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2023年11月12日

【短編小説】『モノクローム保育園』3

【MMD】Novel ADHD Hoikuen SamuneSmall1.png

【第2話:物置部屋】からの続き
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<登場人物>
桂 水星(かつら みなせ)
 ♀主人公、22歳の保育士
 勤務先の保育園では”ミナセんせい”と呼ばれる

春原 絆奈(すのはら きずな)
 ♂5歳、保育園児
 落ち着きのなさや衝動性が強く、
 園では煙たがられている
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【第3話:ウチの子に限って】



絆奈
『僕、本当は保育園に来たくない。』
『けどママが”行きなさい”って言うから。』


水星
「ママが”行きなさい”って言うの?」


絆奈
『うん…本当はイヤ。』
『先生にいじめられるんだもん。』


水星
「うっ……!」


絆奈
『けど今は保育園に来たい。』
『ミナセんせいに会えるから!』
『雅恵先生は嫌いだけど、ミナセんせいは好き!』


水星
「…絆奈くん…。」




今日は保育園と、
絆奈くんの親御さんとの面談の日。


私は主任保育士の付き添いとして
立ち会うことになっていた。

昼間、絆奈くんの本音を聞いた私は、
どんな親御さんか怖くなっていた。

私がそわそわしている間に、
絆奈くんの母親が来園した。

細身の長身。
スーツをびしっと着こなし、
いかにも仕事ができる女性という姿。

大学在学中に起業し、
今や業界でも注目の会社の社長だそうだ。



主任保育士
『絆奈くんは、あまり馴染めていないようです。』
『落ち着きがなかったり寝つけなかったりで…。』
『衝動性が目立ちます。』


主任保育士は、言いにくそうに続けた。

主任保育士
『もしかしたら”ADHD”の傾向が…。』
『発達障害の傾向があるかもしれません。』
『1度、専門機関を訪ねてみてもいいかもしれませんね…。』


医師でも専門家でもない私たちには、
ADHDかどうかなんて判断できない。

私たちができるのは、普段の様子を見て、
やんわりと可能性を伝えること。

発達障害への理解は始まったばかりだ。
受け入れる親も、そうでない親もいる。


そして絆奈くんの母親はというと…。

絆奈の母
『発達障害?聞いたことはありますが…。』
『まさか先生、ウチの子に障害があるとおっしゃるんですか?』


絆奈くんの母親は、
”障害”という言葉に過敏に反応した。

主任保育士
『障害というわけではありませんが…。』
『あくまで特性の1つとして…。』


絆奈の母
『ウチの子に限って、そんなことはあり得ません。』


絆奈くんの母親は、
受け入れられないという態度を示した。

”ウチの子は優秀です、なぜなら優秀な私の子だから”
というプライドが伝わってきた。

絆奈の母
『先生方の対応に問題があるのでは?』
『まさか、ウチの子を雑に扱っていませんよね?』


絆奈くんの母親は、静かに詰め寄ってきた。
雅恵先生が絆奈くんに何をしたか、
保育士はみんな知っていた。

けど、言えない。
親御さんからのクレームの恐怖と、
自らの良心との板挟み。

主任保育士
『そんなことは決して…。』


絆奈の母
『…まぁ、いいでしょう。私が選んだ保育園です。』
『優秀な先生方、息子をよろしくお願いしますね。』


主任保育士
『は、はい…。』


絆奈の母
『絆奈、帰るよ。』


母親は静かに言うと、
私にしがみついていた絆奈くんの手を引っ張った。

水星
「……絆奈くん…また明日ね…!」


絆奈
『ミナセんせい、また明日ね……。』


絆奈くんの顔は、悲しみと諦めに満ちていた。



水星
「主任!…大丈夫ですか…?」


主任保育士
『…ありがとう、大丈夫よ。』
『それより、ミナセんせい。』


水星
「…はい。」


主任保育士
『良い勉強になったでしょう?』
『これが”発達障害への理解の現状”よ…。』


水星
「”みんなと違うこと”は受け入れられないんですか…?」
「”ウチの子に限って”と見過ごされてしまうんですか…?」


主任保育士
『残念だけどね…。』
『ミナセんせいは3年目?』
『そろそろ…気づいているでしょう…?』


水星
「ええ…気づいています…。」
「その子の内面まで愛している親ばかりじゃないこと。」
「我が子を、親の評価のための作品にしている親もいること…。」


主任保育士
『ええ…。だから時々思うの。』
『保育士はなんて無力なんだろうって。』
『ああいう子を救ってあげられないのかなって。』


保育士への夢と憧れ。
保育現場で味わう理不尽と無力感…。


水星
「…それでも……私は諦めたくないです。」


主任保育士
『…そう。絆奈くんのこと、頼みますね。』
『私たちもサポートするから…。』




【第4話:お絵描き事件】へ続く

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理琉(ワタル)
自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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