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2014年07月01日
改良したらよかろう
嘗て一度もこの赤煉瓦が取り除かれたためしがない。そうしてその煉瓦がいよいよ丼型に磨り滅ってしまうと又、新しい赤煉瓦で埋める。こんなカフェーや洋食店は東京中のどこにもないので、恐らくこのカフェーの主人は、自分の店の繁昌と評判を、この赤煉瓦のお蔭と心得ているのであろう。志免刑事はよくこんな些細な事を記憶している男で、岩形氏の靴に赤い泥が附着いているところを見ると、氏は昨夜たしかにこのカフェーに這入ったに相違ないのである。

二階に上って、窓に近い椅子に腰をかけると、まだ誰も来ていない。腕時計を見るともう十時半になっている。今の散歩が約十五分かかった事になる。
 室は繁昌する割に狭くて、たった二室しかない。天井も低くて薄暗い上に昨夜のまままだ掃除しないと見えて卓子の覆いも汚れたままである。床の上には果物の皮や、煙草の吸殻なぞが一面に散らばっていて、妙な、饐えたような臭いを室中に漂わしている。私が烈しく卓子を叩くと、十六七の生意気らしいのっぺりしたボーイが襯衣一貫のまま裏階段から駈け上って来たが、珈琲を濃くしてと云う註文を聞くと、江戸ッ子らしくつけつけと口を利いた。
「まだお早くて材料が準備してございません。少々手間取りますが……お気の毒さまですが……へい……」
 私はこのボーイをちょっと憤らしてみたくなった。わざと酔っ払いじみた巻き舌でまくし立ててやった。
「篦棒めえ。十時半が早けあ六時頃は真夜中だろう。露西亜じゃあるめえし……」
「へえ。申訳ござんせん……つい……」
「つい露西亜の真似をしたっていうのか。そんなら何だって表の戸を明けた」
「へえ。これから気を付けます」
「露西亜になれと云うんじゃねえ。第一お前の家はそんなに夜遅くまで繁昌すんのか」
「へえ。お酒を売りますんでつい……」
神保町 歯科
Posted by salchan at 08:55 | この記事のURL
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