咳とは、喉や気道を刺激している障害物を除去するのに欠かせない手段です。

咳の原因には主に以下のようなものがあります。

  • ぜんそく

  • アレルギー

  • 煙や汚染物質による刺激

  • 気管支炎や副鼻腔炎などの細菌感染症

  • インフルエンザや風邪などのウイルス性感染症


咳は体にとって有益な反応とはいえ、四六時中止まらないのは辛いものです。この記事では、市販の医薬品に頼らずに、なるべく自然な方法で咳を和らげたい方に役立つアイデアをご紹介します。

ハチミツ


喉の痛みを和らげる家庭療法として古くから知られているハチミツを最初に取り上げるのは、その濃厚な粘度で喉を覆って癒す働きがあるためです。喉が刺激されると反射的に咳が出ますが、刺激を受けた喉をハチミツが改善することで咳が抑えやすくなります。さらに、ハチミツの抗酸化、抗炎症、抗菌作用にも症状を緩和する効果が期待できます。

2012年に行われた研究では、ハチミツを摂取した子供の夜間の咳が有意に改善されたというエビデンスが得られています。ただし、1歳未満の乳児にハチミツを与えてはいけません。ハチミツは、稀ではあるものの重篤な疾患であるボツリヌス症(ボツリヌス菌の毒素により発症する神経、筋の麻痺性疾患)を引き起こすおそれがあるためですが、1歳を過ぎる頃には消化器官が十分に発達し、毒素が体に害を及ぼす前に処理・除去されやすくなります。

ショウガ


ハチミツと同じく、ショウガにも抗酸化、抗炎症、抗菌作用があり、気道の平滑筋(へいかつきん)を弛緩(しかん:リラックス)させる抗炎症化合物により、乾性咳(空咳とも呼ばれる、痰を伴わない咳)やぜんそく性の咳を和らげるのに役立つかもしれません。試しに、ショウガ湯にハチミツを加えて自然な咳止めを作ってみてはいかがでしょう。温かいうちに飲むのが効果的です。

消炎鎮痛作用のあるハーブ


炎症を起こした粘膜を覆って炎症を鎮める物質は消炎鎮痛剤と呼ばれますが、咳の場合は口や喉の粘膜表面がその対象となります。消炎鎮痛作用のあるハーブは、咳を抑えるという点でハチミツと同じような機能があります。このような働きをするハーブはいくつかありますが、特にお勧めのものを挙げてみましょう。

  • マシュマロルート(ウスベニタチアオイの根)は、ハーブティー、ドライハーブ、カプセル、チンキ液など、さまざまな形で販売されています。800人以上を対象とした調査研究では、マシュマロルートのエキス摂取後10分以内にほとんどの参加者の乾性咳が改善されたと報告されました。乾燥マシュマロルートを使用する際は、(お湯に浸して使う大半のハーブとは異なり)冷水でもどします。水2カップにマシュマロルート(粉末ではなく、刻んで乾燥させたタイプ)大さじ1を加えて冷蔵庫で4時間から一晩寝かせ、茶葉を濾して飲みます。

  • 甘草根(かんぞうこん)には抗ウイルス、抗真菌、抗菌作用があります。咳の緩和には、甘草根入りのハーブティー、シロップ、咳止めドロップなどを試してみてはいかがでしょうか。ただし、甘草根は副作用として血圧を上げる可能性があるため、高血圧の方は摂取しないようにしましょう。

  • スリッパリーエルム(アカニレ)の樹皮は、古来アメリカ先住民文化において、咳の他にも下痢などの消化器障害の治療に使用されてきました。なお、スリッパリーエルムが吸収を妨げる薬剤が一部あるため、服薬中の方がこのハーブを使用する際は、事前に必ず医師にご相談ください。摂取方法は、お湯1カップにこのドライハーブを小さじ1入れ、10分以上蒸らしてハーブティーとして飲むのが一番でしょう。ドライハーブの他にも、スリッパリーエルムは粉末やカプセルで販売されています。


N-アセチルシステイン


NAC(N-アセチルシステイン)はアミノ酸の一種で、強力な抗酸化物質であるグルタチオンの体内生成を増加させる作用があります。また、NACは気道の粘液を分解できるため、湿性咳(痰を伴う咳)の重症度や頻度を下げる効果が期待できます。

ブロメライン


パイナップル由来のブロメラインは抗炎症作用のある酵素で、咳の原因となる粘液を分解する働きがあります。とはいえ、薬物相互作用があるため、服薬中の方はブロメラインを使用する前に医師にご相談ください。ブロメラインは出血のリスクを高める可能性もあることから、抗凝固薬(抗凝血薬)を服用中の方は特に注意が必要です。また、この酵素は特定の抗生物質の吸収を増加させたり、鎮静剤の効果を高める可能性もあります。

タイム


タチジャコウソウ(学名 Thymus vulgaris)とも呼ばれ、何世紀にもわたって乾性咳の治療薬として使用されてきたこのハーブには、抗炎症作用のあるフラボノイド化合物が含まれています。急性気管支炎の患者を対象とした研究では、タイムを他のさまざまなハーブと組み合わせることで、咳の緩和に有効であることが示されています。ある研究で、タイムにメマツヨイグサ(学名 Oenothera biennis、別名 月見草、英名 イブニングプリムローズ)とセイヨウキヅタ(学名 Hedera helix、別名 イングリッシュアイビー)を組み合わせたところ、咳の頻度と重症度が抑えられました。別の研究では、タイムとツタ(アイビー)の葉を含む咳止めシロップが咳を改善することがわかりました。さらに他の研究でも、タイムとメマツヨイグサの組み合わせが、急性気管支炎患者の咳発作を効果的に抑えることが実証されました。

