2020年10月24日
【苦悩】食品メーカーにおける価値創造
食品メーカーにおいて、最先端技術と比較し、相対的にローテクノロジーであったとしても、技術開発が製品開発の重要な要素となっていることについては変わりなく、技術が企業間の競争で優位に働いていることは、間違いありません。
ただし、一般的な食品の場合、新たな技術や高度な技術が用いられたとしても、その新技術自体が技術ブランド化することはなく、セールスポイントと して訴求できることも少ない状況です。それは、食品が持 つ、自然の素材、手づくりといった人工的でないところに 消費者が価値を見いだす傾向によるものであり、工場でつくられる食品であっても、消費者が漠然と抱くこのイメージに合致する主観的な価値が、製品力の向上につながってきたという歴史的な特徴があります。
一方で、特定保健用食品や機能性表示食品などの機能性食品の制度化が進み、食品に機能性という新たな価値を見いだすようにもなってきています。
食品は差別化が困難であり、多くの場合、同じ製品間の差が小さく、企業間競争は主に価格競争が主戦場となってしまいます。消費者が、価格以外で食品という製品を選ぶ基準があるとすれば、美味しさや自然の素材、手づくりといった主観的なイメージによっても たらされる安心安全の価値であり、主観的な価値となります。安心安全という価値も相手に対する信頼感から醸成されます。これは、企業間取引においても同じであり、食品メーカーと流通業者、原材料メー カーと食品メーカーとの間の取引においても、安定した品質の製品が長期的に取引できるといった信頼感を抱くかどうかが取引 が成立するか否かの重要なポイントとなります。
また、健康志向が求められている昨今の食品市場において、健康を意識した食品に潜在的なニーズがあることは確かです。カロリーオフのカレールウや低カロリー飲料、機能性食品などが次々と開発され、市販されています。しかし、カロリーオフのカレールウでは、過度に加工されたイメージや油脂があまり含まれない食品が持つコクがないといったような好ましくないイメージが、消費者の主観的な認識として存在しているため、カロリー オフを技術的に実現したという技術を消費者に伝えることは望ましくない という判断がなされています。これは、カロリーオフの加工技術という価値よりも、消費者がより主観的な価値を食品に求めていることの表れからです。
低カロリー飲料においても、具体的にどのような甘味料を用いて低カロリーを実現したかといった技術情報を提供した場合の方が、知らされない場合よりも美味しくないと感じる消費者の割合が高まります。 やはり、技術的なことよりも、消費者は主観的な価値を食品に求めています。
食品の場合は、技術情報の消費者への提供は、あまり意味を持たないだけではなく、場合によってはマイナスの作用、つまり価値を下げる作用があるということが言えるかもしれません。
一方で、消費者は機能性食品への関心も高く、市場規模は年々拡大し、その機能を求めて購入しています。
機能性食品は、景品表示法や薬機法などの法規制によって、効果効用の表示が厳しく制限されています。 こうした状況下で、食品 メーカーがどのように機能性食品の価値を消費者に訴求し、製品の差別化に結びつけているのでしょうか。
機能を直接的に訴求できない製品属性である機能性食品においては、効果そのものを訴求するのではなく、製品形態や容器包材などの工夫、あるいは国の制度を活用したお墨付きを得るという方法を用いて、消費者の感性に効果の程を訴えかけることによって、機能性食品の機能を認知させるという過程をたどるということになります。国の制度を 活用したお墨付きという価値は、厳格な制度への対応に必要な時間や費用と許認可を得ることによる価値との間に相容れない関係があるため、食品メーカーはそこから産み出される価値の高い制度ほど使い勝手が悪く、反対に使い勝手がよい制度ほど、そこ産み出される価値が低いというジレンマに直面することになります。
特定保健用食品として有名な機能性茶飲料は、同一の製品形態の製品群が集まると社会的に認知されるようになります。サントリーの黒烏龍茶や花王のヘルシア緑茶などは、国のお墨付きを有し、それによって 効果の程を消費者の主観に訴えかけていたと考えられます。しかし、時間経過とともに新規参入が相次ぎ、類似の製品群が形成されると、国のお墨付きという価値は、次第に効果が薄れていきます。つまり、厳格な制度の適応を受け、安心感や信頼感といった価値のアドバンテージは失われ、むしろ厳格な制度に対応するための時間や費用などの問題点の方が浮き彫りになってきます。
実際のところ、機能性茶飲料の価値は次第に薄れ始めており、メーカー各社は、特定保健用食品以外の方法で、機能性茶飲料の製品バリエー ションを広げています。トクホマークはつけられないものの機能性表示が可能な新制度、 機能性表示食品として新製品を発売したりしています。機能性茶飲料ではないものの、ネーミングに「濃い」などを付け加えることで、事実ですがより多くの成分が含まれるといった効果感を消費者に想起させていることもあります。
ハウス食品のウコンの力は、ウコンエキスを配合した機能性飲料であり ながら、一般食品カテゴリーとして販売されており、効果の直接的な訴求は困難です。ウコンの力は、ウコン飲料独特のにおいを取り除きながらも、機能性飲料らしい 苦みを有しており、味や色は医薬部外品の栄養ドリンク剤 を想起させます。ある調査によると、消費者はウコンの力に対して機能性を意識して購入している、機能性を実際に効果として感じ取っている、 機能そのものではなく製品パッケージや味などが効果の程に影響しているといった結果が出ています。これは、ウコンの機能性だけでなく、味や製品パッケージにも価値を見出していることの証左となります。つまり、製品の価値が、機能性食品のコンセプトである機能性そのものだけであれば、味や パッケージは製品の評価には影響しません。むしろ、味に関し ては、飲みやすさや美味しさを追求した製品の方が好まれるはずです。このことから、機能性食品は、機能的価値だけを追求するだけでは不十分であることを示しています。 一方で、食品の価値が美味しさという主観的な価値 だけでなく、機能性食品にスポットライトが当たることで、従来よりも機能性の価値の重要性が増してきていることも事実です。
食品はそもそもの価値が主観的で、加工技術の複雑さや困難性は低 いとしても、味やパッケージ、機能性といった切り口から新たな価値を継続的に創造し、食品というモノの次元に留まらず、家族の団らんや楽しさといった機会の提供も含め、消費者の主観に訴求することが大切なのかもしれません。
食品メーカーにおいて、最先端技術と比較し、相対的にローテクノロジーであったとしても、技術開発が製品開発の重要な要素となっていることについては変わりなく、技術が企業間の競争で優位に働いていることは、間違いありません。
消費者が、価格以外で食品という製品を選ぶ基準があるとすれば、美味しさや自然の素材、手づくりといった主観的なイメージによっても たらされる安心安全の価値であり、主観的な価値となります。
健康志向が求められている昨今の食品市場において、健康を意識した食品に潜在的なニーズがあることは確かです。しかし、食品の場合は、技術情報の消費者への提供は、消費者の主観に訴求できず、あまり意味を持たないばかりか、場合によってはマイナスの作用があります。
食品はそもそもの価値が主観的で、加工技術の複雑さや困難性は低 いとしても、味やパッケージ、機能性といった切り口から新たな価値を継続的に創造し、食品というモノの次元に留まらず、家族の団らんや楽しさといった機会の提供も含め、消費者の主観に訴求することが大切なのかもしれません。
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