2019年08月11日
世界1周の旅:ヨーロッパ前編N ヴィゴ&ポルト ―― 巡礼後の骨休み
A voyage round the world : Europa Edition 1st part N Vigo & Porto −− a short break after pilgrimage【May 2011】
「文化の違いにたじろぐ I was puzzled by cultural deferences」
4月からスペインに約1か月半滞在した。この期間、私は自分が日本人である、ということのプラス面とマイナス面を強く感じることができた。
ヴィゴの中心地では、民族衣装を着た人々が踊っていた。
巡礼が終った後の約3日間、サンティアゴ・デ・コンポステーラから列車で約1時間、ポルトガルとの国境にも近い海辺の都市ヴィゴ Vigo で、友人カルロスの家に滞在し、スペイン流のもてなしを受けた。
カルロス一家
料彼とは巡礼の途中で知り合い、ランチをご馳走になった。たまたま日本語学校に通い、勉強中だった彼が日本人と出会えたことに狂喜し、巡礼が終ったら僕の住む街に遊びに来てくれと誘ってくれたのだ。
理上手の奥さんリタと中学生のウーゴ、小学生のセバスチャンと4人家族の彼の家は、ヴィゴ湾を望む高台の住宅地にあった。
カルロスは今失業中で、奥さんのリタがフランス語の先生として大学で教えて稼ぎ、カルロスは家で掃除や食事の用意など主夫のようなことをして過ごしているという。
だから私の滞在中も、昼間はカルロスが車で観光名所やとっておきの岬などを案内してくれ、昼頃には家族の食事を作りに家に戻り、みんなでランチを食べ、少しシエスタを取り体を休めて夕方からまたビーチや見晴らしスポットなどへ繰り出す、というライフスタイルだった。やっと日が沈む夜の10時頃、本格的に夕食を食べ始めるのだ。
楽しくもあり、厳しくもあった3日間、日本人の中でも人との接触が苦手で、カルロスいわく「心を閉ざす傾向がある」私には「他人に心を開く」ということがとても難しかった。
私がイギリスを好きなのは、個人の自由を尊重し、日本人が心地よいと感じる程度の距離を保ってくれるからだと思う。
左:カルロスと愛犬 右:北イタリアを代表する港湾都市ヴィゴ
イギリスでは、ホームステイ先でも、あまりお客様対応ではないかわりに、プライベートを尊重してくれる。でもカルロスは「ここはスペインなんだから、スペイン人のように心を開くべきだ」と主張した。確かに「郷に入っては郷に従え」という諺もあることだし、そうすべきなのだとわかってはいた。
だから私なりに努力はしたのだ。カルロスとしては、精いっぱい私をもてなしてくれたのだということはよくわかるが、私の側としては「連れ回された」感が強い。
カルロスが通う日本語クラスにまで連れていかれたのには内心ウンザリした。日本人などめったに見ることのないヴィゴで、日本人のトモダチを見せびらかしたいかのような浮かれた彼の様子に、私は自分が見世物にされた気がしたことは否定できない。その後、クラスの先生(日系二世の女性)と卒業生が集う飲み会にまで参加することとなった。
しかし考えてみれば、それこそが旅なのかもしれない。『なんでも見てやろう』の小田実さんのように、誘われればどこへでも行き、誰とでもトモダチになってしまう。
旅の醍醐味は何もそこにしかない名所を見て、そこでしか食べられないものを食べることが全てではない。むしろ、そこで出会った人々との交流こそが海外を旅するうえで一番貴重な体験なのかもしれない。
だから、現地のいろんな人々と引き合わせてくれたカルロスに、感謝すべきなのだ。人と関わることで、ひとりでいてはわからないその国の姿が見えて来るのだから。
ありがとう、カルロス!!
