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2020年03月12日
『雨月物語(上)』、上田秋成によるBL「菊花の契り」他怪談の感想
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江戸時代中期に上田秋成によって書かれた怪談短編集。
今回ご紹介する上巻には6編が収録されています。
原文、考釈、現代語訳が平行する形式で書かれていて、
原文の古語やリズム感も楽しめるし、
現代語訳がついているので分かりやすいです。
収録されているのは、
「白峯」
「菊花の契り」
「浅茅が宿」
「夢見応の鯉魚」
「仏法僧」
「吉備津の釜」の6編。
私のオススメは、「菊花の契り」です。
その昔、大島渚監督の「御法度」っていう映画の中で
取り上げられていて読んだのが出会いでした。
悲しくて切なくて、ずっと心に残っている名作です(ToT)
若くして帝位を追われた崇徳院の御陵を西行が訪れる。
うっそうと繁る薮の中の荒れ果てた御墓に心を痛める西行。
せめてもの手向けにと思い、経文を唱え鎮魂の歌を詠む。
その内日が沈んでしまい、辺りは暗くなり月の光もなくなった。
ふと、西行を呼ぶ声がする。
そして、痩せ衰えた異形の人影が現れて
「お前がよんだ歌の返歌をしてやろう」と言う……。
オーソドックスな怨霊もの。
生き霊とか死霊が、生きている人間や社会に害をなしていくという考えが
日常生活の中にリアルに生きていた時代ならではの臨場感があります。
播磨の国で清貧の生活をおくる丈部左門という儒学者がいた。
彼は病に倒れた旅人、赤穴宗右衛門に出会い、急速にお互い引かれ合う。
献身的な看病の末、やがて回復する赤穴。
しかし、回復した彼は
故郷の政治的動静を確認するため一度故郷である出雲に帰りたいと言う。
「秋には戻る」と言う赤穴に左門は
「いつ戻るのか?」と重ねて問う。更に、
「日にちを約束してください」と詰め寄る左門。
菊の節句には必ず戻ると約束し、旅立つ赤穴。
しかし、菊の節句当日の夜になっても彼はなかなか戻ってこなかった……。
これこれ!コレが読みたくてこの本を買ったですよ。
考釈には、左門の孤独な生活が赤穴に対する執着心を生んだ、と書いてあります。
そうですよね、勿論それもあるでしょう。
それもあるとは思うけど、単純に恋愛関係だったとすれば左門の執着も、
もっとすんなり納得できますよね。
だってそもそもタイトルが「菊花の契り」ですよ?
「菊花」って、黄門(コウモン)様の隠語でしょ(笑)。
そんでね。もし男女の恋愛だったらきっと結末は違っていたと思うんですよね。
二人が約束を守ることに固執したのは、それが、
愛情と尊敬と男のプライドをかけた重大な約束だったからじゃないかな?
いかがでしょうか。皆さんはどう思われますか?
下総の葛飾郡に勝四郎という男がいた。
宮木という美しい妻を持っていたが、妻を置いて京へ商売に行くことになる。
「秋には帰る」と約束して京へ向かった勝四郎だったが、
戦が起こり下総は火に包まれたとの噂を耳にした。
「きっと妻も死んだだろう」とあっさり思った勝四郎。
その後は下総に帰らず思いのまま気楽に暮らした。
やがて7年がたった頃、
故郷に放置した妻の消息を尋ねてみようとふと思いたち故郷に向かう……。
勝四郎、自由過ぎ(笑)。「菊花の契り」と対称的ですね。
男女だとこうなるパターンですよね( ̄▽ ̄;)。ははは。
美しく貞淑な妻はずっと自分を待っていてくれる、
という男性のファンタジー物語。
三井寺という寺に絵心のある興義という僧がいた。
水中を泳ぐ魚を描くのが大好きで、
寺仕事の暇を見つけては魚の絵に没頭していた。
しかしある年、急に病にかかり息が絶えた。
弟子や友人が集まり嘆き悲しんだが、興義の胸が仄かに暖かいことに気付き、
ひょっとしたら?と見守ることにする。
やがて3日たった後興義は突然目を覚まし、驚くべき話を始めた……。
僧侶の不思議体験談。
ちょっと不気味だけど怖くはないです。
伊勢の里に、家業を早くから後継ぎに譲り、
