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2019年08月09日
「冷房をつけて寝ると体に悪い」はウソだ
「深部体温」が下降するときに夜の眠りが始まる
3〜4時間は冷房をつけて安眠熟睡して夏の寝不足を防いでください
「冷房をつけて寝ると体に悪い」はウソだ
最低でも3時間は部屋を冷やすべき
「冷房が苦手」といって、
就寝時にエアコンを消してしまう人がいる。
だが、それは命を危険にさらす行為だ。
医師で早稲田大学准教授の西多昌規氏は
「熱帯夜であれば一晩中使うことが望ましい。
蒸し暑い環境で寝続けると、
睡眠不足になるだけでなく、
熱中症になるリスクがある」という――。
「昔はエアコンなしでも眠れた」にだまされてはいけない
今年は5月で真夏日を記録したこともあって、
真夏の暑さを気にしている人も多いだろう。
昔と比べて日本の夏は、
確かに暑くなってきている。
2018年に気象庁が公表した
「ヒートアイランド監視報告2017」*によれば、
日本の気温、特に首都圏をはじめとする
都市部の気温は確実に上昇傾向を示しており、
100年前と比べると、
東京の年間平均気温は3.2度上昇したという。
ひと世代前の人が言う
「わたしたちの頃はエアコンなしでも過ごせていた」
という言葉を、鵜呑みにしてはいけない。
このような無知が、
無謀な野外活動や労働による熱中症の多発を招いている。
睡眠も同じであり、
変化しつつある気候の条件に応じた暑熱対策が必要である。
「深部体温」が下降するときに夜の眠りが始まる
蒸し暑いとぐっすり眠れない。
当たり前のことだと思われるだろう。
人間の眠りと体温との関係をある程度知っておく必要
があるので、簡潔に説明したい。
睡眠は体温調節(ここで体温は、深部体温を指す)と深い関係がある。
約24時間周期のなかで、深部体温は夕方に最高値を迎え、
深夜から早朝にかけて最低値をとる。
深部体温が示す夕方のピークを経て下降するときに、
人間の夜の眠りが始まる。
そして深夜の最低値を過ぎて上昇に転じたときが、
覚醒・起床のタイミングとなる。
体温が下降するときに睡眠は生じやすい傾向があり、
眠ることによって代謝活動が休止するためさらに体温低下が促進される。
図が示すように、
内部から外部に熱が放散されるときに、
人間の眠気が増大する(※1)。
この基本原則が、睡眠と暑熱対策を考える際の重要な基礎となる。
放熱は、末梢の皮膚血管が拡張することによって生じる。
赤ちゃんが寝る時に、体表がぽかぽかしてくる現象が、
理解を助ける実例だ。
寝つき始めると、浅い睡眠から深い睡眠へと移行し、
個人差はあるが20〜30分程度で深い睡眠に入る。
深い睡眠(脳波上の所見から、徐波睡眠と呼ばれる)
に入ると、発汗量が増えて体温がさらに低下する.
睡眠から3〜4時間はエアコンを使用したほうがいい
寝室の温度設定の上限は28℃程度だと考える。
エアコン使用の注意点は、
設定温度・時間、エアコンからの気流に分けられる。
低すぎる設定温度は、後述する気流とも関係するが、
体温を過度に奪われる原因となる。
寝苦しさのために途中から中途半端に使うよりは、
就寝前よりオンにして寝やすくしておくなど、
予防的に使用したい。
夜中も30度に迫る熱帯夜が続く場合には、
一晩中、エアコンを使うことが望ましい。
睡眠前半の徐波睡眠は確保したいので、
睡眠前半の約3〜4時間はエアコンを使用したほうがよい。
冷風が直接当たると体調を崩しやすい
エアコンをつけたまま寝ると、
頭痛や身体のだるさなどが生じ、
不調となる人がいる。
原因としては、設定温度が低すぎること、
あるいはエアコンからの冷風が体に当たり
体温を奪われることが挙げられる。
冷風が直接当たらないように、
眠る場所と気流の位置関係には注意したい。
最近のエアコンは、
付けたり消したりするよりも継続的に使用した方が、
電気料金がかからない。
人工知能も装備して、
睡眠中も快適な温度・風向を維持してくれる高機能エアコンもある。
古いエアコンを使っている人は、
「まだ動くから大丈夫」
とは言わずに、
新調してみることも快眠への確実な方法である。
寝具は通気性・吸湿性を意識して選ぶといい
入眠が体温の放熱にかかっているので、
寝具については通気性
という特徴が最も重要と考えられる。
寝具については、好き嫌い、合う合わない、
という好みの個人差が大きい。
体格のがっしりした人は固めを、
華奢な人は柔らかめのマットレスを
選ぶ傾向があるとは言われるが、
しっかりとしたエビデンスは乏しい。
基本を押さえた上で、
自身に合ったものを選ぶのがいちばんである。
*https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/index_himr.html
レポート(PDF)はhttps://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/h30/index.html
(※1)Krauchi K. : The human sleep-wake cycle reconsidered from a thermoregulatory point of view. Physiol Behav 2007 ;90:236-245.