一般的なスペイン人の特徴
スペイン人の特徴をよく表す出来事があった。
いつものようにカルロスのお勧めスポットへ向かう車の中で、日差しがかなり強烈だったので、帽子を被ったら、そのことが彼の気に入らなくて、不機嫌になったのだ。
彼は私の行為を「しゃべりたくない」という拒絶と受け止めて寂しかったのだという。帽子ひとつ被るのにも「眩しいから被るね」と断わらなければならないのだろうか。拗ねた子供のような態度の彼に、私は正直呆れてしまった。
カルロスは、顔や目を見て話さないと必要以上に顔を近付けて覗き込んでくるし、もともと近すぎるのにさらに距離を縮めてくるのには参った。ガイドブックには「スペイン人は他人に体を触れられるのを好まない」と書いてあったが、あれは嘘だ。ハグの動作だけならいいのだが、いちいち「見て!」と言っては手や腕に触れられるのは、正直かなりの苦痛だった。
日本語クラスの飲み会に行った時も、若い男性にハグされ、両頬にキスを受けたときは内心かなり引いていた…。簡略化されたキスと軽いハグ、もしくは握手のみで済ませるイギリスと違い、スペインでは今でもそれは初めて会う人への正式な挨拶であり、先方としては礼儀正しく接したにすぎない。恐らく彼は、日本人にそうしたスキンシップの習慣がないことを知らないのだろう。
そういった習慣に関しては、ヨーロッパだけでなく北米でも戸惑うことは多々あった。それは後々書くとして、ここでは典型的なスペイン人について書こう。
スペイン人は車の運転の荒さや、強引さでもわかるように、気が短い血の気の多い国民で、交差点でもものすごいスピードで突っ込んでくる車やそのたびに聞かれるカルロスの舌打ちは、いつも私をイラつかせた。
スペインのみならず西欧諸国では、意思表示(特に言葉での)は大前提で、日本人特有の「どちらでも」とか「みんなに合わせる」という概念は無いに等しく、そうした曖昧な態度や相手に選択を委ねる、ということは許されない。
それは彼らにとって明らかに軽蔑の対象となる。「曖昧さ」や「周囲に合わせる」ことを美徳とする日本人にとって欧米人と付き合ううえで最も苦しむのはその点ではないだろうか。
ポルトガルでもそれはやはり同じで、カフェに入ってもオーダーを取りに来てくれるのをじっと待っていたのでは、恐らく一生来てくれない。もちろん挨拶の一言もなくフラッと入店するなど問題外だ。それだけで向こうにとってのこちらの印象は最悪になる。だからこそこちらから声をかけた時の、打って変わった笑顔の対応には驚いてしまう。
困惑必至!スペインの食事情
結果的にヴィゴで過ごした3日間、カルロスの歓待によりほとんどお金を遣わなかったのでかなり助かったのだが、お料理には参った…。
カルロス一家はそんなに量を食べないが、私のためにとても手の込んだものを時間をかけて用意してくれるし、美味しいからたくさん食べてしまい、胃の大きさが二倍になったのでは、と感じるほどだ。
リタが作ってくれたフラン(スペインのプリン)、絶品だったなぁ〜。カラメルの浸みこんだ濃厚チーズケーキのような味なんだけどしつこくない。だからいくらでも食べられちゃう、と思えるほど、今まで食べたプリンの中でもダントツの1位!
