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2020年09月09日

【短編エッセイ】『時の海を駆ける船』。

ー目次ー
  1. 巨大クルーズ船の探検
  2. 無人の船室、襲いかかる謎の鉄球
  3. 仲間は散り散り、ついに1人に
  4. 秘密裏に進む、恐ろしい計画
  5. 開かずの窓に隠された、この船の正体
  6. はるかなる時を駆ける船
  7. 愚かな人類の歴史、その終着点は

1.巨大クルーズ船の探検

潮風が心地よい、ある晴れた日。
僕は大勢の仲間たちと、巨大な船に乗っていた。

大型フェリーどころではない、
超大型のクルーズ船だ。

広大な船内には、
いったいいくつの船室があるのか想像もつかない。



好奇心旺盛な僕らは、船内の探検に出かけた。

不思議なことに、
行く先々の船室のドアはカギが開いていて、
自由に出入りできるようになっていた。

そして、おもしろいことに、
1部屋ごとに装いや時代観がまったく違う。

中世ヨーロッパをイメージした部屋もあれば、
古代エジプトを模した部屋もあった。

部屋の乗客たちも気さくで、
いきなり訪れた僕らを歓迎してくれた。



ただ、どの船室にも、
閉じられたままの窓がいくつかあった。

そしてその窓は、
一様に分厚い扉で覆われていた。


はしゃぐ仲間をよそに、
僕はその”開かずの窓”のことが気がかりだった。

2.無人の船室、襲いかかる謎の鉄球

そんな探索を続けるうちに、
空室が目立つエリアに入った。

部屋の内装は相変わらず、
世界中の各時代を映した、美しい様相。

空室には乗客の代わりに、
黒っぽい不定形の石が置いてあった。



おもしろがった仲間は、
その石を手に取り、いじり回した。

すると。



その石はぐにゃぐにゃ形を変え、
あっという間に巨大な鉄球へと姿を変えた。

そして、まるで意志があるかのように、
僕らに向かって転がってくるではないか!




僕らは一目散に部屋から逃げ出し、
船室が並ぶ廊下をひたすら駆けた。

鉄球は部屋から出、廊下を転がり、
こちらへ襲いかかってくる!



「もうだめだ、追いつかれる…」

そう思った次の瞬間、目の前に十字路が見えた。
僕はとっさに少数の仲間と右の道へ曲がった。

鉄球は慣性の法則に従い、
廊下をまっすぐに駆け抜け、消えていった。

多くの仲間とはぐれたものの、
僕はひとまず命拾いした。

3.仲間は散り散り、ついに1人に

そんな目にあったにもかかわらず、
僕らの船内探検は続いた。

行く先々の空室には、
やはり黒い不定形の石が置いてある。

僕はもう、やぶへびはこりごりだったが、
仲間たちは相変わらず、その石をおもしろがる。



すると、
またしてもその石が鉄球に姿を変え、
僕らは必死で逃げた。


そして曲がり角に差し掛かっては、
何とかやり過ごす、そんなことを繰り返した。

学習しない僕らはどんどん離散していき、
ついに僕はひとりぼっちになった。


4.秘密裏に進む、恐ろしい計画

走り疲れた僕は、ふらふらになりながら
メインデッキ上階にたどり着いた。

穏やかな潮風が心地よく、
空は相変わらず晴れわたっていた。

水平線には、おそらく目的地であろう
港の姿が見え始めた。

象徴的な巨大ドームを中央に鎮座させた、
近未来的な装いが美しい。



ふと、デッキの下階に人の気配がした。
2人の若い男女が、何やらひそひそと話していた。

気になった僕は上階の手すりに寄りかかり、
2人の話に聞き耳を立てた。

その好奇心が、
恐ろしい計画を知ることになるとは想像もせずに。



この船が港に着いた後、
乗客たちが集結する、あのドーム。

彼らはなんと、
その巨大ドームの爆破計画を立てていたのだ!




僕は居ても立ってもいられず、
デッキ上階から彼らに嘆願した。

「どうしてそんなことをするんだ!
あの中にはたくさんの人が集まる!
頼むから止めてくれ!」




そこまで叫んだ後、僕はなぜか言葉に詰まり、
続きが言えなくなってしまった。

すると、若い女性がこちらを振り返り、
僕に冷たい視線を向けてこう言った。

「あなた何が言いたいの。
あなた頭が悪そう、聞く価値もない」




僕は何とか交渉できないかと、
デッキ下階へ回り込もうとした。

息を切らして階段を降り、
やっと下階へ出たとき、

すでに彼らの姿はなかった。

5.開かずの窓に隠された、この船の正体

恐ろしい計画が進んでいる、
彼らを見つけなければ。

いや、せめて船内の誰かに伝えよう、
あの港へ着くのは危険だ!

僕はふたたび、船内を走り回った。

とにかく誰かに会えればいい、
散り散りになった仲間でも乗客でも、
それだけを考えながら。



ところが、どの船室へ入っても、誰もいない。
空室には必ず置いてあった、あの黒い石も消えていた。

気さくに出迎えてくれた乗客たちは、
いったいどこへ?



僕はふと、”開かずの窓”のことを思い出した。

もしかしたら、何か手掛かりがあるんじゃないか。

僕はワラをもつかむ思いで、
おそるおそる、頑丈な扉を開けた。

するとそこには、























はるか昔に埋葬されたであろう人骨が眠っていた。














どの窓にも、どの部屋にも。

”開かずの窓”の正体は、
かつてこの船室に生きた人々の墓標だったのだ。


6.はるかなる時を駆ける船

それに気づいた時、僕の中で、
この船の奇妙な出来事のすべてがつながった。



この巨大な船が走っているのは、
ただの海ではなかった。

この船は、「時の流れ」という海を走っていた。



この船が出航したのは、
数日前でも、100日前でもなかった。

人類が誕生した数万年、数十万年前だった。



この船が乗せているのは、
ただの乗客ではなかった。

乗せているのは
人類の歴史そのものだった。



膨大な数の船室は、その人類の歴史の
各時代、各国、各地域の姿そのものだった。

1部屋1部屋に、
時代を懸命に生きた人たちの墓標を携えていた。


7.愚かな人類の歴史、その終着点は

はるか昔に出航した巨大な船が、
近未来を体現した港へ到着しようとしている。

そして、その繁栄の象徴である巨大ドームが、
爆破される計画が人知れず進んでいる。



これはいったい、何を意味しているのだろうか。

時代を映した船室の1つ1つで、
いらぬ手出しをしては、いさかいを繰り返す。

そんな、愚かな人類の歴史の終着点に、
たどり着こうとしているのだろうか。



あの2人はいったい、何者なんだろうか。

僕ら人類が積み重ねた争いの歴史に、
終止符を打つべく遣わされた、

神からの使者、なのだろうか。



2人を見失い、仲間ともはぐれた僕は、
デッキに戻り、呆然と立ち尽くした。

目の前には、技術の粋を集めた美しい港、
到着はまもなくだ。

滅びへのカウントダウンが進む中、
憎らしいほど澄み切った青空が、

ただ、まぶしかった。




ーーーーー完ーーーーー



※このお話は、僕が昨夜見た夢をアレンジ、
 再構成したフィクションです。

 最後までお読みいただきありがとうございました。





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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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