2020年12月27日
【ヘルプマークと優先席】電車で倒れかけた時に、優先席へ引っ張ってくれたおばちゃんに”ありがとう”。
ー目次ー
ある冬の日の夕方。
僕は地下鉄に乗り、
優先席の近くに立っていた。
ここ数ヶ月、
まともに食べられていなかった僕は、
空腹で目の前が真っ白になった。
「あなた、こっち。こっち座りなさい」
女の人の声が聞こえた。
振り向くと、
右側の優先席に座っていたおばちゃんが
1つ空いた席へ手招きしていた。
僕のバッグに付いている
ヘルプマークを見つけたのかも知れない。
僕は優先席へ座ることを
いったん断ってしまった。
なぜなら、僕のヘルプマークの意味は
自閉症スペクトラムと鬱病だから。
僕は見た目は普通だ
どうせ理解されない
白い目で見られたくない
心無い言葉で傷つきたくない
そんな思い込みから、
優先席に座ることを恥ずかしく思う自分がいた。
それでも、
「いいからいいから。私も同じだからわかるよ」
おばちゃんはそう言って、
僕の手を引いて優先席に座らせてくれた。
優先席に座った僕から、最初に出た言葉は
『ありがとうございます、申し訳ない…』
僕はそう言って、うつむいた。
すると
「なんも申し訳なくないよ、私も同じだから」
おばちゃんはそう言って、僕に微笑みかけた。
席に座ったことで、
目の前の景色は少し晴れてきた。
それでも僕は相変わらず
優先席に座ったことへの罪悪感に縮こまっていた。
すると
「何も食べてないんでしょ?これ、アメ食べな」
おばちゃんはそう言って、
バッグからリンゴ味のアメを1つ取り出し、
僕にくれた。
『あ、ありがとうございます…』
こみ上げる感情と涙を抑え、
僕はお礼の言葉を絞り出した。
ザラメの甘さ、リンゴ味の酸っぱさが、
僕の心にじーんと染み渡った。
「私ね、全身ガンなの。いまリハビリの帰りなんよ」
おばちゃんは言った。
僕は驚いた。
いまは大丈夫なのかと尋ねると、
「ボチボチだけど、まぁ大丈夫さね」
作り笑顔で、強がってみせるおばちゃんがいた。
自分がそんな大変な状態なのに
見ず知らずの人がふらついているのを、
助けてくれた。
世の中には、こんなに優しい人がいるんだ。
僕はそれ以外に、
この気持ちをどう表現していいかわからなかった。
おばちゃんと僕では、ヘルプマークの意味が違う。
だけど、見た目にわからないという理由で
おばちゃんは過去に傷ついてきたのかも知れない。
そういう意味で「私も同じだから」と
言ってくれたのかなぁ。
ほどなくして、おばちゃんは下車していった。
「身体、大事にしんさいね」
ドアが閉まるまで、笑顔で手を振ってくれた。
発車ベルが鳴り、
ドアの向こうはトンネルの黒になった。
僕は優先席で縮こまったまま、
こらえきれずに泣いた。
終着駅のアナウンスが聞こえた。
僕の目元はまだ、涙でいっぱいだった。
マスクに何度も、水滴が落ちるのを感じた。
僕の現実はまだ、何ひとつ変わっていない。
目の前に横たわる
貧困、空腹、人生への絶望感。
それが無くなったわけじゃない。
だけど、あの時は
そんなことさえどうでもよくなった。
涙でにじんだ景色の先は、
おばちゃんの優しい笑顔でいっぱいになった。
僕は救われた。
おばちゃん、ありがとう。
世界一おいしい、あの時のアメの味、
僕は決して忘れないよ
もしまた逢えたら、
今度は僕がアメをごちそうするね。
ー本記事の動画メッセージ版を作りましたー
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- 倒れかけた僕を、優先席へ
- ”なんも申し訳なくないよ、私も同じだから”