また恐ろしいのは食事の時間で、ランチは2時から4時、夕食に至っては9時からが普通。
夜7時を過ぎないとレストラン自体がオープンしないのだ。7時オープンの店などまだ早い方で、その時間にレストランに行ってもガラガラだし、ほとんどのメニューがまだ用意されていない。
子供も同じ時間に食べ始めるが、途中で自分たちの分の皿を下げてお休みとなる。その後、大人たちはワインを片手に延々2,3時間お喋りに興じながら食べ続けるのだ。恐るべし、スペイン人…
ちょっとポルトガルまで
ある夕方、家族揃って皆で国境を越えたポルトガルの古い街Ponte de Limaへ、まさにハイウェイをぶっ飛ばして行く。
夜10時過ぎまで明るいので、午後4時頃出かけても充分時間があるのだ。旧市街の広場に並ぶカフェには人が鈴なり。私達も何とか席を見つけて夕涼みをしながらお茶をした。(写真左)
この街はリスボンからの巡礼路(ポルトガルの道)上にあるので、アルベルゲを示す標識に出くわした。(写真右)
スペインにシエスタ(午睡)の習慣があるのは、最も暑い午後の時間帯に働かないという意味と、夜の食事の時間を楽しむため、という意味があるのだった。
確かに、あんな深夜まで飲み食いした後に眠り、翌朝は普通に9時頃出勤しなければならないのだから、午睡が必要な訳だ…。寝る前にパンやチーズ、デザートを大量に摂取するのだから、欧米人が太るのも無理はない。
私も三日三晩その彼らと同じサイクルだったため、巡礼で歩いて痩せたはずが、激太り状態。巡礼中も疲れるからと、コーヒーやティーに砂糖を入れる習慣がついてしまい、チョコレートを食べる機会が日本より少なかったにもかかわらず糖分の摂り過ぎ。日焼けと激太りで、本来の自分がどんな姿だったか思い出せない始末だ。
なのに巡礼初期の頃一度急激に痩せた時にしぼんだ胸は太っても戻らないので、貧乳へと驚くほどの変化。それが、私にとってこの旅一番の悲劇だった…。
「スペインは本当に貧しい国なのか? Is Spain really poor country?」
スペインを旅していて、ずっと不思議だったことがある。それは、平日の日中に出歩いている人多すぎる、ということだ。出歩いているというより、遊んでいる、という方がふさわしいかもしれない。
昼間からブラブラする人々
カルロスに連れられてヴィゴの観光名所、カストロ城へ行った時のことだ。
まず車を止める場所がない。駐車場は満車なのでどうするのかと思ったら、彼は隣接する公園内を通る道路に路上駐車している車の群れの中にひょいっとランドローバーを入れてしまったのだ。
路上駐車された車たちは、どうやって出るのだろうと首を傾げたくなるほど隙間なくびっしりと並んでいる。運転の苦手な私などは、なんて運転技術の高い国民なんだろうと、感心してしまったほどだ。
カルロスいわく「だから車をこすったなどのトラブルが絶えない」のだそうだ。
そういうことかいっ
カストロ城の周辺を散策したあと海岸へ移動すると、そこにもびっしりと路上駐車の列が。そして海辺のレストランやカフェにはまだ夕方だというのに、ビールやカクテル片手のラフな服装をした若者たちが物憂い表情で話したり、海を眺めたりしている。
一瞬ここはお金持ちがバカンスを楽しむニースやカンヌといったリゾートかと思ってしまったほどである。学生ではなく、明らかに三十代から五十代の働き盛りの男性が多いのだ。公園、海辺、街中…どこへ行ってもその状況は変わらず、スーツ姿の人間を見つけることの方が困難であった。
日本の平日の都市部を思い浮かべてほしい。日のまだ高い昼間に映画館や公園で見かけるのは、暇を持て余す主婦の群れか退職した老人たち、もしくは時間に余裕のある大学生くらいなものだ。
スーツ姿の働き盛りの人間はビジネスバッグを片手に足早に歩き、ランチといえどもほんの数十分でかきこみ、忙しそうに飛び出していく…。その光景を見慣れている私にとって、スペインでのあまりに時間を持て余したような大量の若者たちの姿は、かなり異様に映った。
カルロスに彼らの正体について尋ねてみると、答えは失業者。
「皆、職がないんだ」
不機嫌そうにそう言ったカルロス自身、働いていたアパレルメーカーを解雇されて以来仕事がみつからず、ここしばらく家事しかしていない。巡礼も、仕事がなくて時間ができたので思い立ったのだという。
その裏側にあるものは?
