2014年06月02日
向い側のプラットホーム
その顔が向い側のプラットホームから、汽車に乗ろうとしているのだ。銀造はどきんとして、苦痛に青ざめた顔をそむけた途端に、
「……十番線の列車は二十一時発東京行き急行であります……」
という拡声機の声をきいた。銀造はプラットホームの電気時計を見上げた。
「二十時十分か。発車までにまだ五十分ある」
銀造はそう呟いたが、肚の中はべつのことを考えていた。――あの男は東京へ行くのだな、すると今夜は京都へ行かないなと、そんなことを考えていたのだ。
「……十番線の列車は二十一時発東京行き急行であります……」
という拡声機の声をきいた。銀造はプラットホームの電気時計を見上げた。
「二十時十分か。発車までにまだ五十分ある」
銀造はそう呟いたが、肚の中はべつのことを考えていた。――あの男は東京へ行くのだな、すると今夜は京都へ行かないなと、そんなことを考えていたのだ。
京都――田村――貴子!
「――今夜は貴子はひとりだ!」
豊満な貴子の肉体、その体温、体臭の魅力がよみがえり、もはや銀造にとって、京都へ行く喜びは娘のチマ子に会うことよりも、貴子の顔が見られることであった。
銀造はもう一度振り向いた。章三の顔は二等車の窓にあった。
彼の傲岸な顔は、やがて来た京都行きの省線に乗った銀造の瞼にいつまでも残り、銀造はおれも昔はあんな顔だったこともあると、東京で囲っていた貴子に会いに、大阪から寝台車に乗っていた時のことを想い出していた。何もかも昔の夢だ。寝台車で結んだ夢ももう夢になってしまった。日本も変ったが、銀造もすっかり変ってしまった。満州から引揚げてからは、からきし意気地のない男になってしまったのだ。
頼る所はなく一部屋貸してくれと、田村へ転がり込むのはまだいいとして、章三を見た翌日、夜更けて貴子の寝室へ忍び込んで、こっぴどくはねつけられ、田村をおん出てしまう羽目になったのは、何としてもだらしがなさすぎた。
しかし、電車が京都へ着くと、銀造は駅前の人力車を拾って、田村のある木屋町へ走らせながら、貴子恋しさにしびれて、その時のだらしなさを忘れるくらい、だらしがなくなっていた。
久留米デリヘルのアバンティの子が写真より可愛くて嬉しかった
「――今夜は貴子はひとりだ!」
豊満な貴子の肉体、その体温、体臭の魅力がよみがえり、もはや銀造にとって、京都へ行く喜びは娘のチマ子に会うことよりも、貴子の顔が見られることであった。
銀造はもう一度振り向いた。章三の顔は二等車の窓にあった。
彼の傲岸な顔は、やがて来た京都行きの省線に乗った銀造の瞼にいつまでも残り、銀造はおれも昔はあんな顔だったこともあると、東京で囲っていた貴子に会いに、大阪から寝台車に乗っていた時のことを想い出していた。何もかも昔の夢だ。寝台車で結んだ夢ももう夢になってしまった。日本も変ったが、銀造もすっかり変ってしまった。満州から引揚げてからは、からきし意気地のない男になってしまったのだ。
頼る所はなく一部屋貸してくれと、田村へ転がり込むのはまだいいとして、章三を見た翌日、夜更けて貴子の寝室へ忍び込んで、こっぴどくはねつけられ、田村をおん出てしまう羽目になったのは、何としてもだらしがなさすぎた。
しかし、電車が京都へ着くと、銀造は駅前の人力車を拾って、田村のある木屋町へ走らせながら、貴子恋しさにしびれて、その時のだらしなさを忘れるくらい、だらしがなくなっていた。
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