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2014年05月04日

失敗お膳立て症候群

仕事がしんどい時に見つけて、「ああ、確かに!」と思った本がこれ。

よい上司ほど部下をダメにする

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1998年にハーバード・ビジネス・レビューで発表された「失敗お膳立て症候群――こんな上司が部下をダメにする」という論文をもとに、2002年に出版された本の訳である。


タイトルがいきなり「よい上司ほど部下をダメにする」と、ちょっと英語と違う?と思わなくもないが、内容は非常に面白い。コンサルタントに限らず、職場の人間関係に悩んだらこの一冊。という感じでまずオススメ。

この本は部下を「できる部下」「できない部下」に分類し、なんで「できない部下」が出てきてしまうのか?という疑問に、上司の視点・部下の視点両方から答えてくれる。しかも、ここでいう「できない部下」は成績が平均以下という意味であり、解雇に値するとか、期待されている最低限の仕事もこなせないという意味ではない。ちょっと自分のスランプが長いと思ったら、見事に失敗お膳立て症候群にはまっていた、なんて事も考えられるので、今、自分が上司の地位にいなくても、読んで損のない1冊だと思う。

私が特に実感を持てたポイントは以下の通り

@評価してくれる上司を選べ
「できない部下」に対する上司の態度は組織内における地位の上下や業種の違い、国や文化の違いにかかわらずほぼ同じだという。そして、人間はできないというレッテルをいったん張られてしまうと、たとえ有能であってもレッテルの方に自分を合わせてしまいがちになる。
この効果は恐ろしく強力で、「優秀だ」というレッテルが張られた部下は「できる部下」に、「無能だ」というレッテルを張られた部下は「できない部下」に早変わりする。その期間わずか数日・・・ということもあるらしい。

さて、コンサルティング・ファームではプロジェクトごとにチームを再編する。徒弟制度のような形でOJTを繰り返し、似たようなプロジェクト・テーマを扱ううちにその分野の専門家になっていくので、同じ上司―部下の組み合わせで仕事をすることが多いが、本人の決意が固ければ全く未知の分野のプロジェクトに入ることもあるし、それまであったこともなかったメンバーで仕事をすることもある。だから、自分を「できない部下」と評価し続ける上司は1プロジェクトで見切りをつけて、新しい上司と新しい関係を築くことも可能だ。
「評価してくれる上司を選べ」
は私があるメンターから得たアドバイスの一つだが、この本を読むとそれが我儘や保身からくる行動ではなく、仕事の成果を最大化するための合理的な手段のように思える。コンサルティング・ファームでは、プロジェクトの期間によっては1年間に何回も上司を変えることが可能であり、このアドバイスは他の企業に比べても有効な気がする。



A人物と仕事の評価を分けろ
たとえば、「彼はとんでもない人物だ」と考えるのではなく、「彼はいいヤツではあるのだが、今回のあのやり方は感心しない」という思考をせよという意味である。上記は上司だけでなく、部下も持っていた方がいい視点だ。部下の側からいうと、批判的なフィードバックをもらった時に、真偽はともかく、「このフィードバックは自分の仕事のやり方の不十分な部分を指摘しているのであって、自分の人格に何か批判を加えているわけではない」と考える必要がある。
上司も部下も、お互いに自分が批判されるのではないかという恐怖を抱いている。
その恐怖をむやみに刺激しない話し方はマネジメント・スキルとして必要だが、受け止め方で相手のスキル不足を受容する必要もある。

相手の恐怖心をむやみに刺激しない方法として、上司と部下はお互いに「自分は、人物と仕事の評価を分けて考えている」ことを相手に発信し、相手に安心感を与えることが考えられる。
本の中では、具体的には、普段からざっくばらんな会話を心がけるとよい。とあった。例として、ざっくばらんな会話については、「できる部下」にも「できない部下」にも分け隔てなく話しかけ、家族の話をするというケースが載っている。

私が会ったマネージャーの中にも、ざっくばらんに部下と話すために自分の家族の話をする人がいた。
人物と仕事の評価はきっちり分かれているのだが、とにかく私語と思われる家族の話が長い。当時は「?」という感じだったのだが、もしかしたらこういう意図があったのかもしれないと思う。
なお、家族の話をすれば、仕事と人物の評価が区別できるようになるわけではない。あくまで家族の話は部下が、「成績が悪くても人間と尊重してもらえる」という安心感を持つための材料である。私の場合は、マネージャーの私語の中に含まれる女性への態度の悪さと、私の出した成果物への真摯な態度の違いから、逆に「この人は人物と仕事の評価をきっちり分ける人だ」と信頼と尊敬を抱いたほどである。

個人対個人の部分で友好関係を築く努力はもちろんあってよいものだが、一番大事なのは、上司・部下の間で公平かつオープンな仕事に対する相互のフィードバックができるという信頼だと私は思う。個人的な友好関係は、信頼を築くためのサポートに過ぎない。会社は職場であって、仲良し広場ではない。誰とでも個人的な友好関係を築けるというのは流石に幻想であると思うので、個人的な友好関係を手段ではなく目的化してしまうと、結局は上司に阿る、あるいは上司と属性の近い人ばかりが集まる硬直化した組織を産みかねないことは、心に止めておかないといけないと思う。


B評価はできる限り柔軟に変えろ
上司は部下にすぐレッテルを張る。同様に部下は上司にレッテルを張る。
この行動自体は、人間の情報処理の能力上、当たり前のことである。

ただし、すぐに張ったレッテルは、部下の能力を十分に評価した結果ではなく、自分自身の脳の負担を軽減するための処理であることを理解しておく必要がある。しかも、他人の行動予測において、人間はその評価が正しいと思い込む傾向があり、さらにストレス環境になるとその傾向がさらに強まるという研究結果があるそうだ。

この問題は、特にコンサルティング・ファームのマネジメントに大きく影響していると思う。
何しろ、コンサルティングのプロジェクトは一般的に難易度の高い経営課題でしかも多額のコンサルティング・フィーがかかっているため、かけられるプレッシャーも大きい。従ってコンサルタントも、普通の企業の通常業務よりは、ストレスの高い環境で仕事をすることになる。
更に、チームメンバーは常に、Up Or Outのプレッシャーをかけられており、通常の企業の社員とは異なる速度での成長を期待されている。
結果として何が起こるかというと、上司が部下の能力を精査する余裕のない状態で、部下の能力が刻々変化していってさらに部下の能力を評価しづらい状態に陥るという上司泣かせの事態に陥るわけである。
従って、上司は初めの数日で「できる部下」と認識した部下を可愛がる。あるいは、個人的な友好関係を結んだ部下を重用する。悪意は欠片もなく、そうしないと、プロジェクト・テーマの課題と部下の評価で脳の処理がパンクするからである。
「できる部下」と認識できる人がチームに多かったり、個人的に友好関係を結べた場合、上司はプロジェクト・テーマに集中できるから、問題は表面化しない。
だが、うっかり「できない部下」と認識してしまったり、個人的な会話が弾まないと、余裕のない上司は腹を立てる。こんな奴は首にすればいいとか、自分がこうして忙しい時間を割いて雑談を振ってやっているのにまともな受け答えができないなんてこいつには最低限の社会常識もないんじゃないかと。
部下にその思考が伝わってしまうと、チームが空中分解することもある。

リーダーシップで重要なのは、ストレス状況でどう振る舞うかである。
上司にとっては極度のストレス状況だと思うのだが、だからこそ冷静に関係修復に努め、「できない部下」の評価を「できる部下」の評価に切り替えていかないといけないのだと思う。
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