しかし、次に続く疑問は「では一体、一日中外で飲み食いするお金はどこから出てくるのか」ということだった。
仕事がないならば当然収入はないはずなのに、海辺のレストランでユーロになってから跳ね上がったという物価でのビール代や外食費を皆どうやって捻出しているのだろう。私にはどう見ても彼らがお金に困っているようには見えなかった。
巡礼中に通り過ぎた北部スペインの貧しい村々とは違い、ヴィゴはスペインでも指折りの都会である。夜ともなれば街中をフィアット、アルファ・ロメオ、ルノー、フォルクス・ワーゲンなどヨーロッパの高級車が恐ろしいスピードで疾走し、レストランにはアルコールの入った陽気な人々が溢れる。
そんな都会で暮らすには、さぞかしお金がかかるだろう。ヴィゴの中心部まで車で20分程度の高台にあるカルロスの家も、バスタブはあるし、シャワーからもちゃんとたっぷりのお湯が出る快適な家で、日本の一般家庭と変わらない水準だと感じた。これが本当に貧しいといわれる国なのだろうか、と思う生活レベルだった。
だが現実は、スペインの失業率は25パーセント、25歳未満の若者に至っては52パーセントが失業中というのだから、その深刻さは日本の比ではない。それでも、ビールやワインの国民一人当たりの消費量とエンゲル係数は、絶対に日本より数倍高いはずだ。スペインは、ヨーロッパの中でもイギリスやフランスといった先進国からは、貧しい国として見られている。
フランスへ出稼ぎに来る労働者たちを描いた『屋根裏部屋のマリアたち』というフランス映画を見てもわかるが、特にフランスのセレブにとってスペイン人というのは、貧しいくせにシエスタばかり取ってロクに働かない怠け者、というイメージがあるようだ。
国境付近に架かる鉄道橋。ポルトガル側にあるので、アズレージョのようなブルーの装飾が施された芸術的な鉄橋。家族でポルトガル国境の町へドライブした翌日、私は列車でこの橋を渡りポルトへ向かった。
(ポルトへの旅はこちら。)
スペイン人のライフスタイル
確かに、スペインを旅して私が最も驚いたのは、彼らのライフスタイル、特にシエスタ(午睡)の習慣だった。カトリックの国なので、日曜日に働かないのは当然としても、午後2時から5時頃までのシエスタの時間に、ことごとく公共サービス機関が閉まってしまうのには本当に言いようのない怒りを感じた。
巡礼の期間を通してようやくその習慣にも慣れたが、最初の頃はどこへ行ってもその時間はすべての観光施設をはじめ、お店から教会から観光案内所まであらゆる場所の扉が閉ざされるので、頻繁に荷物を抱えて悪態をつきながら歩きまわったものだ。万が一扉が開いていても、クローズの時間だから、と係員は接客を拒否するのだ。
「お客様が第一」「サービスの基本は接客」という大前提のもとに営業する日本のサービス業とは対極にあるのがスペイン、及びポルトガルのサービス業界だといえる。
商売する気あんのかーっ、と何度叫びたくなったかわからない…
しかし不思議なのは、それで人々の生活が成り立つものだろうか、という疑問である。
日本のようにフルタイムで働けば一日8時間の週5日勤務で週40時間は働いていることになる。それが普通だ。
しかし、どう考えてもスペイン人の労働時間は一日5,6時間程度。あれだけ一日中食べて飲んでいる国民が、ましてや失業中の人がおおっぴらにビールなど飲んでいるのが当たり前な国って一体…、失業保険があるとして、それって一体どんだけ国費を圧迫しているんだろう…と謎は深まるばかり。
そのあたりの細かい事情は、カルロス自身が失業者なので彼に尋ねるのは気が引けてわからずじまいだったが、スペインの犯罪率の高さは、そんなところからも来ているのかもしれない、という気がした。