PRESIDENT Onlineから
https://president.jp/articles/-/29189
西多 昌規(にしだ・まさき)
精神科医 医学博士。早稲田大学スポーツ科学学術院・准教授。
東京医科歯科大学卒業後、スタンフォード大学医学部客員講師などを経て現職。
『テンパらない技術』(PHP文庫)、
『休む技術』『眠る技術』(ともに、大和書房)など著書多数。
3〜4時間は冷房をつけて安眠熟睡して夏の寝不足を防いでください
「冷房をつけて寝ると体に悪い」はウソだ
最低でも3時間は部屋を冷やすべき
「冷房が苦手」といって、
就寝時にエアコンを消してしまう人がいる。
だが、それは命を危険にさらす行為だ。
医師で早稲田大学准教授の西多昌規氏は
「熱帯夜であれば一晩中使うことが望ましい。
蒸し暑い環境で寝続けると、
睡眠不足になるだけでなく、
熱中症になるリスクがある」という――。
「昔はエアコンなしでも眠れた」にだまされてはいけない
今年は5月で真夏日を記録したこともあって、
真夏の暑さを気にしている人も多いだろう。
昔と比べて日本の夏は、
確かに暑くなってきている。
2018年に気象庁が公表した
「ヒートアイランド監視報告2017」*によれば、
日本の気温、特に首都圏をはじめとする
都市部の気温は確実に上昇傾向を示しており、
100年前と比べると、
東京の年間平均気温は3.2度上昇したという。
ひと世代前の人が言う
「わたしたちの頃はエアコンなしでも過ごせていた」
という言葉を、鵜呑みにしてはいけない。
このような無知が、
無謀な野外活動や労働による熱中症の多発を招いている。
睡眠も同じであり、
変化しつつある気候の条件に応じた暑熱対策が必要である。
「深部体温」が下降するときに夜の眠りが始まる
蒸し暑いとぐっすり眠れない。
当たり前のことだと思われるだろう。
人間の眠りと体温との関係をある程度知っておく必要
があるので、簡潔に説明したい。
睡眠は体温調節(ここで体温は、深部体温を指す)と深い関係がある。
約24時間周期のなかで、深部体温は夕方に最高値を迎え、
深夜から早朝にかけて最低値をとる。
深部体温が示す夕方のピークを経て下降するときに、
人間の夜の眠りが始まる。
そして深夜の最低値を過ぎて上昇に転じたときが、
覚醒・起床のタイミングとなる。
体温が下降するときに睡眠は生じやすい傾向があり、
眠ることによって代謝活動が休止するためさらに体温低下が促進される。
図が示すように、
内部から外部に熱が放散されるときに、
人間の眠気が増大する(※1)。
この基本原則が、睡眠と暑熱対策を考える際の重要な基礎となる。
放熱は、末梢の皮膚血管が拡張することによって生じる。
赤ちゃんが寝る時に、体表がぽかぽかしてくる現象が、
理解を助ける実例だ。
寝つき始めると、浅い睡眠から深い睡眠へと移行し、
個人差はあるが20〜30分程度で深い睡眠に入る。
深い睡眠(脳波上の所見から、徐波睡眠と呼ばれる)
に入ると、発汗量が増えて体温がさらに低下する.
睡眠から3〜4時間はエアコンを使用したほうがいい
寝室の温度設定の上限は28℃程度だと考える。
エアコン使用の注意点は、
設定温度・時間、エアコンからの気流に分けられる。
低すぎる設定温度は、後述する気流とも関係するが、
体温を過度に奪われる原因となる。
寝苦しさのために途中から中途半端に使うよりは、
就寝前よりオンにして寝やすくしておくなど、
予防的に使用したい。
夜中も30度に迫る熱帯夜が続く場合には、
一晩中、エアコンを使うことが望ましい。
睡眠前半の徐波睡眠は確保したいので、
睡眠前半の約3〜4時間はエアコンを使用したほうがよい。
冷風が直接当たると体調を崩しやすい
エアコンをつけたまま寝ると、
頭痛や身体のだるさなどが生じ、
不調となる人がいる。
原因としては、設定温度が低すぎること、
あるいはエアコンからの冷風が体に当たり
体温を奪われることが挙げられる。
冷風が直接当たらないように、
眠る場所と気流の位置関係には注意したい。
最近のエアコンは、
付けたり消したりするよりも継続的に使用した方が、
電気料金がかからない。
人工知能も装備して、
睡眠中も快適な温度・風向を維持してくれる高機能エアコンもある。
古いエアコンを使っている人は、
「まだ動くから大丈夫」
とは言わずに、
新調してみることも快眠への確実な方法である。
寝具は通気性・吸湿性を意識して選ぶといい
入眠が体温の放熱にかかっているので、
寝具については通気性
という特徴が最も重要と考えられる。
寝具については、好き嫌い、合う合わない、
という好みの個人差が大きい。
体格のがっしりした人は固めを、
華奢な人は柔らかめのマットレスを
選ぶ傾向があるとは言われるが、
しっかりとしたエビデンスは乏しい。
基本を押さえた上で、
自身に合ったものを選ぶのがいちばんである。
*https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/index_himr.html
レポート(PDF)はhttps://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/h30/index.html
(※1)Krauchi K. : The human sleep-wake cycle reconsidered from a thermoregulatory point of view. Physiol Behav 2007 ;90:236-245.
PRESIDENT Onlineから
https://president.jp/articles/-/29189
西多 昌規(にしだ・まさき)
精神科医 医学博士。早稲田大学スポーツ科学学術院・准教授。
東京医科歯科大学卒業後、スタンフォード大学医学部客員講師などを経て現職。
『テンパらない技術』(PHP文庫)、
『休む技術』『眠る技術』(ともに、大和書房)など著書多数。