は、赤血球の一部であるヘモグロビンの必須成分です。鉄不足は、妊娠可能年齢の女性(特に月経血量が多い方)に多く見られますが、その他にも幼児や消化器系疾患または炎症性疾患の患者をはじめ、肉を食べない方や、激しい運動習慣のある方、献血を頻繁に行う方、胃バイパスなどの消化管手術を受けたことがある方など、症状から鉄不足が疑われる方は除外しておくことが大切です。

鉄は、赤血球、甲状腺ホルモン、ドーパミンの生成や最適な免疫機能に欠かせません。鉄分が不足すると、発育の遅れ、成長不良、行動上の問題、早産などの原因となるため、特に幼児や妊娠中の女性は鉄分を十分に摂取することが肝心です。多くの欠乏症例はサプリメントによる補給で解消できますが、中には深刻な基礎疾患の兆候である場合もあり、医師による検査で重篤な疾患を除外することが重要です。

長期的な鉄欠乏の場合、赤血球数が少ないと鉄欠乏性貧血に進行しやすくなります。 ちなみに、赤血球は酸素と栄養を全身に届ける上で不可欠です。その他の貧血には、ビタミンB12葉酸の欠乏によるものがあります。

鉄欠乏と貧血の症状には、倦怠感、エネルギー低下、息切れ、胸痛、月経異常、レストレスレッグス(別名、むずむず脚)症候群、筋肉痛、注意力低下、脱毛、胃酸不足、冷え性、気分低下などがあります。

鉄不足が気になる方は、かかりつけ医に相談して血液検査で鉄分濃度を調べてもらうと良いでしょう。特に一般的な検査は、血液中で鉄分を運ぶタンパク質であるフェリチン濃度の測定であり、貧血検査すなわち全血球計算(CBC)やヘマトクリット値(血液中に赤血球が占める割合)測定とは別の検査になります。なお、鉄分は摂りすぎると有害となるため、鉄不足と診断されない限り鉄サプリメントを摂取するのはやめましょう。

鉄の種類


食品から摂取できる鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。通常、雑食性の人の鉄分摂取量はヘム鉄が10〜15%程度ですが、総吸収量はヘム鉄が40%であることから、ヘム鉄の方が圧倒的に有用性が高いことがわかります。

非ヘム鉄は植物から摂取できる鉄で、腸で吸収されにくい性質があります。ただし、吸収率は現在の貯蔵量など個人差があります。

ヘム鉄は、特殊な運搬体を使用して、腸から細胞まで必要な部位に鉄を運びます。一方、非ヘム鉄は他の化合物と結合することが多く、体内利用される位置までの運搬がそれほど容易ではありません。

鉄分を多く含む食品トップ3


鉄分を含む食品は多数ありますが、ここではの摂取に最適な食品トップ3をご紹介します。

1. 糖蜜


糖蜜はモラセスとも呼ばれ、サトウキビを精糖する際に生じる副産物であり、鉄のバイオアベイラビリティ(摂取された栄養素が体内で利用・吸収される量)が非常に高い希少な食材です。廃糖蜜(ブラックストラップモラセス)は大さじ1杯あたり2.3mgの鉄分を含み、その50%〜97%が吸収されます。ジンジャーブレッドのような焼き菓子をはじめ、ベイクドビーンズやホットドリンクの他、肉や野菜のタレなどお料理に使ってみてはいかがでしょうか。

2. 肉類


肉類は、ヘム鉄の吸収に最も適した食物です。特に多く摂取できるのは牛肉や子羊肉などの赤身肉ですが、鶏肉や魚介類(特にカキ)もお勧めです。動物性食品から摂取したヘム鉄の約15%〜35%は腸で吸収されます。

3. 植物性の鉄分


植物性の鉄分としては、レンズ豆、豆類、ホウレンソウ、ナッツ類チョコレートの他、栄養強化された穀物やシリアルなどが挙げられます。ただし、これらの食品に含まれる鉄の量と体内で利用可能な鉄の量は同じではありません。というのも、植物性食品には鉄の腸管吸収を阻害するフィチン酸塩やポリフェノールなどの化合物が含まれているためです。