日本と違って子供にバカ高い教育費がかかるわけでもなさそうなスペインでは、呑んで食べて喋ることだけが唯一の幸せであり、お金をかけるべきものなのかもしれない。
今が楽しければそれでいい、それこそが生きている証,みたいな…。(ある意味羨ましい…)
真相はどうあれ、この深刻で根の深い問題に、久々にカルチャーショックという言葉を思い出した私だった。
★『世界1週の旅:ヨーロッパ後編@』へ続く…
「文化の違いにたじろぐ I was puzzled by cultural deferences」
4月からスペインに約1か月半滞在した。この期間、私は自分が日本人である、ということのプラス面とマイナス面を強く感じることができた。
ヴィゴの中心地では、民族衣装を着た人々が踊っていた。
巡礼が終った後の約3日間、サンティアゴ・デ・コンポステーラから列車で約1時間、ポルトガルとの国境にも近い海辺の都市ヴィゴ Vigo で、友人カルロスの家に滞在し、スペイン流のもてなしを受けた。
カルロス一家
料彼とは巡礼の途中で知り合い、ランチをご馳走になった。たまたま日本語学校に通い、勉強中だった彼が日本人と出会えたことに狂喜し、巡礼が終ったら僕の住む街に遊びに来てくれと誘ってくれたのだ。
理上手の奥さんリタと中学生のウーゴ、小学生のセバスチャンと4人家族の彼の家は、ヴィゴ湾を望む高台の住宅地にあった。
カルロスは今失業中で、奥さんのリタがフランス語の先生として大学で教えて稼ぎ、カルロスは家で掃除や食事の用意など主夫のようなことをして過ごしているという。
だから私の滞在中も、昼間はカルロスが車で観光名所やとっておきの岬などを案内してくれ、昼頃には家族の食事を作りに家に戻り、みんなでランチを食べ、少しシエスタを取り体を休めて夕方からまたビーチや見晴らしスポットなどへ繰り出す、というライフスタイルだった。やっと日が沈む夜の10時頃、本格的に夕食を食べ始めるのだ。
楽しくもあり、厳しくもあった3日間、日本人の中でも人との接触が苦手で、カルロスいわく「心を閉ざす傾向がある」私には「他人に心を開く」ということがとても難しかった。
私がイギリスを好きなのは、個人の自由を尊重し、日本人が心地よいと感じる程度の距離を保ってくれるからだと思う。
イギリスでは、ホームステイ先でも、あまりお客様対応ではないかわりに、プライベートを尊重してくれる。でもカルロスは「ここはスペインなんだから、スペイン人のように心を開くべきだ」と主張した。確かに「郷に入っては郷に従え」という諺もあることだし、そうすべきなのだとわかってはいた。
だから私なりに努力はしたのだ。カルロスとしては、精いっぱい私をもてなしてくれたのだということはよくわかるが、私の側としては「連れ回された」感が強い。
カルロスが通う日本語クラスにまで連れていかれたのには内心ウンザリした。日本人などめったに見ることのないヴィゴで、日本人のトモダチを見せびらかしたいかのような浮かれた彼の様子に、私は自分が見世物にされた気がしたことは否定できない。その後、クラスの先生(日系二世の女性)と卒業生が集う飲み会にまで参加することとなった。
しかし考えてみれば、それこそが旅なのかもしれない。『なんでも見てやろう』の小田実さんのように、誘われればどこへでも行き、誰とでもトモダチになってしまう。
旅の醍醐味は何もそこにしかない名所を見て、そこでしか食べられないものを食べることが全てではない。むしろ、そこで出会った人々との交流こそが海外を旅するうえで一番貴重な体験なのかもしれない。
だから、現地のいろんな人々と引き合わせてくれたカルロスに、感謝すべきなのだ。人と関わることで、ひとりでいてはわからないその国の姿が見えて来るのだから。
ありがとう、カルロス!!
