2023年07月27日
【短編小説】『もし自己肯定感の高さが見える世界になったら』2
⇒【第1話:行動心理学界の”iPhone”】からの続き
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<登場人物>
・沢田 イリス
主人公
23歳、身長145p
怖い父親の影響で、大人になっても男性恐怖に悩む
<この世界へ普及している発明品>
『プライド・ビューワー』
スイッチを入れると
相手の自尊心(自己肯定感)の高さが可視化される
高い⇒バスケットボールより大きく
低い⇒ゴルフボールより小さく
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【第2話:小心者とバレる世界】
相手の自尊心(自己肯定感)の高さがわかる
『プライド・ビューワー』は、
スマホよりも早く、全世界へ普及した。
私、沢田 イリスも、
男性恐怖を克服したくて
プライド・ビューワーを持ってみた。
ある朝、いつもの通勤電車で立っていると、
ドカッ!!
私の背筋が凍った。
これは…男性が荒々しく着席した音だ。
振り返ると、足を大きく広げて座る男性の姿があった。
イリス
(怖い…けど、もしかしたら…。)
私はそっと、プライド・ビューワーのスイッチを入れた。
すると、
イリス
「…あの男性の自尊心…あんなに小さいの…?!」
彼の胸のあたりには、
モデルガンの弾くらいの、小さな自尊心が映し出された。
心理解説機能をオンにし、イヤホンで聞いてみると、
AI
『足を広げて座るのは虚勢、もしくは自信のなさによる強い縄張り意識です。』
『相手に見くびられないため、自分を大きく見せています。』
イリス
「そっか…。確かに、自分の領域を主張してるようにも見える…。」
AI
『また、足を広げて男性器を目立たせるという性的アピールの意味もあります。』
『無意識に”自分に関心を向けてほしい欲求”が漏れています。』
イリス
「…///(照)…それは聞かない方がよかった(苦笑)」
「腕を組んでて、余計に強そうに見えるけど、あれは?」
AI
『腕を組むのは”本心を悟られたくない”心理です。』
『もしくは不安から、大事な胸部を包むように守りたい心理です。』
この日から、私は少しだけ、
電車で足を広げて座る男性が怖くなくなった。
ーー
<勤務先の書店>
イリス
「…!!あの人…また来た…。」
私がレジから離れた本棚で品出しをしていると、
件のクレーム男性が連日の来店。
やっぱりレジで文句を言っていた。
私は、震える背中にぐっと力を入れ、
プライド・ビューワーのスイッチを入れた。
今朝の電車にいた男性よりも、小さな自尊心が映し出された。
私の位置からは見えないくらい、小さな自尊心が。
AI
『立場の弱い人にしかイバれないのは、普段から抑圧されている反動です。』
『自分を出せず、小さく見せている鬱憤を、反撃してこない相手にぶつけるのです。』
イリス
「もしかして、女性と食事に行った先で、横柄な態度を取る男性も同じ?」
AI
『同じです。女性に自分の強さを誇示し、関心を引きたい心理も加わります。』
イリス
「そっか…。本当はあの人、何かに怯えてるのかな…。」
レジ対応した同僚も、駆けつけた店長も、
プライド・ビューワーのスイッチを入れたみたい。
2人とも、哀れみの表情で彼を見ていた。
その後、男性は警備員に連れ出された。
さすがにやり過ぎたのか、ふたたび来店することはなくなった。
ーー
終業後、私は書店のある繫華街をぶらぶらしていた。
幸せそうなカップルとすれ違うたびに思った。
イリス
「過去に1度でも告白をOKしてたら、私もあんなふうになれたのかな…。」
意味のない「ifの世界線」を思い描いた。
ただ、私に告白してきた男性はみな、短気で暴力的な人。
もしかして、これも自尊心の低さと関係あるの?
気になった私は、
プライド・ビューワーの心理解説機能をオンにした。
AI
『正確にはわかりません。』
イリス
(だよね。今さら何やってんだろ、私。)
AI
『ただ。』
イリス
「?!」
AI
『中には、”この人なら力で支配できる”と思った男性もいたでしょう。』
イリス
「やっぱり…。」
AI
『また、あなたのお父さんも暴力性が強い場合…。』
イリス
「?!どうしてわかるの…?」
AI
『あなた自身が、無意識に”そういう男性との関係が心地よい”ことも原因です。』
『何しろ、男性との”慣れ親しんだ関係”ですから。』
イリス
「私は、暴力的な男性との関係が心地よい?そんなわけ…。」
AI
『そのウラには、あなた自身の自尊心の低さがあります。』
『原因は、”私には誠実な男性から好かれる価値がない”という自己否定です。』
イリス
「?!……。」
私はおそるおそる、
プライド・ビューワーを自分へ向け、スイッチを入れた。
卓球のボールくらいの、小さな自尊心の球が浮かんできた。
図星…か。
私、自己否定が強いから、良い人に慣れてないんだ。
誠実な人と付き合いたいと思っていても、
無意識では居心地が悪かったんだ。
それなら、
自己否定をやめる努力をすれば、
私も幸せな恋愛ができるかも!
男性の怖い言動の心理もわかったし、
プライド・ビューワーって良いことずくめ!
このときの私は、
プライド・ビューワーのおかげで
人生が好転すると信じて疑わなかった。
どんな光にも影があることに、考えが及ばなかった。
⇒【第3話:自己否定と逆ギレの果てに】へ続く
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