2023年11月30日
【短編小説】『声援は 補欠選手の 悲鳴なり』3
【第2話:エースと補欠の1on1】からの続き
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<登場人物>
・三鼓 詠澪(みつづみ えいれ)
主人公、17歳(背番号7)
とある公立高校女子バスケ部の2年生
入部以来、1度もベンチ入りできない補欠選手
・石堂 満温杏(いしどう まのあ)
詠澪と同じ高校に通う17歳(背番号6)
女子バスケ部の2年生エース
1年時から頭角を現し、チームの主力を担う
・石堂 実温莉(いしどう みおり)
18歳、女子バスケ部のキャプテン(背番号4)
詠澪と満温杏の1学年上
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【第3話:声援は補欠選手の”悲鳴”】
私と満温杏のペア解消の危機から1年後。
私たちは地区大会ベスト8まで勝ち上がっていた。
延長戦の末、2年生エース・満温杏の逆転シュートで
ベスト4入りを果たした。
コート上では、エースがもみくちゃにされていた。
私は補欠選手として、その光景を2階席から見守った。
ベンチに入れなかった、他の補欠選手とともに。
私は2・3年生の中でただ1人ベンチ入りできず、
補欠のままだった…。
2階席では、補欠選手たちが抱き合って喜んでいた。
嬉しくて泣いている選手もいた。
なのに私は…。
チームの逆転勝利を喜ぶフリで精一杯だった。
最後の場面、
詠澪
「満温杏ーー!決めてーー!」
あの叫びは、心からの声援だったの?
補欠選手たちの2階席からの声は、
純粋なチームの勝利への願い?
いいえ、応援の気持ちなんて1割。
9割は悲鳴。
補欠選手の悔しさ、やるせなさ、嫉妬心が
ぐちゃぐちゃに絡まった悲鳴…。
・部活に所属している以上、
チームの成功を喜ばなければいけない
・自分が試合に出られなくても、
投げやりになってはいけない
・補欠選手に甘んじているのはあなたの実力不足
利己的なことを考えてはいけない
チームのために。
チームのために。
チームの…ため……に……。
補欠選手には「チームのために」は響かない。
それが響くのは試合に出ている選手だけ。
補欠選手は聖人君子じゃない。
”投げやりで利己的な自分”を必死で隠している。
ベスト4へ勝ち上がったチーム。
ベスト8で負けてしまったチーム。
その中に1人でもいるだろうか?
補欠選手たちの声援が「悲鳴」に聞こえる人は…。
ーー
会場を撤収後、選手組と私たち補欠組が合流した。
コーチの軽いミーティングの後、解散になった。
私は満温杏と2人で帰路に着いた。
詠澪
「満温杏、勝利おめでとう!」
私は悔しさを抑えながら、親友の活躍を労った。
満温杏
『詠澪、ありがとう!』
『最後のシュートは詠澪が決めさせてくれたよ!』
詠澪
「私が…?」
満温杏
『最後の場面、この前の詠澪との1on1と同じだったの。』
詠澪
「そういえば…。」
私たちは、
1年生の時からずっとペアで練習していた。
この前の1on1で、
私は満温杏をサイドラインへ追い詰めながらも粘られ、
シュートを決められてしまった場面があった。
満温杏
『試合を通して思ったの。』
『相手のディフェンス強度は詠澪ほどじゃない。』
『だから突破できるって!』
詠澪
「そっか…役に立てて嬉しいな。」
満温杏
『もし詠澪が相手チームだったら止められていたのに…。』
『どうしてウチのコーチは詠澪を出場させないの?!(怒)』
詠澪
「あ…はは……(苦笑)」
満温杏
『あッ…!ごめんね…傷つけちゃったよね…。』
詠澪
「ううん、いいの。私は”補欠”だから…。」
「それより、満温杏にずっと聞きたかったことがあるんだ。」
満温杏
『なぁに?』
詠澪
「満温杏はどうして、私をこんなに大切にしてくれるの?」
「入部してからずっと仲良くしてくれたことも。」
「去年、実温莉さんと色々あった時も。」
満温杏
『…怒らないで聞いてくれる…?』
詠澪
「うん。」
満温杏
『…詠澪が…昔の私と同じ悩みを抱えているから。』
詠澪
「同じ悩み…?もしかして”補欠”のこと?」
満温杏
『うん。』
詠澪
「満温杏って補欠だったことあるの?!」
「あんなに上手いのに?ウソでしょ?!」
満温杏
『本当だよ。私もずっと補欠だったの。』
『だから詠澪と出逢った時、直感で思ったんだ。』
『この人なら同じ苦しみを共有できるって。』
満温杏ほどの選手にも、エースと補欠の分岐点が?
私は半信半疑のまま、彼女の過去に耳を傾けた。
⇒【第4話:試合に出るから上手くなる】へ続く
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