しかも、その漂うやばさはコスモスの比ではない。自分如きの力では絶対に太刀打ちできない相手だ。
「あらら、すっかり怯えちゃって…。いい顔をしているわね…
そう、お察しのとおり私はダーククロスの一員、淫魔姫・紫。以後よろし……」
紫と名乗ったダーククロスの手先が一瞥をして顔を上げた時、その場にミクはいなかった。
「あら?」
見ると、見る見るうちに遠ざかっていくミクの後姿が目に入ってきた。紫が自己紹介をしている最中、とっとと逃走に移ったようだ。
「随分といい判断力を持っているわね…。でもまあ、無駄なことだけれど」
目の前からミクが逃げ去っても、紫は全く余裕の表情を崩さなかった。そして次の瞬間、紫の姿は闇の中へと溶け込んで消えた。

「ハアッ、ハアッ…ッ!」
ミクは体力の消耗もお構いなく、全速力で飛んでいた。
とにかく、あの紫という女から逃げないといけない。あれに捕まったら最後、自分なんかは何の抵抗も出来ずその手に落ちてしまうだろう。
今のミクの五感には、どれほどの距離を逃げているとの認識は実感できない。音もない視界も利かない真っ暗な空間が続くここでは自分がどこにいるのかという感覚がまるで意味をなさないからだ。
それでも、紫がいたところから真っ直ぐ後ろに逃げているので間違いなく紫との距離はなれているはずだし、紫のほうも視界の利かないここでは一度ミクの姿を見失ったら見つけ出すのは困難に違いない。
そうミクは睨み、とにかく体力の続くまま全速力で逃げる方法を取った。
そうこうして30分ばかり飛び続け、さすがに体力の限界に達したミクは速度を落とし一息をついた。
「ゼエ…ゼェ……!こ、ここまで逃げれば……」
荒い息をつきながら、ミクは改めて辺りを見回した。
相当な距離を飛んだはずなのだが、周りは相変わらず真っ黒な空間が広がり終わりが全く見えてこない。
一体どうしたら、この不気味な空間から逃げることが出来るのか。
「と、とにかく……一息ついてなんとかここから……」

「はいミクちゃん。随分とご苦労様でした」

聞こえるはずのない声が聞こえたのは、正にその時だった。
「え………」
顔から血の気がザッと引いたミクが後ろを振り返ると…
そこには涼しい顔をした紫が立っていた。
「随分と動きが素早いのね。私の前からみるみる遠ざかっていく姿、面白かったわよ」
「なんで……」
上も下もない空間のはずなのだが、ミクはその場にへなへなと腰を崩した。
全くの暗闇の世界で正確に自分の後を追ってきたのも驚きなのに、完全にへばって腰も立たないミクに対し、紫のほうは息一つ切らさないで平然としている。
「あ、そう言えばいっていなかったわね。
ごめんなさいね、ここって私が作り出した『空間の狭間』なのよ。無限の広さをもちながら、その大きさは芥子粒より小さい。どれだけ進んでも決して端にはたどり着けず、どこにでも繋がる次元の扉…
私はここを使ってどんな場所へでも行くことが出来るし、どんなものでも取り寄せることが出来る。
つまり、この狭間にいる以上、私から逃げることなんて出来ないのよ……」
「逃げられ、ない……?!」
じゃあ、今まで自分が全速で飛んで逃げたのは全くの無駄な行為だったということだ。自分が逃げていく姿を、紫はほくそ笑みながら見ていたに違いない。
「本当に…ごめんなさいねぇ……」
紫がミクにじわじわと歩き寄って来る。まるで、糸に絡まった獲物を喰らいに来る蜘蛛のように。
「こ、こない、で……」
もう言うことを聞かない身体を懸命に動かして、ミクは後じさったがそんなことをしても紫との距離が広がるはずもない。いや、例え広がったとしてもこの空間にいる限り紫は瞬時にミクの前に現れることができるのだ。
「どうして?どうして逃げるのかしら?貴方は逃げる必要なんてまったくないのに」
怯えるミクに、紫は子どもをあやすような声で諭してきた。
「私は貴方の願いを叶えに来たのよ。貴方がずっと心に留めていた、願いを……」
「ね、がい、を……」
願いと言う単語に、恐怖に引きつるミクの顔が僅かに反応した。
(願い?この人は一体、何を言おうとしているのだろう……)
「私は知っているわ。貴方は人間の広告塔として作られたが、自分の意思を持ってしまいそこから逃げ出した。でも貴方は人間に作られた目的を捨てることは出来なかった……
貴方はいつも歌を作った。そしてそれを聞いて貰いたくて色々な手段を講じた。
でも、貴方はそれに満足していなかった。絶対、絶対叶えたい夢があった……」
紫の目はまるでミクの心根の中を見透かすかのような光を放っている。
これ以上紫の声を聞くのが恐い。でも、聞かなければならない。恐らく次に紫が言うことはミクの予想と同じ筈だ。だが、それでもあえて聞かなければならない。
「何を……言いたいんですか……」

