アスタキサンチンは鮮やかな深紅色のカロテノイド色素であり、主に海洋生物に含まれています。自然界には400種類以上のカロテノイド色素が存在します。かつて、カロテノイドの健康促進効果は、ビタミンAに変換される能力に基づいていました。その代表的な例として、ニンジンのオレンジ色の元であるβカロテンはビタミンA値が最も高く、長い間最も重要なカロテノイドと考えられていましたが、現在では、ヒトの健康にとってとりわけ重要なカロテノイドの中には、ビタミンAに一切変換されないものもあることがわかっています。

すべての非ビタミンAカロテノイドの中で、アスタキサンチンは王様と称されています。それは、特に脳と血管系の健康促進や細胞損傷の予防など、独自の効果や作用があるためです。

アスタキサンチンの供給源


アスタキサンチンを最も多く含むのは、ヘマトコッカスプルビアリス(Haematococcus pluvialis、H. pluvialis)という微細藻類です。深紅の色素を持つこの藻類を食べたサケ、ロブスター、エビ、オキアミなどの海洋生物は身や殻が赤またはピンク色になりますが、

アスタキサンチンはこのような生物の生存に不可欠なのです。例えば、この微細藻類には、太陽光を化学エネルギーに変換する光合成の際に生じるダメージから身を守る上でアスタキサンチンが欠かせません。また、サケの稚魚は、アスタキサンチンを十分に摂取しないと死んでしまうか、うまく成長できないことも知られています。さらに、深海では可視光線の波長範囲の赤色光が透過しないことから、アスタキサンチンを含む生物は敵から身を隠しやすいという特徴があるため、一部の生物を保護する働きもあります。その上、この赤色色素は交尾や産卵行動にも一役買っています。

アスタキサンチンの生産方法


アスタキサンチンは、サケやニシンの卵(カズノコ)、クリルオイル(オキアミ油)のサプリメントなどに含まれていますが、その量はH. pluvialisのエキスから得られる量よりはるかに少量です。その一例として、フィッシュオイルやクリルオイルのカプセルに含まれる天然アスタキサンチンの量は100mcg(0.1mg)程度で、ほとんどのH. pluvialis由来のアスタキサンチンサプリメント1カプセルに含まれる4〜12mgと比べるとかなり少なめです。

天然アスタキサンチンの生産には、屋内の大型水槽か屋外のガラス管式プランターを用いて、アスタキサンチンの生産に適した条件下でH. pluvialisを培養しますが、この方法は環境汚染防止にも有効です。H. pluvialisがアスタキサンチンを生産した後、抽出法を用いてこの藻類の厚い細胞壁からアスタキサンチンを放出させ、濃縮します。

アスタキサンチンの供給源は他にも出回っていますが、そのような形態は化学合成か、遺伝子組み換え酵母(Xanthophyllomyces dendrorhous、旧称Phaffia rhodozyma)から生産されたものです。これらの合成型は飼料添加物として認可されており、養殖場でサケの赤色を出すために与えられることが多いのですが、合成型は天然アスタキサンチンとは構造が異なります。合成型は抗酸化物質としての効果が20倍も劣るため、天然アスタキサンチンと同じ効果は望めそうにありません。1

アスタキサンチンならではのメリット


多様な天然化合物を抗酸化物質と呼ぶのは月並みかもしれませんが、アスタキサンチンには確かに抗酸化作用があり、老化、インスリン抵抗性、心血管疾患の他、アルツハイマー病などの神経変性疾患などの原因となる酸化ダメージを防ぐのに役立ちます。その作用は、他の多くの天然抗酸化物質にも共通するものですが、アスタキサンチンは抗酸化物質とは若干異なり、細胞を保護するさらなる効果が見られます。2

まず、細胞膜を保護するという一般的な抗酸化作用については、よく知られている多くの抗酸化物質よりもアスタキサンチンはかなり強力な効果を発揮します。

アスタキサンチンの酸化ダメージ防止効果は、

  • ビタミンCの6000倍

  • CoQ10の800倍

  • 緑茶ポリフェノールの550倍

  • ビタミンEの500倍

  • α-リポ酸の75倍

  • βカロテンの11倍


アスタキサンチンのフリーラジカル除去作用は、

  • ビタミンCの65倍

  • βカロテンの54倍

  • 合成アスタキサンチンの21倍

  • プロシアニドールオリゴマー(ブドウやワインに含まれる抗酸化分子)の18倍

  • ビタミンEの14倍


この優れた抗酸化作用の他にも、アスタキサンチンには抗酸化物質としてさらに機能する特殊な性質がいくつかあります。これに関してまず触れておきたいのは、アスタキサンチンの特質の一つがその大きさにあり、どのように細胞膜に取り込まれるかという点です。というのも、アスタキサンチンは他の一般的なカロテノイドよりもかなり大きく、長いためです。その大きさと形状により、細胞膜に取り込まれて膜の厚み全体に広がりやすくなっています。これにより、アスタキサンチンは細胞膜の内側と外側を酸化ダメージから保護するだけでなく、細胞膜を安定化させることもできます。2,3

この膜安定化作用は赤血球において極めて重要です。赤血球は加齢とともに酸化ダメージを受けがちで、体内組織への酸素供給が損なわれやすくなるためです。しかも、アスタキサンチンは血流を大幅に改善するというメリットもあります。通常、組織の酸素供給が良好であるほど、個々の細胞や組織全体の機能が向上します。

