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2019年02月17日

シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること−森鴎外「佐橋甚五郎」6

2.2 標準偏差による分析
 
 グループA、グループB、グループC、グループDそれぞれの標準偏差を計算する。その際、場面1、場面2、場面3の特性1と特性2のそれぞれの値は、質量ではなく指標であるため、特性の個数を数えて算術平均を出し、それぞれの値から算術平均を引き、その2乗の和集合の平均を求め、これを平方に開いていく。(公式2)
 求められた各グループの標準偏差の数字は、何を表しているのだろうか。数字の意味が説明できれば、分析は、一応の成果が得られたことになる。 

◆グループA
場面1(特性1:6個と特性2:4個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。場面2(特性1:1個と特性2:9個)の標準偏差は、公式2により0.3となる。場面3(特性1:6個と特性2:4個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
【数字から分かること】
場面2を見ると、創発を表す数字が極端であるため、「佐橋甚五郎」は、個人主義による作品であると言える。

◆グループB
場面1(特性1:7個と特性2:3個)の標準偏差は、公式2により0.46となる。場面2(特性1:10個と特性2:0個)の標準偏差は、公式2により0となる。場面3(特性1:7個と特性2:3個)の標準偏差は、公式2により0.36となる。
【数字から分かること】
原文の最後にも記されているように、「佐橋甚五郎」は「続武家閑話(ぞくぶけかんわ)」という文献から起こした作品であり、場面1、場面2、場面3を通じて、アイロニーが少ないことがわかる。

◆グループC
場面1(特性1:2個と特性2:8個)の標準偏差は、公式2により0.4となる。
場面2(特性1:1個と特性2:9個)の標準偏差は、公式2により0.3となる。
場面3(特性1:0個と特性2:10個)の標準偏差は、公式2により0となる。
【数字から分かること】
場面1、場面2、場面3を通じて、新情報の2が多いため、ストーリーがテンポよく展開していることがわかる。

◆グループD
場面1(特性1:4個と特性2:6個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。、場面2(特性1:2個と特性2:8個)の標準偏差は、公式2により0.4となる。場面3(特性1:6個と特性2:4個)の標準偏差は、公式2により0.49となる。
【数字から分かること】
場面1、場面2、場面3を通じて、場面の前半は問題未解決、場面の後半は問題解決というパターンである。作品の冒頭に問題提起があることから、各場面の問題解決が関連するように配慮されており、作品の構成に近いデータが取れている。

花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること−森鴎外」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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