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2015年10月16日
人間の食料事情ってけっこう綱渡りだったんだと分からせてくれる本
今日、紹介したいのは、
食糧の帝国〜食物が決定づけた文明の勃興と崩壊〜
エヴァン・D・G・フレイザー (著), アンドリュー・リマス (著), 藤井美佐子 (翻訳)
である。
この本では、人間がその歴史を通じて、食料を得ようと、どのようにして奮闘してきたかが語られる。
例えば、本の始めのほうで、紀元900年頃のヨーロッパにおいて、
修道院が森林を開拓して、耕作地に転換し、そこから経済を発展させていく様子が描かれる。
そのようにして食料は増産され、余剰のものはビールやワインなどのお酒にかわり、それが換金できる商品になり、経済が発展していくのである。
けれども、そういう開発が行き過ぎて、人口も増加してくると、今度は環境破壊の問題が出てきて、さらに土壌の劣化などで、食料の供給が追い付かなくなり、大規模な飢饉や疫病が発生する。
人類はそういう類の問題と戦い続け、のたうちまわり、ついに『ハーバー・ボッシュ法』という、肥料を好き放題合成できる方法を開発し、その種の問題にとどめを刺した。
しかしながら問題を克服した故にこそ、また新たな問題が発生してしまっている。
……というようなことが書かれているのである。
人類の歴史はそういう苦闘の上になりたっていて、安易にNAISEIなどはできるものではないな、とも思わされるが、逆に言えば、そういう安易なNAISEIで発生しそうな問題を、あらかじめ織り込んでNAISEIすれば、その作品のリアリティー感は、いやますというものである。
例えば、川の水で安易に灌漑をすると、塩害が発生して、全然食料が取れなくなるよ。とか、
安易に作物を作っているとすぐに土壌が痩せてしまうので、窒素を土壌に戻すためにはどうするべきか、とか、
そういうことを把握しているかどうかによってNAISEI系作品の深みが増すというものである。
特に人類が、土壌の『痩せ』と戦いながら、最後に『ハーバー・ボッシュ法』に行きつくまでの過程は感動的ですらある。
そして同時に、自分の食べる食料の供給がいかに危うい状態の上に成り立っているか、ということについても教えてくれる。
非常にオススメなので、ぜひともご一読をオススメする。
食糧の帝国――食物が決定づけた文明の勃興と崩壊 (ヒストリカル・スタディーズ) 中古価格 |