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2020年03月19日
『ハンニバル・ライジング』トマス・ハリスが描くレクター博士の記憶の宮殿の感想
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『レッド・ドラゴン』、『羊たちの沈黙』『ハンニバル』に
登場した精神科医ハンニバル・レクター博士の、
8歳からの苦難に満ちた約10年を描いた小説。
『レッド・ドラゴン』や『羊たちの沈黙』を読んでいない方でも
いきなり『ハンニバル・ライジング』を読んでいただいて大丈夫です。
十分楽しめると思います。
でも念のため、参考までに少し説明すると
『レッド・ドラゴン』や『羊たちの沈黙』には
レクター博士が逮捕され服役している間、
不自由な狭い牢獄の中で記憶の宮殿を逍遙し、自分の魂を慰めるシーンがあります。
「そこには初期バロック調の明るい広大な空間が広がっており
そこに存在する部屋や回廊の数はトプカピ博物館のそれに比肩する。
そこには至る所に展示品がある。
それらは適切な照明の下、たっぷりとした間隔を置いて配置され、」
様々な記憶と結び付いている。そして宮殿全体が典雅な音楽で満ちている。
とあります。
その記憶の宮殿に入ってみたいと思いませんか?
悪名高い食人鬼ハンニバル・レクター博士の記憶の宮殿に足を踏み入れ
彼の生い立ちと子供時代を見ていくことで
とらえがたい彼の精神世界を垣間見、その内面に触れてみませんか?
■ 目 次 ■
・あらすじ
・リトアニア版「火垂るの墓」
・政治的大混乱の渦中で、何が正義なのか?
・魅力的な叔母ムラサキ夫人と日本文化
・自由に羽ばたく鳥のイメージの作品毎の違い
・2007年ピーター・ウェーバー監督による映画「ハンニバル・ライジング」
・まとめ
1941年6月23日、東ヨーロッパを席巻したヒトラーが
電撃的にソ連に侵攻したバルバロッサ作戦開始後2日目、
8歳のハンニバル・レクターは父親であるレクター伯爵と母、
それに妹ミーシャと一緒にレクター城を逃れて森の中へ疎開する。
3年間どうにか生き延びた彼らだったが、とうとうソ連軍の戦車がやって来た。
あっという間にミーシャ以外の全ての家族を失うハンニバル。
そして、厳しい冬の最中、ならず者の集団が現れ兄妹は捕らわれてしまう。
幼少時のハンニバルは妹想いの優しい兄で、
戦時下という厳しい状況の中で小さな妹を懸命に守ろうとしています。
しかし、両親もなく12歳の子供であるハンニバルに
できることなんてたかが知れてます。
もうね、必死でミーシャを守ろうとするちびハンニバルが
メチャメチャけなげでいじらしいんですよ(ToT)。
まんま「火垂るの墓」の兄妹みたいやんか(T-T)
そして、「火垂るの墓」同様、妹の命は失われてしまいます。
その結果、ミーシャの死と同時にハンニバルの心も死んでしまいます(ToT)
昨日まで「正義」だったものが今日には「悪」となり、
翌日にはまたあら新たな「正義」が現れる。
ナチス・ドイツによるフランス占領、ソ連の参戦と侵攻、
ドイツに迎合するフランスのヴィシー政権、連合軍の上陸、
そんな風に政治的状況が二転三転するなか、 虐殺が公然と行われる状況において
何を拠り所に生きていくのか?
自分中の軸は何なのか?
そんなことも考えさせられる小説です。
ハンニバルの父の弟で伯爵を継いだロべール・レクターは、
日本人女性ムラサキを妻にしています。
ムラサキは琴や和歌、書道、華道を嗜む、
広島出身の美貌の女性という設定です。
ムラサキの名前の由来は紫式部。
宮本武蔵の水墨画が本の冒頭に掲載されていたりして、
トマス・ハリスの日本文化への深い理解と豊富な知識が伺えます。
グロテスクな殺人を描いていながら、
どこか静かなイメージが作品全体に漂っているのは、
日本の伝統文化の風情が小説のあちこちにちりばめられているからかもしれません。
トマス・ハリスの最新作『カリ・モーラ』では、鳥が自由と未来への可能性の象徴として描かれています。
『ハンニバル・ライジング』でも、
ムラサキ夫人は和歌の中で「白鷺」と詠まれています。
また、ハンニバルが籠に捕らわれていた鳥たちを空に放つシーンがあって、
とても印象的です。
しかし、ハンニバルの場合はカリ・モーラのように
前向きな明るい未来を予感させるものはなく、悲しくてどこか空虚です。
ギャスパー・ウリエル主演により映画化されました。
脚本はトマス・ハリスなので、原作ファンの期待に沿った形になっています。
多少の設定変更はありますが、大筋は原作通り。
見ごたえのある派手なエンターテイメント映画になっています。
『ハンニバル・ライジング』は、日本の風情をあしらい、
カニバリズムを扱った悲しくてグロテスクなエンタメ小説です。
そして、ただ面白いだけでなく、極限状態における
善悪の是非などを考えさせられる深みもある作品でもあります。
尚且つ、ストーリーの展開が巧みで、
一度読み始めたら最後まで一気に読んでしまいます。
ハンニバル・レクター博士の記憶の宮殿に、
あなたも足を踏み入れてみませんか?(*^^*)
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『レッド・ドラゴン』、『羊たちの沈黙』『ハンニバル』に
登場した精神科医ハンニバル・レクター博士の、
8歳からの苦難に満ちた約10年を描いた小説。
『レッド・ドラゴン』や『羊たちの沈黙』を読んでいない方でも
いきなり『ハンニバル・ライジング』を読んでいただいて大丈夫です。
十分楽しめると思います。
でも念のため、参考までに少し説明すると
『レッド・ドラゴン』や『羊たちの沈黙』には
レクター博士が逮捕され服役している間、
不自由な狭い牢獄の中で記憶の宮殿を逍遙し、自分の魂を慰めるシーンがあります。
「そこには初期バロック調の明るい広大な空間が広がっており
そこに存在する部屋や回廊の数はトプカピ博物館のそれに比肩する。
そこには至る所に展示品がある。
それらは適切な照明の下、たっぷりとした間隔を置いて配置され、」
様々な記憶と結び付いている。そして宮殿全体が典雅な音楽で満ちている。
とあります。
その記憶の宮殿に入ってみたいと思いませんか?
