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2020年12月02日

【薬として一部利用されることもある】毒


 一般的に外来性の物質で生体に毒性を示すものを毒と呼びます。身の回りで毒をもつ生物としては、細菌、きのこやカビなどの菌類、原生動物、植物、爬虫類、両生類、魚、ウニとヒトデ、軟体動物、昆虫など多岐にわたります。毒の働きとしては、赤血球を破壊する溶血毒、細胞や組織の壊死を引き起こす壊死毒、動物の神経系に作用する神経毒などがあり、捕食のために使われる毒は主に神経毒です。





 地球上で最強の毒素はボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するボツリヌス毒素です。LD50は、わずか0.00000032mg/kgです。





 人は生きるためにさまざまな食品を摂取しますが、食品の安全確保は世界的な課題のひとつです。食品の原材料である動植物などは本来含有する成分として、あるいは季節、漁獲場所などによっても毒を持つ場合があります。



毒とは


 一般的に外来性の物質で生体に毒性を示すものを毒と呼びます。身の回りで毒をもつ生物としては、細菌、きのこやカビなどの菌類、原生動物、植物、爬虫類、両生類、魚、ウニとヒトデ、軟体動物、昆虫など多岐にわたります。毒の働きとしては、赤血球を破壊する溶血毒、細胞や組織の壊死を引き起こす壊死毒、動物の神経系に作用する神経毒などがあり、捕食のために使われる毒は主に神経毒です。





 へビやハチ、サソリは自身で毒を生産し、餌となる生物の捕食や防御に用います。魚類や貝類は、細菌や渦鞭毛藻類の生産した毒をとりこみ、体内に蓄積します。フグのように泳ぎの遅い魚は、毒を自己防御に用います。さらにイソギンチャクやカツオノエボシなどの海洋生物から、さまざまな毒が発見されています。



poison-1481596_1920.jpg


海洋生物の毒


・フグ毒テトロドトキシン(tetrodotoxin)





 フグ毒の成分はテトロドトキシンです。フグの場合は、食物連鎖の結果として卵巣や肝臓に蓄積されます。神経の活動電位発生時に、ナトリウムの透過性が増大するのを阻害し、興奮伝達を阻害します。また、筋細胞の膜のナトリウムチャネルも阻害します。その結果、神経と筋肉の両方に麻痺をおこし、呼吸が困難となって死亡します。解毒剤はありません。





・貝毒サキシトキシン(saxitoxin)





 赤潮の原因となるプランクトン類がサキシトキシンを生産します。これを取り込んだ貝が毒を持ちます。ムラサキイガイやマガキ、ホタテ貝などにこの毒が見いだされます。サキシトキシンの作用はテトロドトキシンをほぼ同様となり、口や手足の感覚が麻痺し、呼吸困難で死亡します。有効な治療法はありません。





・貝毒コノトキシン(conotoxin)





 イモガイは、南西諸島の浅瀬に棲息する円錐形の殻を持った大形の貝です。この貝は毒を持った歯舌で小さな魚を刺し、麻痺させて捕らえます。 イモガイの毒の主成分は、コノトキシンで、アミノ酸のつながったペプチドです。アセチルコリン受容体やナトリウムチャネル、カルシウムチャネルなどを阻害し、筋肉は即座に麻痺して収縮できなくなります。



陸上動物の毒


・サソリ毒





 サソリによる被害は、メキシコやインドなどで報告されています。サソリ毒には、神経のナトリウムチャネルが閉じるのを遅らせて、筋肉の収縮を引き起こすα-toxin、ナトリウムチャネルに作用して流入を増大させることで興奮を高め、筋肉の痙攣を引き起こし、呼吸ができなくなるテイテイウストキシンなどが知られています。





・ハチ毒





 ミツバチやオオスズメバチ、アシナガバチなどに毒があります。ハチ毒の強さはマムシとほぼ同じですが、ハチに刺されて死亡する人はヘビに比べてかなり多くなっています。ハチ毒は、急性炎症や浮腫、気道の閉塞などにより、呼吸ができなくなります。





・ヘビ毒





 毒ヘビによって世界では年間250万人が被害を受け、おおよそ10万人が死亡しています。沖縄にはハブが生息し、ハブにより年間おおよそ300人が害を被りますが、抗ハブ毒血清による治療で、死者は少なくなっています。ヘビ毒は、出血毒 や神経毒、 筋肉毒などに分類され、いずれも本体はたんぱく質です。コブラは神経毒が主体で、マムシは出血毒と筋肉毒を多く含みます。



植物の毒


・アルカロイド





 窒素原子を含む塩基性有機化合物をアルカロイド(alkaloid)と総称します。動物に対して特有の生理作用を示し、そのほとんどが毒性や苦味を呈します。生理作用としては、鎮痛や麻酔、興奮、麻痺、幻覚などの神経作用があり、医薬品として重要です。





 アコニチン(aconitine)とメサコニチン(mesaconitine)は、トリカブトから取れる猛毒です。アトロピンは、チョウセンアサガオなどの毒で、鎮痛や麻酔として利用されます。モルヒネやコカインは、鎮痛や麻酔として利用されますが、その習慣性から麻薬として社会問題となっています。レセルピンは、鎮痛及び血圧降下作用から高血圧の治療薬として利用されています。キニーネは解熱及びマラリアの特効薬として、エフェドリンは喘息の薬として、利用されます。ツボクラリンは、豆科の大樹コンドデンドロントーメントスの樹皮から採取され、アセチルコリン受容体を阻害し、筋への信号伝達を遮断します。筋肉にのみ作用し、筋弛緩を引き起こすことから、外科手術に利用されます。





