貧乏性の僕にとって本を買ったら最後まで読まなければという妙な強迫観念を持
ちながら活字を追っている事がある。この意識が強い時ほど僕はストーリーに入り
込んでいなかったり、読むのに時間がかかる傾向にある気がする。
もちろん、それだけではなく単純に僕の読解力が足りなかったり、読み返してみて
初めてそのおもしろさに気づくこともしばしばである。
だがこの作品は一発で、ストーリーに溶け込んで、トイレの中でも飛行機の中でも
ページをめくりたくなるそんな作品だった。
箱根駅伝とは全く無縁の僕がこんなに
没頭して興奮して寝れなくなる日もあったぐらいだ。
陸上に興味のない方は駅伝というのはマラソンの短いやつをリレーするぐらいの認
識だと思うのですが、駅伝は完全なチームプレイであり全く違うものであることが
わかる。
コースの特性、アップダウンの走り方や適正、勝負区間、天候、体調
管理、補欠枠の使い方まで、囲碁や将棋くらいの戦術が緻密にぶつかってるのを正
月のテレビで読み解いている人がどれだけいるのだろうか?
その戦術を考察する監督兼ランナーの清瀬ハイジが、竹青荘のメンバー素人10人で
箱根駅伝を目指すというファンタジーに違和感を感じる読者もいたのではないかと
おもう。
学生時代に部活動なんかでスポーツや格闘技をしてきた方は地区予選の厳しさや全
国大会や選抜に選ばれることがどれだけ大変なことか想像はタヤスイというか、想像以上の大会で
はないかと推測できると思う。
その素人が10人だけで、箱根駅伝にでるなんて。
そんなおとぎ話にもページを捲ってしまうのは人間の描写がおもしろくて、一人一人にストーリー
が微妙なブレンドで絡まり合いタスキをつないでいくのだからだ。思わずニヤついてし
まうことが多々あり飽きることなく読めた。
そして、やっぱり走る事に全く興味のなかった僕にとって一番衝撃だったのはすごく走ることは美
しいということを知れたことだ。
特に予選の蔵原走の予選での走りにはなぜだかわからないけど
涙が出そうになった。一秒でも早くタスキを渡そうとするメンバーの思い、体調不良でも走らな
ければ失格になる責任感、怪我で痛み止めをうって走れなくなる事をわかっていながら大丈夫だ
とつく嘘、全てのピースが綺麗にはまって箱根駅伝の景色を描いている。
走る事や駅伝に全く興味のなかった僕にとって、「走る事とは速さではなく強さ」というのを
噛み締めて、来年の正月の箱根の中継を必ず観てみようと決心させた一冊だ。