一般的なスペイン人の特徴
スペイン人の特徴をよく表す出来事があった。
いつものようにカルロスのお勧めスポットへ向かう車の中で、日差しがかなり強烈だったので、帽子を被ったら、そのことが彼の気に入らなくて、不機嫌になったのだ。
彼は私の行為を「しゃべりたくない」という拒絶と受け止めて寂しかったのだという。帽子ひとつ被るのにも「眩しいから被るね」と断わらなければならないのだろうか。拗ねた子供のような態度の彼に、私は正直呆れてしまった。
カルロスは、顔や目を見て話さないと必要以上に顔を近付けて覗き込んでくるし、もともと近すぎるのにさらに距離を縮めてくるのには参った。ガイドブックには「スペイン人は他人に体を触れられるのを好まない」と書いてあったが、あれは嘘だ。ハグの動作だけならいいのだが、いちいち「見て!」と言っては手や腕に触れられるのは、正直かなりの苦痛だった。
カルロスは良い人だけど、男性に触れられるのには、やはり抵抗がある。日本語学校でこそ、「日本人女性は他人に触れられるのが嫌い」と教えるべきだ。 右:カルロスが案内してくれた穴場的砂浜。彼のお気に入りの場所で、一人になりたい時に来るのだそう。 |
日本語クラスの飲み会に行った時も、若い男性にハグされ、両頬にキスを受けたときは内心かなり引いていた…。簡略化されたキスと軽いハグ、もしくは握手のみで済ませるイギリスと違い、スペインでは今でもそれは初めて会う人への正式な挨拶であり、先方としては礼儀正しく接したにすぎない。恐らく彼は、日本人にそうしたスキンシップの習慣がないことを知らないのだろう。
そういった習慣に関しては、ヨーロッパだけでなく北米でも戸惑うことは多々あった。それは後々書くとして、ここでは典型的なスペイン人について書こう。
スペイン人は車の運転の荒さや、強引さでもわかるように、気が短い血の気の多い国民で、交差点でもものすごいスピードで突っ込んでくる車やそのたびに聞かれるカルロスの舌打ちは、いつも私をイラつかせた。
スペインのみならず西欧諸国では、意思表示(特に言葉での)は大前提で、日本人特有の「どちらでも」とか「みんなに合わせる」という概念は無いに等しく、そうした曖昧な態度や相手に選択を委ねる、ということは許されない。
それは彼らにとって明らかに軽蔑の対象となる。「曖昧さ」や「周囲に合わせる」ことを美徳とする日本人にとって欧米人と付き合ううえで最も苦しむのはその点ではないだろうか。
ポルトガルでもそれはやはり同じで、カフェに入ってもオーダーを取りに来てくれるのをじっと待っていたのでは、恐らく一生来てくれない。もちろん挨拶の一言もなくフラッと入店するなど問題外だ。それだけで向こうにとってのこちらの印象は最悪になる。だからこそこちらから声をかけた時の、打って変わった笑顔の対応には驚いてしまう。
困惑必至!スペインの食事情
結果的にヴィゴで過ごした3日間、カルロスの歓待によりほとんどお金を遣わなかったのでかなり助かったのだが、お料理には参った…。
カルロス一家はそんなに量を食べないが、私のためにとても手の込んだものを時間をかけて用意してくれるし、美味しいからたくさん食べてしまい、胃の大きさが二倍になったのでは、と感じるほどだ。
リタが作ってくれたフラン(スペインのプリン)、絶品だったなぁ〜。カラメルの浸みこんだ濃厚チーズケーキのような味なんだけどしつこくない。だからいくらでも食べられちゃう、と思えるほど、今まで食べたプリンの中でもダントツの1位!
