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2018年11月06日
ショートショート(超短編)−−第4話 スズメの親子
第4話 スズメの親子
最近、家のベランダにようやくスズメが来てくれるようになった。長いこと餌として、近頃あまり食べなくなった米を、プラスチックの容器に入れて置いておいたのだ。それ以前は、小さな巣箱を買って、ベランダの一角にかけておいたのだが、ちょっと小さすぎたのか、全く来る気配すらなかった。その中に果物とか米を餌として入れておいたので、やってくると思ったのだが駄目だった。それはもう一ヶ月も前のことだったような気がする。巣箱を置いても、よく見えるところに餌をむき出しで置いても、全然やってくる様子はなかったのだが、ついにやってきた。朝ベッドの中で盛んにスズメがちゅんちゅんと鳴く声が聞こえて目が覚めた。ちゅんちゅんといかにも幼い感じの鳴き声と、ちぃちぃちぃという鳴き声が交互に聞こえてくる。まだはっきりと目覚めていない頭の中で、ついにきてくれたかという、ちょっとした感動があった。来た来た。来たぞ。ベッドから出て、ゆっくりと体を床に擦り付けるようにして、こっそりと覗いて見た。いるいる。確かにいるぞ。なんと3羽いるではないか。先ほどの、ちぃちぃという鳴き声はよく見ると子供のスズメの鳴き声だった。飛べるようになっているとはいっても、まだ、雛なんだろう。ベランダに置いた容器に入れている米を自分では食べることが出来ないらしい。母親スズメと思われるスズメが、容器から米を三つ四つ口に入れては、直ぐ隣で鳴いている子スズメに口移しで食べさせている。子スズメといっても、外見はもう大人のスズメと変わらないくらいになっているので、母スズメは、米をあまり柔らかくする必要はないようで、口ばしで米をつついて、口に入れると、すぐにちょんちょんと跳ねて子スズメに口移しで米をやっている。よく見ると、子スズメは体を震わせて、ちゅんちゅんと鳴きながら食べ物をねだっている。両方の羽を痙攣を起こしているようにぶるぶると震わせている。そして、ちょうだい、ちょうだいといっている。
「陽子、美味しい食べ物があるところをお母さん、見つけたのでついてらっしゃい。陽子も一緒よ。遅れちゃ駄目よ。いいわね。お母さんが合図したら、直ぐ飛び立つのよ。」
「お母さん、怖いよ。私ここで待っていたい。お母さんが行って持って来てよ。」
「何いっているのよ。もう赤ちゃんじゃないんだから。もう少ししたら、自分で食べ物を見つけなきゃなんないとしになるのよ。もう直ぐ、生まれて一ヶ月になるのよ。いつまでもお母さんが貴方たちの面倒見るってわけには行かないんだから。それにお母さんがせっかく美味しい食べ物があるところを見つけてあげたんだから、ついてらっしゃい。」
「でも、お母さん、この前もう少しでぶつかりそうになったことあるでしょ。あの時、ほんとに怖かったの私。陽子姉ちゃんはしっかりしているけど、私、ちょっとドジだから、怖いのよ。」
「大丈夫よ。お母さんが言うとおりにしていれば、安全だから。貴方たち、いつも自分勝手な行動するでしょ。だから、危ない目にあうのよ。人間って危ない生き物だからね。何するか分かったものじゃないからね。でも、大丈夫。あそこは安全よ。お母さんの調べたところでは、あそこには中年の男が一人しか住んでないのよ。それに、あのマンションの一番上の階だからね。食べ物はベランダに置いてあるのよ。どうもそれはその中年が置いたらしのよ。お母さんがね、この前そのあのマンションの屋根にとまって下を見てたの。そしたら、その中年さん、お皿のようなものに、お米を入れてね、ベランダに置いて、何かニコニコしてるのよね。最初、餌で私たちを引っ掛けようと思って、企んでいるんだろうって思って、警戒して近づかなかったのよ。何か毒でも混ぜてるんじゃないかって思ったのでね。」
「そうね、お母さん。危ないね。悪い人が多いからね。私たちを丸焼きにして食べる人間もいるって言うでしょ。野蛮だわよね。」
「私なんか、痩せているので美味しくないのに、何で私たちを食べるのかしら。人間って不思議な生き物だわ。あんなに沢山食べ物を捨てるくせに、私たちみたいなものを何で食べるのかしら。おかしいね。」
