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2023年07月13日

【短編小説】『恋の麻酔と結婚教』2

【MMD】Novel Koino Masui SamuneSmall2.png

【第1話:ずっと一緒 ≠ 幸せ】からの続き

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<登場人物>
白神 想虹亜(しらかみ そにあ)
 主人公
 20歳、大学生、文学部在籍
 中学生時からWeb小説家として活動

秋月 心楽(あきづき みらん)
 主人公と同じ大学に通う幼馴染み
 20歳、デザイン学部在籍
 イラストレーター志望
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



【第2話:売れ線 ≒ 結婚教信者向け?】



多くのラブストーリーの結末
「付き合い始めて、結婚して、ハッピーエンド」

それに納得いかないまま、
私の作家としての人気は高まっていく矛盾。

悶々と過ごしていた、ある日、
とある出版社から「書籍化」の話をいただいた。



ジャンルは恋愛モノ、結末は指定なし。
作品を見てから採否を判断するという。

出版オファー自体は、もちろん嬉しい。
ただ、私が苦手なジャンル指定。

素直に喜べないまま、
私が編集者に提出した「恋愛小説」は、



 ----------
 <あらすじ>

 交際期間の長い2人は倦怠期を迎える。
 乗り越えるため、もがき続ける2人だが、
 最後には別れてしまう。

 その後、実は2人とも、
 誰かといるより1人でいる時間の方が
 幸せを感じる人間だったことに気づき、
 人生の質を問い直していく。

 2人が同じ方向へ歩くことはできなかった。
 それでも、互いに”自分にとっての幸せ”を考えさせてくれた。
 これも1つの愛の形だったと、最愛のパートナーを想う。
 -----------




編集者
『うーん…何か…違いますね…。』
『ドキドキとか、キュンとする感情がほとんど含まれてない。』
『もう少し恥じらいとか、嫉妬とか、恋敵とか、入れてもらえませんか?』


想虹亜(そにあ)
「はぁ…。」


編集者
『それと、描写する期間も変えてもらいたいです。』
『できれば、2人が付き合うまでの過程。』
『もしくは結婚するまでの山あり谷ありを。』


想虹亜(そにあ)
「えっと、そこで完結させるんですか?」
「どうしてそこまでしか描かないんですか?」


編集者
『どうしてって…。』
『その期間が1番、恋愛の特別な刺激を感じられるからです。』
『多くの読者はそれを求めてるんです。』
『そこ以外をわざわざ見せる必要はない。』


想虹亜(そにあ)
「恋愛のドキドキって、ただの麻酔ですよね?」
「正気に戻る前に、大変な出産から子育てを一気にさせるための。」
「麻酔が効いてる期間を”幸せの絶頂”というのは違う気がします。」


編集者
『そうですが、”下降線”は見せなくていいんですよ。』


想虹亜(そにあ)
「えぇ…?下降線が人生の大半ですよ?!」
「熱が冷める前提で、良いパートナーシップを築く努力の方が大事です。」
「じゃないと、冷めて不仲になった両親に子どもが巻き込まれる悲劇が繰り返されます…。」
「私は、それを助長する”麻酔期間”を幸せと表現するのは違うと思います。」


編集者
『確かにそれは問題ですが、物語では”疑似恋愛の夢”を提供してほしいんです。』
『現実に疲れた人たちに、好きな人とずっと一緒にいられる幸せの感情を。』


想虹亜(そにあ)
「私、”ずっと一緒にいる幸せ”がわからないんです。」
「1人の方が幸せじゃないですか?誰にも縛られず、監視されず、自由でいられます。」


編集者
『確かに1人の時間も大切ですが…。』
『世の中には”誰かと一緒にいたい人”の方が多いんじゃないですか?』


想虹亜(そにあ)
「そうでしょうか…?」


編集者
『とにかく、”誰かと一緒にいたい人にとっての幸せ”を書いてほしいんですよ。』


想虹亜(そにあ)
「一緒にいられればいいのでしたら、事実婚にしません?」
「契約結婚するにしても、別居婚で十分じゃありませんか?」


編集者
『ダメですよ。セケンサマの”結婚規範”を逆なでするような設定はマズいです。』


想虹亜(そにあ)
「結婚規範?」


編集者
『”結婚はするべきもの”という宗教観念のことですよ。』
『この国は他国に比べて”結婚すべき”と思い込んでいる人の割合が高いんです。』
『だから事実婚や婚外子を受け入れられず、批判する人が未だに多いんです。』