また恐ろしいのは食事の時間で、ランチは2時から4時、夕食に至っては9時からが普通。
夜7時を過ぎないとレストラン自体がオープンしないのだ。7時オープンの店などまだ早い方で、その時間にレストランに行ってもガラガラだし、ほとんどのメニューがまだ用意されていない。
子供も同じ時間に食べ始めるが、途中で自分たちの分の皿を下げてお休みとなる。その後、大人たちはワインを片手に延々2,3時間お喋りに興じながら食べ続けるのだ。恐るべし、スペイン人…
ちょっとポルトガルまで
ある夕方、家族揃って皆で国境を越えたポルトガルの古い街Ponte de Limaへ、まさにハイウェイをぶっ飛ばして行く。
この街はリスボンからの巡礼路(ポルトガルの道)上にあるので、アルベルゲを示す標識に出くわした。(写真右)
スペインにシエスタ(午睡)の習慣があるのは、最も暑い午後の時間帯に働かないという意味と、夜の食事の時間を楽しむため、という意味があるのだった。
確かに、あんな深夜まで飲み食いした後に眠り、翌朝は普通に9時頃出勤しなければならないのだから、午睡が必要な訳だ…。寝る前にパンやチーズ、デザートを大量に摂取するのだから、欧米人が太るのも無理はない。
私も三日三晩その彼らと同じサイクルだったため、巡礼で歩いて痩せたはずが、激太り状態。巡礼中も疲れるからと、コーヒーやティーに砂糖を入れる習慣がついてしまい、チョコレートを食べる機会が日本より少なかったにもかかわらず糖分の摂り過ぎ。日焼けと激太りで、本来の自分がどんな姿だったか思い出せない始末だ。
なのに巡礼初期の頃一度急激に痩せた時にしぼんだ胸は太っても戻らないので、貧乳へと驚くほどの変化。それが、私にとってこの旅一番の悲劇だった…。
「スペインは本当に貧しい国なのか? Is Spain really poor country?」
スペインを旅していて、ずっと不思議だったことがある。それは、平日の日中に出歩いている人多すぎる、ということだ。出歩いているというより、遊んでいる、という方がふさわしいかもしれない。
昼間からブラブラする人々
カルロスに連れられてヴィゴの観光名所、カストロ城へ行った時のことだ。
まず車を止める場所がない。駐車場は満車なのでどうするのかと思ったら、彼は隣接する公園内を通る道路に路上駐車している車の群れの中にひょいっとランドローバーを入れてしまったのだ。
路上駐車された車たちは、どうやって出るのだろうと首を傾げたくなるほど隙間なくびっしりと並んでいる。運転の苦手な私などは、なんて運転技術の高い国民なんだろうと、感心してしまったほどだ。
カルロスいわく「だから車をこすったなどのトラブルが絶えない」のだそうだ。
そういうことかいっ
そして周りを見回すとまだ午後3時頃だというのに、老若男女が公園内の芝生でゆっくりと寝そべったり、話に興じていたりする。まるで日曜日の光が丘公園のように。 左:砂浜もこの通り。まだ5月なのに…、しかも平日の午後3時だよ! |
カストロ城の周辺を散策したあと海岸へ移動すると、そこにもびっしりと路上駐車の列が。そして海辺のレストランやカフェにはまだ夕方だというのに、ビールやカクテル片手のラフな服装をした若者たちが物憂い表情で話したり、海を眺めたりしている。
一瞬ここはお金持ちがバカンスを楽しむニースやカンヌといったリゾートかと思ってしまったほどである。学生ではなく、明らかに三十代から五十代の働き盛りの男性が多いのだ。公園、海辺、街中…どこへ行ってもその状況は変わらず、スーツ姿の人間を見つけることの方が困難であった。
日本の平日の都市部を思い浮かべてほしい。日のまだ高い昼間に映画館や公園で見かけるのは、暇を持て余す主婦の群れか退職した老人たち、もしくは時間に余裕のある大学生くらいなものだ。
スーツ姿の働き盛りの人間はビジネスバッグを片手に足早に歩き、ランチといえどもほんの数十分でかきこみ、忙しそうに飛び出していく…。その光景を見慣れている私にとって、スペインでのあまりに時間を持て余したような大量の若者たちの姿は、かなり異様に映った。
カルロスに彼らの正体について尋ねてみると、答えは失業者。
「皆、職がないんだ」
不機嫌そうにそう言ったカルロス自身、働いていたアパレルメーカーを解雇されて以来仕事がみつからず、ここしばらく家事しかしていない。巡礼も、仕事がなくて時間ができたので思い立ったのだという。
その裏側にあるものは?
