2023年06月15日
【短編小説】『スマホさん、ママをよろしくね。』2
⇒【第1話:スマホを”抱っこ”するママ】からの続き
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<登場人物>
・影山 慈玖(かげやま いつく)
8歳、少女
母親がスマホにかかりきりなため、
自分は”存在してもいいのか”を疑い始める
・影山 夕理(かげやま ゆり)
慈玖の母親
スマホに夢中になるあまり、
娘の気持ちに気づけないまま…
・天野 慧惟(あまの けい)
19歳、大学生
他人に無関心で、
自身の歩きスマホを正当化していたが、
ある出会いをきっかけに変わっていく
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【第2話:歩きスマホという”高等技術”】
僕は天野 慧惟。
どこにでもいる大学生、スマホゲームが大好き。
お風呂でも、トイレでも、外を歩くときも、
スマホゲームに熱中している。
僕が歩きスマホをしていると、よく人とぶつかる。
僕はそのたびに、相手への怒りがこみ上げてくる。
慧惟
「どうして僕がゲームに熱中してるのに邪魔するんだ?」
「どうしてお前たちは僕を避けないんだ?」
僕は何も悪くない。
悪いのは僕を邪魔するヤツ。
僕を避けずにぶつかってくるヤツ。
ある朝、僕は最寄り駅のホームを、
スマホゲームをしながら歩いていた。
突然、僕の足に小さな衝撃が走った。
目の前で、少女がしりもちをついていた。
僕はいつものように、
ぶつかってきた相手を睨みつけようとした。
だって僕は何も悪くない。
避けない相手が悪いんだから。
なのに、
慧惟
「ごめんね!大丈夫?」
無意識に、謝罪の言葉が出ていた。
少女は怯えた表情で、
「ごめんなさい…。」と言った。
母親も僕に『ごめんなさいね。』と言った。
ただ、
夕理
『慈玖!何やってるの!』
『ちゃんと前見て歩きなさい!』
母親は二言目に、娘を叱った。
慈玖ちゃんは、無言でうつむいていた。
どうして僕は、相手が悪いはずなのに謝ったんだ?
小さい子だからって、情にほだされたのか?
…そんなわけない。
相手が誰だろうと、
僕のスマホゲームを邪魔するヤツが悪い…はずだ…。
この日、僕の心に小さなわだかまりが芽生えた。
ーー
その日以来、僕は駅でたびたび母娘を見かけた。
僕はいつものように、
歩きながらスマホに集中する”高等技術”を駆使して、
ゲームに勤しむ…はずだった。
僕は少しずつ、まわりを気にするようになった。
スマホをいじらずに歩く時間が増えた。
ただ歩くだけなんて退屈だ。
その退屈な時間を1分1秒でも、
ゲームキャラのレベルアップに使う方が効率的。
我ながら、なんて非効率な時間を過ごしてるんだろう。
なのに、どうして僕は歩きスマホをするたびに、
胸の奥がチクリと痛むようになったんだろう…。
ある日、また駅で例の母娘を見かけた。
慧惟
「あれ、慈玖ちゃんの姿…。」
気のせいだろうか。
慈玖ちゃんの身体が
透明になりかけているように見えた。
あの子の存在自体も、
景色に溶けるように”あやふや”だった。
慧惟
「透明人間なんているわけない。」
「目の錯覚か、疲れだろう…。」
その日、僕はスマホを持って初めて、
歩きスマホをせずに1日を過ごした。
寝る前に、あの母娘のことを思い出した。
母娘は確かに手をつないで歩いていた。
なのに僕には、
母親は慈玖ちゃんではなく、
スマホと手をつないでいるように見えた。
⇒【第3話:住んでいた”かもしれない”少女】へ続く
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