想虹亜(そにあ)
「じゃあ、事実婚や別居婚がゴールの作品は売れにくいと…?」


編集者
『そういうことです。』
『だから、結婚式か婚姻届を”シアワセの証拠”として見せてほしいんです。』
『この国のマジョリティ”結婚教信者”に合わせて。』


想虹亜(そにあ)
「うーん…それだと作品自体が”迎合”になって、底が浅くなりません?」
「作者が幸せだと思ってないのに、ムリヤリ幸せなことにするのは、ちょっと…。」


編集者
『不本意なのはわかりますが、商売とはそういうものです。』
『事業を続けるためには、”その時代の読者が求めるもの”を出す必要があります。』
『クリエイターの白神さんなら、よくわかってるでしょう?』


想虹亜(そにあ)
「…それは…わかってます……。」




ここで私は、
「書きたくない物語を出すくらいなら、書籍化自体を諦める」
という、商談にあるまじき選択をしてしまった。

我ながら頑固で、もったいないと思う。

けど私は、自分がウソだと思う結末を、
登場人物たちに迎えさせたくないんだ。

恋愛の先に、
結婚の先に、

幸せなんて待ってるはずないんだから…。




ーーーーー



<十数年前:想虹亜(そにあ)の回想>

想虹亜(そにあ)の母
『アンタがいるせいで、パパと離婚できないんだから!』
『育ててやってるだけでもありがたいと思いな!』


想虹亜(そにあ)
「…ママ…ごめんなさい…。」


私が小さい頃から、
パパとママはケンカばかりしていた。

家には怒鳴り声が響き、
モノを投げつけ合って破片が散乱、なんてことが日常だった。

パパはだんだん家に帰って来なくなった。
ママは私に当たり散らしたり、部屋に閉じ込めたりした。

おばあちゃんに聞いた話では、
パパとママは交際数ヶ月で、いわゆる”でき婚”をしたらしい。

私が生まれた頃には、恋の熱はすっかり冷め、
そこからはケンカばかり。

でき婚したこと自体を責める気はない。
だけど、幼い私は板ばさみで、ただ辛かった。

せめて少しでも、
その後の長い夫婦生活のことを考えてほしかった。

親の後悔、怒り、憎しみ。
そのツケはぜんぶ、子どもに向かうんだから。




<想虹亜(そにあ)の回想終わり>

ーーーーー



そんな家庭環境で育った私は、恋愛や結婚に夢を見なくなった。

「永遠の愛なんて存在しない」
「恋の熱が冷めた後、子どもを言い訳にして離婚しない」
「結ばれることは”自分から自由を捨て、あの監獄へ入る行為”だ」


そう思うようになった。

多くのラブストーリーが
交際や結婚までしか描かれないことに納得いかないのは、
まるでその闇を隠されているように感じるから。

少子化対策、納税者の確保のため、
「焚き付けるだけ焚き付けて、結婚出産までこぎつけさせよう」
という悪意を読み取ってしまうから。

その後、冷めた親の板ばさみになる子どもが
どうなるかを描かないなんて卑怯だ。


だから私は書きたくない。



ただ、

編集者さんの言う通り、
”売る側”から求められるのは、その期間の疑似恋愛体験。

作家には、恋愛の麻酔が切れる前、
恋愛ホルモンが1番多く分泌される期間の話を書くことを求められる。


けど、私の心の奥底には、

恋人と結ばれる
⇒ずっと誰かに束縛される
⇒自由を奪われる恐怖


という図式が染み付いている。

それを払拭できないまま、
”シアワセな恋愛小説”が書けなければ、
市場から追い出されてしまうかもしれない…。



ーーーーー



私はどうすればいいの?

書籍化の話が流れてから、
私は何のために小説を書いているのかわからなくなった。

読者が望むものと、
自分が書きたいものとの折り合いが崩れ、
作品がちぐはぐになっていった。


落ちていく人気に焦り、
ハッピーエンドのラブストーリーをムリヤリ書き続けた。

が、それは人気取りのために、自分の長所を消しただけ。
結果が出るはずがない。

ついに他のジャンルも書けなくなり、
執筆の休止を発表した。



想虹亜(そにあ)
「もう…辞めようかな…。」


商業作家としてやっていくなら、売れ線が書けないのは致命的。
もし書けても、私自身にウソをつき続けることが苦しい。

私は目標を見失い、ふさぎ込んだ。
大学も休みがちになり、引きこもることが増えた。



【第3話:空想に救われた少女】へ続く

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自閉傾向の強い広汎性発達障害。鬱病から再起後、低収入セミリタイア生活をしながら好きなスポーツと創作活動に没頭中。バスケ・草野球・ブログ/小説執筆・MMD動画制作・Vroidstudioオリキャラデザインに熱中。左利き。 →YouTubeチャンネル
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