2016年05月16日
介護施設と病院の違いについて
先日ある若手の介護士さんが、入居者のご家族からこのような質問を受けていました。
「介護施設と病院の違いってなんですか?」
たまたま横を通り過ぎようとしていた私にも聞こえたものですから、なんと答えるのかを聞いていると、
「病院は病気になったときに入院するところですね。施設は入所して介護を専門に受けるところです。」
と、その介護士さんは答えていました。
答え方としては、確かに間違ってはいません。間違ってはいませんが、それだけではご家族からの質問の意図を明確に聞き取れているとも言えません。
それぐらいのことは、当然ご家族もわかっているのです。介護を受けさせたくて施設へ入居を申し込まれたのですから。それに、病院の説明も誰でも知っているような内容でした。
返答のポイントとして大切なのは、質問の意図に対して、明確に答えることができるかということです。
それも踏まえて、さきほどのご家族の質問を振り返ってみましょう。実に様々な意図を感じ取ることができます。
「介護施設とはそもそも何をするところなのか」
「介護施設は病院と違って、具体的にはどのような介護サービスが受けられるところなのか。」
「施設に入って、どんな楽しいことが待っているのか。」
「では病院は病気や入院だけじゃなく何をするところなのか。」
「施設と病院の大きな違いとはなにか。」
先ほどの介護士さんは、このように質問の意図がいくつかあることに気づけず、安易に聞かれたことをストレートに返してしまうだけになってしまっていたのです。
そのご家族は、たとえそのような説明でも明らかに不満気な表情はされてはいませんでしたが、決して納得もされていないご様子でした。
みなさんは、同じような状況になったときに、どのように説明をしているでしょうか?
介護施設と病院では、根本的に大きく違うものがあります。
それは、病院は「治療をするところ」、施設は「生活をするところ」だということです。
ではまず、なぜ病院が「治療をするところ」だと言われるのかということからご説明していきましょう。
病院は本来、病気やケガなどの「治療をするところ」です。
その役割は、大きく分けて3つの役割があります。
1、肺炎や骨折などで、短期〜長期的に入院して治療をする。
2、風邪やその他の病気やケガで通院して治療をする。
3、リハビリなどで通院して治療をする。
このように、病院の役割は「治療することを目的」としているのがお分かりいただけると思います。
入院・通院・リハビリという機能を、患者の状態に合わせて複合的に活用することで、早期治療を目指すのが病院の役割と言えます。
そのため病院には、専門のリハビリ施設を併設しているところもあります。
たとえば骨折などで入院している患者の、早期の社会復帰を促進するためであったり、通院によって高齢者などの歩行訓練や関節可動域訓練(ROM訓練)等の日常生活における訓練なども行っています。
慢性的な病気や腰痛などで継続的に通院を必要とするケースもありますが、ほとんどの場合、病院は突発的な病気やケガを「治療するところ」として利用される方のほうが多いのです。
その他、末期ガンなどでその後の生活のほとんどを病院で過ごすことになる方もいらっしゃいます。そのような方は「治療と生活」の両面をサポートできるホスピスなどを利用するケースもあります。
普通に在宅や施設で生活をされていた高齢者が、突発的な脳梗塞や誤嚥性肺炎などで入院されたとしても、それは「治療をして、また元の生活に戻れるようにするための入院」ということになります。
入院をして、必要に応じてリハビリなどの訓練を受け、完治もしくはある程度の回復が見込まれた後に、高齢者を本来の「居場所」に戻すようにするのが、病院の役割のひとつとも言えるでしょう。
病院はいわば「急性期の患者」において、その役割を果たしているというわけです。
では次に介護施設の役割についてみていきましょう。
介護施設は、認知症や身体の障害などで、自宅で生活をすることが難しくなった方のために、施設に入居して介護サービスを提供することで、その方の生活を支えていくことを目的とした施設です。
つまり、自宅と同じように「生活をするところ」ということになります。
病院が「治療をするところ」だったのに対し、自宅にいたときと同じように生活をしていただくのが施設の役割です。
介護施設の役割は、以下のようになります。
1、食事や排泄、入浴などの日常生活における介護サービスを提供する。
