2023年07月14日
【短編小説】『恋の麻酔と結婚教』3
⇒【第2話:売れ線 ≒ 結婚教信者向け?】からの続き
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<登場人物>
・白神 想虹亜(しらかみ そにあ)
主人公
20歳、大学生、文学部在籍
中学生時からWeb小説家として活動
・秋月 心楽(あきづき みらん)
主人公と同じ大学に通う幼馴染み
20歳、デザイン学部在籍
イラストレーター志望
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【第3話:空想に救われた少女】
<大学近くのカフェ>
心楽(みらん)
『で?!何があったの?正直に話してよ?』
私が小説執筆を休止して1ヶ月。
今日は親友の心楽(みらん)に、
行きつけのカフェへ呼び出されていた。
彼女は明らかに様子がおかしい私を気遣って、
外へ連れ出してくれた。
心楽(みらん)
『想虹亜(そにあ)が1ヶ月も小説を書かないなんて初めてだよね。』
『原因は書籍化の話がなくなったこと、ではないように見えるけど、どう?』
やっぱり親友には、お見通しだ。
私は心楽(みらん)に、すべての悩みを打ち明けた。
一般受けする”シアワセな恋愛”が書けないこと。
商業作家として致命的なのに、心は売れ線を拒んでいること…。
そして、
想虹亜(そにあ)
「実は、もうWeb小説家を辞めようと思ってるの…。」
心楽(みらん)
『…そっか。』
『想虹亜(そにあ)が悩んで決めた道なら、いいんじゃない?』
『人生、何も小説がすべてじゃないし。』
心楽(みらん)は、あっさりした口調でそう言った。
そう…だよね。
引き止められたいなんて、私のエゴ。
彼女は、私が決めた人生の選択を応援してくれただけ。
私がお礼を言おうとすると、
心楽(みらん)
『けどね。』
彼女は、これまでとは打って変わって、寂しそうな顔をした。
心楽(みらん)
『本当は、想虹亜(そにあ)が小説を辞めてしまうのは寂しい。』
『私がイラストレーターの夢を追い続けられるのは、想虹亜(そにあ)のおかげだから。』
想虹亜(そにあ)
「私のおかげ?どういうこと?」
心楽(みらん)
『出逢った頃、あんたは私の心を救ってくれた。』
『空想の世界へ行けば自由になれるって、教えてくれたでしょ?』
想虹亜(そにあ)
「…あ…!」
そうだ。
彼女も私と同じ、空想へ救いを求めた1人…。
ーーーーー
<十数年前:心楽(みらん)の回想>
心楽(みらん)の母
「普通にしなさい!」
「セケンサマに恥ずかしい…!」
「みんなと違うことはしないでちょうだい!」
私、秋月 心楽(あきづき みらん)の両親は、
世間体ばかり気にする人たちだった。
私は小さい頃から、絵を描くのが好きだった。
けど、
心楽(みらん)の父
「絵で食べていけるわけないだろ!」
「そんな不安定な仕事は許さん!」
心楽(みらん)の母
「絵なんか描いてるヒマがあるなら勉強しなさい!」
「良い大学に入って、良い会社に勤めなさい!」
親は”普通じゃない””世間体が悪い”という理由で、
私が絵を描くことを許さなかった。
「好きなことを見つけても、両親が気に入らなければ否定される…。」
そう思い知った私は無気力になり、
いつも教室の隅でじっとしていた。
そんな私は、
小学校のクラス替えで白神 想虹亜(しらかみ そにあ)と出逢った。
彼女も教室の隅で、静かに過ごしていた。
私と同じ、”諦観の空気”をまとって。
1つ違ったのは、彼女が黙々と何かを書いていたこと。
心楽(みらん)
『ねぇ、何書いてるの?』
私はその子が気になり、勇気を出して話しかけてみた。
想虹亜(そにあ)
「自分で作った物語を書いてるの。」
心楽(みらん)
『自分で作ったの?すごい!』
『ちょっと読ませてもらってもいい?』
想虹亜(そにあ)
「うん、恥ずかしいけど、いいよ。」
心楽(みらん)
『ありがと!』
これが、私たちの初めての会話。
私は、想虹亜(そにあ)が書いた小説に感動した。
物語はもちろん、すばらしかった。
それ以上に、まるで全身の鎖が解かれるようだった。
このとき、私は気づいた。
空想の中でなら、自由になれる。
どんな私を表現しても、両親に否定されないことに。
名前、想虹亜(そにあ)ちゃんっていうんだ。
この子、すごいなぁ。
私が諦めかけていた自由を、
彼女は手に入れようと、もがいている。
私も自己表現すれば、自由になれるかな…?
