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2017年07月10日

巨悪と戦う聖人君子

安倍晋三首相の友人が理事長を務める学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り、衆院文部科学、内閣両委員会合同の閉会中審査が10日、行われました。
参考人として招致された前川喜平・前文科事務次官は、国家戦略特区で新設が認められた経緯について「はじめから加計学園に決まるようにプロセスが進んだように見える。非常に不合理な意思決定だった」と証言し、萩生田光一官房副長官が関与したことを示す昨年10月7日付の文書について、「次官在職中に受け取った」と存在を認めました。

前川氏は「私が在職中に担当課から説明を受けた際に受け取り、目にした文書に間違いない」と明言し、「背景に首相官邸の動きがあったと思う。和泉洋人首相補佐官がさまざまな動きをしていた」と改めて官邸の関与を主張し、「順次条件を付けて加計学園しか残らないようにしたのはなぜか。ブラックボックス化されている」と批判しました。

文部科学省の事務次官まで登り詰めた、前川氏はその能力もさることながら、親族に政治家、財界人がおり、政財界に幅広い人脈を持っています。
天下りあっせん問題で失脚したとはいえ、民間から引く手あまたの人材であるはずです。
それをかなぐり捨ててまで、政権に刃向かうメリットはないはずです。
しかも出会い系バーに足繁く通う性癖まで世間に晒されています。

今の前川氏を支えているのは、首相官邸への怒り、憎しみでしょう。
官僚機構は一般的に、前例踏襲主義です。
そして文部科学行政の頂点を極めた前川氏は、政治家の言葉より、行政ルールを重んじるべきと考えているのでしょう。

規制改革を訴え、過去のやり方に囚われない首相官邸は、自分の行政ポリシーに相反するものであったと思います。
従来の行政慣習を軽んじる安倍政権は、許せないのです。

それにしても、森友学園の籠池泰典氏といい、なぜこうも評価が変わってしまうのでしょうか。
マスコミの報道姿勢は180度変わりました。
つい半年ほど前まで、籠池氏は愛国教育を児童達に強要させる危険人物という扱いでしたし、前川氏は文部科学省の天下りあっせん問題で、マスコミから悪の権化のごとく叩かれていました。

半年が経過して、マスコミの対応は真逆となりました。
籠池氏も前川氏も、今や政権批判の急先鋒として、マスコミからもてはやされています。
安倍政権を極悪非道と捉える傾向が一部マスコミにはあるようで、結果的に政権と反目した両名は、巨悪に立ち向かう正義の味方のようで、聖人君子であり、ちょうどいいモニュメントとして担がれているように見えます。

前川氏に関しては、一部に民進党の党代表に推挙する声もあるようです。
元官僚の国会議員は珍しくありませんが、事務次官経験者は過去にいないでしょう。
こうした話を聞くと、地道な活動をしている議員諸氏は馬鹿らしく思うことでしょう。
あるいは、都議会選挙で圧勝した小池百合子東京都知事のように、選挙で風を吹かせられるとの期待があるのでしょうか。



(動画は国際政治学者である三浦瑠麗さんの、前川氏評です)

2017年07月05日

繰り返されるチルドレン誕生

東京都議会議員選挙(定数127)が2日投開票され、各政党が国政選挙並みの総力戦を繰り広げる中、小池百合子都知事率いる都民ファーストの会が圧勝しました。
都民ファーストの会は、公認候補50人中49人が当選し、推薦した無所属候補6人を追加公認して55議席を確保し、改選前の6議席から議席を大幅にアップさせ、自民党から都議会第一党の座を奪取しました。
一方、自民党の獲得議席は23議席と、改選前の57議席から激減し、民主党(当時)が圧勝した2009年の前々回の都議選で最低の38議席を大幅に下回る過去最低の大惨敗となりました。

小池知事は選挙後に出演した報道番組で、「都民の皆さんの理解、支持が確実なものになりつつある。感動すると同時に責任の重さを痛感する」と話し、東京オリンピック・パラリンピックの準備を加速するほか、待機児童対策や首都直下地震への対応にさらに取り組む考えを示しました。

他方、議席を大幅に減らし大敗した自民党は、川井都議会議長に加え、都議会の高木幹事長や崎山政務調査会長らも落選しました。
首相の側近でもある自民党都連の下村博文会長は、全議席が確定するのを見届けたうえで、会長職の辞意を表明しました。

今回の都民ファーストの会が躍進した理由は、議席を争っていた自民党に不祥事が相次いだ点が挙げられます。
自民党にとっては最悪のタイミングで投票日を迎えることとなりました。
そしてそれとは別に、小池百合子都知事の圧倒的な存在感がありました。

