2020年10月04日
富士通、東証システムで3度目の失態 DX営業に暗雲
日経電子版
富士通、東証システムで3度目の失態 DX営業に暗雲
東証システム障害 ネット・IT エレクトロニクス2020/10/2 11:30 (2020/10/2 18:05更新)日本経済新聞 電子版
日本株の売買インフラを担う東京証券取引所で1日、異例のシステム障害が発生した。引き金となった基幹システム「アローヘッド」の設計・開発を手掛ける富士通の東証のシステムを巡る大きな失態は、2005年、12年に続き3度目。足元では、デジタルトランスフォーメーション(DX)企業への転身を掲げて業績は堅調だが、信用が揺らぎ失速しかねない。
■「なぜ繰り返しこうなったのか」
「なんで繰り返しこうなっちゃったのか」。1日夜、富士通のある幹部は思わずこう漏らした。東証のシステムを巡っては、05年に富士通のシステムエンジニア(SE)によるプログラミング設定のミスが原因となり、全銘柄の取引が停止。12年には、株価情報配信システムのサーバー故障をきっかけに大規模なシステム障害が発生した。
特に12年は故障を告げる信号が配信されず、予備機に切り替えることができないまま一部の売買が停止した。今回も富士通製のストレージ(外部記憶装置)「エターナス」のメモリー部分が故障し、本来は自動で切り替わるはずのバックアップが作動しなかったことが原因とされる。12年の教訓を生かせなかったとも言える。
長く業績が低迷した富士通はパソコンやスマートフォン事業を売却し、構造改革にめどをつけた。19年に富士通の社長に就いた時田隆仁氏は、自らジーパン姿で出勤するなど企業文化を含めた変革に乗り出した。自社のDX改革に積極的に取り組み、それを外販していく戦略はうまくいき始めていた。
20年3月期の連結営業利益は前の期比6割増の2114億円と、12年ぶりに2000億円台に回復。新型コロナウイルス下で日本企業のDX機運が高まる中、その旗振り役になると宣言。コロナ下の21年3月期も前期並みの1600億円の連結純利益を見込む。DXを軸に成長を加速しようとした矢先だったが、東証という世界で注目される金融インフラで障害を起こし暗雲が漂う。
1日に起きたトラブルを巡っては、疑問点や今後のテーマとなる点がいくつかある。
東証の宮原幸一郎社長は1日の記者会見で「責任の所在は市場運営者として我々に全面的にある」として、富士通に損害賠償を求めない考えを示した。トラブルが起きた際にシステムの発注側に一義的に責任があるという業界の慣習があるためのようだ。ただ、富士通のある幹部は株主からの訴訟リスクなどの可能性について「排除できない」と警戒する。
トラブルを重ねる富士通に東証がシステム開発を託し続けてきたことも注目される点だ。背景には、システム開発を取り巻く環境や慣習も影響している。証券取引所の業務は特殊性が高く、開発を手掛ける企業が限られる。積み重ねたノウハウを生かし、改修や刷新を繰り返してシステムを維持する狙いがあったとみられるが、同じ企業が手がけ続けることで大幅な見直しの機運が高まらなかった可能性もある。
■「障害が起きない前提のシステム設計は時代遅れ」
なぜ障害が繰り返されるのかの原因究明も焦点だ。デジタル化が進み、システムが巨大になり、東証の基幹システムもサーバーなど約400台の機器で構築される。大規模金融システムに詳しい技術者は「障害が起きないことを前提としたシステム設計が根本的に時代遅れだ」と指摘する。機器が故障することも想定し、そこからのリカバーが重要だとの意味合いだ。
時田社長はDX企業への転身を宣言し、業績を回復させてきた
海外の証券取引所でもシステム障害は起こっているが、欧米先進国では当日中に取引が再開されることが多く、今回の東証のように終日取引ができなくなるのは異例だ。障害を起こさないことばかりに注力するのではなく、どこかに障害が起こることを前提にその影響を小さくする仕組み作りに力を入れる――。そんな思想がGAFAを中心とした世界のIT(情報技術)業界の流れとされる。
富士通が原因となった05年の東証のシステム障害から15年。この間にIT業界はGAFAが席巻し、様変わりした。近年では米アマゾンなどが手がけるクラウド上で企業や個人が作業する仕組みが浸透。米グーグルを傘下に持つアルファベットの時価総額は15年間で8.5倍の約1兆ドル(約105兆円)になった一方、富士通は1.8倍の約2兆8800億円にとどまる。サーバーなどの機器売りから脱却しきれない富士通など日本のIT企業は埋没していった。
「部門任せにせず、全社をあげて対応してほしい」。富士通の時田社長は1日、今回のシステム障害について担当副社長らにこう指示した。システムエンジニアとして一貫して金融畑を歩み、東証のシステムにも関わった経験があるだけに危機感は強い。日ごろから「システムの重要性や怖さは身にしみて分かっている」と話す時田氏の改革は最大の試練を迎えている。(水口二季、矢口竜太郎)
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