アルト・ハイデルベルク(140)
𝕬𝖑𝖙 𝕳𝖊𝖎𝖉𝖊𝖑𝖇𝖊𝖗𝖌
−−−−−−−−−−【140】−−−−−−−−−−−−−−−−−
..............Lutz: Meine liebe Frau Dörffel, es gibt etwas
...........................für einen Mann meines Standes, das
............................schlimmer ist, als alles andere. Wenn
...........................man das feine Gefühl für die Schranken
...........................verliert, welche Stand und Bildung auferlegen.
...........................Es kommt vor, dass ich mit Ihnen und den
...........................anderen Fruen in der Küche sitze und Kaffee
...........................trinke. Weil ich mich aussprechen muss,
..........................weil ich nicht ewig allein sein kann. Ich habe
..........................die Selbstachtung verloren.
....Fr. Dörffel: Ja, freilich, freilich.
..............Lutz: Gehen Sie jetzt. Ich werde versuchen, eine
.............................halbe Stunde .zu schlafen.
....Fr. Dörffel: Die Käthie ist draußen und kocht Kaffee.
............................Will der Herr Lutz schon Kaffee trinken ?
..............Lutz: Nein.
....Fr. Dörffel: (räumt Eimer, Scheuertuch etc. zusammen;
...........................ziemlich umständliche Pause, dann ab).
−−−−−−−−−−− (訳) −−−−−−−−−−−−−−−−
...............ルッツ:ねえ奥さん、私のような立場の人間には、
...............................何よりも具合の悪いことがあるのですよ.
...............................それは身分と教養が課す限界に対する繊
...............................細な感覚を見失う時のことなのです.そ
...............................れは、あなたや他のご婦人たちと一緒に
...............................台所で座ってコーヒーを飲んだりすると
...............................きに生じる感覚麻痺です.私だって腹を
................................割って話したりするんだし、いつまでも
.............................. 一人きりというわけにもいかない.
...............................私の自尊心は無くなり果ててしまったよ.
デルフェル夫人:はい、それはそれは、ごもっともで.
.................ルッツ:ではもう行ってください.半時間ほど
..................................寝てみます.
デルフェル夫人:ケティーが外でコーヒーを立てています
................................わ.ルッツさん、もうコーヒーをお飲み
................................になりますか?
.................ルッツ:いや、いらない.
デルフェル夫人:(バケツ、雑巾などを片付け、まとめる;
.................................なかり長ったらしい間.そしてやっと
.................................退場)
−−−−−−−−−−−《語彙》−−−−−−−−−−−−−−−−
Meine liebe Frau Dörffel:婦人への呼びかけ(親愛なるデル
フェル夫人)一般の人に対する丁寧な呼びかけです.
こうした戯曲ならばGnädige Frau (奥様) と呼びかけ
てもいいかもしれませんが、デルフェル夫人の場合は、
宿の仲居さんなので Meine liebe Frau Dörffel が最上
級の呼びかけだと思います.
schlimmer:(形、比較級) <schlimm @悪い、憂慮すべき、
深刻な、 A 好ましくない、悪い、不都合な、具合の
悪い、困った
das Gefühl:(e式) @感覚、A感情
die Schranke:(弱n) 遮断機、垣、垣根;[複で] 限界、制限
verliert:(3単現) <verlieren (他) 失う、なくす、紛失する
3変化:verlieren--verlor--verloren
auferlegen, auf/erlegen:(他)(負担、義務などを) 課す
welche:(関係代名詞) 先行詞はdie Schranken「制限」
der Stand:(変e) 身分
die Bildung:(弱en) 教養
vor/kommen:(自/s) 起こる、現れる、生じる
(場所副詞と共に) 見られる、存在する
die Frau:(弱en) 婦人、女性、女
die Küche:[発音キュッヒェ] (弱n) 台所、調理場
aus/sprechen:(他) 発音する、述べる、話し合う
sich⁴ aus/sprechen 心中を打ち明ける
ewig:(形、副) 永久(に)の、永遠(に)の
die Selbstachtung:自尊、自敬
räumt :(3単現) <räumen (他) 運び去る、除去する、片付ける
der Eimer:(同尾) バケツ、手桶
das Scheuertuch:(変er) 雑巾
umständlich:(形) くどくどした、回りくどい
−−−−−−−−−≪文法と独文解釈≫−−−−−−−−−−−−−−−−
es gibt etwas für einen Mann meines Standes, das schlimmer ist,
als alles andere.
