「VR(仮想現実)」「AR(拡張現実)」「MR(複合現実)」、さらに「SR(代替現実)」まで、コンピュータを使って現実世界の認知を変化させる「xR」技術が日々進化を続けています。
さらに、瞑想やヨガのような伝統的な技法を体験できる機会も増え、私たちのまわりには、かつてないほど「意識をコントロール」するためのテクノロジーが存在しています。では、そのテクノロジーをどのように活用すれば、よりよい未来につなげられるます。
「意識の活用術」を探るコンシャスネス・ハッキング
コンシャスネスは「意識」、ハッキングは「活用術」のような意味合いです。
ハッキングという言葉から、悪者がコンピュータを乗っ取るような行為を連想するかもしれませんが、それは「クラッキング」と呼ばれるべきもの。
コンシャスネス・ハッキングは「意識の活用術」といったところでしょうか。
xR技術や瞑想のような存在が身近にあったとしても、それをどう活用してよいか分からなければ、間違った方向に進んでしまうかもしれません。また、まだ知らない、自分に合った画期的な方法があるかもしれません。
コンシャスネス・ハッキングのコミュニティ・イベントでは、意識の活用術に興味がある人たちが集まり、全員で瞑想をしたり、共通のテーマについて考えたりして、交流と情報交換をおこなっています。
既存の宗教だけにとらわれるのではなく、かといってアメリカ的な消費や欲求にとらわれるのでもなく、より自分自身の精神を高めるために精進している人、自分の道を求めている人ですね。
マガリ:なるほど。では、日本ではどのようにしてコンシャスネス・ハッキングがスタートしたのでしょうか?
山田剛さん/「コンシャスネス・ハッキング TOKYO」共同設立者
山田剛(以下 山田):ブレインマシンの「マインドスパ(※1)」を開発しているラリー・ミニケス社長が、タナーと同じようにアメリカのコンシャスネス・ハッキングへ頻繁に参加していたんです。
そして「いろいろな都市で開催されているから、東京でもやってみれば?」という話を私に振ってきたんですが、私はアメリカのイベントに参加したことがなかったので、何をやってよいのかよく分からなかったんです。
そんなとき、ちょうどタナーが日本の大学院に留学していて、「それならタナーと一緒にやればいいじゃないか」とラリー社長からタナーを紹介され、まずはFacebookのグループを作って、手探り状態からスタートして……という感じです。
※1:ヘッドフォンとLEDゴーグルがセットになった、音と光の刺激によって瞑想状態へと導くことができる装置。
マガリ:私も一回目の「コンシャスネス・ハッキング TOKYO」に参加させていただきましたが、年齢も国籍もさまざまな人が大勢集まっていて本当に驚きました。SNSで見かけるスピ系のイベントとか、自己啓発系の集まりとは違う雰囲気だったのを覚えています。
山田:イベントの告知を英語と日本語の両方でおこなっているため、タナーの人脈もあって、参加者は英語スピーカーと日本語スピーカーが半々くらいでしょうか。
コンシャスネス・ハッキングのコンセプトに共感した方たちが集まって、すごくバラエティに富みながら、不思議とバランスが取れていたように思います。
マガリ:たしかに。日本で開催されるイベントに英語を話す人がたくさん参加しているというのが私には新鮮で、恥ずかしながら再発見でした。第1回目のイベントは全員で瞑想をおこない、体験を共有し合うという内容でしたね。
タナー:コンシャスネス・ハッキングでは、ほとんどすべてのアクティビティやレクチャーの後に、必ず意見交換をしています。ディスカッションがとても大切だと考えているんです。
マガリ:日本はアメリカほどディスカッションやグループ・カウンセリングが身近な存在ではないので、大勢のなかで会話をすることに苦手意識を持っている人も多いと思います。
タナー:そうですね。でも、私のような外国人は日本の文化や生活から学ぶ部分がたくさんあります。
ディスカッションというアメリカのスタイルにこだわるのではなく、日本では日本なりの方法で、自分たちのクリエイティビティを表現しやすい形があれば、それがオリジナルなコンシャスネス・ハッキングの形になると思います。
そこから生まれた日本独自のスタイルを海外へ持っていくことも考えていきたいですね。
マガリ:自由に交流できるコミュニティ・イベントだと、参加する人はほかの参加者がどんな雰囲気の人たちなのか心配になることもあると思います。たとえば、ディスカッションが成立しないような自己主張が強い人がきた場合はどうしますか?