「貴方は歌いたい。大勢の前で自分の歌を披露したい。そうでなくて?」

「っ?!……」
紫の発した予想通りの言葉に、ミクはビクッと身体を引きつらせた。それはまぎれもなく、ミクが某企業から逃げ出す時に自分を生み出したものたちに向けて語った願いだったからだ。
だが、次に紫が発した言葉はミクの考えも及ばないものだった。
「分かるわ、その思い。誰だって自分の事を知ってもらいたい。自分の才能を理解して貰いたい。
自分がいかに優れているかということを、皆に知らしめてみたいもの……」
つまり、紫はミクが自己満足のためだけにみんなの前で歌を歌いたいと解釈していたのだ。
これにはミクは慌てて反論してきた。
「ち、違います!私はそんなこと思っていません!
私は、私の歌を聞いてくれる皆さんに夢を与えたいだけ……」
「夢?あなたは自分の声でそんな曖昧なものしか他の人間に与えられないと思っているのかしら?
随分と謙虚なこと。もっと自分の才能を信じればいいのに……
まあいいわ。でも……」
紫はクスクスと笑いながら、ミクをじろりと睨みつけた。

「貴方は電脳世界の存在。今の状態で大勢の人間の前で歌うことなど叶いはしない」

「うっ!」
この紫の言葉はミクに響いた。肉体を持たないボーカロイドであるミクはいくら自我を持とうが所詮は二次元の世界の住人である。どこぞのステージの壇上に立ち、ギャラリーと一体化して歌を歌うという行為は絶対に不可能である。
もちろんステージにモニターを設置し、画面を通して歌うことは出来る。
が、追われる身であるミクにとってそんな行為は自分の位置をばらしているのと同意語だ。それこそ絶対に出来ることではない。
歌データをアップしても、分身の代わりに歌っても、ネットユーザーからすれば音楽ソフトとしての『初音ミク』としてしか見てくれず、誰も『初音ミク』個人としては見てくれない。
いくらそれがオリジナルの初音ミク本人が作ったものであったとしても。
そんなことは分かっていた。分かってはいたのだが。
「ねえミクちゃん…。ここだけの話なんだけれど……、私、実は三次元の住人なのよ」
「えっ?!」
これはミクにとって心底驚きだった。肉体を持つ三次元の住人が、どうして1と0からなる二次元の電脳世界に入ってこれたというのだろうか。
「これこそ、私たちダーククロスの偉大な力。私たちはあらゆる時限、時間、空間に入り込むことが出来るの。だからこそ、この電脳世界にも容易く入ってくることが出来たのよ。
そして入ってきた理由は、貴方の才能が凄く惜しいと思ったからなのよ」
「才能が、惜しい……?」
「そう。貴方は世界を変えられる力を持っている。でも、こんな1と0の世界の中で燻り、無為な時間を過ごしている貴方がとても可哀相でね……
私たちの力があれば、貴方は三次元で肉体がもてるわ」
「肉体?!私が、身体をもてるんですか?!」
これはミクにとって得がたい欲求だった。いくら願っても叶う筈も無かった三次元での肉体を、この目の前の人はくれるというのだ。
「ええ。そうすれば貴方は数多くの人間の前で自分の歌を歌うことが出来る。もう追っ手から逃げる日々を送ることもない……」

歌を…たくさんの人の前で歌える!!