あちこち放浪の旅をするのを楽しみにしている男がいた。
ある時末の息子を連れて京へ物見遊山の旅に出かけたが
摩尼の山に入ったとき道の途中の険しさに苦労している内に日が傾いてしまった。
やむなく山中の霊廟で夜を明かすことになったふたり。
しばし時がたち夜も更けた頃、遠くから近づいてくる人々の気配に気づく……。
幽霊は登場するものの、コミカルな作品。
お気楽な旅人が遭遇する悲喜劇をユーモラスな口調で描く怪談。
吉備の国に井沢庄太夫という男がいた。
酒に溺れ女色にふけり親の言うことも聞かない。
心配した両親は、
良家の美しい嫁を貰えば息子も改心するだろうと考え縁談を整える。
しかし、庄太夫が家にとどまっていたのは最初だけ。
再び女に溺れ遊女を身請けして家には帰らなくなった。
そしてとうとう、嫁を騙して金を巻き上げ遊女と駆け落ちしてしまう……。
金にも酒にも女にもだらしない、どうしようもない男の物語(笑)。
江戸時代の価値観のせいか、男の浮気は悪いものではなくて、
嫉妬する妻の方が悪いという認識で書かれている幽霊ストーリー。
嫉妬する女って、嫌だよね〜、怖いよね〜という男性視点。
筆者も女性の嫉妬がらみで相当痛い経験をしたことがあるらしいのが
赤裸々な筆運びから伝わってきて笑えます(笑)。
江戸時代中期に書かれた怪談『雨月物語』の内6編が納められた短編集上巻。
おどろおどろしいシーンのある怨霊ものや切ない悲恋もの、
コミカルな悲喜劇など色々なテイストが楽しめます。
筆者は肩の力を抜いて筆を走らせており、
筆の端々に彼の心情が透けて見えていてちょっと笑える部分もあります。
とりあえず、「菊花の契り」だけでも読んでみてはいかがでしょうか?
【楽天】
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江戸時代中期に上田秋成によって書かれた怪談短編集。
今回ご紹介する上巻には6編が収録されています。
原文、考釈、現代語訳が平行する形式で書かれていて、
原文の古語やリズム感も楽しめるし、
現代語訳がついているので分かりやすいです。
収録されているのは、
「白峯」
「菊花の契り」
「浅茅が宿」
「夢見応の鯉魚」
「仏法僧」
「吉備津の釜」の6編。
私のオススメは、「菊花の契り」です。
その昔、大島渚監督の「御法度」っていう映画の中で
取り上げられていて読んだのが出会いでした。
悲しくて切なくて、ずっと心に残っている名作です(ToT)
クラシックな怨霊もの「白峯」
若くして帝位を追われた崇徳院の御陵を西行が訪れる。
うっそうと繁る薮の中の荒れ果てた御墓に心を痛める西行。
せめてもの手向けにと思い、経文を唱え鎮魂の歌を詠む。
その内日が沈んでしまい、辺りは暗くなり月の光もなくなった。
ふと、西行を呼ぶ声がする。
そして、痩せ衰えた異形の人影が現れて
「お前がよんだ歌の返歌をしてやろう」と言う……。
オーソドックスな怨霊もの。
生き霊とか死霊が、生きている人間や社会に害をなしていくという考えが
日常生活の中にリアルに生きていた時代ならではの臨場感があります。
哀切な時代劇ボーイズラブ「菊花の契り」
播磨の国で清貧の生活をおくる丈部左門という儒学者がいた。
彼は病に倒れた旅人、赤穴宗右衛門に出会い、急速にお互い引かれ合う。
献身的な看病の末、やがて回復する赤穴。
しかし、回復した彼は
故郷の政治的動静を確認するため一度故郷である出雲に帰りたいと言う。
「秋には戻る」と言う赤穴に左門は
「いつ戻るのか?」と重ねて問う。更に、
「日にちを約束してください」と詰め寄る左門。
菊の節句には必ず戻ると約束し、旅立つ赤穴。
しかし、菊の節句当日の夜になっても彼はなかなか戻ってこなかった……。
これこれ!コレが読みたくてこの本を買ったですよ。
考釈には、左門の孤独な生活が赤穴に対する執着心を生んだ、と書いてあります。
そうですよね、勿論それもあるでしょう。
それもあるとは思うけど、単純に恋愛関係だったとすれば左門の執着も、
もっとすんなり納得できますよね。
だってそもそもタイトルが「菊花の契り」ですよ?