しかし、次に続く疑問は「では一体、一日中外で飲み食いするお金はどこから出てくるのか」ということだった。
仕事がないならば当然収入はないはずなのに、海辺のレストランでユーロになってから跳ね上がったという物価でのビール代や外食費を皆どうやって捻出しているのだろう。私にはどう見ても彼らがお金に困っているようには見えなかった。
巡礼中に通り過ぎた北部スペインの貧しい村々とは違い、ヴィゴはスペインでも指折りの都会である。夜ともなれば街中をフィアット、アルファ・ロメオ、ルノー、フォルクス・ワーゲンなどヨーロッパの高級車が恐ろしいスピードで疾走し、レストランにはアルコールの入った陽気な人々が溢れる。
そんな都会で暮らすには、さぞかしお金がかかるだろう。ヴィゴの中心部まで車で20分程度の高台にあるカルロスの家も、バスタブはあるし、シャワーからもちゃんとたっぷりのお湯が出る快適な家で、日本の一般家庭と変わらない水準だと感じた。これが本当に貧しいといわれる国なのだろうか、と思う生活レベルだった。
だが現実は、スペインの失業率は25パーセント、25歳未満の若者に至っては52パーセントが失業中というのだから、その深刻さは日本の比ではない。それでも、ビールやワインの国民一人当たりの消費量とエンゲル係数は、絶対に日本より数倍高いはずだ。スペインは、ヨーロッパの中でもイギリスやフランスといった先進国からは、貧しい国として見られている。
フランスへ出稼ぎに来る労働者たちを描いた『屋根裏部屋のマリアたち』というフランス映画を見てもわかるが、特にフランスのセレブにとってスペイン人というのは、貧しいくせにシエスタばかり取ってロクに働かない怠け者、というイメージがあるようだ。
国境付近に架かる鉄道橋。ポルトガル側にあるので、アズレージョのようなブルーの装飾が施された芸術的な鉄橋。家族でポルトガル国境の町へドライブした翌日、私は列車でこの橋を渡りポルトへ向かった。
(ポルトへの旅はこちら。)
スペイン人のライフスタイル
確かに、スペインを旅して私が最も驚いたのは、彼らのライフスタイル、特にシエスタ(午睡)の習慣だった。カトリックの国なので、日曜日に働かないのは当然としても、午後2時から5時頃までのシエスタの時間に、ことごとく公共サービス機関が閉まってしまうのには本当に言いようのない怒りを感じた。
巡礼の期間を通してようやくその習慣にも慣れたが、最初の頃はどこへ行ってもその時間はすべての観光施設をはじめ、お店から教会から観光案内所まであらゆる場所の扉が閉ざされるので、頻繁に荷物を抱えて悪態をつきながら歩きまわったものだ。万が一扉が開いていても、クローズの時間だから、と係員は接客を拒否するのだ。
「お客様が第一」「サービスの基本は接客」という大前提のもとに営業する日本のサービス業とは対極にあるのがスペイン、及びポルトガルのサービス業界だといえる。
商売する気あんのかーっ、と何度叫びたくなったかわからない…
しかし不思議なのは、それで人々の生活が成り立つものだろうか、という疑問である。
日本のようにフルタイムで働けば一日8時間の週5日勤務で週40時間は働いていることになる。それが普通だ。
しかし、どう考えてもスペイン人の労働時間は一日5,6時間程度。あれだけ一日中食べて飲んでいる国民が、ましてや失業中の人がおおっぴらにビールなど飲んでいるのが当たり前な国って一体…、失業保険があるとして、それって一体どんだけ国費を圧迫しているんだろう…と謎は深まるばかり。
そのあたりの細かい事情は、カルロス自身が失業者なので彼に尋ねるのは気が引けてわからずじまいだったが、スペインの犯罪率の高さは、そんなところからも来ているのかもしれない、という気がした。
日本と違って子供にバカ高い教育費がかかるわけでもなさそうなスペインでは、呑んで食べて喋ることだけが唯一の幸せであり、お金をかけるべきものなのかもしれない。
今が楽しければそれでいい、それこそが生きている証,みたいな…。(ある意味羨ましい…)
真相はどうあれ、この深刻で根の深い問題に、久々にカルチャーショックという言葉を思い出した私だった。
★『世界1週の旅:ヨーロッパ後編@』へ続く…
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