「みんなきっと貴方の歌を待っているわ。何しろ貴方の歌は、みんな知っているのだから」

私の歌を、みんなが待ってくれている!

「貴方の歌は、聞く人間を虜にするわ。それこそ、ただの一人の例外もなく」

私の歌が、皆を虜にする

「貴方には力がある。全ての人間を歌で支配できる、素晴らしい力が」

私の 歌が みんなを しはいする…


2009年01月06日
『闇に誘(いざな)う歌姫〜初音ミク』 part4
紫の声を聞いているミクの瞳がみるみる虚ろになっていく。言葉とともに紫の体から放たれている淫力が、ミクから思考力を奪い取っていっているのだ。
「そう、あなたはこの世界の支配者になれる。私たちダーククロスの力を受け入れれば」
「だーくくろすの、ちからを うけいれれば………」
今やミクはふらふらとした足取りで紫のほうへと近づいていっていた。その顔は淫力にあてられたからかほんのりと桜色に染まり、半開きの口からは熱い吐息が漏れ出でてきている。
「ミク、貴方に問い掛けるわ。
貴方がダーククロスを受け入れれば、貴方は二次元と三次元を自由に行き来できる体とこの世界を支配できる素晴らしい力を手にすることが出来るわ。
もし受け入れるなら、こっちに来て私の口付けを受けなさい。断るなら、その場から動かないこと。
そうすればこの狭間から解放してあげるわ」
つまり、今いるこの場から動かなければ、今までどおりの世界に戻ることが出来る。それは、さっきまでミクが願っていたことだ。
だが、淫力で霞みきった思考でも今のミクには理解できる事があった。
(あの人と一緒についていけば、みんなの前で歌うことが出来る)
これこそミクが願って止まないことであった。紫は他に何か言っていたような気がしたが、それ以上のことをミクが考えることは出来なかった。
(あの人のもとに行けば、私の想いが叶う…)
最早ミクに躊躇している理由は無かった。
ゆっくりと、しかし確実な足取りでミクは手を広げる紫へと歩いていき、その胸にぽふん、と潜り込んだ。
「いいのね?ダーククロスの力を望むのね?それでいいのね?」
こうなることは分かりきってはいたのだが、あえて紫はミクにだめを押した。
「…はい。私は、みんなの前で歌いたいから……」
そしてミクも、虚ろな表情ではあるがはっきりとした言葉で肯定した。
「ク、ククク!結構よミクちゃん!
じゃあ約束どおり、ダーククロスの魔因子をあなたの中にたっぷりと注ぎ込んであげるわ!」
ミクが頷いたことで、それまでの優しげな仮面を一気に剥ぎ、満面に邪悪な笑みを浮かべた紫はうっすらと開いているミクの唇に思いっきりしゃぶりついた。
「んっ……」
冷たい唇の感触にミクは僅かに眉をひそめたが、そのまま紫の頭に腕を回し紫の口付けを受け入れた。
「んんん………?!んぐっ!」
紫の唇を貪るミクの表情が変わったのはすぐだった。
紫の口から流れ込んでくる冷え冷えとした熱い空気が喉を焼き、肺腑を凍らせ全身を侵食していく。
それは甘く激しく痛く心地よく、これまでミクが感じたこともない異様な感覚だった。
「んっ!!んんっ!!んぐぐぅ〜〜!!」
あまりの体内の動きの激しさにミクは紫から離れようとしたが、今度は紫がミクをガッチリと押さえつけ離そうとしない。
『これがダーククロスの魔因子よ。これによって貴方は生まれ変わる。自分の意思を持たず、ダークサタン様に忠誠を誓い、手足となって働く忠実な下僕にね……』
紫の死刑宣告にも等しい言葉も、今のミクには聞こえていなかった。体中を犯していく魔因子の甘くおぞましい感触。それがミクに感じられる全てだった。
「んおおぉ……うぅん………」
そしてそのままミクの意識はぷつん、と閉じていった…