- 世の中には、こんなに優しい人がいる
- おばちゃんの笑顔と、世界一おいしいアメ
1.倒れかけた僕を、優先席へ
ある冬の日の夕方。
僕は地下鉄に乗り、
優先席の近くに立っていた。
ここ数ヶ月、
まともに食べられていなかった僕は、
空腹で目の前が真っ白になった。
「あなた、こっち。こっち座りなさい」
女の人の声が聞こえた。
振り向くと、
右側の優先席に座っていたおばちゃんが
1つ空いた席へ手招きしていた。
僕のバッグに付いている
ヘルプマークを見つけたのかも知れない。
2.”なんも申し訳なくないよ、私も同じだから”
僕は優先席へ座ることを
いったん断ってしまった。
なぜなら、僕のヘルプマークの意味は
自閉症スペクトラムと鬱病だから。
僕は見た目は普通だ
どうせ理解されない
白い目で見られたくない
心無い言葉で傷つきたくない
そんな思い込みから、
優先席に座ることを恥ずかしく思う自分がいた。
それでも、
「いいからいいから。私も同じだからわかるよ」
おばちゃんはそう言って、
僕の手を引いて優先席に座らせてくれた。
優先席に座った僕から、最初に出た言葉は
『ありがとうございます、申し訳ない…』
僕はそう言って、うつむいた。
すると
「なんも申し訳なくないよ、私も同じだから」
おばちゃんはそう言って、僕に微笑みかけた。
3.世の中には、こんなに優しい人がいる
席に座ったことで、
目の前の景色は少し晴れてきた。
それでも僕は相変わらず
優先席に座ったことへの罪悪感に縮こまっていた。
すると
「何も食べてないんでしょ?これ、アメ食べな」
おばちゃんはそう言って、
バッグからリンゴ味のアメを1つ取り出し、
僕にくれた。
『あ、ありがとうございます…』
こみ上げる感情と涙を抑え、
僕はお礼の言葉を絞り出した。
ザラメの甘さ、リンゴ味の酸っぱさが、
僕の心にじーんと染み渡った。
「私ね、全身ガンなの。いまリハビリの帰りなんよ」
おばちゃんは言った。
僕は驚いた。
いまは大丈夫なのかと尋ねると、
「ボチボチだけど、まぁ大丈夫さね」
作り笑顔で、強がってみせるおばちゃんがいた。
自分がそんな大変な状態なのに
見ず知らずの人がふらついているのを、
助けてくれた。
世の中には、こんなに優しい人がいるんだ。
僕はそれ以外に、
この気持ちをどう表現していいかわからなかった。
おばちゃんと僕では、ヘルプマークの意味が違う。
だけど、見た目にわからないという理由で
おばちゃんは過去に傷ついてきたのかも知れない。
そういう意味で「私も同じだから」と
言ってくれたのかなぁ。
4.おばちゃんの笑顔と、世界一おいしいアメ
ほどなくして、おばちゃんは下車していった。
「身体、大事にしんさいね」
ドアが閉まるまで、笑顔で手を振ってくれた。
発車ベルが鳴り、
ドアの向こうはトンネルの黒になった。
僕は優先席で縮こまったまま、
こらえきれずに泣いた。
終着駅のアナウンスが聞こえた。
僕の目元はまだ、涙でいっぱいだった。
マスクに何度も、水滴が落ちるのを感じた。
僕の現実はまだ、何ひとつ変わっていない。
目の前に横たわる
貧困、空腹、人生への絶望感。
それが無くなったわけじゃない。
だけど、あの時は
そんなことさえどうでもよくなった。
涙でにじんだ景色の先は、
おばちゃんの優しい笑顔でいっぱいになった。
僕は救われた。
おばちゃん、ありがとう。
世界一おいしい、あの時のアメの味、
僕は決して忘れないよ
もしまた逢えたら、
今度は僕がアメをごちそうするね。
ー本記事の動画メッセージ版を作りましたー
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