肝心の小池都知事の政策ですが、豊洲市場移転問題では都議会自民党と対立していましたが、他の政策についてはほぼ一致しています。
そして小池都知事は、東京五輪を控えて、国政では安倍政権と協力関係を維持していました。
そもそも小池都知事は自民党員でしたし、実質的に党内部の路線対立という意味合いもあって、今回は都民ファーストの会に投票した自民党支持者は少なくなかったようです。
小池都知事としては、旧態依然とした都議会を一新し、自らの思惑通り行動する配下で議会を固めて実行力を高めたい、そんなところでしょうか。

それにしても、今回の選挙では、小池都知事の人気の波に乗り、想定外の当選を果たした若手議員が数多く誕生しました。
かつての小泉チルドレンしかり、小沢チルドレンしかり、選挙の度によく見る光景ではあります。
小池チルドレンはテレビ局の元女子アナからレゲエ歌手、女優の平愛梨の弟、西郷隆盛の直系夫人と、なかなかバラエティに富んでいます。

こうして見ると、選挙に当選するには、抜群の人気を誇る政治家の勢いに乗ってしまうのが、最も簡単ではないかと思えてきます。
候補者の経歴、能力がいかに優秀で、素晴らしい情熱があっても、チルドレンの親であるペアレントの人気、勢いの前には無力なのだろうと思います。
その意味で、千代田区から立候補した、自民党公認の中村彩氏が落選したのは、本人の判断もさることながら、過去の法則に基づいた運命であったとさえ思えてきます。
その華やかな経歴と、都政へ懸ける熱い想いは、一部で高い評価を得ていたのですが。

もっとも、小泉チルドレンも小沢チルドレンも、その後の選挙には滅法弱く、今も生き残っているのはごくわずかです。
親であるペアレントの人気、勢いに陰りが出れば、なす術がありません。
新しく世に出た小池チルドレンが、今後どのように自分の進路を切り拓いていくのか、興味深いところです。

2017年07月02日

ヒトラーを評価した日本銀行審議委員が謝罪

日本銀行の原田泰審議委員は30日、都内で29日に行った講演で、ナチス・ドイツ総統だったヒトラーが「正しい財政・金融政策をしてしまったことで、かえって世界が悪くなった」などと発言したことについて、誤解を招く表現があったことを心よりお詫び申し上げたいと謝罪しました。

原田委員は一連の発言について「早期に適切な政策運営を行うことの重要性を述べたものであり、ヒトラーの政策を正当化する意図は全くない」と述べ、「実際、発言の中において、ヒトラーの政策が悲劇をもたらしたことは明確に指摘している」としつつ、「一部に誤解を招くような表現があったことについては、心よりお詫び申し上げたい」と謝罪しました。

原田委員の発言について日銀では「日本銀行としても、審議委員の発言に誤解を招くような表現があったことについては遺憾に思っており、こうしたことがないよう、今後とも注意してまいりたい」とコメントしました。

原田委員は29日の講演で、1929年の世界大恐慌後の欧米の財政・金融政策に言及し、「ケインズは財政・金融両面の政策が必要と言った。1930年代からそう述べていたが、景気刺激策が実際、取られたのは遅かった」と述べ、さらに欧米各国を比較すると、英国は相対的に早めに財政・金融措置を講じたが、ドイツ、米国は遅く、フランスは最も遅くなったと分析。
そのうえで「ヒトラーが正しい財政・金融政策をやらなければ、一時的に政権を取ったかもしれないが、国民はヒトラーの言うことをそれ以上、聞かなかっただろう。 彼が正しい財政・金融政策をしてしまったことによって、なおさら悲劇が起きた。ヒトラーより前の人が、正しい政策を取るべきだった」としました。

確かに、ナチス・ドイツの財政・金融政策が優れていたことは、案外知られている話です。
1929年の世界恐慌によって当時のドイツ経済は壊滅的な状況に陥りました。
失業率は40%に達し、社会情勢も不安定でした。
大不況にあえぐ中、1932年にヒトラーが政権に就任すると、莫大な失業者をほんの3年ほどで恐慌以前の水準に戻し、経済をみごとに回復させました。

その経済政策をまとめると、アウトバーンに代表される公共事業投資を拡大し、その大半が労働者賃金に充てられ、失業対策としたことです。
中高年を優先的に雇用し家計保護に特化させ、中小企業への融資制度を整え、価格統制により物価を安定させるなどして、不況下にあったドイツ経済を一変させました。
なお、公共工事を行うための財源は、適正な財政規模を遙かに上回る巨額の赤字国債を充てました。
これらはニューディールより早いケインズ政策の実践であり、充分な成果をあげました。
とはいえ、何の罪も無いユダヤ人を虐殺したことには変わりありません。

日銀の原田委員は、なぜヒトラーの話を持ち出したのでしょうか。
名誉ある日銀委員の発言は、慎重かつ、無難であるべきです。
如何に発言内容が正しくとも、奇をてらった物言いは、世間から批判されるのが目に見えています。
原田委員はアベノミクスを支える主要メンバーの一人です。
デフレ脱却の命運を握る委員が、軽はずみな言動で失脚とならぬよう、肝に銘じて頂きたいところです。
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