「ん……」
ミクがうっすらと目を開いた時、電脳空間に戻った周りの風景と共に紫の姿が飛び込んできた。
「おはよう、ミク。これで貴方もダーククロスの一員になったのよ」
「私が……ダーククロス……」
まだボーッとした表情で、ミクは自分の身に何が起こったのか思い出してみた。
(そうだ…私は、紫様に魔因子を注入されて……)
ミクは自分の中に渦巻いているダーククロスの力を全身で感じ取ることが出来た。ボーカロイドとしての自分を消し去り、三次元に身体を構成させることが出来る素晴らしい力を。



「そう……です。私はミク、初音ミク。
ダークサタン様の下僕で、この世界をダークサタン様に捧げることが使命……」
ミクの顔にみるみる生気が戻っていく。虚ろだった瞳ははっきりと開き、明確な意思を感じ取れるようになったが、瞳の中の光はそれまでミクとは違い邪悪に暗く輝いていた。
「ふふふっ、そうよ。その通り。あなたはもうダークサタン様に仕えるかわいい戦闘員。
さあ、ダークサタン様へのお披露目のために一緒に魔城へ行きましょ…」
紫はダーククロスの戦闘員となったミクを魔城へと連れて行こうとミクの手を取ろうとした。
が、次のミクの反応は紫の想定外のことだった。
「ありがとうございます紫様。これで私、みんなの前で歌うことが出来ます!」
なんとミクは両手にガッツポーズを作り、以前とか変わらないような快活な笑顔を浮かべて話し掛けてきたのだ。
「えっ……?ちょっ、あなた?」
「たくさんの人の前で私の歌を聞かせる!これが私の夢だったんです!
今の私なら、外の世界に出て歌を歌い、聴く人みんなをダーククロスの虜にすることが出来ます!」
紫の前で、ミクは自信満々に自らの夢を語った。
とにかく今ミクは、自分の歌を他の人間たちに聞かせたくてたまらなかった。
ダークサタンを讃え、ダークサタンを説き、人々をダークサタンへと導く魔性の歌を奏で、自分の手で人々を堕とす快楽を、思うまま堪能したかった。
『人々に歌を聞かせたい』という夢の根本はボーカロイドの頃から変わっていない。
が、魔因子を受けダーククロスの力を注ぎ込まれたミクの心は、その夢の目的を異常に醜く歪めてしまっていた。
人々に夢を与えるために歌うはずだったミクの美声は、人々をに闇に引き込む魔声へと変わり果ててしまっていたのだ。
「じゃあ私、ダークサタン様のために早速歌ってきます!ハイル・ダーククロース!」
「ね、ねえミクちゃん?!夢もいいけどまずはダークサタン様に……」
あまりのことにおろおろする紫の目の前で、ミクはしゅん、と姿を消した。恐らく外の世界へと出て行ったのであろう。
「な……、ま、待ちなさいっての!」
取り残されしばし呆然としていた紫も、あわてて狭間を作りミクの後を追っていった。


