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2019年08月02日
がん闘病の医師、死を覚悟し抱いた「後悔」
がん闘病の医師、死を覚悟し抱いた「後悔」
キャリア 2019年6月13日 (木) エムスリーキャリア
2006年に34歳で肺がんの手術を受けた
川崎幸病院放射線治療センター長の加藤大基先生。
闘病を通じて、
「仕事だけで死んでしまうのはもったいない」
と考えるようになったそうです。
がんになってから10年以上経過した
現在の仕事観や死生観についてお伺いしました。
検査結果を聞くまでの怖さ
ご自身が患者になってから、
患者さんへの向き合い方で変わったことなどはありますか。
私の場合、術後半年ごとにCTを撮る検査がありました。
がんの大きさは1.5cmくらいでそんなに大きくありませんでしたが、
比較的増殖能の高いタイプだったので、
術後3カ月くらいは再発の不安がずっとありました。
でも、再発するかどうかは誰にも分からないので、
その後は考えないようにしていたんです。
それでも検査前はものすごく緊張するんですよ。
もし再発していた場合、
主治医からそれを伝えられるのが怖かったので、
CTのあとすぐ画像を見られる状態にしてもらっていました。
まず自分で画像をじっくり見て、
再発がないことを確認してから受診していました。
受診時に「再発です」と言われることに対する、
自分なりの防御のようなものですね。
これを患者さんとの関係で普遍化すると、
検査を受けてから結果が出るまでの時間を
なるべく短くしてあげたいという思いに尽きます。
多くの患者さんは、検査の結果がどうだったかを知りたいので、
「体調はどうですか」という話から始めるのではなく、
患者さんが診察室に入ってきたら
まず「問題なかったです」
とお伝えするようになりましたね。
どのくらい生きられるかなんてわからない
病気を経験されて、医師として働く上での考え方の変化はありましたか。
当たり前ですが、闘病中は死がすごく近くなるわけです。
そうすると、仕事だけで死んでしまうのはもったいないと、
ワークライフバランスをもっと強く考えるようになりました。
もちろん仕事は一生懸命やりますが、
オーバーワークになることを避ける努力をしています。
もともと、ワークライフバランスを大切にしたい気持ちはありました。
医師は非効率なこと、
全く専門外のことをさせられることも含めて、
不必要な仕事が結構あると感じています。
がんになるまでは、そういうことも唯々諾々というか、
仕方がないと思いながらやっていました。
しかし病気を経験してからは、
必要でないことは上司に論理的に説明して、談判して、
なくしていく努力を続けることを積極的にやるようになったと感じます。
価値観も変わりましたか。
病気のせいなのか、年齢を重ねたせいなのかわかりませんが、
「自分が幸せに生きることが人生の最大の目的だ」という思いを、
より強く意識するようになったかもしれません。
闘病時は、病気が悪くなれば数年で死んでしまうかもしれない、
とも考えていました。
その経験から、物事を先延ばしにしていると
その先はないかもしれないという気持ちが強くなり、
さまざまなことの優先順位づけが非常に明確になりましたね。
放射線治療医は、がんの患者さんばかり診ます。
中には、若くして亡くなる方も少なくありません。
人生100年時代といえども、
どのくらい生きられるかなんて誰にもわからない。
そんな先のことを考えるより、
まず目の前の幸せをある程度確保して、
できることは前倒しにして取り組んだ方がいいのではないか、
と病気になってみて強く感じました。
同じように病気をされた医師や、
いま闘病中の医師に先生が声をかけるとしたら。
例えば、一口にがんといっても、
がん種やステージ、年齢が違えば
全く異なるものだと考えています。
同じがん種で同じようなステージで見つかった方になら、
自分の経験はある程度参考になるかもしれません。
しかし、違う臓器のがん、非常に進行した状態で見つかった人に
どのような言葉をかけるかといわれたら、
自分ががんを経験したからといって、
十把一絡げには決してできません。
私と同じように完治を目指す手術を受けて、
再発に対する不安を抱えている人の気持ちなら多少は分かりますが、
自分が安易にアドバイスできる立場にいるわけではないと、
自戒の意味をこめて思っています。
じっくり患者さんと向き合っていく
今後のキャリア、ワークライフバランスはどのようにお考えですか。
患者さんと向き合う時間が十分に取れない科や病院が少なくない中、
現職は比較的時間があるため、
じっくりと説明をすることができる環境にあります。
患者さんが希望されれば放射線治療のことに限らず、
病状や他科で出ている薬の話などについても、
しっかり話ができる医師でありたいですね。
偉くなりたい、研究成果を出したい
といった出世欲がそんなに強くないので、
患者さんのところに腰を据えてやっていきたいと考えています。
昔は有給休暇なんて使ったことがありませんでしたが、
最近は取得するようにして、
好きな史跡巡りの旅行などをして息抜きをしています。
そのような環境にあるので、
老後まで待たずに、
ワークライフバランスの実現を図れていると感じていますね。
今のように、自分に無理のないペースで働きながら、
患者さんのために良い医療提供をし続けていけたら、
これ以上のことはないと思っています。
加藤大基(かとう・だいき)
川崎幸病院放射線治療センター センター長
1999年東京大学医学部卒業後、同大医学部附属病院放射線科入局。
国立国際医療研究センター、癌研究会附属病院(現 がん研有明病院)等を経て、
2016年より川崎幸病院放射線治療センター副センター長、
2019年4月より現職。
