2023年09月08日
【短編小説】『慰めの代打をさせないで』2
⇒【第1話:熱血指導という支配】からの続き
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【第2話:お父さんの期待】
今日もバッティングセンターに快音が響く。
常連の親子も来ている。
が、父親はいつにも増して厳しい。
息子は泣きそうになっている。
球速の遅いケージでもまったく打てない。
それを見た父親は、ますます怒り狂う。
どうやら、
息子はこの日の試合でヒットを打てず、
負けてしまったらしい。
しばらくして、親子が玄関へ出ていく。
いつもの”説教タイム”を過ぎても戻ってこない。
心配になったスタッフが様子を見に行く。
そこには、静かに涙する少年が1人。
父親の姿は見えない。
「しばらく反省しろ!」
という怒声が聞こえたので、
席を外しているんだろう。
スタッフA
『…ねぇキミ…大丈夫?これ使って?』
スタッフが少年に、ハンカチを差し出す。
少年
『…(ありがとうございます)…。』
少年は、か細い声でお礼を伝える。
スタッフB
『いつも練習見てるよ。』
『キミがすごく上手なこと、知ってるよ?』
少年は、溢れる涙をハンカチで拭う。
初めて、褒められたという涙に見える。
少年
『…僕が、悪いんです…。』
スタッフA
『…?!』
少年
『僕が打てなくて、試合に負けちゃって…。』
『お父さんの期待に…応えられなかった僕が、悪いんです…!!』
胸が張り裂けそうなくらい、心が痛む。
人さまの家庭とわかっていても、
怒りがこみ上げる。
どうして親は、
こんなことができるの?
あの父親は、
子どもにこんな我慢をさせてまで、
一体、何がほしいっていうの…?!
ーーーーー
今日は快晴。
グラウンドでは少年野球の試合が始まる。
1回表、
先攻のチームが満塁のチャンスを作る。
打席には4番バッターが立つ。
1球目、真ん中。
空振り。
チラッ
4番バッターは、観客席の最前列を見る。
父親
「よそ見するな!集中しろ!」
怒声が響く。
チームの主砲の背中が丸くなる。
2球目、甘いコース。
強振するも空振り。
チラッ
父親
「おい!打ちごろだぞ?!球をよく見ろ!」
怒声が響く。
チームの主砲は、怯えて目を伏せる。
3球目、明らかなボール球。
空振り、三振。
チラッ
父親
「ボール球に手を出すなよ…!」
「何やってんだ!?」
4番バッターはびくびくしながら、
ベンチへ戻っていく。
父親
「次のチャンスでは打てよ?!」
「オレが教えた通りにスイングしろ、いいな?!」
ベンチの屋根に隠れて、
観客席からは選手の様子が見えない。
だが観客席からの怒号は、
しっかりと選手たちに届いている…。
コーチ
『………。』
ーー
試合終了。
チームミーティングの後、
選手たちが解散していく。
グラウンドに残ったのは
チームのコーチと4番バッター。
そして、その父親。
父親
「今日の負けは、4番のお前の責任だ。」
うなだれる息子に、
父親は辛辣な言葉をぶつける。
父親
「打てなかった球は覚えてるな?」
「今からバッティングセンターで反省だ、行くぞ。」
父親は息子の手を引き、
立ち去ろうとする。
目に余る言動に、
コーチはついに我慢の限界を迎える。
コーチ
(お父さん、待ってください。)
(それはあまりにも…。)
コーチがそう言おうとした瞬間、
少年
『待ってください、コーチ!』
ずっと下を向いていた4番バッターが、
コーチを制止する。
少年
『お父さん、手を放して。』
そう言って、父親の手をふりほどく。
少年
『お父さん……!』
『もう…僕の試合に来ないで!!!』
父親
「…んな…?!」
父親は、驚きのあまり、固まる。
おとなしくて”従順な”息子が、
突然、自分へ歯向かったことに面食らう。
コーチ
(…よく言えた。勇気を出したね…!)