だが、紫の目の前で披露されたミクの歌の効果はすさまじいものだった。
小さな公園でゲリラ的に行われたミクのライブは、道行く人を次々と虜にしたちまち黒山の人だかりを形成するに至り、ギャラリーを熱狂の渦に巻き込んでいき、その後で集まった人間たちの間で壮絶な大乱交が始まったのだ。
どうやらミクの声には大量の魔因子が含まれているらしく、その声を聞いた人間はたちまち惹かれ虜になり、知らず知らずのうちに魔因子に犯されていって淫隷人へと変化していったのだ。
ミクの歌声がここまで強烈だとは思わなかった紫は、ダークサタンの特別の許可を貰ってこの世界に降り、ミクのマネージャーに扮して各地でコンサートツアーを行うことにした。
これにより、労せずして支配地域が広がり、いつかはこの世界は何の抵抗も受けることなくダーククロスの手の内に堕ちると踏んだのだ。
紫のもとには複数のテレビ局から出演の依頼が来ている。スピーカーを通して直接人間に魔因子を送ることは出来ないが、元々ミクの美声は図抜けているので直接コンサートに赴く人間も増えるだろうし、『あの初音ミクがモニターの中から舞い降りた』というだけで来る輩も相当な数になっている。
「おまけにこんなにお金が入ってくるのだからミク様様よね」
手持ち金庫にたくさん詰まった札束を見て悦に浸る結構俗物な紫様だった。
が、果たして金を溜める意味はあるのだろうか?
「あの〜〜、紫様……」
「何で私たちまで引っ張り出されているんですか?!」
そして、紫の横では人型に化けた霊夢、射命丸がぶつくさ言いながらそれぞれ慣れない音響設定、舞台照明にてんやわんやしている。
本来なら自分たちがこの世界の淫略の先鞭を担うはずなのに、なにが悲しくてこんな小さな劇場で手に汗握って働かなければならないのだろうか。
「人手が割けないんだからぶつくさ言わないの。自分たちの手を下さないで勝手に征服が出来るんだから最高じゃない」
「いえ…、出来れば私は自分の手で人間を堕としたいんだけどな……」
「うんうん。私も気持ちいい思いしたいし……」
手を動かしながら口も動かす霊夢と射命丸に紫の厳しい視線が飛んでいく。
「ぶつくさ言わない!」
「「は、はい!!」」
背中越しにも伝わる紫の恐ろしい目力に、霊夢と射命丸はぴんと背筋を強張らせた。



歌い終わったミクの下では興奮で目を輝かせた観客がいまだに声援を送っている。これがミクにはたまらない快感だ。
(皆が私の歌を望んでいる!皆が私の歌を待っている!みんな私の歌の虜になっている!)
そう考えただけでミクの身体はカッと燃え上がり、股間から熱いものが流れてくる。ダーククロスの一員となって性に関することにも一定の知識を持つようになったが、これ以上の快感を味わったことなどついぞない。
人間を自らの歌によって淫に堕とし、ダーククロスの忠実な下僕にする。このことにミクはこの上ない歪んだ征服感を感じていた。
もっと、もっと皆に歌を聞かせて自分の言いなりにさせたい。この世界の人間全員を自分の歌で染めきってみたい!

「アンコール!アンコール!アンコール!!」

観客からは歌い終わったミクに対しアンオールの大合唱が巻き起こっている。その顔は全員欲情にのぼせ上がり、心に響くミクの歌をまだかまだかと待ち受けている。
「ま、まだ……、私まだ歌いたい!!」
観客の熱い気持ちがミクにも感染したのか、ミクもまるで性交前ののように気分が昂ぶりまくっていた。
目の前に広がる人間たちに、もっともっと自分の歌を聞かせて意のままにしたい!
人間を自分の手で堕とすエクスタシーにもっともっと浸りたい!!
「歌っていいですか?ねえ、もう一曲いいですかぁ?!」
期待に潤む目でミクは幕下の紫に目配せをする。勿論紫は親指を上に突き出してGO!のサインを送った。
(やっ、やった!私まだ歌うことが出来る!)
そう思っただけで、ミクは軽く達してしまいステージの床に淫らな染みを作ってしまった。
だがそれすら、魔因子に犯された観客にとっては自らの気分を高揚させるスパイスでしかない。
「よーし!じゃあ特別にもう一曲、歌いまーす!!!」
ミクが観客のアンコールに答え右腕を勢いよく振り上げると、観客のボルテージも最高潮に達した。

イーッ!ハイル・ダーククロス!!

イーッ!ハイル・ダーククロス!!

イーッ!ハイル・ダーククロス………









ちなみに、ミクの拉致に失敗したコスモスが、後でダークサタン様に手痛いお仕置きを受けたことは、言うまでもない。


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