「菊花」って、黄門(コウモン)様の隠語でしょ(笑)。
そんでね。もし男女の恋愛だったらきっと結末は違っていたと思うんですよね。
二人が約束を守ることに固執したのは、それが、
愛情と尊敬と男のプライドをかけた重大な約束だったからじゃないかな?
いかがでしょうか。皆さんはどう思われますか?
美しく貞淑な妻という男性のファンタジー「浅茅が宿」
下総の葛飾郡に勝四郎という男がいた。
宮木という美しい妻を持っていたが、妻を置いて京へ商売に行くことになる。
「秋には帰る」と約束して京へ向かった勝四郎だったが、
戦が起こり下総は火に包まれたとの噂を耳にした。
「きっと妻も死んだだろう」とあっさり思った勝四郎。
その後は下総に帰らず思いのまま気楽に暮らした。
やがて7年がたった頃、
故郷に放置した妻の消息を尋ねてみようとふと思いたち故郷に向かう……。
勝四郎、自由過ぎ(笑)。「菊花の契り」と対称的ですね。
男女だとこうなるパターンですよね( ̄▽ ̄;)。ははは。
美しく貞淑な妻はずっと自分を待っていてくれる、
という男性のファンタジー物語。
僧のスピリチュアル体験「夢応の鯉魚」
三井寺という寺に絵心のある興義という僧がいた。
水中を泳ぐ魚を描くのが大好きで、
寺仕事の暇を見つけては魚の絵に没頭していた。
しかしある年、急に病にかかり息が絶えた。
弟子や友人が集まり嘆き悲しんだが、興義の胸が仄かに暖かいことに気付き、
ひょっとしたら?と見守ることにする。
やがて3日たった後興義は突然目を覚まし、驚くべき話を始めた……。
僧侶の不思議体験談。
ちょっと不気味だけど怖くはないです。
お気楽な旅人の悲喜劇「仏法僧」
伊勢の里に、家業を早くから後継ぎに譲り、
あちこち放浪の旅をするのを楽しみにしている男がいた。
ある時末の息子を連れて京へ物見遊山の旅に出かけたが
摩尼の山に入ったとき道の途中の険しさに苦労している内に日が傾いてしまった。
やむなく山中の霊廟で夜を明かすことになったふたり。
しばし時がたち夜も更けた頃、遠くから近づいてくる人々の気配に気づく……。
幽霊は登場するものの、コミカルな作品。
お気楽な旅人が遭遇する悲喜劇をユーモラスな口調で描く怪談。
妻の嫉妬と復讐がテーマ「吉備津の釜」
吉備の国に井沢庄太夫という男がいた。
酒に溺れ女色にふけり親の言うことも聞かない。
心配した両親は、
良家の美しい嫁を貰えば息子も改心するだろうと考え縁談を整える。
しかし、庄太夫が家にとどまっていたのは最初だけ。
再び女に溺れ遊女を身請けして家には帰らなくなった。
そしてとうとう、嫁を騙して金を巻き上げ遊女と駆け落ちしてしまう……。
金にも酒にも女にもだらしない、どうしようもない男の物語(笑)。
江戸時代の価値観のせいか、男の浮気は悪いものではなくて、
嫉妬する妻の方が悪いという認識で書かれている幽霊ストーリー。
嫉妬する女って、嫌だよね〜、怖いよね〜という男性視点。
筆者も女性の嫉妬がらみで相当痛い経験をしたことがあるらしいのが
赤裸々な筆運びから伝わってきて笑えます(笑)。
ま と め
江戸時代中期に書かれた怪談『雨月物語』の内6編が納められた短編集上巻。
おどろおどろしいシーンのある怨霊ものや切ない悲恋もの、
コミカルな悲喜劇など色々なテイストが楽しめます。
筆者は肩の力を抜いて筆を走らせており、
筆の端々に彼の心情が透けて見えていてちょっと笑える部分もあります。
とりあえず、「菊花の契り」だけでも読んでみてはいかがでしょうか?
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