コーチは自分の言葉を飲み込み、
安堵の表情を浮かべる。
⇒【第3話(最終話):敗者復活戦の代打】へ続く
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【第2話:お父さんの期待】
今日もバッティングセンターに快音が響く。
常連の親子も来ている。
が、父親はいつにも増して厳しい。
息子は泣きそうになっている。
球速の遅いケージでもまったく打てない。
それを見た父親は、ますます怒り狂う。
どうやら、
息子はこの日の試合でヒットを打てず、
負けてしまったらしい。
しばらくして、親子が玄関へ出ていく。
いつもの”説教タイム”を過ぎても戻ってこない。
心配になったスタッフが様子を見に行く。
そこには、静かに涙する少年が1人。
父親の姿は見えない。
「しばらく反省しろ!」
という怒声が聞こえたので、
席を外しているんだろう。
スタッフA
『…ねぇキミ…大丈夫?これ使って?』
スタッフが少年に、ハンカチを差し出す。
少年
『…(ありがとうございます)…。』
少年は、か細い声でお礼を伝える。
スタッフB
『いつも練習見てるよ。』
『キミがすごく上手なこと、知ってるよ?』
少年は、溢れる涙をハンカチで拭う。
初めて、褒められたという涙に見える。
少年
『…僕が、悪いんです…。』
スタッフA
『…?!』
少年
『僕が打てなくて、試合に負けちゃって…。』
『お父さんの期待に…応えられなかった僕が、悪いんです…!!』
胸が張り裂けそうなくらい、心が痛む。
人さまの家庭とわかっていても、
怒りがこみ上げる。
どうして親は、
こんなことができるの?
あの父親は、
子どもにこんな我慢をさせてまで、
一体、何がほしいっていうの…?!
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今日は快晴。
グラウンドでは少年野球の試合が始まる。
1回表、
先攻のチームが満塁のチャンスを作る。
打席には4番バッターが立つ。
1球目、真ん中。
空振り。
チラッ
4番バッターは、観客席の最前列を見る。
父親
「よそ見するな!集中しろ!」
怒声が響く。
チームの主砲の背中が丸くなる。
2球目、甘いコース。
強振するも空振り。
チラッ
父親
「おい!打ちごろだぞ?!球をよく見ろ!」
怒声が響く。
チームの主砲は、怯えて目を伏せる。
3球目、明らかなボール球。
空振り、三振。
チラッ
父親
「ボール球に手を出すなよ…!」
「何やってんだ!?」
4番バッターはびくびくしながら、
ベンチへ戻っていく。
父親
「次のチャンスでは打てよ?!」
「オレが教えた通りにスイングしろ、いいな?!」
ベンチの屋根に隠れて、
観客席からは選手の様子が見えない。
だが観客席からの怒号は、
しっかりと選手たちに届いている…。
コーチ
『………。』
ーー
試合終了。
チームミーティングの後、
選手たちが解散していく。
グラウンドに残ったのは
チームのコーチと4番バッター。
そして、その父親。
父親
「今日の負けは、4番のお前の責任だ。」
うなだれる息子に、
父親は辛辣な言葉をぶつける。
父親
「打てなかった球は覚えてるな?」
「今からバッティングセンターで反省だ、行くぞ。」
父親は息子の手を引き、
立ち去ろうとする。
目に余る言動に、
コーチはついに我慢の限界を迎える。
コーチ
(お父さん、待ってください。)
(それはあまりにも…。)
コーチがそう言おうとした瞬間、
少年
『待ってください、コーチ!』
ずっと下を向いていた4番バッターが、
コーチを制止する。
少年
『お父さん、手を放して。』
そう言って、父親の手をふりほどく。
少年
『お父さん……!』
『もう…僕の試合に来ないで!!!』
父親
「…んな…?!」
父親は、驚きのあまり、固まる。
おとなしくて”従順な”息子が、
突然、自分へ歯向かったことに面食らう。
コーチ
(…よく言えた。勇気を出したね…!)
コーチは自分の言葉を飲み込み、
安堵の表情を浮かべる。
⇒【第3話(最終話):敗者復活戦の代打】へ続く
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