2、ご本人またはご家族のニーズを反映したケアプランを作成し、それに沿って個別の介護を実践する。
3、リハビリの計画書に沿って個別のリハビリを行い、身体機能の低下を防ぐことで、健康に施設での生活を送れるようにする。
4、生活における悩みや不満などの相談を受け付け、それらを解消することで、不安なく施設での生活を送れるようにする。
5、散歩や買い物などの外出をして、気分転換を図ることで、生き生きと施設での生活を送れるようにする。
6、他の入居者や職員との関わりを通じて、人間関係を構築することで、張りのある施設での生活を送れるようにする。
このように、介護施設の役割は「生活を重視したもの」になっているということがお分かりいただけると思います。
認知症や障害があっても、入院の必要のない方はたくさんいらっしゃいます。完治することのない、そのような病気や障害を持ったまま生活していかなければならない、いわば「慢性期の高齢者」と呼ばれる方は、病院での積極的な治療は必要ありません。
かといって、自宅での生活にも支障のある方というのは、実際に多くいらっしゃいます。そのような方たちが、介護施設を利用されるのです。
また、自宅に代わる「終の棲家」として、施設を自宅のように利用したいという方もいらっしゃいます。
介護付きの有料老人ホームなどが増えてきた背景には、「認知症や障害はないけれども、ひとりで生活していくのは不安やさびしさがある」という高齢者のニーズがあります。
つまり、自宅で生活していたときのように、食事をして、入浴をして、外出をするという当たり前の生活を送れるようにすることが、施設の本当の役割だと言えます。
そこに介護サービスというものを加えることで、認知症になっても、身体に障害を持っても、これまでの生活スタイルをなるべく保持できるようにすることが、介護施設に入居される入居者とご家族の求める「理想」なのです。
決して介護を受けること自体が、利用者の「本当の目的」ではないということをいうことを、私たち介護士は理解しておかなければなりません。
振り返っていただくと、さきほどの介護士さんの返答がいかに言葉足らずで、ご家族を納得させられるだけの根拠を示せていなかったのかということがお分かりいただけると思います。
介護施設や病院の役割については、もちろんこれだけではありませんが、今回は一般的に聞かれることの多いご家族からの質問に対しての返答として、「介護施設と病院の違い」をご説明する際に役立てていただきたいと思います。
ご家族とコミュニケーションは、私たち介護士への信頼を得るチャンスだと思って、ぜひ納得していただけるような説明のできる介護士さんでありたいものです。
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「介護施設と病院の違いってなんですか?」
たまたま横を通り過ぎようとしていた私にも聞こえたものですから、なんと答えるのかを聞いていると、
「病院は病気になったときに入院するところですね。施設は入所して介護を専門に受けるところです。」
と、その介護士さんは答えていました。
答え方としては、確かに間違ってはいません。間違ってはいませんが、それだけではご家族からの質問の意図を明確に聞き取れているとも言えません。
それぐらいのことは、当然ご家族もわかっているのです。介護を受けさせたくて施設へ入居を申し込まれたのですから。それに、病院の説明も誰でも知っているような内容でした。
返答のポイントとして大切なのは、質問の意図に対して、明確に答えることができるかということです。
それも踏まえて、さきほどのご家族の質問を振り返ってみましょう。実に様々な意図を感じ取ることができます。
「介護施設とはそもそも何をするところなのか」
「介護施設は病院と違って、具体的にはどのような介護サービスが受けられるところなのか。」
「施設に入って、どんな楽しいことが待っているのか。」
「では病院は病気や入院だけじゃなく何をするところなのか。」
「施設と病院の大きな違いとはなにか。」
先ほどの介護士さんは、このように質問の意図がいくつかあることに気づけず、安易に聞かれたことをストレートに返してしまうだけになってしまっていたのです。
そのご家族は、たとえそのような説明でも明らかに不満気な表情はされてはいませんでしたが、決して納得もされていないご様子でした。
みなさんは、同じような状況になったときに、どのように説明をしているでしょうか?
