2020年09月11日
【調和と特徴づけ】日本とアジアで発達したスパイス
日本料理にスパイスと聞くと何か違和感を覚えますが、しょうがやわさび、さんしょうなどの薬味は和製スパイスというべきものです。さわやかな香りとピリッとした辛味が特徴です。白身魚のお造りにおろしたてのわさびをのせると、魚の生臭さを抑えながら、程よくのった脂の味わいを生かします。また、たけのこの炊きものにさんしょうの芽という取り合わせは、香りの調和が旬の味覚を一層引き立てます。
スパイスというと辛いものを連想して、苦手意識を持つ人がいますが、これは薬味に慣れ親しんでいる日本人ならではの誤解かもしれません。世界中のスパイスを集めてみると、辛味があるのはほんの一握りです。むしろ、スパイスに共通する特性は香りです。中でも和製スパイスの使われ方は、スパイスの香りそのものの香りを楽しむというよりは、食材の味や香りとの調和を大切にしています。長い間肉食の習慣がなく、四季折々の新鮮な海の幸、山の幸がふんだんに手に入る日本では、いたみかけた肉のにおいをスパイスで消したり、熱帯地方のようにスパイスで食欲増進を図る必要がなかったのです。そのため、ヨーロッパや東南アジアとは違う目的で、和製スパイスは発達しました。
ペッパーやクローブなど肉料理に合うスパイスは1200年以上も前に渡来していました。長い間薬として珍重されてきたこれらスパイスが、今日のように頻繁に料理に使われだしたのは、それほど前からではありません。日本の食生活が豊かになって、世界中のさまざまな料理が食卓に並ぶようになってからです。
しかし、知らず知らずのうちに日本に根づいていったスパイス料理があります。明治の文明開化に沸き立つ頃、当時刊行された料理の本には、すでにカレーのつくり方が紹介されています。この時代のカレーは、インドを植民地化していたイギリス経由で伝わったもので、現在でも業務用として有名なカレー粉です。このカレー粉は、ターメリックやクローブ、ベイリーフなど日本人が薬として使用してきた香辛料をブレンドしたものです。スパイス単品では、薬くさいと敬遠していた人々が、カレーという新しい文明の味を受け入れ、日本人好みの味に改良を続けた結果、今日のような国民食となりました。
ペッパーをはじめ多種多様なスパイスを生産するインドでは、古代からスパイスを多用した料理が発達してきました。とはいっても、もともとは医学的に薬効を取り入れることが目的です。特に熱帯地方に属する南部では、食欲不振を解消するため、辛い料理が多く考案されてきました。また、暑さで腐りかけた肉や野菜のにおいを辛さと強い香りで隠すことや消化を良くするためにもスパイスは欠かせないものでした。
よく使われるスパイスは、ペッパーや唐辛子、アニス、カルダモン、ターメリック、クミン、コリアンダーなどです。本場のインドカレーには10〜30種類ものスパイスが入っています。使用するスパイスの量や種類は、地域や料理人によって微妙に異なるため、インドでは家庭の数だけカレーの味があるといわれるほどです。たくさんのスパイスを混合した複雑な味なので、インドの人は毎日カレーを食べ続けても飽きないそうです。カレーに限らず、あらゆる料理の味付けにスパイスを使用しているインドでは、サラダやピラフにも濃厚な風味をつけることを好みます。また、シナモンやジンジャーをふんだんに使ったお茶を愛飲したり、食後の口臭予防に砂糖をまぶしたフェンネルの種をかむなど、スパイスは日常生活の中に深く浸透しています。
タイやインドネシア、ベトナムなどの東南アジアの国々になると、特に唐辛子を使った辛い料理が多くなります。とは言っても、ただ辛いだけでなく、甘さや酸っぱさが混じった味です。風味づけにライムやレモングラスなど、柑橘系の香りや酸味を持つスパイスが大活躍です。また、東南アジアでも数種類のスパイスをミックスして使うことも珍しくありません。この中には、コリアンダーやクミンなど強い風味をもつスパイスも含まれています。
唐辛子を好んで使用する点では韓国も負けていません。韓国の食事には必ずキムチとスープがついてきます。キムチは一般的に野菜を香辛料と漬け込みます。一見ものすごく辛そうですが、韓国の唐辛子はさわやかな辛さです。いつまでも口の中がヒリヒリすることはありません。
中国は地方ごとに特徴のある料理が発達しています。ホイコーローや麻婆豆腐でおなじみの四川料理は、ピリリとした辛さが特徴です。内陸のため料理には川魚をよく使います。生臭さを消し、味を調える目的で、唐辛子やニンニクが多用されてきました。一方、北京のように中国北東部の寒い地方では、スターアニスやクローブで風味をつけた濃厚で甘辛い味付けが好まれています。代表的な料理に北京ダックなどがあります。海に面した上海では、新鮮な魚介類がふんだんに手に入るため、酒で酔わせたエビに塩とさんしょうを混ぜた花椒塩(ホアジャオエン)をつけ、生きたまま食べる酔蝦(スイキョー)などの海鮮料理が発達しました。さらにスターアニスやフェンネルの香りを効かせ、甘辛くこってりとした味付けの料理も好まれています。中国を代表する料理は、広東料理です。食は広州にありと言われるように、山海の原材料が豊富に手に入る地域で、あっさりした味付けが特徴です。シュウマイやめん類などに使われるスパイスは、ペッパーやジンジャーなどが中心となっています。
日本のしょうがやわさび、さんしょうなどの薬味は和製スパイスというべきものです。さわやかな香りとピリッとした辛味が特徴で、素材の味を引き立て、香りが調和することで、味覚を一層引き立てます。
インドでは、医学的薬効を取り入れることを目的とし、古代からスパイスを多用した料理が発達してきました。食欲不振の解消や消化を良くするためにもスパイスは欠かせないものでした。
タイやインドネシア、ベトナムなどの東南アジアの国々は、唐辛子を使った辛い料理が多くなり、ただ辛いだけでなく、甘さや酸っぱさが混じった味です。風味づけにライムやレモングラスなど、柑橘系の香りや酸味を持つスパイスも多用します。唐辛子を好んで使用する点では韓国も同様です。
中国は地方ごとに特徴のある料理が発達しています。四川料理では、唐辛子やニンニクが多用されてきました。北京では、スターアニスやクローブで風味をつけた濃厚で甘辛い味付けが好まれています。上海では、スターアニスやフェンネルの香りを効かせ、甘辛くこってりとした味付けの料理が人気です。広東料理は、あっさりした味付けが特徴で、ペッパーやジンジャーなどのスパイスが使用されています。
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