山田:さまざまな意見が交換されることが大切なので、仮に自分が納得できない意見を主張されたとしても、それが何かの批判でない限りは「セッション」と思って受け止めていただければと私は思います。
もちろん、すべてうまく収まるように祈りますが(笑)。
コンシャスネス・ハッキングでは、誰かの意見に対する批判や否定をすることなく、それぞれが安心して意見をアウトプットをしてほしいですね。全員がオープンマインドな状態で参加できる場にしたいです。
瞑想もテクノロジーも意識をコントロールするためのツールのひとつ
マガリ:アメリカのコンシャスネス・ハッキングのイベントはどのような雰囲気ですか?
タナー:5月にサンフランシスコで「Awakened Futures Summit」というコンシャスネス・ハッキングのイベントが開催されたときは、約500名の参加者が集まって、いろいろな考え方や角度からの意見を共有することができました。
イベントのテーマは「(コンピューターによる)テクノロジーと瞑想とサイケデリックの融合」です。
マガリ:なかなか壮大なテーマですね!
タナー:そうですね(笑)。そのイベントでサンフランシスコ大学の教授が発表していた話がとても印象的でした。それはテクノロジー、瞑想、サイケデリック体験などで得られる、さまざまな経験を「メディスン」と呼び、そのメディスンが自分自身の変化や癒やしへつながっていくという考え方
マガリ:メディスンは「薬」という直接的な意味ではなく「何かしらの変化を与えるもの」の比喩でしょうか?
タナー:その通りです。どのような方法であれ、自分に何かしらの変化があったという経験そのものが、自分自身の意識や価値観の変化につながっていくのです。
マガリ:なるほど。でも、瞑想やサイケデリック体験は他人のコントロールを受けづらいけれど、xRのようなテクノロジーは、作り手が自由に世界をクリエイトし、コントロールできますよね。
それは、我々が神になるような怖さがあるとも思うんです。
たとえば、本来は自由に情報を発信できるはずだったインターネットの世界でも、Googleが神のように君臨し「Googleに否定される=インターネットに存在しない」のと同じような意味合いを持っています。
国家や企業の意思が、個人の意識や価値観へ介入することはないのでしょうか?
タナー:倫理のあり方についてはコンシャスネス・ハッキングでも課題とされています。
たしかに、Googleの検索結果で表示されるものはGoogleが選んだ情報だけですし、FacebookのようなSNSは心理学的な技術を使って、人々が夢中になるように設計されています。
でも、その事実を知っていれば、客観的に眺めることもできるはずです。
山田:私はテクノロジーも瞑想も手段であり、ツールのひとつだと思っています。
ツールはすべてにおいて諸刃の剣です。過去には、瞑想やヨガを通じてマインドコントロールがおこなわれていたこともありますよね。でも、私たちはマインドコントロールの危険性を理解しつつ、意識変容のポジティブな可能性を探求していくことも大切ではないでしょうか。
山を登るとき、いくつもの登山道がありますが、どの道を登っても山頂というゴールはひとつです。
意識の世界も同じように、テクノロジーの登山道、瞑想の登山道、アートや哲学の登山道など、それぞれの道の特徴を捉えながら、自分の好きな道で、自分が必要とする意識の山頂を目指すのが理想ではないでしょうか。
コンシャスネス・ハッキングでは、さまざまな道を紹介しています。
イベントは毎回テーマや内容が変わり、テクノロジー的な内容に限らずバラエティに富んでいます。
イベントを通じて、自分に合った手段で意識が変容する感覚を体験できれば、日常生活においての人生観・価値観も変容するし、変容できると思います。それがコンシャスネス・ハッキングです。
タナー:私たちがクリエイトする世界は、私たち自身の行動の結果です。私たちの行動が、私たちの世界をクリエイトし、それは私たち自身を表しているものです。
コンシャスネス・ハッキングを通じて、よりよい未来を皆さんと作り上げていきたいと考えています。
マガリ:最後に「コンシャスネス・ハッキング TOKYO」に期待することはありますか?
タナー:私はいつか日本を去ることになると思うので、そのときまでにコミュニティが独り立ちしていてほしいです。ボランティア・スタッフは常に募集しているので、運営に興味があれば積極的に関わってほしいですね。
山田:私はもう上の世代ですので(笑)、「コンシャスネス・ハッキング TOKYO」の運営は、早めに次の世代にバトンを渡したいと思っています。スマホやITなどのテクノロジーをネイティブに使いこなす若い世代が中心となって、日本にトランス・テック(Transformative technology)のムーブメントを起こしていってほしいです。
多分、そのときには、テクノロジーだけでなく、伝統的なもの、アナログ的な要素も融合していくのではないでしょうか。「コンシャスネス・ハッキング TOKYO」が、その中心的コミュニティのひとつに成長していくことを期待しています。
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