「それでね、よく見ていたら、その人、なんか悲しそうな感じの顔するのね。米をベランダにおいてから、毎日、朝方になると、ベランダに出てきて、米を調べるのね。それで、なんか悲しそうな顔してまた、部屋の中に入っていくのね。それで、どうしたんだろうって思って、この前、屋根の一番近いところにとまって、何か言うんじゃないかって思って、そこにいたのね。すると、今日もだめだったね、スズメちゃんって言ってるのよ。何も怖いことないのに、何でこないの、なんて独り言いいながら中に入っていくのね。それで、暫くその屋根から観察していると、やはり同じように出てきて、溜息をついて、今日も駄目か、美味しいものを出してあげてるのにね、何で来ないの、何で食べないの、なんて独り言言っているのね。それで、この人、悪い人じゃないのかもって思ったの。それで、この前思い切ってその米のところに降りてみたんだけど、いたいた。その中年さん。やっぱり一人でね。テレビを見ながらテーブルのところに座っていたの。私がひらっと飛び降りたら、チラッと私の方に目を向けるんだけど、気付いていないって感じの仕草をするのね。初め私は本当に気付いていないんだろうかって思ったのね。それで、試しに、ちゅんちゅんって鳴いてみたの。びっくりしたわ。それでも、チラッと目を向けたって感じはあったけど、殆ど全くっていって良いくらい、テレビに夢中って感じなのね。何だ、気付いていないのかって思ったんだけど、私が米をついばみ始めると、私が夢中になっていると思ったんでしょうね。私の方を見てるのね。それで、ニコって笑い顔になってね。それで私、これで大丈夫だって思ったの。」
「そうなの、お母さん。でも、人間って本心は分からないからね。殆どの人間って、私たち鳥には理解できないくらい、腹黒いでしょ。その中年さんも、何を企んでいるのか分かったものじゃないでしょ。」
「そうね、陽子。それはそうよ。でも、その後、お母さん、ちょっと食べてから、屋根の上で様子を伺っていたの。すると中年さん、ベランダに出てきて、ニコニコしてるの。そして、やっと食べてくれたんだね。ありがとう。貴方が来てくれるのをずっと待ってたの、なんて独り言いっているのよね。それにね、貴方を食べたりはしませんから、大丈夫よ。これからも、美味しいご馳走を用意してお待ちしていますので、どうぞ。予約不要です、何って一人で冗談いって、嬉しそうなのね。これで大丈夫って思ったわけ。でも、勿論、油断大敵よ。今日だって、何時何が起こるか分からないからね。とにかくお母さんの言うことはよく聞くのよ。じゃ、そろそろ出発しましょ。いいわね。」
「出発進行。」
今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。コメントなどありましたら、お願いします。また、ご訪問下されば幸いです。
最近、家のベランダにようやくスズメが来てくれるようになった。長いこと餌として、近頃あまり食べなくなった米を、プラスチックの容器に入れて置いておいたのだ。それ以前は、小さな巣箱を買って、ベランダの一角にかけておいたのだが、ちょっと小さすぎたのか、全く来る気配すらなかった。その中に果物とか米を餌として入れておいたので、やってくると思ったのだが駄目だった。それはもう一ヶ月も前のことだったような気がする。巣箱を置いても、よく見えるところに餌をむき出しで置いても、全然やってくる様子はなかったのだが、ついにやってきた。朝ベッドの中で盛んにスズメがちゅんちゅんと鳴く声が聞こえて目が覚めた。ちゅんちゅんといかにも幼い感じの鳴き声と、ちぃちぃちぃという鳴き声が交互に聞こえてくる。まだはっきりと目覚めていない頭の中で、ついにきてくれたかという、ちょっとした感動があった。来た来た。来たぞ。ベッドから出て、ゆっくりと体を床に擦り付けるようにして、こっそりと覗いて見た。いるいる。確かにいるぞ。なんと3羽いるではないか。先ほどの、ちぃちぃという鳴き声はよく見ると子供のスズメの鳴き声だった。飛べるようになっているとはいっても、まだ、雛なんだろう。ベランダに置いた容器に入れている米を自分では食べることが出来ないらしい。母親スズメと思われるスズメが、容器から米を三つ四つ口に入れては、直ぐ隣で鳴いている子スズメに口移しで食べさせている。子スズメといっても、外見はもう大人のスズメと変わらないくらいになっているので、母スズメは、米をあまり柔らかくする必要はないようで、口ばしで米をつついて、口に入れると、すぐにちょんちょんと跳ねて子スズメに口移しで米をやっている。よく見ると、子スズメは体を震わせて、ちゅんちゅんと鳴きながら食べ物をねだっている。両方の羽を痙攣を起こしているようにぶるぶると震わせている。そして、ちょうだい、ちょうだいといっている。
「陽子、美味しい食べ物があるところをお母さん、見つけたのでついてらっしゃい。陽子も一緒よ。遅れちゃ駄目よ。いいわね。お母さんが合図したら、直ぐ飛び立つのよ。」