私、やっぱり絵を描きたい!
親は”ムダだ”と言う。
けど、やっぱり好きなことを諦めたくない!
<心楽(みらん)の回想終わり>
ーーーーー
想虹亜(そにあ)
「…あれが出逢いだったね、懐かしいね…。」
心楽(みらん)
『うん。だから想虹亜(そにあ)のおかげ。』
『それでね、ずっと目標にしてたんだ。』
『いつか、想虹亜(そにあ)の小説の表紙を描きたいって。』
想虹亜(そにあ)
「そうだったの?!」
「そんなこと、今まで一言も…。」
心楽(みらん)
『うん、言わなかった。』
『私にはまだ、想虹亜(そにあ)みたいな実力も実績もないし。』
『力不足の私が、想虹亜(そにあ)の足を引っ張りたくなかったの。』
想虹亜(そにあ)
「そんなことないよ!むしろ嬉しいよ!」
心楽(みらん)
『ありがと。』
『そんなわけで、今の私がいるのは想虹亜(そにあ)のおかげ。』
『いつか2人で作品を作るっていう目標を持たせてくれたから。』
想虹亜(そにあ)
「2人で作品を…。」
「けど、それを言ったら、今の私こそ力不足だよ…。」
心楽(みらん)
『恋愛小説への苦手意識?』
想虹亜(そにあ)
「うん…。」
心楽(みらん)
『私は十分、救われてきたよ。』
『読者に不評でも、私はもっと読みたい。お世辞なんかじゃない。』
『そして、いつか表紙を描きたい。その思いは変わってないよ。』
想虹亜(そにあ)
「…どうして…?あんなに”ウソっぽい幸せ”なのに…?」
心楽(みらん)
『あんた自身が、恋愛の先に幸せを見出せないのはムリない。』
『それでも、小説で結ばれる2人を見てると、こう思えるんだ。』
『私、”幸せな恋愛を諦めなくていいのかも”って。』
想虹亜(そにあ)
「諦めなくて…いい?」
心楽(みらん)
『うん。想虹亜(そにあ)はウソっぽく思ってもさ。』
『きっと、作者の葛藤を読み取って共感してる読者もいるよ。』
『むしろ、幸せ一色で完結する方がウソっぽい。』
『ぎこちない悩みがにじみ出てる方がいい、ってさ。』
想虹亜(そにあ)
「そっか…それなら、嬉しいな…。」
心楽(みらん)
『私はずっと、想虹亜(そにあ)の小説のファンだから。』
『売れなくても、人気がなくなっても変わらないよ。』
『もちろん、2人で作品を作りたい目標も!』
親友の言葉で、私は目が覚めた。
私のウソっぽくて、納得いかない恋愛小説でも、
誰かを救えていたんだ。
それに気づいた私は、自分に問い直した。
私は、誰かに認められるために小説を書いているの?
他人に認められない作品には、価値がないの?
基準は他人?
私にとって、小説は承認欲求を満たす道具?
想虹亜(そにあ)
「私は人気作家になりたいの?」
「それとも、物語を作るのが好きなの?」
私は…。
⇒【第4話(最終話):私自身でいるために】へ続く
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