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2014年05月26日
そこらが薄暗くなっているのに気がつくと
笹村はマッチを摺ってランプを点けて見たが、余熱のまだ冷めない部屋は、息苦しいほど暑かった。急にまた先生の方のことが気になって、下宿を出ると、足が自然にそっちへ向いた。笹村はこれまでにもちょっとした反抗心から、長く先生に背いていると、何かしら一種の心寂しさと不安を感ずることがたびたびあった。
 先生はちょうど按摩を取って寝ていた。七月に入ってから、先生の体は一層衰弱して来た。腰を懈がって、寄って行く人に時々揉ませなどしていた。唯一の頼みにしていた白屈菜を、ある薬剤の大家に製薬させて服んでいたが、大してそれの効験のないことも判って来た。
 笹村は玄関から茶の室へ顔を出して、夫人に先生の容態を尋ねなどした。

「先刻も着物を着替えるとき、ああすっかり痩せてしまった、こんなにしても快くならないようじゃとても望みがないんだろうって、じれじれしているんですよ、しかし笹村も癒ったくらいだから、涼気でも立ったら、ちっとはいい方へ向くかしらんなんてそう言っていますの。」
 先生のじれている様子を想像しながら、笹村は玄関を出た。
 そこから遠くもないI氏を訪ねると、ちょうど二階に来客があった。笹村はいつも入りつけている階下の部屋へ入ると、そこには綺麗な簾のかかった縁の檐に、岐阜提灯などが点されて、青い竹の垣根際には萩の軟かい枝が、友染模様のように撓んでいた。しばらく来ぬまに、庭の花園もすっかり手入れをされてあった。机のうえに堆く積んである校正刷りも、I氏の作物が近ごろ世間で一層気受けのよいことを思わせた。
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Posted by salchan at 10:15 | この記事のURL
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