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2020年12月19日

429.Evan's Remains: エヴァンの残したもの

 おはようございます。あるへです。
 本日はこちら「エヴァンの残したもの」のレビューです。

 最初、ストアのゲーム紹介を見たときに「おや?」と思ったんですよね。
 ミステリースリラー。
 トップ画像やPVを見たときに感じる、「こんな感じのゲームかな?」っていう自分のイメージに、ミステリースリラーという言葉がいまいちぴんと来ない。
 まぁ、別にそれが購入動機ってわけではなく、単にドットが良くできててパズルアクションっぽいからってだけなんですけど(笑)

 ドット絵のクオリティが非常に高く、主人公の女の子も可愛いので始めはバストアップで出てくるなって思ってましたけど……慣れってやつかな。ストーリー追ってたら別段気にならなくなりました。こちらも表情豊かですし、ドットの動き自体も非常に滑らかで素晴らしい出来です。

 いじわるな見方をすると、力を入れたのはドットだなぁ、とね。もちろん、肝であるストーリーやパズルにも力を入れたんでしょうけど、これが、ね。

 本作は実はストアの表記通り、純真で爽やかな見た目とは裏腹に、謎が謎を呼び次々に明かされる真実に度肝を抜かされながら物語にぐいぐいと惹き込まれていく、まさにミステリーでスリラーなゲームです。
 よって本作の一番のメインはストーリーであり、パズルは続々と投入される新事実に頭をなじませるための息抜きのようなポジションです。
 したがってパズルをメインととらえると肩透かしを食うくらいには数が控えめで、難易度も抑えめです。さらにはパズルシーンそのものを初見時からスキップできる機能も搭載しているので、そういった部分からも、どうしてもパズルで詰まったらスキップしてもいいから物語のその先を見て欲しい、という制作者の思いが伝わってきます。

 彼らの思惑通り、ストーリーには惹き込まれました。決してボリューミーでなく、むしろ非常に短い短編のような構成なんですが、一つ一つのシーンに結構な情報が詰まっていて、逆にパズルを解きながら休憩を挟むというスタイルは新鮮でもありました。

 攻略中は、というか攻略がひと段落してエンドクレジットを見ながら一息つくまではかなりわくわくしながらテキストに食い入り、あれやこれやの伏線を思い出しながら本当に楽しめました。

 しかし、私の本作に対する評価は決して高くはありません。
 演出は確かに良かったです。エンディングもやられたーって感じだったんですけどね。
 ですけどね。
 クレジット中に、作中のさまざまな出来事を思い起こすじゃないですか。そして、明かされた真実やらネタやらと照らし合わせて、自分なりの落としどころを探すんですよ。
 そうすると、どうしても真実とはうまくマッチしないような出来事や張られっぱなしの伏線などが見えてきて、どうしても腑に落ちないんです。
 そこにはさらに何かしらの真実が横たわっている、というよりは、ただミスリードのためだけに用意されたイベントが少なからずあって、それが矛盾を巻き起こしているような。どうも、本当にそのイベントは必要だったのかなっていうのがちらほら。
 たしかに、その伏線イベントがあったからこそ混乱して、ミスリードしてたり、想像が及ばなくなって面白くなった部分はあるにはあるんですけど、いざ壮大なネタばらしー、真実はこうでしたーってなってから改めて考えてみると、じゃああのシーンはいったいどんな意味が? ここでこうなるって、なんかおかしくね? っていう考えの方がどんどん膨らんできてしまって、そしてやっぱりラストシーンにはプレイヤーとしては納得できる方がマイノリティなオチだったのも手伝って、ちょっとなぁ、と。

 たしかに攻略中は楽しくて仕方なかったんだけど、蓋を開けてみれば、よくよく考えてみればそこまで緻密に構築されたストーリーではなくて、意外とノリと勢い、期待を煽っただけの稚拙なストーリーだったんじゃないかなと、そう思えてきてしまうんですよね。

 それゆえに、ラストシーンで最高潮に達した感情は見る間に萎んでいき、あまり腑に落ちないもともとのエンディングと相まって私の評価は低くなりました。

 なんとも抽象的な表現で申し訳ないけど、あくまで本作の一番面白い所は息つく間もなく明かされる事実のコンボによって巻き起こる感情の連鎖爆発なのであって、ここでストーリーの一部を語るのは野暮だと思います。
 たかが海外インディーのノベル風ゲームと思って舐めてかかると平手打ちを食らうくらい、初見は楽しかったです。

 ただ、こうなってしまうのも仕方ないっちゃあ仕方ないんですよね。むしろ、これこそがゲームというエンターテインメントの弱点かもしれません。
 昨今のゲームは、ざっくりいうと「こんな感じ」とゲーム全体のある程度のイメージを作り上げたら、たくさんの人間を動員してそれぞれの分野を同時に開発し始めますよね。
 キャラクタードットなりステージデザインなり。ものによってはモンスターやボスだったり、特定のイベントのための特別なスクリプトとか。
 その中で一番変更を加えにくいのがストーリーだと思います。こればっかりはパッチでも直せない。骨子ですから。柱ですから。
 さらに言えば、ストーリーだけは、金を掛ければ掛けるほど良いものが出来るわけではありません。
 ここだけは、人が人のために人を想って効率よく頭を使ってひねり出さなければならない部分なんです。
 つまり何が言いたいかというと、さっき序盤で述べたように、ドットのクオリティは非常に高いんです。すでにゲーム全体としてのイメージが固定され、ドット制作も佳境に入っている、そんな状況で今更ストーリーに不備があったとしても変えるわけにはいかないんですよね。
 さらに追い打ちとして、本作には期日での発売を待ち望む、大勢のキックスターターも控えていました。
 アルファ版とか、プリオーダーとか、クラウドファンディングみたいな、そういう感じの。
 いったん冷静になって、ゲームの質を向上させるために思い切った手を加える余裕がなかったんじゃないかなと、邪推してしまいます。

 悲しいかなこれが小説や映画であったなら、もっと納得のいくまでストーリーを練り込めたものを、なんなら製作途中でも書き直して、作り直すこともできたかもしれません。
 しかしゲーム制作だけはそうは行かないと思ってます(現実問題として、小説だろうがなんだろうが、開発途中での路線変更は大博打だと思いますけど)。
 ゲームを作り直すということは、時間と金だけでなく、自分以外の大勢の人が費やしてきた努力や時間さえも削ってしまうことになるのですから。そしてそうなってしまう遠因の一つに、私たちの意識「たとえストーリーがクソでも、ゲームが面白いならそれでいいや」とか「セリフ読むの面倒だから基本スキップ」という風潮が起因しているんではないでしょうか。こういうプレイスタイルがある以上、ストーリーに手を加えるリスクに対するリターンがどうしても少なくなってしまう。
 ゲームはエンターテインメントとして、観る、聴く、感じる、など受け身のものに加えてインタラクトできるというのが大きな特徴である反面、作り手にはかなり大きな負担になっているとも言えます。
(エンドクレジットの後にゲーム画面に戻ってパズルをこなせるシーンがあるんですけど、ポーズしようと思ってメニューボタン押したらエラー落ちしたり、上画面を確認しようとパッド上を押したらキャライラストが変わってしまったり……、そこまで余裕なかったの!?)

 ま、そんなことを考えつつ、ちょっと突貫工事な気がするなぁと、もったいないなぁと感じてしまったのでした。
 面白かったけどね。決してクソゲーでもないですよ。雰囲気作りはかなり気合入ってました。次はもうちょっとじっくり作ってみよ? きっといいものができあがるよ。
 なんて、ちょっと上から目線ですけど。


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