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2016年04月02日

雷霆の旋戟

少年が走る。閃光と共に鋭い切っ先が軍勢の中を走る。瞬く間にいくつもの首が落ちて、血しぶきが舞う。少年はその痩身に似合わぬ大振りの刃を回し、再び走り出す。

目指すは将校の首。「兄達の仇!」叫ぶ声は幼く甲高い。兵を切り捨て進むも将校に辿りつく前に軍勢に取り囲まれる。少年はいくつもの刃を受け、とうとうその場で命果ててしまう。

馬上から遺体となった少年を見下ろした将校は、部下達に「捨てろ」と一言命じ、その後黙って馬を走らせた。将校は止まらない。例え死したのが己の息子だとしても。

少年の死により将校の息子は残り3人。己が命を奪った者に家督を譲る馬鹿げた遊び。将校は血濡れの道を走りながら、いつか受けるであろう神の雷が早く我が身に訪れるよう願った。
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2016年04月01日

冥府の絶輪

少年が走る。閃光と共に鋭い切っ先が軍勢の中を走る。瞬く間にいくつもの首が落ちて、血しぶきが舞う。少年はその痩身に似合わぬ大振りの刃を回し、再び走り出す。

目指すは将校の首。「兄達の仇!」叫ぶ声は幼く甲高い。兵を切り捨て進むも将校に辿りつく前に軍勢に取り囲まれる。少年はいくつもの刃を受け、とうとうその場で命果ててしまう。

馬上から遺体となった少年を見下ろした将校は、部下達に「捨てろ」と一言命じ、その後黙って馬を走らせた。将校は止まらない。例え死したのが己の息子だとしても。

少年の死により将校の息子は残り3人。己が命を奪った者に家督を譲る馬鹿げた遊び。将校は血濡れの道を走りながら、いつか受けるであろう神の雷が早く我が身に訪れるよう願った。

2016年03月12日

フォウの爪


フォウ、とワン姉様が呼ぶ。
私の名前はワンでもゼロでもない。

一番でも二番でもないけれど、
それでも一番最後でもない。

私は優れている筈だ。私は勝っている、筈だ。
私の末の妹よりも、全て全て全て。

今日も眠る前に私は私である事を取り戻す。
それから冷たい布団で眠る。

2016年03月11日

封戒の冥王

命じてはならぬ。偉大な王ゆえ。

解いてはならぬ。邪悪なる力ゆえ。

戦ってはならぬ。強大な敵ゆえ。

触れてはならぬ。まだ小さな子供ゆえ。

2016年03月10日

狂王の玩具

その国は女王が治めていた。彼女は魔女だった。強大なる魔力で人民を統治し、圧政で苦しめ、意味もなく次々と虐殺して楽しんでいた。

しかし、女王は飽いていた。泣き叫ぶ人民を拷問し、怨嗟の声を聞きながら酒を飲む。それは楽しい事だったが、何事も同じ刺激が続くと飽きてしまうのだ。

何人もの勇者が私を滅ぼそうと城にやってきた。最初の2〜3人は楽しめたが今ではもうすっかりダメだ。奴らはあまりにも単調過ぎる。こっちは勇者に慣れ過ぎてしまった。

そうだ。私を討つ勇者がいないのであれば、その勇者を生み出せばいいのだ。強い子供を産めばいいのだ。母である私を滅ぼす程の力を持つ、おぞましい勇者を。

2016年03月09日

殺戮の茨姫

ラルララルララルララルラ
歌うよ歌うよ歌うよ歌うよ
海の歌を空の歌を願いの歌を祈りの歌を

クルリクルリクルリクルリ
踊るよ踊るよ踊るよ踊るよ
楽しい踊りを美しい踊りを悲しい踊りを醜い踊りを

ハアハハアハハアハハアハ
喘ぐよ喘ぐよ喘ぐよ喘ぐよ
雨の中で夢の中で戦いの中で快楽の中で

プスリプスリプスリプスリ
刺すよ刺すよ刺すよ刺すよ
その肌にその眼にその涙にその悲鳴に

2016年03月08日

騎兵長の鉄鎧

はい。私はどんな時代でも王に忠誠を尽くしておりました。どんなに過酷な戦場でも、どんなに無茶な命令でも、国家と王の為であればこの身を賭して王を守ってまいりました。

しかしその王は戦いの中で命を落とされてしまいました。まだ即位されたばかりのお若い王でしたから跡継ぎもおられません。一体私はどなたにお仕えすれば良いのでしょうか?

