2021年03月28日
うららかな春を詠んだ歌【源氏物語(胡蝶の巻)】より
「春の日の うららにさして ゆく舟は 棹(さお)のしづ(ず)くも 花ぞちりける」
春の日の光がうららかにさし、花の影の映っている池の面(おも)をゆるやかに棹(さお)さしてゆく舟は、棹をつたってこぼれ落ちるしずくまでが、花のちるのかと思われる。
源氏物語
源氏物語の中には、七百九十余首の歌が入っています。ここにあげたのは、源氏物語の中の胡蝶(こちょう)の巻にのっている歌で、物語のなかで姿も心も一番美しい紫上(むらさきのうえ)という夫人の住む六条院(ろくじょういん)の庭に、秋好中宮(あきこのむちゅうぐう)という、これも美しいお后(きさき)を迎えて、花の盛りに池に舟をうかべてお遊びのあった日に、女官の一人が詠んだことになっています。
「さしてゆく舟」の「さして」には、日がさすことと、棹(さお)をさすこととが、つながるようになっています。
(引用「和歌ものがたり」佐佐木信綱著)
「うらら」「うららか」という言葉の響きは、千年という時を経てもなお日本人の心に心地良くおだやかに沁み渡り、平安の世の人が見たであろう眺めを今も感じさせてくれます