2023年11月11日
【短編小説】『モノクローム保育園』2
⇒【第1話:イイコと問題児】からの続き
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<登場人物>
・桂 水星(かつら みなせ)
♀主人公、22歳の保育士
勤務先の保育園では”ミナセんせい”と呼ばれる
・春原 絆奈(すのはら きずな)
♂5歳、保育園児
落ち着きのなさや衝動性が強く、
園では煙たがられている
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【第2話:物置部屋】
数日後。
私はまだ絆奈くんへの後ろめたさを引きずっていた。
それでも、
子どもたちの前では明るい振る舞いを求められた。
私の作り笑いは、たぶんみんなにバレていた。
お昼寝の時間を迎えても、
やっぱり寝ない絆奈くんは
雅恵先生に引っ張られていった。
あの日と同じように、物置部屋へ。
ここ数日、私は落ち込んでいたけど、
密かに絆奈くんを助ける準備をしていた。
子どもたちがお昼寝している間にも、
保育士の仕事はたくさんある。
うつぶせになっていないか、
呼吸は大丈夫かを見回ったり、
保育ノートをまとめたり、
保護者や上司への報告書を書いたり。
私はお昼寝の時間にフリーになるため、
山積みの仕事を死ぬ気で終わらせた。
もう絆奈くんを見て見ぬふりなんてできない!
絆奈
『…グス…ねぇ…出してよ…!』
コンコン
水星
「絆奈くん!」
絆奈
『ミナセんせい?!』
『出してくれるの?』
水星
「うん。みんなが起きるまで私と遊ぼう?」
「みんなはお昼寝しているから、静かにできる?」
絆奈
『うん、できる!』
私は職員室を抜け出し、
絆奈くんをかくまうことに成功した。
ただ、絆奈くんと一緒にいる間も、
見回りだけは欠かせない。
水星
「みんなの様子を見てくるから待っていてね。」
絆奈
『うん、待つ。』
絆奈くんは驚くほど素直だった。
水星
「戻ってきたら絵本読もうか?」
絆奈
『読んで!』
その後、絆奈くんは私の膝で寝てしまった。
彼がお昼寝しないのは、
確かにADHDの特性もあるかもしれない。
それ以上に、
彼には”安心して眠れる場所”がなかったんだ。
私に安心して寝てくれた絆奈くんが、
たまらなく愛おしく思えた。
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雅恵
『ミナセんせい?』
『あなた、絆奈くんをこっそり出したでしょ?』
退勤する間際に、私は雅恵先生に呼び止められた。
水星
「はい、やっぱりやりすぎだと思います。」
雅恵
『勝手に動かれては困ります。』
『もし彼が騒いで、他の子が起きたらどうするの?』
水星
「絆奈くんはとても素直な子です。」
「寝つけないのは、ここでは安心して眠れないからです。」
雅恵
『あら、私が絆奈くんを追い詰めていると?』
『私の保育方針が間違っている…とでも言いたいの?』
水星
「そういうわけではありません。」
「私は彼が安心できるようにしてあげたかったんです。」
雅恵
『あなたは駄々をこねる子に何でも与える気?』
『わがまま放題にさせても平気なの?』
水星
「それは…違います…。」
雅恵
『時には大人がわからせることも必要よ。』
『多少の手荒なんて、私たちの頃は日常だったもの。』
水星
「そういう時代だったかもしれませんが…。」
「今は下手をすると虐待を疑われてしまいますよ?」
雅恵
『あくまで私のやり方に反対するんだね?』
『まぁ、後悔しないことね。』
水星
「………。」
後日、私は園長から”お𠮟り”と、
ちょっとした警告を受けた。
この園の最大派閥・雅恵先生の
口添えかどうかなんて、わからないまま。
⇒【第3話:ウチの子に限って】に続く
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