ペルル嬢(149)(最終回)
モーパッサン作品集より
Mademoiselle Perle
Maupassant
−−−−−−−−【149】−−−−−−−−−−−−−−
et pet-être aussi que cette courte étreinte
fera passer dans leurs veines un peu de
ce frisson qu'ils n'auront point connu, et
leur jettera, à ces morts ressuscités en
une seconde, la rapide et divine sensation
de cette ivresse, de cette folie qui donne
aux amoureux plus de bonheur en un
tressaillement, que n'en peuvent cueillir, en
toute leur vie, les autres hommes !
−−−−−−−−−(訳)−−−−−−−−−−−−−−−
そしてまた、あるいはその束の間の抱擁が、その
血管の中に、彼らがこれまで少しも知らなかった
であろう戦慄の幾ばくかを流すことだろう.そし
てたちまちにして恋の蘇った死者たちに、生涯の
中で、他のどんな人たちも摘み取ることのできな
いほどの幸福を、この抱擁が一度の慄きの中に一
瞬に神々しい興奮と陶酔で、その幸福をふたりに
投げかけるだろう.
−−−−−−−−《語句》−−−−−−−−−−−−−−−−
court, e:(形) 短い
étreinte:(f) 抱き締めること、抱擁.
ne ... point:少しも〜でない.
Je n'aime point cela. / 私は少しもそれが
好きではない.
fera passer:(使役、直単未3単) 流すだろう
主語は「抱擁」.この抱擁が血管のなかに
戦慄を流すだろう、と言っています.自然
な日本語は「その抱擁で血管の中に戦慄が
流れるだろう」となります.事物主語は
しばしば「〜で」、と副詞句に置きかえて
訳すと文のぎこちなさが和らぎます.
ただしここでは文法理解のため直訳にしました.
それから「戦慄」とはもちろん恋の戦慄です
のでね.恐怖の戦慄ではありません.熊も
お化けも登場しません.
morts:死者たち、ここではペルルさんとシャンタル
さんのことですが、このふたりが恋愛におちい
る道は「死者として」でしかないということ.
jettera:(直単未/3単) < jeter (他) 投げる
単純未来の語幹は1人称単数現在の
語幹を基にしているのでje jette の
jette に rai, ras, ra, rons, rez, ront などを
加えて作る.
ressuscité, e:(p.passé) < ressusciter
ressusciter:(他) 生き返らせる、(死者を)蘇らせる;
Jésus ressuscita Lazare, dit l'Évangle. /
福音書によればイエスはラザロを蘇らせた.
en une seconde:ほんの一瞬
seconde:[スゴンド](f) ❶秒;❷一瞬、瞬時
rapide:(形) 速い、すばやい、急速な、
divin, e:[ディヴァン, ディヴィーヌ](形) ❶神の、神々しい、
神のような、❷素晴らしい
sensation:[サンサスィヨン](f) ❶感覚、感じ、❷興奮
ivresse:(f) 酔い、夢中、陶酔
folie:(f) 狂気、狂気の沙汰、精神錯乱
amoureux:(m)(単複同形) 恋人、恋人たち、
ただし単では女性にはamoureuse を用いる.
les deux amoureux:恋人同士(男女1名づつ)
bonheur:(m) 幸福、喜び;
plus de bonheur que ~:比較級、que 以下のの主語は
倒置されているles autres hommes
les autres hommes:他の人たち
n'en peuvent cueillir:摘み取るこのできる
ne は虚辞のne
plus de bonheur que n'en peuvent cueillir
les autres hommes:他の人たちが摘み取るこのできる
幸福よりも多くの幸福
qui donne aux amoureux:その幸福を与える、と言って
います.誰が?qui の先行詞が.それは?
それは、la rapide et divine sensation de cette
ivresse, de cette folie:陶酔と狂気の急行の神々しい
興奮が(より多くの幸福を与える)
tressaillement:(m) 身ぶるい、おののき
cueillir:[クイイール](他) 摘む
en toute leur vie:彼らの全生涯で
−−−−−−−−≪文法≫−−−−−−−−−−−−−−−−
小文字 et から始まっていますが、前回の長文を
途中で切ったためです.前回の文は、Et peut-
être que ~「〜ということがあるかもしれない」で
始まり、ポワン・ヴィルギュルという記号で終わ
っていました.;という記号です.ポワンとの違い
は、長文を途中で幾つかの文に分けて切るときに使う
記号がポワン・ヴィルギュル「;」で、普通のポワン
「.」は単純に終了するときに打つ記号です.
さて、そういうわけで、前回の文を合わせると、この
長文は Et peut-être que ~, et peut-être aussi que ~ とい
う構造になるのですが、文法上の主語も述語もなく、
que だけですが、これで「〜ということもあるだろう、
また〜ということもあるだろう」となります.
il y aura が脱落したと考えればいいと思います.なぜ
脱落したか?que のなかに単純未来をもってきている
ので、冗長になるのを避けたためだと思います.裁判
調書なら几帳面にIl y aura ce que ~ とする所でしょう.
以上をもちまして、「ペルル嬢」の学習を終了いた
します.みなさまには149回の長きにわたり、おつ
き合いいただいたことに心から感謝申し上げます.
ありがとうございました.みなさまの今後の益々の
学究とご多幸を祈念いたします.
2024年10月8日.ゴタぴょん
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