介護施設と病院の根本的な違いとはなにか
介護施設と病院では、根本的に大きく違うものがあります。
それは、病院は「治療をするところ」、施設は「生活をするところ」だということです。
ではまず、なぜ病院が「治療をするところ」だと言われるのかということからご説明していきましょう。
病院の役割
病院は本来、病気やケガなどの「治療をするところ」です。
その役割は、大きく分けて3つの役割があります。
1、肺炎や骨折などで、短期〜長期的に入院して治療をする。
2、風邪やその他の病気やケガで通院して治療をする。
3、リハビリなどで通院して治療をする。
このように、病院の役割は「治療することを目的」としているのがお分かりいただけると思います。
入院・通院・リハビリという機能を、患者の状態に合わせて複合的に活用することで、早期治療を目指すのが病院の役割と言えます。
そのため病院には、専門のリハビリ施設を併設しているところもあります。
たとえば骨折などで入院している患者の、早期の社会復帰を促進するためであったり、通院によって高齢者などの歩行訓練や関節可動域訓練(ROM訓練)等の日常生活における訓練なども行っています。
慢性的な病気や腰痛などで継続的に通院を必要とするケースもありますが、ほとんどの場合、病院は突発的な病気やケガを「治療するところ」として利用される方のほうが多いのです。
その他、末期ガンなどでその後の生活のほとんどを病院で過ごすことになる方もいらっしゃいます。そのような方は「治療と生活」の両面をサポートできるホスピスなどを利用するケースもあります。
普通に在宅や施設で生活をされていた高齢者が、突発的な脳梗塞や誤嚥性肺炎などで入院されたとしても、それは「治療をして、また元の生活に戻れるようにするための入院」ということになります。
入院をして、必要に応じてリハビリなどの訓練を受け、完治もしくはある程度の回復が見込まれた後に、高齢者を本来の「居場所」に戻すようにするのが、病院の役割のひとつとも言えるでしょう。
病院はいわば「急性期の患者」において、その役割を果たしているというわけです。
では次に介護施設の役割についてみていきましょう。
介護施設の役割
介護施設は、認知症や身体の障害などで、自宅で生活をすることが難しくなった方のために、施設に入居して介護サービスを提供することで、その方の生活を支えていくことを目的とした施設です。
つまり、自宅と同じように「生活をするところ」ということになります。
病院が「治療をするところ」だったのに対し、自宅にいたときと同じように生活をしていただくのが施設の役割です。
介護施設の役割は、以下のようになります。
1、食事や排泄、入浴などの日常生活における介護サービスを提供する。
2、ご本人またはご家族のニーズを反映したケアプランを作成し、それに沿って個別の介護を実践する。
3、リハビリの計画書に沿って個別のリハビリを行い、身体機能の低下を防ぐことで、健康に施設での生活を送れるようにする。
4、生活における悩みや不満などの相談を受け付け、それらを解消することで、不安なく施設での生活を送れるようにする。
5、散歩や買い物などの外出をして、気分転換を図ることで、生き生きと施設での生活を送れるようにする。
6、他の入居者や職員との関わりを通じて、人間関係を構築することで、張りのある施設での生活を送れるようにする。
このように、介護施設の役割は「生活を重視したもの」になっているということがお分かりいただけると思います。
認知症や障害があっても、入院の必要のない方はたくさんいらっしゃいます。完治することのない、そのような病気や障害を持ったまま生活していかなければならない、いわば「慢性期の高齢者」と呼ばれる方は、病院での積極的な治療は必要ありません。
かといって、自宅での生活にも支障のある方というのは、実際に多くいらっしゃいます。そのような方たちが、介護施設を利用されるのです。
また、自宅に代わる「終の棲家」として、施設を自宅のように利用したいという方もいらっしゃいます。
介護付きの有料老人ホームなどが増えてきた背景には、「認知症や障害はないけれども、ひとりで生活していくのは不安やさびしさがある」という高齢者のニーズがあります。
つまり、自宅で生活していたときのように、食事をして、入浴をして、外出をするという当たり前の生活を送れるようにすることが、施設の本当の役割だと言えます。
そこに介護サービスというものを加えることで、認知症になっても、身体に障害を持っても、これまでの生活スタイルをなるべく保持できるようにすることが、介護施設に入居される入居者とご家族の求める「理想」なのです。
決して介護を受けること自体が、利用者の「本当の目的」ではないということをいうことを、私たち介護士は理解しておかなければなりません。
まとめ
振り返っていただくと、さきほどの介護士さんの返答がいかに言葉足らずで、ご家族を納得させられるだけの根拠を示せていなかったのかということがお分かりいただけると思います。
介護施設や病院の役割については、もちろんこれだけではありませんが、今回は一般的に聞かれることの多いご家族からの質問に対しての返答として、「介護施設と病院の違い」をご説明する際に役立てていただきたいと思います。
ご家族とコミュニケーションは、私たち介護士への信頼を得るチャンスだと思って、ぜひ納得していただけるような説明のできる介護士さんでありたいものです。
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