「お母さん、怖いよ。私ここで待っていたい。お母さんが行って持って来てよ。」
「何いっているのよ。もう赤ちゃんじゃないんだから。もう少ししたら、自分で食べ物を見つけなきゃなんないとしになるのよ。もう直ぐ、生まれて一ヶ月になるのよ。いつまでもお母さんが貴方たちの面倒見るってわけには行かないんだから。それにお母さんがせっかく美味しい食べ物があるところを見つけてあげたんだから、ついてらっしゃい。」
「でも、お母さん、この前もう少しでぶつかりそうになったことあるでしょ。あの時、ほんとに怖かったの私。陽子姉ちゃんはしっかりしているけど、私、ちょっとドジだから、怖いのよ。」
「大丈夫よ。お母さんが言うとおりにしていれば、安全だから。貴方たち、いつも自分勝手な行動するでしょ。だから、危ない目にあうのよ。人間って危ない生き物だからね。何するか分かったものじゃないからね。でも、大丈夫。あそこは安全よ。お母さんの調べたところでは、あそこには中年の男が一人しか住んでないのよ。それに、あのマンションの一番上の階だからね。食べ物はベランダに置いてあるのよ。どうもそれはその中年が置いたらしのよ。お母さんがね、この前そのあのマンションの屋根にとまって下を見てたの。そしたら、その中年さん、お皿のようなものに、お米を入れてね、ベランダに置いて、何かニコニコしてるのよね。最初、餌で私たちを引っ掛けようと思って、企んでいるんだろうって思って、警戒して近づかなかったのよ。何か毒でも混ぜてるんじゃないかって思ったのでね。」
「そうね、お母さん。危ないね。悪い人が多いからね。私たちを丸焼きにして食べる人間もいるって言うでしょ。野蛮だわよね。」
「私なんか、痩せているので美味しくないのに、何で私たちを食べるのかしら。人間って不思議な生き物だわ。あんなに沢山食べ物を捨てるくせに、私たちみたいなものを何で食べるのかしら。おかしいね。」
「それでね、よく見ていたら、その人、なんか悲しそうな感じの顔するのね。米をベランダにおいてから、毎日、朝方になると、ベランダに出てきて、米を調べるのね。それで、なんか悲しそうな顔してまた、部屋の中に入っていくのね。それで、どうしたんだろうって思って、この前、屋根の一番近いところにとまって、何か言うんじゃないかって思って、そこにいたのね。すると、今日もだめだったね、スズメちゃんって言ってるのよ。何も怖いことないのに、何でこないの、なんて独り言いいながら中に入っていくのね。それで、暫くその屋根から観察していると、やはり同じように出てきて、溜息をついて、今日も駄目か、美味しいものを出してあげてるのにね、何で来ないの、何で食べないの、なんて独り言言っているのね。それで、この人、悪い人じゃないのかもって思ったの。それで、この前思い切ってその米のところに降りてみたんだけど、いたいた。その中年さん。やっぱり一人でね。テレビを見ながらテーブルのところに座っていたの。私がひらっと飛び降りたら、チラッと私の方に目を向けるんだけど、気付いていないって感じの仕草をするのね。初め私は本当に気付いていないんだろうかって思ったのね。それで、試しに、ちゅんちゅんって鳴いてみたの。びっくりしたわ。それでも、チラッと目を向けたって感じはあったけど、殆ど全くっていって良いくらい、テレビに夢中って感じなのね。何だ、気付いていないのかって思ったんだけど、私が米をついばみ始めると、私が夢中になっていると思ったんでしょうね。私の方を見てるのね。それで、ニコって笑い顔になってね。それで私、これで大丈夫だって思ったの。」
「そうなの、お母さん。でも、人間って本心は分からないからね。殆どの人間って、私たち鳥には理解できないくらい、腹黒いでしょ。その中年さんも、何を企んでいるのか分かったものじゃないでしょ。」
「そうね、陽子。それはそうよ。でも、その後、お母さん、ちょっと食べてから、屋根の上で様子を伺っていたの。すると中年さん、ベランダに出てきて、ニコニコしてるの。そして、やっと食べてくれたんだね。ありがとう。貴方が来てくれるのをずっと待ってたの、なんて独り言いっているのよね。それにね、貴方を食べたりはしませんから、大丈夫よ。これからも、美味しいご馳走を用意してお待ちしていますので、どうぞ。予約不要です、何って一人で冗談いって、嬉しそうなのね。これで大丈夫って思ったわけ。でも、勿論、油断大敵よ。今日だって、何時何が起こるか分からないからね。とにかくお母さんの言うことはよく聞くのよ。じゃ、そろそろ出発しましょ。いいわね。」
「出発進行。」
今日も、最後まで読んで頂き、ありがとうございました。コメントなどありましたら、お願いします。また、ご訪問下されば幸いです。