アスタキサンチンの効能



  • アスタキサンチンには幅広い抗酸化作用があり、

  • 血液脳関門(血液から脳組織への物質の移動を制限して細菌やウイルスなどを防ぐバリア機構)や血液網膜関門(循環血液と網膜神経組織を隔てるバリア機構)を効果的に通過して、脳や目の保護作用を発揮します。

  • βカロテンなど多くの抗酸化物質とは異なり、アスタキサンチンは、細胞構造を損傷したり、フリーラジカル活性を増やしがちなプロオキシダント(酸化促進物質)になることはありません。

  • 筋肉や皮膚などの体中の組織に取り込まれるアスタキサンチンは、損傷から身を守る保護作用に優れています。

  • 他にも、アスタキサンチンは、脳や血管の細胞のダメージ防止に役立つ特定の抗炎症作用を発揮します。

  • また、 アスタキサンチンには、ミトコンドリア(細胞のエネルギー生成区画)の膜システムを効果的に保護して細胞のエネルギー生産を促し、特に運動中のダメージから筋肉組織損傷の予防を助ける働きもあります。


これらの効果はいずれも、40人の男性サッカー選手をアスタキサンチン摂取群(1日4mg)とプラセボ摂取群にランダムに割り付けた二重盲検試験(医師・患者ともに、誰が本物のサプリメント・薬剤かプラセボを摂取しているかわからないように進行して効果を客観的に判定する方法)で示されたものです。90日後、アスタキサンチン群で多数の効果が見られました。その中には、免疫機能の改善を示す唾液分泌型IgA濃度の上昇をはじめ、顕著な機能性抗酸化活性を示すプロオキシダント・抗酸化バランスの低下、運動による筋損傷の予防を示す筋肉酵素レベルの減少の他、炎症の血液マーカー(指標)としてよく知られているC反応性タンパク(CRP)濃度の減少によって示される全身炎症反応の著しい鈍化などがあります。4

アスタキサンチンの効能に関する調査


アスタキサンチンに関する科学的調査には、50件以上の臨床研究および実験的研究が含まれています。この調査の結果として、アスタキサンチンは以下の点で有益であることが示されています。

  • 心血管の健康。血管の内壁を保護して血流の改善を促進し、LDL(悪玉)コレステロールによる酸化(損傷)を防止。5

  • 目の健康。疲れ目を予防し、視力と奥行き知覚の改善を助け、目の組織への血流を増加。6

  • 脳の健康。老化から保護し、精神機能の維持と向上を促進。7

  • スポーツ関連活動。筋持久力と運動能力を促進し、運動中の筋肉のエネルギー生産を高め、筋損傷を予防。8,9

  • 糖尿病、インスリン抵抗性、メタボリックシンドローム。抗酸化状態の改善と血管損傷の予防を後押し。10,11

  • 皮膚の健康。小ジワや表情ジワを抑え、肌の弾力を高め、日焼けによるダメージから保護し、加齢によるシミや色素沈着を予防。12

  • 免疫の健康。免疫細胞に対するダメージから保護し、一部の免疫機能を強化。13


アスタキサンチンならではの特性の一つに、血液脳関門と血液網膜関門を通過して脳と目の両方を保護する能力がありますが、これはカロテン類としては非常に珍しい作用です。例えば、βカロテンやリコピンなどのカロテノイドは、どちらの関門も通過しません。アスタキサンチンのこの効果は、脳細胞を炎症から保護するいくつかの作用と同じく、特に脳と目の健康改善や、アルツハイマー病、黄斑変性(おうはんへんせい。主に加齢により眼の網膜にある黄斑に障害が生じる疾患)といった脳と目の変性疾患から脳を保護するのに期待できることを示すものです。14

また、アスタキサンチンは新しい脳細胞の成長を促し、脳全体の可塑性(かそせい。外界からの異なる刺激に対応する脳の能力)を促進する働きもあります。老化過程において、アスタキサンチンは脳機能を維持するだけでなく、向上もさせるのはこのような作用によるものです。その具体例として、ある二重盲検プラセボ対照臨床試験で96人の健康な中高年被験者をランダムに選び、プラセボ、アスタキサンチン1日6mg、アスタキサンチン1日12mgのいずれかを12週間にわたって投与したところ、12週間後、CogHealthとして知られる一連のメンタルテストでアスタキサンチン12mg摂取群に改善が見られました。こうした改善は、アスタキサンチン摂取群6mg・12mgともに学習テストにおいて早い段階で認められました。15

アスタキサンチンは、日焼けによるダメージから肌を守り、肌のバリア機能を高めることが数多くの臨床研究で示されています。16

最後に、アスタキサンチンは重要な免疫強化効果が実証されていることも特筆すべきでしょう。平均年齢20歳過ぎの健康な若い女性を対象としたある二重盲検臨床試験では、被験者を3群に割り付け、8週間にわたって対照群(研究中の治療を受けていない群)にはプラセボを、治療群は1日2mgと8mgの2群に分けてアスタキサンチンを投与しました。その結果、いずれの投与量でもアスタキサンチンには以下のような効果があることがわかりました。13

  • 抗体を生成する白血球(B細胞)の総数を増加

  • ウイルスやその他の感染性微生物を死滅させる能力があることからナチュラルキラー(NK)細胞と呼ばれる細胞の活性を増強

  • 感染予防に重要な役割を果たすT細胞の数を増加

  • 全身性炎症の主要マーカーであるC反応性タンパク質を減少


アスタキサンチンの推奨摂取量


アスタキサンチンの摂取量は1日4〜12mgが目安です。

アスタキサンチンの副作用と薬物相互作用


用法用量を守って摂取する限り、既知の副作用や薬物相互作用はあり