2006年に肺腺癌(ステージTA)で左肺下葉切除術を受ける。
著書に『東大のがん治療医が癌になって』(ロハスメディア)。
キャリア 2019年6月13日 (木) エムスリーキャリア
2006年に34歳で肺がんの手術を受けた
川崎幸病院放射線治療センター長の加藤大基先生。
闘病を通じて、
「仕事だけで死んでしまうのはもったいない」
と考えるようになったそうです。
がんになってから10年以上経過した
現在の仕事観や死生観についてお伺いしました。
検査結果を聞くまでの怖さ
ご自身が患者になってから、
患者さんへの向き合い方で変わったことなどはありますか。
私の場合、術後半年ごとにCTを撮る検査がありました。
がんの大きさは1.5cmくらいでそんなに大きくありませんでしたが、
比較的増殖能の高いタイプだったので、
術後3カ月くらいは再発の不安がずっとありました。
でも、再発するかどうかは誰にも分からないので、
その後は考えないようにしていたんです。
それでも検査前はものすごく緊張するんですよ。
もし再発していた場合、
主治医からそれを伝えられるのが怖かったので、
CTのあとすぐ画像を見られる状態にしてもらっていました。
まず自分で画像をじっくり見て、
再発がないことを確認してから受診していました。
受診時に「再発です」と言われることに対する、
自分なりの防御のようなものですね。
これを患者さんとの関係で普遍化すると、
検査を受けてから結果が出るまでの時間を
なるべく短くしてあげたいという思いに尽きます。
多くの患者さんは、検査の結果がどうだったかを知りたいので、
「体調はどうですか」という話から始めるのではなく、
患者さんが診察室に入ってきたら
まず「問題なかったです」
とお伝えするようになりましたね。
どのくらい生きられるかなんてわからない
病気を経験されて、医師として働く上での考え方の変化はありましたか。
当たり前ですが、闘病中は死がすごく近くなるわけです。
そうすると、仕事だけで死んでしまうのはもったいないと、
ワークライフバランスをもっと強く考えるようになりました。
もちろん仕事は一生懸命やりますが、
オーバーワークになることを避ける努力をしています。
もともと、ワークライフバランスを大切にしたい気持ちはありました。
医師は非効率なこと、
全く専門外のことをさせられることも含めて、
不必要な仕事が結構あると感じています。
がんになるまでは、そういうことも唯々諾々というか、
仕方がないと思いながらやっていました。
しかし病気を経験してからは、
必要でないことは上司に論理的に説明して、談判して、
なくしていく努力を続けることを積極的にやるようになったと感じます。
価値観も変わりましたか。
病気のせいなのか、年齢を重ねたせいなのかわかりませんが、
「自分が幸せに生きることが人生の最大の目的だ」という思いを、
より強く意識するようになったかもしれません。
闘病時は、病気が悪くなれば数年で死んでしまうかもしれない、
とも考えていました。
その経験から、物事を先延ばしにしていると
その先はないかもしれないという気持ちが強くなり、
さまざまなことの優先順位づけが非常に明確になりましたね。
放射線治療医は、がんの患者さんばかり診ます。
中には、若くして亡くなる方も少なくありません。
人生100年時代といえども、
どのくらい生きられるかなんて誰にもわからない。
そんな先のことを考えるより、
まず目の前の幸せをある程度確保して、
できることは前倒しにして取り組んだ方がいいのではないか、
と病気になってみて強く感じました。
同じように病気をされた医師や、
いま闘病中の医師に先生が声をかけるとしたら。
例えば、一口にがんといっても、
がん種やステージ、年齢が違えば
全く異なるものだと考えています。
同じがん種で同じようなステージで見つかった方になら、
自分の経験はある程度参考になるかもしれません。
しかし、違う臓器のがん、非常に進行した状態で見つかった人に
どのような言葉をかけるかといわれたら、
自分ががんを経験したからといって、
十把一絡げには決してできません。
私と同じように完治を目指す手術を受けて、
再発に対する不安を抱えている人の気持ちなら多少は分かりますが、
自分が安易にアドバイスできる立場にいるわけではないと、
自戒の意味をこめて思っています。
じっくり患者さんと向き合っていく
今後のキャリア、ワークライフバランスはどのようにお考えですか。
患者さんと向き合う時間が十分に取れない科や病院が少なくない中、
現職は比較的時間があるため、
じっくりと説明をすることができる環境にあります。
患者さんが希望されれば放射線治療のことに限らず、
病状や他科で出ている薬の話などについても、
しっかり話ができる医師でありたいですね。
偉くなりたい、研究成果を出したい
といった出世欲がそんなに強くないので、
患者さんのところに腰を据えてやっていきたいと考えています。
昔は有給休暇なんて使ったことがありませんでしたが、
最近は取得するようにして、
好きな史跡巡りの旅行などをして息抜きをしています。
そのような環境にあるので、
老後まで待たずに、
ワークライフバランスの実現を図れていると感じていますね。
今のように、自分に無理のないペースで働きながら、
患者さんのために良い医療提供をし続けていけたら、
これ以上のことはないと思っています。
加藤大基(かとう・だいき)
川崎幸病院放射線治療センター センター長
1999年東京大学医学部卒業後、同大医学部附属病院放射線科入局。
国立国際医療研究センター、癌研究会附属病院(現 がん研有明病院)等を経て、
2016年より川崎幸病院放射線治療センター副センター長、
2019年4月より現職。
2006年に肺腺癌(ステージTA)で左肺下葉切除術を受ける。
著書に『東大のがん治療医が癌になって』(ロハスメディア)。