私のような立場の人間にとっては、他の何にも増して
具合の悪いことがあります.
für einen Mann meines Standes が挿入されていて、分かりに
くいのですが
es gibt etwasの後にはdas schlimmer ist, als alles andere とい
う.関係節がつづいています.つまり、
es gibt etwas das schlimmer ist, als alles andere.
「何よりも具合の悪いことがある」
という文に
für einen Mann meines Standes「私のような立場の人間に
とって」
というフレーズが放り込まれているので、訳すときは挿入
部分を
引っぱり出して訳します.
「私のような立場の人間にとっては」+「何より良くない
ことがある」
文の構造が違うドイツ語は先行詞と関係代名詞の間という
隙間にフレーズが挿入されることがあります.日本語の修
飾関係ではありえないことなので注意が必要です.
しっかり閉めたはずの食器棚に入って来る虫に注意しまし
ょう.これをお邪魔虫と呼びます.
(うそです、ごめんなさい、でも注意しましょう)
今回とは関係ないのですが、挿入といえば、冠詞と名詞
の間にさえも入って来ることがあります.是非ご注意を!
本当にどこにでも入って来る挿入句、挿入文には完全に馴
れきるまで悩まされます.そういえば、天井裏でネコがネ
ズミを追っかけていたことがありました.あいつら、どこ
から入ったのか、不思議でなりません.
脱線ついでに、冠飾句とよばれる挿入の例がありますので
書いておきます.
『独文解釈の研究』(郁文堂)P 4 ~p 5 に
Das Gefühl der Heimat haftet nicht nur an den von der Natur
geschaffen Formen der Landschaft.
単語を書きます.
das Gefühl der Heimat:郷愁
heften:くっつける;an ~ haften 〜にくっついている
schaffen:[強変化]創造する、[弱変化]行なう
die Landschaft:県、近郊、風景
そして冠飾句とよばれるフレーズがこれ:
von der Natur geschaffen
何がすごいといって、den Formen という冠詞と名詞の間
に入って来るのですから、びっくりします.漬物とごは
んの間には、お茶は入ってもチョコレートは入らないだろ
うが、それに似たようなものだ.
漬物冠詞とごはん名詞の間には入るのはお茶形容詞ぐらい
のものだが...
この課の解説によりますと、冠飾句は形容詞として考えれ
ばよいとのことです.(だってそう考えないとおさまりが
つかないものね)
[冠詞 + 形容詞扱いの冠飾句 + 名詞] なのだそうですよ.
とてもお茶とはいえない、どちらかというと抹茶チョコ
みたいな形容詞ですけど、一応この冠飾句は形容詞という
ことでございます.
(訳)郷愁は、風光という、自然によってつくられた形に
密着しているだけではない.
せっかくだから、この続きの文も書いておきます.
nicht nur と呼応する文ですから!
Es setzt zugleich auch alle die vielfältigen Beziehungen
zu den Menschen voraus, die in dem Lande wohnen und
wirken, zu dem, was der Mensch aus diesem Lande gemacht
hat.
.
zugleich:同時に
vielfältig:多種の
die Beziehung zu ~ :〜との関係
voraus/setzen:前提とする
wirken:活動する
(訳)それはまた同時に、その地に住み働いている人々
とか、この土地から人間がつくったこととかに対する、
いっさいのさまざまな関係を前提としているのである.
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