悪名高い食人鬼ハンニバル・レクター博士の記憶の宮殿に足を踏み入れ
彼の生い立ちと子供時代を見ていくことで
とらえがたい彼の精神世界を垣間見、その内面に触れてみませんか?
■ 目 次 ■
・あらすじ
・リトアニア版「火垂るの墓」
・政治的大混乱の渦中で、何が正義なのか?
・魅力的な叔母ムラサキ夫人と日本文化
・自由に羽ばたく鳥のイメージの作品毎の違い
・2007年ピーター・ウェーバー監督による映画「ハンニバル・ライジング」
・まとめ
あらすじ
1941年6月23日、東ヨーロッパを席巻したヒトラーが
電撃的にソ連に侵攻したバルバロッサ作戦開始後2日目、
8歳のハンニバル・レクターは父親であるレクター伯爵と母、
それに妹ミーシャと一緒にレクター城を逃れて森の中へ疎開する。
3年間どうにか生き延びた彼らだったが、とうとうソ連軍の戦車がやって来た。
あっという間にミーシャ以外の全ての家族を失うハンニバル。
そして、厳しい冬の最中、ならず者の集団が現れ兄妹は捕らわれてしまう。
リトアニア版「火垂るの墓」
幼少時のハンニバルは妹想いの優しい兄で、
戦時下という厳しい状況の中で小さな妹を懸命に守ろうとしています。
しかし、両親もなく12歳の子供であるハンニバルに
できることなんてたかが知れてます。
もうね、必死でミーシャを守ろうとするちびハンニバルが
メチャメチャけなげでいじらしいんですよ(ToT)。
まんま「火垂るの墓」の兄妹みたいやんか(T-T)
そして、「火垂るの墓」同様、妹の命は失われてしまいます。
その結果、ミーシャの死と同時にハンニバルの心も死んでしまいます(ToT)
政治的大混乱の渦中で、何が正義なのか?
昨日まで「正義」だったものが今日には「悪」となり、
翌日にはまたあら新たな「正義」が現れる。
ナチス・ドイツによるフランス占領、ソ連の参戦と侵攻、
ドイツに迎合するフランスのヴィシー政権、連合軍の上陸、
そんな風に政治的状況が二転三転するなか、 虐殺が公然と行われる状況において
何を拠り所に生きていくのか?
自分中の軸は何なのか?
そんなことも考えさせられる小説です。
魅力的な叔母ムラサキ夫人と日本文化
ハンニバルの父の弟で伯爵を継いだロべール・レクターは、
日本人女性ムラサキを妻にしています。
ムラサキは琴や和歌、書道、華道を嗜む、
広島出身の美貌の女性という設定です。
ムラサキの名前の由来は紫式部。
宮本武蔵の水墨画が本の冒頭に掲載されていたりして、
トマス・ハリスの日本文化への深い理解と豊富な知識が伺えます。
グロテスクな殺人を描いていながら、
どこか静かなイメージが作品全体に漂っているのは、
日本の伝統文化の風情が小説のあちこちにちりばめられているからかもしれません。
自由に羽ばたく鳥のイメージの作品毎の違い
トマス・ハリスの最新作『カリ・モーラ』では、鳥が自由と未来への可能性の象徴として描かれています。
『ハンニバル・ライジング』でも、
ムラサキ夫人は和歌の中で「白鷺」と詠まれています。
また、ハンニバルが籠に捕らわれていた鳥たちを空に放つシーンがあって、
とても印象的です。
しかし、ハンニバルの場合はカリ・モーラのように
前向きな明るい未来を予感させるものはなく、悲しくてどこか空虚です。
2007年ピーター・ウェーバー監督による映画「ハンニバル・ライジング」
ハンニバル・ライジング 完全版 プレミアム・エディション [ ギャスパー・ウリエル ]
|
ギャスパー・ウリエル主演により映画化されました。
脚本はトマス・ハリスなので、原作ファンの期待に沿った形になっています。
多少の設定変更はありますが、大筋は原作通り。
見ごたえのある派手なエンターテイメント映画になっています。
ま と め
『ハンニバル・ライジング』は、日本の風情をあしらい、
カニバリズムを扱った悲しくてグロテスクなエンタメ小説です。
そして、ただ面白いだけでなく、極限状態における
善悪の是非などを考えさせられる深みもある作品でもあります。
尚且つ、ストーリーの展開が巧みで、
一度読み始めたら最後まで一気に読んでしまいます。
ハンニバル・レクター博士の記憶の宮殿に、
あなたも足を踏み入れてみませんか?(*^^*)
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