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2016年05月02日

書評−終わった人




またまた書評ですが、今回は内館牧子さんの「終わった人」です。この本で
感心したのは、内館さんてもちろん女流作家さんですが、よく男性の、しかも
60過ぎのジジイの心理を見抜いているなという事でした。当然膨大な資料集
めやインタビューなど行ったと思いますが、それにしてもジジイの痛いところ
を、容赦なく突いてくれます。

この本は言ってみれば「定年小説」ともいうべきものです。私も約3年前定年
を迎えましたので、一々この主人公の田代壮介に自分を重ねて、皆一度は同じ
ような考えに支配されるものなのだという事を、妙に納得して読んでしまいま
した。

終わった人



まずはサラリーマンの場合は仕事がなくなる喪失感です。なんだかんだ言って
もサラリーマンのアイデンティティは会社であり、地位であり、仕事に対する
プライドです。それが一気に無くなるとという事は、自分の全人格をそれこそ
全否定されるに等しい事です。とても趣味や習い事などで代替えできるもので
はありません。仕事以外の何をやっても物足りない状態で、毎日の自分なりの
生活に慣れるまで、結構苦労します。

次には他人との接触の機会が現役時に比べて著しく少なくなるので、他人との
渇望感を埋めたくなります。ちょっとした人の行為が身に沁みます。主人公も
カルチャーセンターの受付嬢久里に思いを寄せ、自分なりにスケベ根性を出し
ていろいろ誘いますが、何せ世間手を気にする小市民ですから、思い切った事
はできず、恋愛も成就しない結果となります。この辺の描写も妙に説得力があ
ります。

一般的に定年後は仕事も限られた職種しかなく、なかなか再就職も難しいもの
ですが、主人公の場合はスポーツジムの人間関係から思わぬ仕事に就く事にな
り、それが自分の定年後の人生を大きく変える事になります。詳しくは読んで
のお愉しみという事ですが、人間は幾つになっても学び続けるもので、その為
には、時には大きな犠牲も払わねばならない事もあるという事でしょうか。

主人公も大きな犠牲を払い、妻ともぎくしゃくしていく中で、徐々に自分にと
っての本当の価値観を見出し、自分の当初思い描いていた定年像とは大きくか
け離れながらも、本来の自分らしさを感じられるステージに進んでいく姿が、
すがすがしく描かれています。本当の幸せとは?なかなか論じられませんが、
自分の持っている能力を、自分のできる範囲で、人々の為に役に立たせる事が
できれば、案外充実した老後が過ごせるかもと感じた次第です。
それでは又。


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posted by norch at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 書評
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43年勤めた会社を退職し、趣味でやっていた株式投資三昧の毎日。そんなに贅沢し美食したわけでもないのに、50歳から痛風予備軍と高血圧症。長年の医者通いにうんざりし、医療費節約も兼ねて、薬の個人輸入を始める。
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