嘆いてばかりもいられませんね。私の仕事はこの国を守る事ですから。私の使命は王に仕える事ですから。

だから探しているのです。この鎧の中で砕け散った肉と骨の代わりになる人間を。私を着こなす事の出来る、新たな王を。

2016年03月07日

魔王の焔

呪詛の言葉は耳を蝕む。
正しさの影に隠れた憎悪は毒を孕む。

強すぎる光は視界を奪う。
自由と解放の大義の下に伸びる影の暗さよ。

永遠に続く絶望に声を失う。
一縷の希望も許さぬ絶対などあり得やしない。

喪失を埋めるように新しい正義が頭をもたげようとも、
再び戦乱の業火に焼き尽くされるのを待つばかり。

2016年03月06日

紺碧の腕

「歌うよ」「踊るよ」
「冷たい水の中で」「暗い海の底で」
「恋をしたから」「貴男に溺れたから」

「願うよ」「祈るよ」
「貴男の心が振り向く事を」「貴男の気持ちが溶ける事を」
「水の中で泳ぎながら」「海の流れに漂いながら」

「呪うよ」「泣くよ」
「私達が届かぬ場所で」「水の神の在らぬ場所で」
「素敵な声で甘えていたら」「他の女を抱いていたら」

「沈めるよ」「待つよ」
「貴男の目が閉じるまで」「貴男の息が止まるまで」
「私達の物にしたいから」「貴男達を滅ぼしたいから」

2016年03月05日

深紅閃

とある山に長く伸びた針を体中から生やした魔物がいた。触れるモノを全て傷つけてしまう魔物は、小さな白い鳥に出会う。鳥は枝にとまり魔物と会話した。魔物は白い小鳥に触れたかった。

やがて魔物は針を自ら取り除くことにした。針を一本抜いては血が流れ激痛が走る。魔物は叫んだ。七日間断続的に続く雄叫び。近隣の人々は山から聞こえるその咆哮に怯え続けた。

あの針だらけの呪われた魔物が近隣の村を襲うに違いない。村人達は発起し七日目の晩、山に武装して乗り込んだ。そこで村人が見たものは、辺りに散らばった恐ろしい量の針の山。

それから針山の中心で血まみれで息絶えている見知らぬ生き物。傍には小鳥が見知らぬ生き物の血で赤く染まった白い羽を広げ、優しく触れるように寄り添い、ピイとないていた。

2016年03月04日

聖帝の爪

緑豊かな生命溢れる土地に領土を広げた若い国があった。けれどそこはかつて壮絶な戦が繰り広げられた呪われた場所。年老いた家臣達は若く野心溢れる王を口々に諫めた。

「過去どのような戦があったとしても構わぬ。我が領土の糧となるのなら、茨の道であろうとも突き進むのみだ!」若き王は宣言し、土地を狙う数多の国と攻防戦を繰り広げた。

豊かな土地は確かに国の物資を満たし、民の暮らしも潤った。けれど終わらない戦に人々はやがて疲弊し、豊かな土地は変わらず恩恵を与えるも、間に合わず国の物資も徐々に失われていく。

民と国の一部を失い手ひどい爪痕を残した戦を経てもなお若き王は手放さなかった。愚王と誹りを受けようとも、国の為、民の為、約束の地を失うことはできなかった。続きはまた別のお話。

2016年03月03日

金剛華

岩山の痩せた土地に広がる貧しい村に、敬虔な修道女がいた。彼女の深く静かな祈りは貧困に喘ぐ村人達の心を癒やしていた。修道女の祈りは、村人の心に咲く可憐な花のようであった。

ある時、村に謎の奇病が流行し、罹患した人々は次第に黒ずむ体に成す術なく苦しみもがき死に絶えていった。修道女は祈った。祈り続けた。けれど伝染病は止まらない。

修道女が祈り始めた頃から、奇病で死した体から花が咲き始める。次々と倒れる中、遺体を苗床にするかの如く花は咲き続け、やがて濃厚な花の香りが村一帯を覆い尽くした。

それからどうなったのか、誰も知らない。だが、村があった場所には今でも季節を問わず大量の美しい花が咲き続けている。

2016年03月02日

氷衝の拳

彼女の瞳を見つめただろうか?
輝く虹を閉じ込めたように潤む瞳は魅惑の輝きを放ち、いとけなくも儚い鎖に囚われ逃げられず後はただ堕ちるだけ。

彼女の肌に触れただろうか?
真白の新雪のようにすべらかな肌は触れると融けるように柔く二度と手離せずその虜となり心が朽ち果てるのを待つばかり。

彼女の声を聞いただろうか?
桃の果実のように瑞々しく可憐な唇からもたらされる死の宣告は芳醇な美酒の香りさえ漂う背徳への誘い。

彼女に囚われた者は永遠に溶けない氷の中で命を捧げ続ける。
剣に血がこびりつき、拳が血に滲んでも戦うのは、彼女の為。死すら厭わぬ彼らに向かって、彼女は黙って微笑むばかり。

2016年03月01日

自虐の悦極

なんという事!
おやめください。そのような熱湯に浸けられては大火傷をしてしまうではありませんか!!酷すぎる!

ああっ、惨すぎるッ!
そのように固い鉄の棒で打ち据えられては、ただただ捨てられた犬のような悲鳴を上げるしかありません!!

くっ……!
それはサイズ的に大き過ぎますッ!それでは私が壊れてしまうではありませんか!?想像しただけで私は……もうッ!!

あ、それは無理です。

2016年02月14日

ファイブの槍


この世の中退屈なんてあるのかしら?ファイブとつくからには姉が5人。欲しいものは5つ。

ゼロお姉様は全て欲しいわ。だって強くて素敵なんですもの。ワンお姉様の知性は欲しいわ。あるに越したことはないもの。

トウお姉様からは眩しい笑顔が欲しいわ。私とは少し違う笑顔なんですもの。スリイお姉様からは手先の器用さかしら。あとはよく分からないもの。

フォウ姉様からは何を頂こうかしら。ふふ、ハジメテでもいいのだけど。ああでもそうね。私、やっぱり生きるのが楽しくてたまらないわ。
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