咳の緩和には、錠剤やチンキ液でタイムを摂取すると良いでしょう。その他に、お湯1カップに乾燥タイム(粉末ではないもの)小さじ2を入れ、10分ほど蒸らして濾し、ハーブティーとして飲むのもお勧めです。

エッセンシャルオイル


一般的な市販医薬品の咳止めに代わる製品をお探しなら、以下のようなエッセンシャルオイルを取り入れてみてはいかがでしょうか。

  • ユーカリオイル:ドラッグストアに売っている従来の咳止めやヴェポラップ式の塗り薬を使ったことがある方なら、このような製品によく含まれるユーカリ(学名 Eucalyptus globulus)オイルの効果は既にご存知でしょう。ユーカリオイルの主成分の一つである1,8-シネオールには抗炎症作用と抗菌作用があることから、湿性咳が改善される可能性があります。というのも、炎症により粘液(痰)が過剰に分泌されやすくなるためです。ただし、ユーカリオイルは飲み込まないように注意しましょう。摂取すると心臓発作など深刻な症状を招くおそれがあります。

  • ローズマリーオイル:1,8-シネオールはローズマリー(学名 Rosmarinus officinalis)の成分でもあるため、このオイルにも抗菌作用と抗炎症作用があります。

  • ナツメグオイル:ニクヅク(学名 Myristica fragrans、ナツメグはその種子)に含まれる有機化合物カンフェンには、抗菌、抗酸化、抗炎症作用があります。このオイルを吸入すると気道の水分が減少することが示されているため、咳の原因となる鼻詰まりや痰のからみを緩和するのに役立つと考えられます。注意したい点としては、ナツメグオイルを皮膚に使用すると発疹やヒリヒリした灼熱感を引き起こす可能性があることです。そのため、広範囲に塗布する前に、適切に希釈し、まず少量塗って様子を見て、刺激などがないかを確認しましょう。また、高濃度のナツメグオイルを摂取すると、幻覚症状が現れたり、場合によっては昏睡状態に陥ることもあります。

  • ベルガモットオイル:ベルガモット(学名 Citrus bergamia)は柑橘類の果実で、そのエッセンシャルオイルは果皮から抽出されます。カンフェンはベルガモットにも含まれているため、このオイルにも抗菌、抗酸化、抗炎症特性があります。なお、日光に当たる前に高濃度のベルガモットオイルを肌に塗らないようにしましょう。重度の日焼けを起こす可能性があります。

  • ペパーミントオイル:ペパーミント(学名 Mentha piperita)は、ウォーターミントとスペアミントが掛け合わされてできた交雑種の植物で、喉の症状緩和に役立つメントールを含んでいます。咳は、気道の刺激に対する防御反射として起こりがちですが、気道が刺激された際にメントールを吸入すると咳の反応が弱まることが研究で明らかになっています。一方、ペパーミントオイルを肌に使用する場合は、発疹が出ることがあるため注意が必要です。


エッセンシャルオイルはさまざまな方法で使用できますが、純度の高いエッセンシャルオイルは効力が非常に高いため、希釈してから使用する必要があります。その希釈方法がいくつかありますのでご紹介しておきましょう。

  • キャリアオイル(オリーブオイルやスイートアーモンドなど、エッセンシャルオイルを希釈する際のベースとなる植物油)に数滴混ぜて肌に直接塗布します。

  • 吸入する場合は、ディフューザー、加湿器、スプレーボトルなどを使って噴霧すると良いでしょう。

  • キャリアオイルに数滴混ぜてから、胸などに塗って鼻詰まりを和らげる(ヴェポラップタイプの)軟膏剤に加えることもできます。

  • 鼻詰まりや咳がひどい時は、お湯を張ったボウルにオイルを数滴垂らし、その蒸気を吸い込みます。厚手のタオルを頭からかぶり、ボウルごと覆うと湯気が逃げません。この時、お湯に顔を近づけすぎると火傷をするおそれがあるため十分注意しましょう。


エッセンシャルオイルの効力を考えると、お子様への使用には注意が必要です。子供は大人に比べて皮膚が薄く、肝臓が未発達であり、オイルによっては安全でないものもあると考えられています。今回ご紹介した咳止めのエッセンシャルオイルのうち、ローズマリー、ユーカリ、ペパーミントはお子様に与えないようにしましょう。

塩水うがい


簡単にできる家庭療法といえば、塩を溶かした水でうがいをすることでしょう。塩水は、喉の炎症部位から水分を引き離し、腫れを抑える働きがあります。やり方は簡単で、水240mlに小さじ1/2の塩を入れて溶かした塩水でうがいをするだけです。

さらなるサポートが必要な場合


自然な家庭療法で咳を抑えることはできても、根本的な病気の治療にはならないかもしれません。そのために重要なのは、咳の真の原因に対処することです。

言うまでもなく、咳が悪化した場合はもちろん、数週間も続いたり、声がかれたり、夜眠れないほどの咳に悩まされている方はかかりつけ医の診察を受けましょう。また、以下のような症状を伴う咳がある場合も医師に相談することが大切です。

  • 喘鳴(ぜいめい:ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)または息切れ

  • 胸部の痛みまたは圧迫感

  • 痰がからむ咳または喀血(かっけつ:咳とともに呼吸器から血が出ること)

  • 発熱または頭痛。