・ステロイド





 植物由来の数種のステロイド配糖体から得られるステロイドはナトリウムカリウムポンプの強力な阻害剤です。心臓に強い効果を示すため、強心ステロイド(cardiotonic steroid)と呼ばれます。





 キツネノテブクロ由来のジギトキシンは、心筋の収縮力を高めるので,うっ血性心不全の治療に用いられます。 キョウチクトウ科ストロファンツスは、種子に含まれるウワバインは、強心利尿薬の原材料となります。ソテツのサイカシンは、神経障害を示します。ソラニンは、ジャガイモの芽や緑色の皮などに含まれる毒で、神経伝達に働くアセチルコリンエステラーゼという酵素を阻害します。



きのこの毒


 日本のきのこのうち、50種は有毒となります。毒性が強いのは,タマゴテングダケやシロタマゴテングダケ、タマゴタケモドキ、フクロツルタケ、ドクツルタケなどです。





・アマニチン(amanitin)





 タマゴテングタケ(Amanita phalloides)から発見された毒です。8つのアミノ酸が結合した環状ペプチドで、肝臓のRNAポリメラーゼと結合し細胞の膜構造を破壊します。





・ファロイジン(phalloidin)





 タマゴテングタケなどの毒です。環状ペプチドで、重合アクチンと特異的に結合し、肝障害を引き起こします。





・ムスカリン





 アセタケ類とカヤタケ類のきのこに含まれる毒です。末梢の副交感神経系に重篤な刺激作用を生じさせ、痙攣や死に至ることもあります。ムスカリンは、脳血液関門を通れないため、中枢神経系に直接影響を及ぼすことはありません。





・シロシビン(psilocybin)





 マジックマッシュルームの名前で、幻覚剤として出回ったこともあり、現在は麻薬原材料植物に指定されています。シロシビンは、幸福ホルモンのセロトニンと構造が似ているため、セロトニン受容体に作用し、幻覚を引き起こします。



細菌の毒


 病原菌や食中毒菌の毒は、ほとんどがたんぱく質で、毒性は極めて高いです。





・ボツリヌス毒素





 地球上で最強の毒素はボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するボツリヌス毒素です。わずか1gで1,000万人以上を死に至らせます。ボツリヌス毒素はA、B、C1、C2、D、E、F、Gがあります。神経筋接合部位のアセチルコリンの遊離を阻害し、神経伝達が遮断されます。





・破傷風毒素





 破傷風菌(Clostridium tetani)が産生する毒で、脳脊髄の運動抑制ニューロンに作用します。





・コレラ毒素





 コレラ毒素は、激しい下痢を伴う食中毒を引き起こす通性嫌気性のグラム陰性菌( Vibrio cholerae )が産生します。





・ジフテリア毒素





 ジフテリア菌が産生する毒素で、たんぱく質の合成を阻害します。



カビ毒


 カビ毒でとくに糸状菌に由来する毒物質をマイコトキシンといいます。





・アフラトキシンB1





 アフラトキシンB1は、コウジカビのAspergillus flavusが産生する毒です。最強の発がん物質で、肝臓がんを引き起こします。





・シクロクロロチン





 主としてアオカビのPenicillium islandicumが産生する毒素です。肝機能障害や肝臓がんを誘発します。



2861949_s.jpg


LD50(50%致死量)

ある一定の条件下で動物に物質を投与した場合に、動物の半数を死亡させる物質の量をLD50 と言います。一般的にはLD50が、1500mg/kg以上で安全とみなされています。

LD50.jpg


食中毒


 人は生きるためにさまざまな食品を摂取しますが、食品の安全確保は世界的な課題のひとつです。食品の原材料である動植物などは本来含有する成分として、あるいは季節、漁獲場所などによっても毒を持つ場合があります。





 食中毒を分類するとその原因物質により、細菌性食中毒、ウイルス性食中毒、自然毒食中毒、化学性食中毒に大別されます。年間の発生件数はおおよそ1,000件、患者数は2〜3万人で推移しています。件数に占める割合は、細菌性が60〜70%、ウイルス性は20〜30%、自然毒は10〜15%、化学性は1%以下です。



まとめ


 一般的に外来性の物質で生体に毒性を示すものを毒と呼びます。身の回りで毒をもつ生物としては、細菌、きのこやカビなどの菌類、原生動物、植物、爬虫類、両生類、魚、ウニとヒトデ、軟体動物、昆虫など多岐にわたります。毒の働きとしては、赤血球を破壊する溶血毒、細胞や組織の壊死を引き起こす壊死毒、動物の神経系に作用する神経毒などがあり、捕食のために使われる毒は主に神経毒です。





 地球上で最強の毒素はボツリヌス菌(Clostridium botulinum)が産生するボツリヌス毒素です。LD50は、わずか0.00000032mg/kgです。





 人は生きるためにさまざまな食品を摂取しますが、食品の安全確保は世界的な課題のひとつです。食品の原材料である動植物などは本来含有する成分として、あるいは季節、漁獲場所などによっても毒を持つ場合があります。




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