植物性の非ヘム鉄のうち、実際に体内で利用されるのは2〜20%に過ぎません。一方、有機栽培された作物は、通常のものより多くの鉄分を含んでいると言われています。肉の摂取量が少ないか、肉をまったく食べない食生活を送っている方はかかりつけ医に相談し、血液検査で鉄分濃度を測定することをお勧めします。

鉄分の吸収を良くするその他の方法


食品からの鉄分の摂取量を増やすには、鋳鉄製のフライパンを使って調理すると良いでしょう。これは、食材がフライパンから少量の鉄分を吸収するため、十分な摂取量を確保する上でプラスになるでしょう。

ビタミンC


ビタミンCは、腸内での非ヘム鉄の吸収を高めることでよく知られています。そのため、鉄分サプリメントと同時にビタミンCのサプリメントを摂取したり、ビタミンCの豊富な食品を摂取すると効果アップが期待できます。

カルシウム


カルシウムには、鉄の吸収を阻害するという点で相反する研究結果が出ており、吸収を妨げるという研究もあれば、妨げないという研究もあるのが現状です。従って、今後さらなる研究でこの相互作用の可能性が明らかになるまでは、念のためカルシウムと鉄のサプリメントの飲み合わせは避けたほうが良さそうです。

亜鉛


亜鉛も、非ヘム鉄の吸収を妨げるため注意が必要な栄養素です。長期的な鉄分補給が必要な場合は、亜鉛のサプリメントを別の時間帯に摂取すると、全体的に十分な栄養量を維持しやすくなると考えられます。

ビタミンE


ビタミンEも鉄の吸収を阻害する可能性があるため、ビタミンEが欠乏すると鉄サプリメントの副作用が悪化しやすくなります。動物研究では、ビタミンEを補給することで鉄サプリメントの副作用が最小限に抑えやすくなることがわかっています。

コーヒー、お茶、大豆


コーヒー紅茶大豆製品は、腸で鉄の吸収を妨げる可能性があることから、鉄サプリメントが必要な方は、摂取するタイミングをずらして摂るのが効果的でしょう。

鉄サプリメントの副作用


鉄サプリメント製剤にはさまざまな種類がありますが、多かれ少なかれどれも副作用があります。とはいえ、最もよく見られる副作用には、便秘、消化器系の不調、吐き気などがあります。このような症状は、サプリメントを食事と共に摂取することで抑えやすくなりますが、各自に最適な鉄分の摂取方法についてはかかりつけ医にご相談ください。

鉄分を摂取してはいけない人


鉄サプリメントは鉄分が必要な方には有効ですが、決して鉄サプリメントを摂取してはいけない人もいます。サラセミアやヘモクロマトーシスといった血液や肝臓の遺伝性疾患がある方は、通常よりも鉄分が蓄積しがちなため、鉄分の摂取は食事だけに頼るべきでしょう。

また、鉄の血中濃度が十分な方も、サプリメントは摂取せずに、食事だけで適正量を維持することが大切です。鉄分の過剰摂取は酸化ストレスを増加させ、炎症性疾患などを悪化させることがあります。

鉄分の補給により、一部の薬剤と相互作用することがあります。鉄サプリメントを取り入れる際は主治医に相談し、服用中の薬剤と別の時間帯に摂取する必要があるかどうか確認しましょう。

最も多い中毒事故の一つに、幼児による鉄サプリメントの誤飲があります。死亡を含む重篤な副作用を引き起こすおそれがありますので、鉄サプリメントは小さなお子様の手の届かないところに保管し、医師による欠乏症の診断なしにサプリメントを与えないようにしましょう。

まとめ


は必須栄養素であり、鉄欠乏は世界的な健康問題です。鉄欠乏の症状は鉄分不足に特有なものではないため、別の問題が存在する可能性があります。鉄サプリメントを摂取する必要があるかどうかは、かかりつけ医に相談して適切な血液検査を受けましょう。健康全般を考えて、肉類、全粒穀物、果物、野菜を含む栄養バランスのとれた食事を心がけ、必要に応じて医師等のサポートを受けながらサプリメントを摂取することをお勧めします